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平家没落の最終巻、しかし、そこには平家の怨念のようなものが余韻として残ります!
2020/03/02 10:50
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、講談社学術文庫「平家物語」の最終巻の第4巻です。ついにこの巻では、平家の最後が描かれます。捕らわれ斬首された平家一門の生首が都中を還り、囚われの身となった平重衡は六条を引き回されます。また、四国の屋島を源義経に襲われ、敗走する平家にもはや従う者は誰もいなくなっています。こうして平家は歴史の場から退場していくのです。しかしながら、滅びても、なお、平家の怨霊に都の人々は怯えます。この余韻こそが、この大軍記物語を静かに締め括ってくれるのです。読み応え十分の最終巻です。平家の怨念というか、何かが余韻として残る物語最終巻です!
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後半部分は平家絶滅の後の世の記述が中心になっています。清盛の悪行によって罪のない安徳天皇や女院などが壇ノ浦に沈んでいく様子やその後の源氏による平家に対する仕打ちは涙なしに読めません。4巻全体を通して登場人物が非常に多いので予め平家物語に関する予備知識を少しでも蓄えたり人物事典を手元において読むことをおすすめします。
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巻第十~第十二、地図、系図、年表、解説を収録の最終巻
主要エピソードは、巻第十の重衡海道下り、維盛入水、巻第十一の屋島の戦い、壇ノ浦の戦いです。
前巻における一ノ谷合戦における大敗により、平家の滅亡がほぼ確定した状態から始まり、平家一門がそれぞれの最期を迎えていきます。
戦場から逃げて出家・入水した維盛、合戦での敗北を悟って自害した二位尼、能登守教経、新中納言知盛、源氏に引き回された上で斬首された大臣殿宗盛、本三位中将重衡…
総帥の器ではない凡庸な人物で、壇ノ浦で自害できない、全く潔さのない宗盛でさえ、最期には家族愛の強く同情を誘う場面がありました。
一方、平家滅亡後も、平家残党狩りや源氏内部の粛清が続きます。
平家を滅ぼした功労者の義経は、追っ手を差し向けられます。
追っ手を差し向ける頼朝は、その台詞から恩や情誼に厚い人物として描かれる一方で、本人の立ち会わないところでガンガン殺していくというスタンスで一貫しています。
『平家物語』は、歴史的出来事と登場人物の感情に焦点を当てる一方で、政治的な策謀とその理由を描かないという方針で書かれたために現れた頼朝像なのでしょうが、それが不気味な雰囲気を醸し出します。
多分、貴族・平家、源氏は、お互いに価値観を共有していない。
ときに和歌や管弦に興じる半貴族化した平家からすれば、板東武者はバーサーカーのように見えたからこそ、水取りの羽音で逃げ出し、倶利伽羅峠で崖から突き落とされる。
源氏方で盛んだった先陣争いは、平家方においては描写されません。
ただ、こうした異なる層のキャラが登場するからこそ、平家物語は、単に軍記物というにとどまらない、詩歌や法文を時々とりまぜた独特な文体、ジャンルをとりまぜた暗すぎず明るすぎないストーリーになったのでしょう。
灌頂の巻も良かった。
アニメではほとんど主役と言ってもいいくらい台詞の多い徳子ですが、大原作『平家物語』ではほとんど喋らない。それがこの灌頂の巻で急に話し出します。
読んでいくと、アニメを徳子が折々話していた事柄と、この大原で話していた事柄とが繋がってくる。別な場面・台詞で、同じ熱量を表現していたことが分かります。
巻第一から数ヶ月かけて読みましたが、感無量です。
何百年も前に書かれ、琵琶法師によって語り継がれながら洗練されてきた文章だけに、ストーリーも修辞も楽しめました。
声に出して読んで、こんなに気持ちの良い文章は、初めてかもしれません。