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Fintechビジネスは、決済、融資、投資、家計管理(PFM)等、様々な金融サービスの領域で展開されており、かつ企業と顧客の関係性もBtoC/BtoB双方に渡っているため、なかなかその全体像を把握するのは難しい。それは書籍による解説という形態を取っても当然同じであるところを、本書では世界中の85人のFintech有識者(Fintechスタートアップの起業家、銀行員、金融サービスのコンサルタントなど)が、それぞれの専門分野や問題意識に基いて特定のテーマで執筆し、1冊の本に編集するというプロセスを踏むことで鮮やかに解消しており、Fintechビジネスに興味のある人にとっての基礎的なレファレンスとして常時手元に置いておく価値のある一冊になっている。
上述のような編集方針であるため、本書は10のテーマについて、500ページを割いて構成された大著であるが、読み方としては自身が興味のあるテーマから五月雨的に読んでいけばそれだけで十分価値があるように思う(実際、自身の場合は金融サービスのアンバドリング/リバンドリングについて書かれた第10章は手厚めに読んだ一方で、既存の金融機関が取り組むべきオープンなエコシステム論などをテーマとした第6章はさらっとしか読んでいない)。
個人的には競争政策の文脈でアンバンドル/リバンドリングが最も早くに起こった産業である通信業界を専門としている者として、大手通信キャリアがその結果として陥った苦境・失敗(結果として通信キャリアは土管に過ぎず、プロフィットプールをOTTに奪われた)を踏まえたときに、アンバンドリング/リバンドリングの世界に突入しつつある銀行という巨大プレーヤーへの示唆を導出できないか、と考えており、本書も参考にしながら、自分なりの仮設を検証できるような理論を作りたいと思っている。
参考までに、読者として認識した10のテーマは以下のような構成になっている。
■第1章 イントロダクション
・Fintechが注目を集める背景や技術・社会的トレンド
■第2章 Fintechの主要テーマ
・マーケットとして特に巨大な決済や融資におけるFintechのトレンド
・個人情報/パーソナルデータがもたらす新たな可能性や、優れた顧客体験を提供するためのUXの重要性
■第3章 Fintechハブ
・イギリス、フランス、オランダ、シンガポールなどFintechビジネスのハブとなっている各国のビジネス活性化の成功要因
■第4章 新興市場とFintechの社会的影響
・伝統的な金融サービスにアクセスできない25億人の”アンバンク”に対するFintechビジネス例を中心に、Fintechに期待されている課題とその解決法
■第5章 Fintechソリューション
・AIによるデータ解析型のFintechソリューションの将来性や生体認証など、今後期待されるサービス
■第6章 資本と投資
・Fintechスタートアップにおける資金調達のポイント
・投資領域におけるロボアドバイザーや投資型クラウドファンディングのトレンド
■第7章 既存の金融機関は変われるか?
・銀行などの伝統的金融サービス事業者がFintechビジネスを展開する際のスタートアップや政府など、広範かつオープンなエコシステム形成の重��性
■第8章 その他の成功事例
・3つのFintechスタートアップの起業家による、事業をスケールさせるまでの経緯やビジョンの具体例
・伝統的金融サービス事業者の代表としてのシティグループのFintechビジネスの活性化の取り組み例
■第9章 暗号通貨とブロックチェーン
・ブロックチェーン技術を用いたアプリケーションの一つである暗号通貨と、他アプリケーションとしての資産台帳、アプリケーションスタック、アセット取引の概要
■第10章 Fintechの未来
・伝統的金融サービス事業者とFintechスタートアップを結ぶ重要な要素としてのAPIの概要とその重要性、マネタイズモデル
・金融サービス自体の長期的な未来像