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弱い神 みんなのレビュー

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一般書

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みんなのレビュー2件

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評価内訳

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紙の本

「群像」「文學界」「新潮」という純文学三大誌に順不同で発表されながら、それが実は大きな小説の各章に過ぎない、それが一冊にまとまって巨大な長編に変化する、いやはや凄いお話ではあります・・・

2011/11/21 22:16

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

カバーデザインが素晴らしいです。小技は使いません。黒、白、青のBOXをシンプルに配する、それだけでこんなにすっきりしたカバーが出来上がります。この大技で、一本勝ち、2010年最高のカバーではないでしょうか。本の作りも、分厚いこと以外は、実にしっかりしています。本文の紙も少し厚いのではないかとか、そのせいで腰が強いのではないか、とか、若干変色が気になる、とかありますが、でも立派。これで函がつけば、まさに「小川国夫文学の最高傑作」に相応しい出来と言えるでしょう。装幀は司修。

で、『弱い神』です。書店で見たとき、おお、と思いました。まずカバーです。次がボリューム、ともかく分厚い。そして小川国夫です。そして遺作。なんていうか、私を呼んでる、なんて思うんです。そうか、小川国夫、亡くなってたんだ、なんてことも。ちなみに我が家には小川国夫の本がごっちゃりあります。ただし、殆ど積読本で、エッセイがかなりある。でも、なんで自分が小川に熱をあげたのか、正直分からない。ともかく最近は全然読んでないし・・・

でです、私の印象として小川国夫はいわゆる宗教がかった暗い私小説作家で、決して面白おかしい話を書く人ではないわけです。で、578頁、A5版の本となると、読むのに一カ月はかかるわな、となります。他に読むものがないならともかく、読まにゃならない本は山とある。ま、今の若い人が小川のことを知っているかも疑問なわけで、売れないだろうな、ということで、しばらくほおって置きました。

で、漸く重い腰をあげたんですが、これが実に読みやすいわけです。文章的にいったら同じ弁当箱ものでも京極夏彦の方がはるかに読みにくい。本来ならば難しいはずの小川国夫の、しかも遺作が読みやすい、っていうのは何だろ? なんて思います。実は理由がありました。一つは解説に書いてあります。どうも私が小川作品を読まなくなってから、彼が作風を変えたらしい。つまり、文章を読みやすいものに変えたらしいのです。

もう一つ、それはこのお話が現在流行の三代ものなんです。桜庭一樹もですが、実に多くの人が三代ものを書いています。そして、誰が先かは別にして、この『弱い神』もその仲間ではあります。まず紅林鑑平が初代。次が、紅林鉦策。最後が紅林與志です。で、聴き手が與志の妹・真佐代です。そして、ともかくこの男たちは女にもてるわけです。頭もいいし度胸もある。とはいえ、時代が明治から昭和にかけてですから、衛生状態は決して良くない。単純に言えば、彼らに結核が襲いかかる。

しかもです、事業で成功し女にももてる、という男たちに身内が嫉妬をする。身内、というのは何ですが一緒に事業を立ち上げた男たちが、実にくだらない理由で三人の男たちを貶めようとする。ま、時代が時代ですから、噂を流せばそれがどんどん大きくなる。警察が乗り出すことはないまでも、村の連中は信じたりする。女の恨み、金の恨み。別に自分が困っているわけではないけれど、上手くやっている人間がいることが許せない。

どうも、ここらは日本人の国民性なんじゃないか、なんて思ったりします。私としては、紅林與志と真佐代の関係が一番好きで、思い切って子供作っちゃえばよかったのに、なんて不謹慎なことを思ったりしますが、この小説で一番嫌いな人間が二人に関連して登場します。一人が粳田權太郎で、もう一人が與志が通っていた学校の教師・海江田です。どこらが嫌いかは、実際に読んで確認してください。

あらためて断っておきますが、内容的には面白いです。名文家が優しい文章を心がけたのですから文章も読みやすい。問題は物理的な本そのもの。ぶ厚くて取り扱いにくい本ですから、まず次のようにして読みましょう。手が滑らないようにカバーを取り外しましょう。外出時に持って出る、というのは避けて、基本は室内で、しかも机の上に置いて読みましょう。つり革を握って片手で掲げる、なんていうのは腱鞘炎の原因であるだけでなく、他人にぶつかったりすれば死人が出るのでやめましょう。どうしても、というときは自賠責保険にはいっておくことをお奨めします。この保険、契約によっては京極夏彦の本も含めることが可能です。詳しくは保険会社にご確認下さい。

なお、このお話は面白い成り立ちをしています。なにか、というと初出誌が複数で、かつ目次の順に発表されているわけではありません。「群像」がメインですが、「文學界」「新潮」も交えてまさに「みつどもえ」。それを理解してもらうために目次を写し、初出誌をすべて書いておきました。時間があればチェックしてみてください。

流れ者            「群像」1999年8月号
夢のような遺書        「群像」2000年10月号
一目             「文學界」1999年9月号
人攫い            「群像」1999年10月号
鑑平崩れ           「群像」2000年1月号
おりん幻           「文學界」2000年3月号
葦の匂い           「新潮」2000年6月号
女よりも楽しい人       「文學界」2000年7月号
かます御殿          「新潮」2000年1月号
寅の年、秋          「文學界」2001年10月号
一太郎舟出          「群像」2000年9月号
ばば垂れ鑑平         「群像」2001年1月号
にかわのような悪       「新潮」2001年2月号
與志への想い         「群像」2003年8月号
無に降り           「群像」2002年7月号
暴力とは           「文學界」2003年3月号
くらがり三次         「群像」2002年4月号
危険思想           「新潮」2002年9月号
綾              「群像」2003年1月号
奉安殿事件          「新潮」2003年4月号
幾波行き           「群像」2002年10月号
自首する綾、迫害される權さん 「群像」2003年9月号
島流し            「群像」2003年11月号
弱い神            「群像」2004年1月号
死について          「群像」2003年12月号
戦争は済んだ         「群像」2004年7月号
星月夜            「群像」1998年1月号
未完の少年像         「群像」2007年1月号
 
  解説 小川国夫の晩年
       ――「弱い神」を巡って
                     長谷川郁夫(大阪芸術大学教授・元小沢書店社長)

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紙の本

死者たちが蘇って語り始める「聖書」のような偉大な物語

2010/06/19 11:29

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る



藤枝の大井川周辺の河口と原っぱと集落と海と空を舞台にし、明治、大正、昭和の大戦期を貫き、祖父母、父母、息子夫婦三代にわたって連綿と繰り広げられる紅林家の物語は、確かにその題材を作者の一族とその周辺からとられているものの、読み進むうちに祖父である家長があるときは清水の次郎長のように、ある時は旧約聖書の苦難に悩めるヨブのように、またあるときはガルシア・マルケスの小説に出てくる孤独な英雄のようにも思えてきます。

しかも驚いたことには、この膨大な大河小説は、全編にわたって静岡県の一地方の方言の会話文だけによって延々と描き続けられています。作者はかつて袖をすり合わせたすべての親族や友人、知己を自分の枕元にさながら「いたこ」のように呼び出し、この世にあらぬ親しき人々が語り出すまでひたすら待っています。

そして生者はもちろん死者たちも、作者のうながしに応えて、在りし日のかけがえのない記憶を、とつとつと語り始める。したがってこれは死者が語った言葉を傾聴する「聖書」や「古事記」のような物語なのです。

―たとえ正当防衛でも人は殺さないっていうことですね。
―そうなんだよ。                 (「危険思想」より)

―この調子だと、国は喰い荒らされてしまうと言うんですか。大井川に落ちる渡り鳥のように、残骸になってしまうと言うんですか。
―残骸……、ね。国というものがあればの話ですが……。
―国などというものはないと言うんですか。
―ありませんよ。あるのは国という言葉だけです。あるように見せかけているだけだ。利用したい者には便利な言葉ですが。         (「幾波行き」より)

そこには俗にまみれて動物のようにうごめく男と女の貧しい赤裸々な生活があり、闘争と戦争と殺人と自殺と敵対と暴力と友情と情欲と純愛と聖なる自己犠牲があります。
いつまでも果てることない物語は、いつしか実在の作家の郷里を浮遊して壮大な神話の世界にまで星雲にように広がってゆく。すると遠い雲の彼方から光り輝くまばゆい人が姿を現し、読者のなかにはそれをイエスキリストであると囁く人も間違いなくいるでしょう。

小川国夫はすぐれてモラルに生き、モラルに殉じた人でした。
敬愛する作家の最期の小説は、私の心に大きな置き土産を残してくれたようです。それは残された私の生の歩みに少なからぬ影響を及ぼすことでしょう。楽しみでもあり、また怖いような気もする死者からの最期の贈り物です。


たしかに神はいますらし されど日ごとに神は弱くなるらし 茫洋

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