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紙の本
母を描くということ
2015/09/24 08:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2010年8月に亡くなった歌人の河野(かわの)裕子さんの評伝である。
著者は河野の長男で歌人で歌集などの出版も行っている永田淳氏。家族が綴ると思い出話になることが多いが、この本は「評伝」と謳っている。もちろん、家族でしか書けない話など真実の強みはあるだろうが、その一方で第三者の冷静な視線による河野の評価とのバランスが微妙だ。
その点では、「家族のうた」を数多く詠ってきた河野ならなこそ、息子の「評伝」が許されたともいえる。
河野にこんな歌がある。「さびしいよ息子が大人になることも こんな青空の日にきつと出て行く」。ここに詠われている「息子」が、この本の著者であり、この歌を紹介したあとにその当時の自身の思いが書きとめられている。このあたりなども「評伝」というより、河野をめぐる思い出に近い。
では、何故河野は家族を詠い、息子や娘たちのことを詠ったのだろうか。
永田氏はそれを「子離れできない」ということではなかったのではないと書いている。「純粋に一番身近な血を分けた他人が面白かった」のではと続けている。
しかし、河野の歌が愛されるのは、「家族」を詠っているからだろう。河野の歌に描かれる「家族」はある面で理想なのかもしれない。
先ほどの歌のように、家を出て行く息子の姿に「さびしいよ」とはっきりいえることはあまりない。それを河野は照れもなく、まっすぐに歌いきっている。
もしかしたら、それは誰かそこにいないものに話しかけるような思いのようなものが河野にあったからではないか。
この作品の中に河野が学生の頃書いていた日記の断章が幾篇か紹介されているが、河野にとって「家族」のことを詠うのは日記に綴る思いに似ている。
河野の有名な辞世の一首、「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」の「あなた」とは、病床の河野を見守る家族であることは間違いないが、自身に歌を書き続けさせてきた河野と対峙する大きな存在そのものでもあったのかもしれない。
家族を冷静に描くことは難しい。永田氏の筆も時に冷静ではない。
しかし、この本はそのことが美点でもある。
紙の本
女性の生き様
2015/08/30 21:16
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投稿者:鮎子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは歌人・河野裕子の評伝です。
著者は編集者である息子。
河野裕子の両親から書き起こし、最期の時までを記したものです。
身内が書いたものだと、ついつい情に流されがちですが、これはちょっと突き放した端正な筆致で書かれています。
それでいながら家族だから体験できたエピソードもあります。
そして何といっても文章が上手い!
「ちょっとななめ読みして…」と思っていたら、スイスイと読めてしまってあっという間に読了☆
日本を代表する女流歌人ですが、現代短歌に興味がない人にとっても、一人の女性の生き様という意味で、非常に興味深い一冊です。
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