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「狼の仔」として生を受けたホワイト・ファング(白い牙)が、母方に混じった家犬の血の導きで人間社会に順応し、野性との葛藤に苦しみながらも、数奇な運命の果てにめぐり合った「愛」の力によって、アイデンティティと終の住処を獲得するまでを描いた、動物文学の古典。
ちょうど、先に読んだ「荒野の呼び声」のひっくり返しのようなお話です。
ただし、完全に逆ともいえないのは、「荒野」の主人公が完全な家犬であったのに対して、「白い牙」は生粋の狼ではない。彼の母親が犬と狼の混血であるところがミソで、さもなければ、この小説はただの絵空事になってしまったでしょう。
「荒野」同様、作者の経験が生かされて、厳しい自然の描写や、動物の生態観察の細やかさが圧倒的です。
特に冒頭、荒野を犬ぞりでわたっていく旅人が、狼の群れに徐々に追い詰められていく場面は、ホラー小説はだしのスリル。
中盤以降は、アメリカ文学らしい、少々甘い展開ですが、この楽観性が心地よく、多くの人に受け入れられた要因だと思います。
狼にも犬にもなりきれないホワイト・ファングの心理を擬人的に描いてあるのが、傷ついた子供がトラウマから回復するメタファーのようにも読め、意外に古びていない、現代にも通用する作品と感じられました。
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主人公はホワイト・ファング(白い牙)と呼ばれる狼。舞台は、ゴールドラッシュに沸く北米の原野です。
厳しい自然界の掟を学んだホワイト・ファングは、人間と共に暮らすことになっても、生き延びるために野性の本性を研ぎ澄まし、本能の命ずるまま行動し、自分以外のすべてのものに激しく牙をむきます。彼は強く、狡賢く、凶暴で、情け容赦のない・・・・そして孤独な灰色狼です。けれど、ホワイト・ファングの血の四分の一は、犬のものでした。すぐれた順応性も併せ持っています。
この小説は凡そ100年前に書かれたものだそうですが、動物行動学者も顔負けの洞察力にはびっくりです。作者ジャック・ロンドンの生涯も、ホワイト・ファングに負けず劣らず波乱万丈だったようですが、その経験が作品にも大いに反映されているのでしょうネ。狼の目を通して世界を描き、しかも過度に擬人化せず、登場する人間のセリフに頼ることなく物語を進めながら、これほど読む者をひきつけるのですから、動物文学の傑作といわれるのにも納得です。犬好きの人にはたまらない1冊ですよぉ。
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犬(オオカミではあるが)の習性をよく描写していて、非常に面白い。動物から見た人間の不思議な点や残酷な点なども興味深い。
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ホワイトファングの目線から見た人間の「理」。
資質と環境によって形作られていくホワイトファングの「個」。
環境を作っていく者として、思慮深い人間になりたいと思った。
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北の荒野で2分の1イヌの血を持った母親キチーと老オオカミとの間に生まれた4分の1イヌの血を引き継ぐホワイトファングの数奇な生涯の物語。
動物文学の面白さを教えてもらった本。動物の行動心理、物事や人間に対する思考がとっても面白い!
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オオカミブーム到来中につき、表紙のオオカミの佇まいにも惹かれて、猛暑の中、北極圏(アラスカ?)の話を読みました。最初は、現実との気温差のせいかなかなか物語に入り込めなかったけど、子オオカミに名前がついたあたりからはかなりぐいぐい読みました。そして、苛酷な前半~中盤のせいで、後半は相当せつなく、胸にグッとくるシーンの連続…。いやー、素晴らしい名作だと思います。
…ただ、残念ながら、個人的には翻訳がイマイチだったなと。光文社の方が良かったりするのかなー。表紙でつい新潮文庫の方を選んでしまったけど…。
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冒頭から、アラスカの雪の平原でハラペコ狼にとりかこまれ、一匹一匹食べられていくソリ犬・・・ついには人間も・・・な展開でつかみからがっつり。狼好きのバイブル。「野生の呼び声」が飼い犬が狼化して自然に還る話ならこっちは逆で、狼がよい主人に出会い、な話だった。なでるぞ!なでられる!の攻防は食うか食われるか!並みにハラハラである。
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表紙の孤独そうなオオカミ君に一目惚れして、レジダッシュした作品。
これは大当たりでした!本当に面白かった~~!!
主人公は、ホワイト・ファング(白い牙)と呼ばれるオオカミの子。
それも純粋なオオカミではなくて、オオカミと犬の混血。
そのあたりの設定が最後の最後まで生きてきます。
ホワイト・ファングの視点から描かれるお話がとても新鮮です。
虐げられてすっかり頑なになった彼の心を溶かしてくれる、新たな出会い。
泣いたり、怒ったり、ほっこりと幸せな気持ちになったり。
とても素晴らしい物語でした。
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2人の男が極寒の地で犬ゾリで棺を運ぶ冒頭の章に、ロンドンの真骨頂があると思う。これだけで短編小説のようだ。
犬の視点から人間を神々たち、と表現していて、人間の文明というものがあらゆる生き物の中でずば抜けていると感じる事になる。(文明を築けたのは一握りの人間による所が大きいので、あまり自惚れる事はできないのだが。)
ロンドンの著作はいつも新しい視点を与えてくれる。
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アラスカの荒野に生まれ、様々な人間の手を経て、はるか南の地にたどり着くオオカミの物語。
痛々しいまでの野性の厳しさ、人間の残虐さと優しさが描かれた物語は、ちょっと最後のエピソードが唐突だったけれどやはり力強くたくましいお話でした。
ラストページにほっこり。
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ジャック・ロンドン(白石佑光訳)『白い牙』新潮社、1958年(原著1906年)
とても面白い動物小説である。著者のジャック・ロンドン(1876-1916)はサンフランシスコで生まれ、私生児として母にそだてられた。父親である占星術師には生涯認知されなかったそうである。母のフローラは再婚するが、地味な暮らしを嫌い、家運が傾き、あちこちと転居することになる。ジャックは新聞売り、缶詰工場などで働き、カキの密猟者、密猟者の取締り役人などをやり、アザラシ捕りの船に乗り込み、日本へきている。その後、工場労働者、石炭運びなどを転々とし、1894年、アメリカ・カナダの放浪の旅にでた。子どもの頃から読書に異常な情熱があったらしく、1895年、放浪からもどると、ハイスクールに通い、カリフォルニア大学に入ったが、学資がつづかず、中退する。学生時代はマルクスをよみ労働運動をやり、演説もしている。後年、マルクスをはなれ、スペンサーやニーチェに傾倒した。1897年にはアラスカのクロンダイクでゴールド・ラッシュが起こると、ジャックも北国へ冒険に旅立つ。一年後、無一文のまま、病気になって戻る。1899年から作品を書き始め、1903年、出世作『野生の呼び声』で一躍流行作家になった。1904年には通信員として日露戦争に従軍するため、来日したが、従軍を許されず、日本人への激しい憎悪を抱いて帰国する。1900年ごろ結婚し、離婚、そして再婚し、1907年から土地を買い落ちつく。妻や仲間と自分の船で南大西洋諸島をおとずれている。若いころからアル中であったが、放蕩と多作による過労、青年時代の貧困などがたたって、1916年、40歳で死去、モルヒネ自殺であったそうである。人気作家としての自己イメージに違和感があったといわれる。200編以上の短編を書き、売れっ子作家であったが、使うほうも豪快だったらしく、財産はのこらなかった。まあ、アメリカの「無頼派作家」である。
「白い牙」はイヌとオオカミの間にうまれた「ホワイト・ファング」が主人公である。第一章は母イヌがオオカミたちと犬ぞりを襲う話である。一匹また一匹と頼りになるイヌがいなくなり、人間の仲間もくわれ、最後に残った男が自分の身体の精妙なつくりを惜しむシーンなどは、死と隣りあわせになった人間しか書けないような切迫感がある。第二章は、ホワイト・ファングが生まれ、荒野で他の動物と戦いながら、成長していく話である。第三章はネイティブ・アメリカンの「グレー・ビーヴァー」一家との共生を描く。第四章では、市場でグレー・ビーヴァーがアル中にさせられ、ビューティー・スミスにホワイト・ファングが売られる。ビューティーはホワイト・ファングを虐待し、闘犬として戦わせる。第五章は瀕死の状態だったホワイト・ファングがスコットに引き取られ、「愛」を覚え、カリフォルニアの屋敷で社会生活を覚える話である。
この小説では、よくあるドラマやマンガのように、イヌがしゃべったりしない。しかし、イヌの視点から描かれていて、「掟」とか「愛」とかがイヌの視点から解釈される。文体も虚飾を廃して、ドライで簡潔、しかし、気高いのである。構成もイヌが学んだことから新しい環境に適応しており、無理なところがない。これは映像にしても面白くないだろう。「ホワイト・ファング」は、オオカミとしての気高さもあるが、とにかくガムシャラに生存にしがみつく、作中ほとんどが闘争であるが、ホワイト・ファングは、ただ「力」のみにたよるのでなく、すべての力、体力と知力、狡猾さもフル活用するのである。何より、どんなに環境が変わっても、生存のために適応していく姿には感動を覚える。
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犬が主人公であるこの作品を取った時、犬がしゃべるのかな、と何故だが思って読み始めました。そんなことはありませんでした。
印象に残ったのは、日々生きるために獲物を追い続ける狼たちの日々。人間にしてみると死なないために生きる時間の多くを食料探しに追われ、食料にありついてもまた次の食料を……、何て人生は辛すぎますが、野生の動物にとっては当たり前のことだと気づかされたことです。
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white fang
生きる力強さ、過酷さ、美しを狼を通して感じることができた。
初めて神の優しさに触れる場面は鳥肌ものだった。
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(01)
野生と人間との間にはいつも葛藤があって,それがこじれたり決裂したりすれば,殺し合いにもなる.人間が狼を見続けてきたように,狼もまた人間を見続けてきた.人が狼に畏敬の念を抱く可能性があるとすれば,狼もまた,人を神のように感じとる可能性も同時にありうる.
しかし,本書は人間が書いたものであって,狼や犬が書いたものではない.よって,狼の眼を通して,異種の人間と神と同族の狼や犬を見て,その体験を綴った小説といえる.そこに描かれているのは,狼でありつつ,狼的な人間や,人間のうちにある野生であり,神は,人間でありつつ,人間のうちにある神とその世界(*02)でもある.
白い牙,ことホワイト・ファングには野生が宿っているが,遠い犬の性質を通して,既に理性の芽生えがあり,その理性がいかに人間の手によって育成され,神に近づきうるかを,その半生と出生譚を通じて体現している.
暴力もあり,恐怖もある.心の寛さがあり,魂の飢えもある.狼は言葉をもたないが,持たないがゆえの豊潤で野生的な感覚と応対がある.
人間の魂が入ったような白い牙には,狼がのりうつったかのような著者の入魂を読み取ることができる.
(02)
狼はひたすらに純粋でもある.そのため,人間社会が奇妙に,さもしく,汚れた精神に彩られていることの対比が美しい.冒頭のヘンリの物語が,ぎりぎりの人間を,つまりは動物になり,肉になりつつある純粋な人間を現し,エピローグともいえる終盤の章では,それでも人間社会の希望を描こうとしている.
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小学生で読んだ本。最後の方で内容を思い出した。犬との混血のオオカミの一生。生まれて以来の厳しい環境とオオカミの本能がキャラクターを築いていった。一部の人より厚い義。飼い主に左右される運命。人に関わる動物の悲哀。2020.9.6