紙の本
ルポルタージュとしても、難民問題の解説書としても失敗作だろう
2016/10/27 00:49
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリア、アフガニスタンなどの紛争地域から難民がドイツに押し寄せている。本書はアフガニスタンからイランに逃れ、、イランで働いていたものの、さらにドイツを目指すアリさん一家に途中のギリシャから密着し、取材したもの。難民の実相を知りたくて購読したが、期待はずれ。その理由1なぜイランや周辺国ではなく、ヨーロッパなのかその問いの答えはない。理由2なぜドイツなのか、ヨーロッパ各国が受け入れない理由がハンガリーについて若干記述されるが、失業率の高さに苦しむ実情がつぶさに語られない。
理由3なぜドイツかが受け入れ国なのかが第2次大戦でのホロコーストの反省からということで、唐突にアウシュビッツの生き残りの人物の紹介に大幅に紙面が割かれる違和感。
「追跡」と言いながら、追跡にも失敗し、途中アリさんを見失い、アリさん一家の苦難の足跡はほぼ記述されない。
ルポルタージュとしても、難民問題の解説書としても失敗作だろう
投稿元:
レビューを見る
読むか迷った本ですが、読んで良かった。基本的に小説好きなのですが、ドキュメンタリーものの映像はよく見る。難民のことは気になっていた。テロと密接に結び付くと誰もが思ってしまう。でも全員がテロリストなわけじゃない。難民問題は複雑多岐にわたっている。ドイツはユダヤ人を迫害した過去がある。でも全ての難民をドイツが受け入れられる訳じゃないし、シリアやアフガニスタンが平和になればみんな故郷に帰れるかもしれないけれど、戦争がなくなったって、平和な訳じゃないのはいまの日本を見たら分かるし。あれもこれも知らないフリしたりはできない。ここに書いてあることはみんなが考えないといけないことなんだと思った。よんで良かったです。
投稿元:
レビューを見る
イランからのアフガン人難民一家を、レスボス島からメスシュテッテンへ同行したレポート。国境での手続きは簡素化され、交通手段はバスでも列車でも安価で素早く用意されるのは、各国が自国を早く「通過」して欲しいから。遠く日本から全然偉そうこと言える立場じゃないが、うっすら背筋が寒い。
投稿元:
レビューを見る
偶然にもトランプ大統領就任の日にこの本を読みました。
シリアやアフガンの難民問題は、国内の所得格差問題と絡まって欧米各国で右派が台頭する背景となっています。しかし、難民問題は日本では身近でなく、なかなか想像が及びにくいものです。であればこそ、難民申請を求めて移動する一家に密着してのルポルタージュには大きな価値があります。
世界が抱えている苦悩について、いくらか理解を深めことができました。
この本では、近現代を通じて培われてきたヨーロッパ(EU)という「思想が直面している危機」が問題意識の中心になっています。ユダヤ人の受難とドイツの贖罪という歴史的経過についても、当事者のインタビューを通じてのコンパクトに解説されており、理解を深める一助となっています。
さて、世界はこれからどうなるのか?我々はどう考え、どのような道を選択すべきか?
投稿元:
レビューを見る
「ルポ 難民追跡」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.21
(2017.02.09読了)(2017.02.06借入)
副題「バルカンルートを行く」
ヨーロッパに多くの難民が押し寄せて対応に苦慮しているというニュースをテレビで何度か見ていますが、どういうことなのか今一つよくわかりません。
図書館でこの本を見つけたので借りてきました。
著者は、毎日新聞の記者です。ドイツやオーストリアを目指して移動するイスラム教徒の難民を追跡取材して、難民の実態を把握しようという試みです。
シリアやアフガニスタンからの難民がたどるルートの一つがギリシャのレスボス島です。ギリシャのレスボス島は、トルコの沖合10キロのところにあります。
トルコ領からゴムボートに乗ってレスボス島にわたります。レスボス島からは、ギリシャ本土行きの定期船が出ているので、その船に乗ってアテネ近郊のピレウス港に渡ります。
元祖バルカンルートは、ギリシャからマケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリアの順番で、ドイツに達していました。(5頁)
ところがハンガリーが、セルビアとの国境を封鎖してしまったので、セルビアからクロアチアへと迂回した難民は、クロアチアによってハンガリーへと送り返されたので、結局、回る国が一つ増えてしまった。ハンガリーは、クロアチア国境も閉鎖してしまったので、クロアチアからスロベニアを経由してオーストリアへというルートに変わった。
坂口記者が追いかけたのは、ギリシャ、マケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリア、ドイツということになります。
追跡取材をお願いした相手は、アフガニスタンからの難民でした。ちょっと不思議な感じですが、アフガニスタンの治安が悪化しているので、隣国イランに逃れたのだそうです。イランでは、定職に就けないので、生活の安定を求めて、難民を受け入れているドイツを目指すのだそうです。
坂口記者もシリア難民を取材対象にしたかったのですが、イスラム国の報復を恐れてか、取材には協力してくれなかったとのことです。
レスボス島からギリシャ本土に渡るフェリーは、ストライキのため5日ほど足止めを食ってしまいます。
ピレウス港からアテネへは、バスで地下鉄ピレウス駅まで運んでもらい、地下鉄でアテネのビクトリア駅へ。アテネで難民キャンプに入り、マケドニア国境行きのバスの切符を購入します。アテネからマケドニア国境までの距離は、約550キロです。
坂口記者は、ギリシャの検問所からマケドニアの検問所までは高速道路を500メートルほど歩いて通過しました。一般旅行者と難民の入国審査は別になっています。
次のセルビア国境までは、列車でもバスでもタクシーでも料金は統一価格で25ユーロと決まっていました。
取材対象のアリさんは、列車で移動しました。
セルビアの次は、クロアチアです。セルビアからクロアチアへは、列車です。
クロアチアの次は、スロベニアです。クロアチアとスロベニアは上手に連携しているようで、クロアチアからやってきた難民の特別列車は、スムーズにスロベニアの列車に乗り換えさせています。
「列車リレーのたすきは、セルビアか��クロアチアを経て、スロベニアにもつながれていた。」(91頁)
シリア出身のアルバイさんの場合は「13日にマケドニアに入り、14日にはセルビアへ。さらに15日にはクロアチアを経て一気にスロベニア入りしていた。」(93頁)
やってきた人を難民キャンプにとどまらせるよりは、さっさと送り出した方が難民にとっても通過させる国にとっても得策ということです。
坂口記者は、セルビアでアリさんを見かけた後は、クロアチア、スロベニア、オーストリアと難民がいるところを探し回ったが見つけることができず、オーストリア滞在中に連絡を貰った時には、アリさんはすでにドイツ入りしていた。アリさんは、ドイツのシュツットガルトと言っていたが、メスシュテッテンの施設だった。アルファベットが読めず、言葉もわからないのでうまく伝わらなかった。
アリさんによると「ドイツやオーストリアは、お金のない私たちを列車やバスに無料で乗せてくれた」と感謝していた。(118頁)
その後、アリさんたちはチュービンゲンのアパートに移り、ドイツ語の講習を週4日受ける生活を送っている。アパートの3部屋を三つの家族でルームシェアする形ですんでいる。
最初の施設では大部屋でプライバシーのない状態だったので、それよりはだいぶ改善されている。
ドイツが、2015年に受け入れた難民や移民の数は、約109万人です。
アリさんのドイツでの生活費は「アパートの家賃や電気代も、すべてドイツ政府が負担してくれています。大人一人300ユーロ(3万9千円)、子どもは200ユーロ(2万6千円)、家族で合計すると、月に800ユーロ(10万4千円)を支給されています。これで食費や交通費を賄います。」(208頁)
アリさんが難民として認定されるかどうかは、まだこれからです。
【目次】
序章 出発
第一章 ギリシャ
第二章 旧ユーゴスラビア
第三章 オーストリア・ドイツ
第四章 排除のハンガリー
第五章 贖罪のドイツ
第六章 再会
主な参考文献
あとがき
(2017年2月20日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
ヨーロッパ各国に連日大勢押し寄せる「難民」。一人ひとりの素顔、その苦悩や希望とは?受け入れ側の論理や戸惑いは?ドイツを目指すアフガン人一家に、一人の記者が寄り添い、世界的課題の実態と、背後に横たわる重い歴史に迫る。複雑で「遠い」問題がストレートに伝わってくる、同時進行ルポルタージュ。
投稿元:
レビューを見る
アフガニスタン難民の夫婦と小さな娘の3人家族(風貌が日本人似)に密着した、ギリシャからドイツまでの移動のルポ。おしよせる無数の難民の中で、ピーナツとか食べ、おもちゃで遊び、拍子抜けののんきさ、スマホでSNSを駆使した無銭乗車や違法移動含む一斉の移動、連絡は時々途切れながらもやがて手厚いドイツの難民政策に守られて生活をはじめる家族。ハンガリーが難民防止フェンスを建てる直前のころ、パリの同時多発テロが起きていたころの話。ちょうどよい距離感、温度の語り口に引き込まれて読んだ。おすすめする。
投稿元:
レビューを見る
2年半ほど前のものなので状況は変わっているが、当時の難民・移民の状況を如実に伝えるルポタージュ。追跡といっても途中、ほとんどはぐれているんだけど...。
現在もこの問題は大きく揺れている。人道主義に基づく受け入れか、大衆迎合主義による排斥か...。どちらにしろ根本的な解決には至らない。