紙の本
わたしはだれ?
2018/09/30 18:07
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
殺人容疑をかけられた認知症患者の主観という作品は初めてでした。小説というのはおおむね物語のラインが存在してそれに沿って話が進みますが、この作品はジグソーパズルの欠片を一つずつ見ているようなものです。彼女の認知症は程度が軽い日もあれば重い日もある。家族のことがわからなければ、過去に飛んでいく日もある。殺人の容疑者なんだけど、彼女はそれすらも理解していない。認知症のリアルがあります。ただそれだけに非常に読むのに疲れるものとなっています。人間は「わたし」がなくなったら何が残るのか。そう考えさせられる作品でした。
紙の本
認知症であるということ
2019/05/27 00:44
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投稿者:moya - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分が自分であるとはどういうことなのかを考えさせられた。普通にできていることができなくなったら、そしてできなくなっていく自分に気がついてしまったら。普通は正気でいられなくなると思うし、その正気でないことすら果たして本当に正気でないのか、それとも正気でないと思ってしまう、おかしくなった自分がいるだけなのか、考えだすと底なしの沼に落ちていくような気にすらなるだろう。主人公はそんな状態で殺人事件に巻き込まれる。犯人は誰なのか。登場人物が少ないので犯人は限られるというのが残念。読み慣れるまで少ししんどいけれど、認知症の一面を知るには良書だと思う。
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認知症の女性が主人公のミステリ。
巻末の訳者あとがきに『これほどの「信用できない語り手」が他にいるだろうか』という一文があるが、まったくその通りで、前後の繋がりを欠いていたり、今、会話している相手を取り違えたりする。それでもじわじわと真相が明かされていく様子はなかなかの迫力があった。
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アメリカのジャーナリスト・作家「アリス・ラプラント」の長篇ミステリ作品『忘却のパズル(『忘却の声』改題・文庫化)(原題:Turn of Mind)』を読みました。
ここのところ、イギリスの作家の作品が続いていたので、アメリカの作家の作品は久しぶりですね。
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記憶を保持できない殺人の容疑者
衝撃のミステリ!
アルツハイマー病を患っている「ジェニファー」に、殺人容疑がかけられてしまう。
殺されたのは「ジェニファー」の親友である女性で、なぜか死体の右手は4本の指が切断されていた。
手を専門としていた整形外科医だった「ジェニファー」は重要参考人として事情聴取を受けるが、病気のせいで、体調次第では親友のことさえ思い出せない。
彼女の曖昧な記憶や独白など、パズルのピースのように断片的な記述が描き出す衝撃の真相。
「記憶」を失っていく語り手が紡ぐ衝撃のミステリ!
※『忘却の声』改題・文庫化。
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2011年(平成23年)に発表された作品… 親友殺害の容疑をかけられたアルツハイマー病患者の視点から描かれているという珍しい作品、、、
信用できない語り手による一人称と家族らの手記により描かれ、読者には、その情報しか入ってこないので、独特の感覚がありましたね。
「ジェニファー・ホワイト」は64歳、もともと優秀な整形外科医だったが、現在はアルツハイマー病を患い介護を受けている… 夫「ジェイムズ」に先立たれ、29歳の息子「マーク」と24歳の娘「フィオナ」の二人の子どもがいるが別居しており、介護人の「マグダレーナ」という女性と一緒に暮らしている、、、
調子の悪いときには、親友や子どもたち、介護人の顔、自分の周りでなにが起きているのかの判別もできず、自分の名前さえ思い出せないことがありような状態だが、そんな「ジェニファー」に、近所に住んでいた親友「アマンダ・オトゥール」に対する殺人容疑をかけられている。
「アマンダ」の死因は頭部の外傷によるものと見られ、なぜか、死体の右手の指が四本切断されていたのだ… 果たして「アマンダ」を殺したのは「ジェニファー」なのか?だとすれば、いかなる動機による犯行なのか、、、
捜査が進むにつれて、近隣の住人に「ジェニファー」と「アマンダ」が言い争いをするところが目撃されていたり、「ジェニファー」の書いているノートから事件当日のページが切り取られているのが発見される… しかし、「ジェニファー」には親友を殺した記憶がなく、さらに日によっては「アマンダ」が死んでしまった記憶さえもなくなることがある。
「ジェニファー」の独白から、「マーク」や「フィオナ」といった子どもたちや、亡くなった夫の「ジェイムズ」、そして友人で隣人の「アマンダ夫婦」とのさまざまなエピソード等、「ジェニファー」の人生の全体像が次第に明らかになっていくのですが… アルツハイマー病を患っている「ジェニファー」の視点で描かれており、彼女の記憶や独白と、彼女がノートに書いている文章やメモ、そして介護人や子どもたちがノートに書き込んだ伝言など、パズルのピースのような断片的な記述で構成されているので、それぞれのエピソードがなかなか繋がらず、読んでいる側は、もどかしさを感じながら読み進める感じですね、、、
しかも、アルツハイマー病のために、時折まだらに抜け落ちてしまう意識の流れや、突如として甦ってくる過去の記憶のために、「ジェニファー」による叙述は常に混乱し、まさに“信用できない語り手”ものとなっているんですよね… 「ジェニファー」はどこまで事実を知っているのか、単に忘れているだけなのか、それとも誰かの企みが隠されているのか、疑いだすときりがなく、読者の混乱はどんどん深まっていく展開。
終盤、「ジェニファー」の病状はひどくなるばかりか、自分自身について、だんだんと他人ごとのように距離をとりながら語りだす… しかし、娘「フィオナ」の発言と、「ジェニファー」の断片的な記憶から、読者には徐々に事件の全貌が明かされます、、、
明かされた事件の真相… どれほどアルツハイマー病が進行して悪化しようとも、その人の身についた感覚や深く根を下ろした愛情は残っているんですよねぇ、不思議な味わい、余韻を感じさせられた作品でした。
以下、主な登場人物です。
「ジェニファー・ホワイト」
元整形外科医。認知症患者
「ジェイムズ」
ジェニファーの夫。故人
「マーク」
ジェニファーの息子
「フィオナ」
ジェニファーの娘
「マグダレーナ」
ジェニファーの介護人
「アマンダ・オトゥール」
ジェニファーの親友
「ピーター」
アマンダの元夫
「カール・チェン」
ジェニファーの主治医
「ジョーン・コナー」
ジェニファーの弁護士
「ルートン」
刑事