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もしも、自分が出版社の編集者で、レフ・トルストイさんが、「戦争と平和」を持ち込んできたら。
読んだ上できっと、ひとつだけダメだしをすると思うんです。
「大変面白いんですが、全体に時折、あなたの歴史観、歴史考察の部分がありますね。特に、第四巻に多いです。この部分は、思い切って全部カットしましょう。それでも全く物語としての面白さは損なわれません」
で、もし抵抗されたら。
「では、少なくとも、第四巻のラスト、物語が終わってから文庫版で80ページもある論文みたいな部分だけでも、全カットしましょう」
と強く訴えると思います。
「どうしてもこだわるのなら、それは別の本として出しませんか?あるいは、小説としては含まず、巻末に、あとがきとして入れましょう」
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読み終えての第一印象は、ほんと、ラストの論文部分が蛇足でした...(笑)。
それに尽きます。
第1巻から、時折、そういうトルストイさんの地の文というか、論考めいた部分はあったんです。
ただ、そんなに長くなかったし、はじめはその主張に「へえ~」という発見もあったから、許せました。
しかし、第4巻に入ると、それが徐々に長く苦しくなってくる。
それに、内容的には、同じようなことがループします。
「歴史学者の考えるような、理路整然とした物語は実際の歴史ではない」
「一人の権力者の意思が末端まで支配した、とデジタルに考えるのは安易だ」
「歴史というのはもっと無数の人の細かい意志や偶然が左右している」
みたいなことが延々と語られるのです。
正直に言って「またか」とも思ってきてしまうし、歴史の要因という考え方については、確かに一理あるし、小説家的な感性だなあ、と思います。
けれど、どこかもやっとした、スッキリしない、批判に終始する気持ち悪さがありますし、マルクス学のような歴史の見方とか、経済や産業と言った、ある種の必然の要因はスッパリ触れられていないのも、なんだか消化不良...。
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と、まずはチョット貶めてしまいましたが。
全四巻通して、もう、素晴らしい面白い小説でした。
ムツカシイ主題やテーマや歴史とは何かみたいなことは、実はどうでも良いんです(笑)。
それは、小説として面白かった上に、トッピングみたいなものですから。
(そういうムツカシイ思考が、小説としての面白さを支えている、とも言えるのですが、それは結果論。だって、何が支えていようと、面白くなかったらそれまでですからね。読む側としては)
つまりは、1805年に恐らく15歳~25歳くらいだった男女数人の、およそ20年に渡る物語。
恋愛があって(なんだかんだ言っても、恋愛、という要素が無かったら、この小説は骨抜きになります)。
両想い、片思い、横恋慕、すれ違い、心変わり、一目ぼれ、強烈な出会い、裏切り、後悔、結婚、不信、エトセトラエトセトラ...
これだけでも、およそ現今のあらゆる恋愛物語を数百倍上回る、えげつなさと格調を見せつけます。
そこに、親子の葛藤、兄弟の確執、金の執着、出世の欲望、世間体のこだわり。
さらに、ナポレオンやアレクサンドル1世という人物を配した英雄歴史小説の醍醐味があり。
その上で、戦争、戦場のリアルな混乱や恐怖、躁状態の生々しい小説体験。
そして、恐ろしい数の脇役たちが皆、ぎらぎらと人間臭い...。
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第四巻を読み終えて。
主要登場人物が、ピエール、アンドレイ、ニコライ(以上男性)、ナターシャ、マリア(以上女性)。
まあ、だいたい5人います。
なんだかんだ、最終的にはその5人に感情移入して読ませるんです。
そして、5人とも、あわや死ぬのではないか。死ななくても、みじめな不幸のどん底に落ちるのではないか。と、いう危機をいっぱい迎えます。
なんだけど、最終的にトルストイさんは、1人だけ戦争で死んでしまうのですが、残りの4人には、なんとかハッピーエンドを準備してくれていました。
(死んでしまう1人も、なんていうか、精神的に最悪の状態は避けての死、になります)
(まあ、ハッピーエンドといっても、フィクションとは言え彼ら彼女らの人生は終わっていないし、ロシアの歴史と同じようにまだまだ色んな幸福と不幸があざなえる縄のようにこれからも続くだろう、というレベルではありますが)
そこンところ、凄く読み手としてはほっとしました。あーよかったって(笑)。
やっぱり、長々と人物に感情移入して読んできて、いくら歴史というもの、戦争というものが残酷で無情だったとしても、
「それはそれとして、頼むからこの人たちを不幸にしないでえええ」
惚れ込みながら読んできたわけですからねえ。
そこらへん、トルストイ、分かっているなあ(笑)
あるいは、当時の編集者が、
「この論文部分、どうしても残したいの?...アンドレイも殺したいの?...ぢゃ、アンドレイ以外は、一応ハッピーエンドにしましょうよ」
と、ダメだししたのかも知れませんが...。
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以下、個人的な備忘メモ。ネタばれ、あらすじ。
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●アンドレイは、ナポレオン軍との戦闘で重傷。虫の息だけど、富豪の荷馬車に拾われて逃げていく。
●その富豪は、偶然ながら、ナターシャの一家だった。ナターシャというのは、かつてのアンドレイの許嫁。いろいろあって婚約解消していた。
●アンドレイとナターシャは再会。死を意識して心境が変わっていたアンドレイは、素直に彼女を許します。彼女も謝ります。ふたりは再び、愛し合う感じになります。だけど、アンドレイは、幼い一人息子を残して死んでしまいます。
(この息子は前妻との子。前妻はお産で死んでしまっています)
●ナポレオン軍が占拠したモスクワ。ピエールは、ナポレオンを暗殺しようとモスクワに残ります。でも、火事場から人助けをしたことから、フランス軍に逮捕されます。
●捕虜として、つらい日々を送るピエール。
●やがて、ナポレオン軍は寒い冬の中、総崩れ、フランスに向けて無秩序に撤退します。襲いかかるロシア軍。何万人と死んでいきます。雪の中の死の行��。ピエールも死にかけますが、たまたまロシア軍に助けられます。助けたロシアの武官は、第2巻あたりでピエールと因縁があったドーロホフ。
●ちなみにその戦闘で、第1巻ではまだお子ちゃまだった、ニコライの弟が、あっけなく戦死。
●生還したピエールは、多少たくましくなります。そして、ナターシャと再会。アンドレイのことがありつつも、「僕はあの人と結婚しなければならない」。
●ニコライは、モスクワ撤退の混乱の中で、危なかった令嬢を助けます。それが偶然、アンドレイの妹、マリア。ふたりは電撃的に一目ぼれ。
●ニコライの父が死んで、一家は貴族だったけど経済的に破産。青ざめるニコライ。
~~~~~そして、一気に10年以上の月日が流れ~~~~~~
●ピエールとナターシャは幸せに結婚。子供もいっぱい生まれて、順調。
●ニコライとマリアも色々あったけど結婚。子供も生まれている。そして、ニコライの家族は破産したけれど、マリアの財産をニコライが堅実に運営して大黒字。かつての自分の領地まで買い戻せるくらい。
●そして、アンドレイの忘れ形見の一人息子も、その四人に囲まれて、健やかに育っているよ。
と、いう、ハッピーエンド。
ただ、その中でも帝政末期のロシアの混沌とした諸問題があって、ひとりひとり信条は違う。
まだまだ、いろんなことがあるんだろうな、という余韻。
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いやあ、本当に面白かったなあ、という素直な後味。
そして、10代20代に読んでも、この面白さは分からなかっただろうなあ、と思います。
また、60代くらいに再読してみたい作品。
その時は、岩波書店版で読んでみようかな...。
(「アンナ・カレーニナ」よりも、面白かった...。
あれはあれで、アンナと、もう一人の男性と、二つの世界の話が並行して語られる小説でした。
僕の読んだ時の印象としては、
「アンナの話だけにしておけば、大傑作だったのに」
でした。)
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かなりボリュームのある本。正月から読み始めて、やっと全巻を読破。最後になるほど、ストーリーとは別の歴史論的な内容が。
エピローグの第1部の最後に、アンドレイ公爵の息子が決意をする部分があるが、そこで終わってしまっており、収まりが悪いような。
元々、続編でも書く予定だったのだろうか?
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『戦争と平和』は、暴れ出した筆を止められなかった小説だ。
「歴史は、原因の観念を退けて、すべてが同じようにはなれずにたがいに結びつけられている無限に小さい自由の全要素に共通の法則をこそ、探求しなければならないのである。 」(627P)
という信念は、しつこいぐらいに小説に反映されているのに、トルストイはそういうふうに哲理を直接書かずにはいられなかった。これは明らかに暴走というものだ。
それでも私がこの小説を愛さずにはいられないのは、あらゆる人間の典型を見出し、構築し、触れ合わせる、何もかも見えているぞというトルストイの目であったり、戦場から農村に至るまで、綿密に書き連ねられたその筆致のためであったりする。
戦場の風景は『セヴァストーポリ』の時代から大きく広がって展開されているし、農村の風景と、それに関わるニコライの仕事ぶりなどは『アンナ・カレーニナ』のレーヴィン家の萌芽が見られて面白い。
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コロナで混乱する現実社会からの逃避?的に読み始めて、
頭の中でパラレルワールドのように展開。
あらためて感じる人間観の鋭さ。
上が命じたとおりに人は動きはしない。
民衆の動く方向に、司令官が合わせていく。
欠点のない人間もいないし、
欠点だけの人間もない。
若いうちに読んで起きたい気もするけど
40歳を越えて分かることもある。
60歳くらいで再読したら。また発見がありそう。
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戦争をバックに恋愛物語と簡単にとらえるにはトルストイの歴史観、哲学観がぎっちりとあってその重圧に圧倒されてしまった。
恋愛の方はナターシャとマリヤがしあわせになってちょっと拍子抜けだけれども、めでたしめでたし。若いころ読んだらきっと感激していい気持ちになったと思う。
その若者達のはつらつした苦しみ、悩み、生命の躍動、高揚を挿しはさんで、地に流れる歴史のとらえかたの叙述に目を見張らされた。
「歴史が動いていくのは一人の英雄傑物の意思ではなく、おおぜいのひとびとの総意である」というような、少々辟易の感もあったが(文章が饒舌で)なるほどと思った。
それにしても権力や地位を得るために権謀術策、懊悩辛苦、滑稽喜劇を演じる様までいきいきと、トルストイの描写はさすが。ナポレオン皇帝やアレクサンドル皇帝という実人物も登場させて総勢500人余の登場人物、怒涛の名作ではあった。
そうか、歴史が動いていくのはある一人の指導的人物の命令ではなく、それを受け取る人々の命令通りにやるか、やらないか、付け加えるか、勝手にやるかの総合した意思なのか。
そりゃそうだ。特に戦争状態、緊急状態の時と場合によって、状況変化もあろうし、個人の利権を優先する気持ちの変化もあるだろう。
ひるがえっておおげさだけれども、日本のこの下降している状態も歴史的に観られればいい、渦中で右往左往しているからどうなるかさっぱりわからないんだと思う。
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最後まで読み終わって今、巻末解説のフローベールと同じ意見です。おもしろいしすごいけど歴史観についての講釈がちとくどい…。最後ほとんど読み飛ばしちゃったよ。
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難しくて全4巻読み切るのに日数はかかったけど、内容の濃い、面白い作品だった。読んで良かった、この時期(混沌としたコロナ禍の時代、かつ個人的にも悩み多い時期)に読めたことにも意味があるかと。
第4巻について言えば、『エピローグ』は良くも悪くも意表を突く展開だったな、と。特に最後の方は難しすぎて読むのがしんどかったけど、著者の主張をできる限り受け止めたつもり。
登場人物が多い(しかも主人公レベルが複数人いる)中で、ある時はナターシャに共感し、ある時はマリアに自分を重ね、でも結局自分に一番近いのはピエールかなぁ…なんて思ったり。アンドレイも通ずるところ大アリだなぁ…。
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ピエールが、「モスクワの伯爵」の伯爵を思い出させた前半。
小説と括れない。
私はトルストイが好きだ。
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「戦争と平和」を読み終え、なぜこれだけの字数をトルストイは必要としたのか分かるような気がした。歴史を作るのは人であり、人の暮らし、会話や感情の表出こそ重要だと。他の歴史小説を読んでいても、多くの場合、書かれている人物の心の内、心の襞に入って語られることは少ない。ボロジノの会戦やモスクワ炎上を主にナポレオンのロシア遠征が詳細に語られる中で、パラレルに進捗する五つのロシア貴族の浮沈は迫力満点であったし、その人物の動きと物語の展開は秀逸であった。ピエールとナターシャ、ニコライとマリアに収斂する愛の物語の起結に深い感動を覚えた。
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「戦争と平和」を読み、「戦争」と「平和」と「人間」の関係性について考えずにはいられなかった。
平和の中で育った人間が戦争を生み出すのではない。反対に、戦争を生き抜いた人間が平和を築き上げるのでもない。
「戦争」と「平和」が混在するこの世界においては、いかなる人間も双方に影響を及ぼすことはないのだと思う。
戦争が起こるのには原因があり、平和がもたらされるのにも原因がある。それぞれの原因を、我々は人間に求めるのではなく、「歴史」に求めるべきなのだと感じた。歴史の中において人間という存在は、ナポレオンやアレクサンドル皇帝であっても、ひとつの歯車に過ぎない。
戦時にはより多くの殺戮を行なった者が称賛され、平時には戦争を防ごうと努める者が評価される。
結局のところ我々は、「歴史」というあまりに大きな波の中において、右往左往するしかないのである。
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最終巻である
後半から最後にかけてトルストイの独白の分量がさらに増え、
ああ、トルストイはこれほどの思いを伝えるために血肉を削いでこの小説を描いたのだ!
受け止めきれないほどの重厚な内容を紐解くのだが…
注)ネタバレあります
■ヘズーホフ家
大資産家メガネ太っちょのピエールの家
フランス兵の捕虜となったピエール
目の前でロシア人捕虜がフランス兵に処刑されるのを目の当たりにし、常に死の恐怖と向かい合わせの状況を経験
しかし究極の貴い精神と素朴な心を持つ大した地位のない元百姓カラターエフと出会い、心が洗われる
ピエールはこの劣悪な状況下とカラターエフとの出会いにより「苦悩の限界と自由の限界は極めて近い」ことに気づき、「安らぎと完全な内的自由」を得る
生まれ変わったピエール
ロシア軍により解放されたのちは、人の話を聞けるようになり、自分の話に夢中にならなくなる
ピエールの善良さに周りの皆、あらゆる人が好感を持つように
ようやくピエールの真の心がきちんと生かせる術を身につけた
良い素材に添加物だらけの調味料を塗りたくられ(時には自分から浴びに行っちゃって)、
最後に高級トリュフか何かをトッピングされたように資産家になってしまったピエール
やっと素の状態になれたのだ
ピエールの良さはわかっていたけれど、ようやくしがらみ(添加物)から解き放たれる感じですね
本当にうれしいなぁ
(そしてあの奇抜な妻のエレンは病死)
■ボルコンスキー家
頑固老父とエリート男子アンドレイ、Mっけたっぷりマリヤちゃんのいる家
瀕死の兄アンドレイに会いに行く妹マリヤ
アンドレイは死の、最期の、恐ろしく苦しい恐怖感から解放される
「たえず万人を愛し、常に愛のために自分を犠牲にすることは、結局だれも愛さぬことであり、この地上を生きぬこと…」と悟りの境地へ
そんな精神的徴候を理解したナターシャとマリヤ
厳粛な死の神秘を心の目でみとどけ、敬虔な感動に胸をふさがれる二人…
こちらもピエール同様、アンドレイが真の精神境地を掴み取った!
この辺りはやはりキリスト教の影響が大きいのであろう
二人とも何かを越え、解放され、開眼し、生死を越えた自由と幸せを手に入れる
この辺りは「夜と霧」を読んだ時にも感じた
でも人は死に近づかないとそういうものを得られないのだろうか…
なんだか寂しい気もする
■ロストフ家
ニコライ、ナターシャ兄弟のいる破産寸前の貴族の家
マリヤと再会したニコライ
やはりマリヤに惹かれていることを改めて実感
ニコライにはマリヤの精神世界の奥深さが神がかって見えているようだ
一方で元カノ、ソーニャのことは、「未来は簡単に想像できてしまう」という(失礼しちゃう)
弟のペーチャがとうとう連隊に入り少し出世する
大人になった喜び、真の勇気を示すんだ!という熱に浮かされたような焦燥感
その焦りが仇となりフランス兵に撃たれ死亡
当然のように半狂乱となる母
全力で献身的に支える母への愛情により、アンドレイの死により半死状態だったナターシャは生き返る
マリヤの家でピエールとナターシャが再会
3人でペーチャの死、アンドレイの死、そしてピエールの体験
たくさんのたくさんの話をする
ピエールとナターシャの二人は「相思相愛」とマリヤは認識
アンドレイの死以来、ナターシャとアンドレイの妹マリヤの二人はほとんど語り合わなかったものの、
二人は気持ちを共存し合い、友情より強い絆で結ばれる
反発していた二人アンドレイの死を共存し、真の姉妹のように変化する
悲しみの中にも救いは必ずあるのだ
そんな希望を私たちに見せようとしてくれるトルストイ
そしてソーニャの立場は最初から最後まで何とも物悲しい
あれだけ良い素直な娘であり、ロストフ家に献身に仕えながらも、
最後は「完璧すぎる」がゆえ愛するニコライからの愛情は減り、結局小間使いでいいように使われることが当たり前になり、彼女一個人に何かスポットライトが当たるようなことはないようだ
しかし脇役ながら最後まで目の離せない存在であった
■エピローグ(「登場人物」編)←勝手に命名
200頁近いエピローグ
物語とトルストイの独白の2本立て
まずは物語から…
ナターシャとピエールはめでたく結婚
ナターシャは打って変わって割烹着の似合いそうな素朴なおっかさんになる(ロシア人に割烹着は変だけど)
天真爛漫な娘が恋をし、寂しさからロクでなしに翻弄され、愛する男性と死別、そして結婚し子供を授かる
最後は驚くほど平凡な女性に…
いいと思うよナターシャ
人生に素直に向き合った結果、彼女の幸せをつかんだ
これだけ翻弄されながら、よく頑張って生きた!
うんうん
ロストフ伯爵(ニコライ父)の死により、ニコライは多額の負債返却のため退役
何も望まず期待せず、自分の苦境を耐え地道に借金返済をし、知人との付き合いも避けるように…
紆余曲折はあったものの、なんとかマリヤと無事結婚
ニコライは母親とソーニャを連れ、あの禿山へ
負債の返済がようやく終わり経済も安定してきた頃、領地の経営に乗り出す
百姓に注目し、百姓から学び、彼らの心を掴み管理するように…
この辺りは広大な領地を相続し農地経営を行ったトルストイの実生活をうかがわせるようだ
(広大な領地を相続し農地経営するトルストイの場合は農民に受け入れられず…)
お坊ちゃまんニコライも大変身だ
かなり皮肉屋になり、愛嬌はなくなったものの、堅実に働くことを知る
そして農地経営に夢中になるのだが…
マリヤに対してちょっと当たりがキツいんだよねぇ
マリヤも気を使い過ぎてるしぃ…
やっぱりマリヤちゃんてM体質なのかなぁ(笑)
でも個人的にマリヤは大好きなんだ!
いざとなるとぶっ飛んじゃうほどカッコいいからねぇ!
そしてアンドレイと亡き妻の子であるニコーレンカが最後を飾る
(アンドレイ妹のマリヤが養母のように育てる)
最後希望の星のよ��に未来に向かう象徴のようだ
■エピローグ(「トルストイの独白、そしてクトゥーゾフについて」編)
・皆がロシアのため「献身、祖国愛、絶望、悲嘆、英雄的行為」という精神ではなかった
命をかけて祖国を救うだの、祖国の悲運に涙を注ぐと思われがちだが、
実際はたわいもない個人的関心しかないとシビアに唱える
・すべての偉大な功績がフランスの歴史家たちによってのみ書かれたもの
ナポレオンの天才的手腕がどの程度事実かは正確にはわからない
・戦力は兵数だけでは測れない未知なもの、その未知なものとは軍の「士気」だ
・民族の目的はただ一つ「自国を侵略から解放すること」
・クトゥーゾフだけが激動した戦局の意義を理解し、ボロジノ会戦の勝利を信じ続けた
さらに彼だけがロシア軍を無益な戦闘からおさえることに全力を傾けた
自己犠牲と未来の意義を洞察できる模範的かつ素朴な謙虚な偉大な人物(…とトルストイ大絶賛)
・歴史を動かすのはナポレオンやアレクサンドルのような英雄ではなく、民族一人一人だと強く訴える
ナポレオンが英雄に仕立てられたのは、数多くの偶然というニュアンスでその理由づけを延々と語っているトルストイ
そしてクトゥーゾフとは違うのだ!というアピールに感じた
兎にも角にもこの独白部分は非常に分量が多く、読み切るのはかなりしんどい!
小説にこれだけ独白をくっつけるのも、いかがなものかと思いつつも、それだけの熱い思いがマグマの如く流れ出ておりものすごい圧を感じた
そして私が「戦争と平和」を読みたかった一番の理由
「歴史はを動かすのは英雄でもなく傑物でもなく名もなき民衆それぞれの生活なのだ」というトルストイの宣言通り(?)
まるで証拠提出のように形を変え何度も繰り返し、表現してくるトルストイ
生々しい戦争体験の表現、侵略した兵士の略奪、あらゆるものを失ったロシア市民と彼らの生活
多くの災難と悲しい運命に見舞われた彼らはその運命を受入れ、何を感じ、何を思い、そしてどう生きるのか…
歴史というのは本当に記録ではなく記憶だと感じる内容が至る所に…
ピエールもアンドレイも、ニコライもみなトルストイであり、そして我々でもあるのだろう
長い時間かけて(かかって)読んだのでこの世界にどっぷり入ってしまい少々疲労が…
(でも頑張って読んだ甲斐はある、得たものも大きい、知った世界は広く深い)
いつかトルストイの他の作品を手に取ることがあるかもしれないが…
それは恐らくずいぶん先の話になりそうである