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日常が少し非日常な短編集
2020/10/27 19:06
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投稿者:かさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
どの短編もファンタジーを書いているわけではないのに、非日常で色んなタイプがあり面白かったです。
とくにアイデンティティ、逃げろ!が好きです。表題昨も捨てがたい…(捨てる必要ないんですけど)
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かわいくて、黒くて、今っぽい傑作短編!
理科準備室のホルマリン漬けの瓶。ただの無駄に見えた標本のひとつが、「私」には意外と使えた。世間話の聞き役として私にお話をせがむのだから。ユーモラスでアンチデトックス、芥川賞作家による、魅惑の短編集。
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ストーリがぶっ飛び過ぎてて、理解が追い付かないものもいくつかあったが、ブラックユーモアに富んでて面白かった。気に入ったのが「今日の心霊」かな。
あらすじ(背表紙より)
理科準備室に並べられたホルマリン漬けの瓶。ただの無駄な存在に見えた標本のひとつが、けれども「私」には意外と使えた。クラスの噂や自慢話の聞き役として、私に激しくお話をせがむのだがら(「おはなしして子ちゃん」)。ユーモラスでアンチデトックス、才能あふれる芥川賞作家が紡ぐ類まれな物語世界、全十編。
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最初の3つは文句なしに良かった
「おはなしして子ちゃん」
自立のため、教養を欲しがるそいつの姿は
親の承認欲求で腰砕けにされた子供たちの自我そのもの
「ピエタとトランジ」
名探偵の周辺では必ず事件がおきるという現象を用いて
学校を破壊してしまう女の子の話
「アイデンティティ」
出来損ないのミイラのキメラ
その引き裂かれた心が、あるがままの自己を受け入れるまで
「今日の心霊」
自分のことを変な奴だとどうしても認識できないある種の天才
そしてそれにつきまとう紳士の集団(涼宮ハルヒみたい)
「美人は気合い」
エゴを持たない人工知能と、それに作られた生命体のやりとり
閉じて不毛なルーチンワークが続けられる
「エイプリル・フール」
世界観の綻びから目を背け、1日1回の嘘という掟を守り続けること
それが相互依存の言い訳になっている
「逃げろ!」
ただの快楽殺人にそれらしい物語をつけて悦に入ってるやつ
…としか思えないんだけどなぁ、現実は最後まで彼の欺瞞を守ってくれる
「ホームパーティーはこれから」
SNSにドハマリしてる若い奥さんが
ホームパーティーの接客の忙しさから現実逃避を始める
「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」
芸術鑑賞者が芸術の本質に目覚め、制作者の側にまわるという寸劇
乱闘の描写を、点描作業に重ねているらしいが、これは失敗かな…
「ある遅読症患者の手記」
人生の裏側には死の影が、その恐怖が、貼り付いている
だから私小説は廃れたのかもしれない
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買ってそのままにしていた本。
小旅行に持っていったら面白くてええ?おおーと心の中急上昇しつつ一気に読んでしまった。
グロテスクでぞくぞくしたのに、よみおえて後味がいいのはなぜだろう。
「我々がなによりも重要視し、心打たれるのは、前述のダゲレオタイプによる死者のポートレートと、micapon17によるスナップの形式的な類似である。そう、生者の像が不安定で、死者の像が安定しているという、写真黎明期に顕著に見られる特質を、写真史などしりもしないmicapon17が運命的に受け継いでいる、そのことが我々をかくも感動させるのだ。」
ー「今日の心霊」
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2006年に『爪と目』で芥川賞を受賞した著者の、その受賞後第一作として刊行された短編集。2013年度の第4回Twitter文学賞の結果発表放送を観ていた時に、絲山秋子さん、古川日出男さんとともに第8位に選ばれている選評を聞いたのがきっかけで、興味を抱いて手に取った一冊です。
全体的に不穏でシュールなテイストに満ちているのが特徴であり魅力でもあるのですが、個人的にはホラーというより「ストレンジ・フィクション」と呼ぶのが最もしっくりくる印象。
いじめに使った理科準備室のホルマリン漬けの猿に「お話をして」といじめっ子が乞われる表題作。十四歳で高熱を出して以来「一日に一度だけ嘘をつかなければ死んでしまう」後遺症を抱えた少女の顛末と、歪な愛憎が語られる「エイプリル・フール」。夫が連れてくる知人たちを自宅でもてなすパーティで、SNSに築いた妻としての像と乖離していく事態に見舞われ自我と現実感が溶解していく「ホームパーティーはこれから」など、文字通り粒ぞろいの奇想・綺談のオンパレードながら、中でも群を抜いて鮮烈な1編となれば、やはり「ピエタとトランジ」かなと。
女子高生ピエタの通う学校に転校してきた、トランジと呼ばれる同級生(いずれも作中ではあだ名で呼びあい、本名には言及されない)。トランジはいわゆる名探偵で、頭脳明晰だが周囲に事件を誘発させてしまうという体質を持っていた。それにより、ピエタとともに遭遇することになった殺人事件を電光石火で解決したことがきっかけで、逆にピエタはトランジに惚れ込み、半ば強引にトランジの助手となって、人を避けようとする彼女を毎日学校に登校させるのだが…という内容で、さらに「その後」を描き継いだ短編をまとめて、2020年3月には連作長編『ピエタとトランジ <完全版>』として改めて刊行されるにも至りました(喝采!)。
犯罪という混沌に解決と秩序をもたらす才能を持ちながら、その体質によって近しい人たちの破滅を呼び込んでしまうという究極のジレンマを抱えた孤独な少女と、そんな彼女との出会いで生きがいを見出し、彼女に寄り添うことを“軽薄に”決めるフツーの女子高生。このふたりの関係性と距離感、そして交わされる言葉の(校内では悲惨な事件が起き続けるにもかかわらず)なんと微笑ましくて眩しいことか! 青春ミステリとしても女性バディものとしても味わい深く、切れ味鋭い傑作だと思います。
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理科室にあった猿のホルマリン漬けに永遠と話し続けたこと。いじめっ子といじめられっ子。
トランジのそばにいると周りが次々と不幸にあうこと。
猿の頭と鮭の体で作られた人魚のアイデンティティ。
撮った写真が必ず心霊写真になる人。
壊れた宇宙船が胚細胞に念じていること。
一日一回嘘をつかなければ死んでしまうエイプリル・フールの人生。
頭のおかしい奴の異様な足の速さと蜂蜜と通り魔。
夫の会社の人たちとの夢広がるホームパーティー。
点画を鑑賞する心得と作品に掛ける情熱。
遅読症の人と真っ黒な血を吐く本。
ホラーでいながらもキュート。
おはなしして子ちゃんは、怖かったなー。
ぞくぞくして、中毒になりそうな一冊。
著者のこういうのまた読みたい。
ファイナルガールの襲ってくる殺人鬼を倒していくリサを思い出した。
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かわいらしいタイトルのわりに、どの短編もぞくりとする。不思議だったりホラーだったり、けれどそれを日常のように淡々と綴っている。
特に最後の「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」と「ある遅読症患者の手記」が面白かった。
2019/11/8
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これまで読んだ藤野さんの作品集の中では一番良かったです。
まず一作目にあたる表題作で引き込まれました。「ホルマリン漬けの猿」と「いじめ」と「おはなし」をこんな風に結びつけるとは。結末もひねりも効いていて、他では味わうことのできない読後感を堪能できます。
続く「ピエタとトランジ」は、ミステリのお決まりのパターンってやつを念頭に置いたパロディで、こちらもなかなか面白いです。東野さんの名探偵シリーズを思い出しました。ちょっと内容を詰め込みすぎかな、とも思ったのですが、どうやら完全版の長編として別途発表されるようなので、そちらも楽しみです。
本書ではこの二作が双璧をなしていると思いますが、他の作品も佳品揃いです。猿+鮭=人魚という組み合わせが凄い「アイデンティティ」、撮った写真が必ず心霊写真になる「今日の心霊」、宇宙船を主人公にした「美人は気合い」、タイトルそのまんまの名前を付けられた「エイプリル・フール」、通り魔が主人公の「逃げろ!」、ホームパーティーの気疲れを描いたと思ったらやっぱりそれだけじゃなかった「ホームパーティーはこれから」、訳分かんないけど何だか凄い「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」、本が無機物ではない世界を描きラスト4ページが衝撃的な「ある遅読症患者の手記」と、どれもよくできているなあと感心しました。
以前藤野さんの作品を『世にも奇妙な物語』のようだ、と書きましたが、この作品集に関していうと、小説世界の中でしか表現できないような趣向の作品が多いなあという印象で、作家としての藤野さんの進化を感じます。そのあたり、本書を読んで少し認識が変わりました。
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「いやーな感じ」で「いい」なー。
藤野さんの小説はどれも「わたし」の扱いが巧みで、語り口がそのままぞっとするお話に直結する。
おはなしして子ちゃん
ピエタとトランジ
アイデンティティ
今日の心霊
美人は気合い
エイプリル・フール
逃げろ!
ホームパーティーはこれから
ハイパーリアリズム点描画派の挑戦
ある遅読症患者の手記
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作風がすごく好き!
・ピエタとトランジ
言わずもがな。2人は行く先々をめちゃくちゃにしてほしい。世界を全滅させてしまうのかな?完全版が楽しみ。
・アイデンティティ
題材のセンスよ…どうやったらこの題材が思いつくんだろう。すごい。
・今日の心霊
長編で読みたい。「我々」のことをもっと詳しく知りたい。