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大好物である柴田元幸訳ポール・オースターの新刊。いつもの通り、「訳者あとがき」を読んでから本文に取りかかった。
乱暴にまとめてしまうと、「人生の冬」を迎えた初老の作家の回顧録ということになるのだろうが、そこはオースター。彼の深い思索というフィルターを通すと、何か詩的で味わい深い文章になる。
これまでに住んだ21箇所の家の記録こそ時系列だが、それ以外は時間を行ったり来たり。親、家族、恋愛・性愛、そして怪我・病気・事故。こうした過去の出来事を、かつての自分を「君」という二人称で呼び、少し突き放した形で書くことによって、読者と視線を共有している。
死んでいても不思議ではなかった体験など、かなり赤裸々に書いているのだが、それでも一向に世俗的なものを読んでいる感覚はない。それどころか、読み進めるにつれ、生と死について深く黙思せざるを得なくなってゆくのは、この作品の肝だろう。
本作を読んだ後、普段は受け取るばかりで、こちらからは出したことがほとんどないメールを離れて暮らす両親に出したことは、個人的なメモとして書き留めておきたい。
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人が記憶を辿るとき、強烈な事件を必ず最初に思い返すとは限らない。それは母がふと立ち上がる瞬間であったり、父の喫う煙草の煙の色であったりと、記憶とは必ずしもその出来事の重大性の順に現れたりはしない。ましてや時系列を追って行儀良く並ぶことなどあり得ない。こういった点において、オースターは実に誠実に本書を書いた。
もちろん、記憶を喚起するのに道具を使うことは有効だ。それが本書の場合は引っ越した家にナンバーを振ることであったり、商品名を羅列することであったりする。これらは技巧というよりは、やるべきことに適切な道具を用いる誠実さの現れと解釈した方が心地良く読書を愉しめるだろう。
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ポール・オースターのことを今まで知らなかったが好きな本屋さんがオススメしていたので読んでみた。人生にドラマを感じる1冊だった。
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後半に出てくる“君が子供のころ愛した食べ物”がどれも美味しそうでたまらない。
“アイスクリームこそ君の若き日の煙草だった”
は名言だと思う。
家族を乗せた吹雪の中のドライブの話も良かった。
戦争を経験された、寡黙なお義父さまの雪道のアシストもウィンクも、どれも素敵なシーン。
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これまでの作品(特に「ニューヨーク三部作」などの初期作品)においては、ポール・オースターという名前や存在を装置として活用することで新たな文学を切り拓いてきたオースター。
そのような作者が人生の老いという冬の時代にさしかかり、身体をめぐるこれまでの出来事を赤裸々に語っています。長年の喫煙や過去のセックスなど、あまり言及されてこなかったトピックも含めたエピソードが時系列に沿って、それこそ「日誌」のように語られています。
個人的には、「これ!」というような箇所にはあまり遭遇しませんでしたが、そこはオースターの文体と名訳者による訳文ですから、するすると通読できました。