国民を助けない国はいらない
2011/10/27 04:12
16人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
橋下大阪府知事や石原東京都知事が、あれだけ勝手な振る舞いをしても、一定の、というよりかなりの支持を得るのはなぜか。
人々は、もはやまともな「人を見る眼」を失ってしまっているように思える。それも、ここ10年、15年くらいに、特に強く感じられる。
本書を読み、うなずかされた。
『デフレ不況による失業は、組織や社会から個人を阻害する。・・・孤独な群集は、彼らの劣情に訴えるポピュリスト政治家のプロパガンダによって、容易に煽動されるようになる。デフレとは、社会秩序の不安定化を招き、果ては全体主義の起源にすらなるのである。』
橋下知事や石原知事が行っていることは、特に教育改革の分野などで顕著であるが、もはや全体主義である。彼ら“小皇帝(斎藤貴男氏が石原都知事を指していった言葉)”の矮小な「プロパガンダ」に、いともたやすく「扇動される」大阪府や東京都の選挙民、いや全国にあまた存在する多くの潜在的支持者達は、すでに「孤独な群集」でしかない。
いまの長期的なデフレを、そのすべての原因とすることには違和感があるが、確かにこの慢性的な不況が、人々を阻害していることは否定できない。
今の日本社会には、多くの社会から孤立させられた孤独者が存在している。
「自由」ということばを無条件に良いものとし、また「規制」は人の自由をしばるものといった漠然としたイメージのみで進んだ新自由主義的な価値観が、経済的なデフレ不況の一因でもあり、社会的な人間疎外の最大の原因でもある。
安易に規制緩和を喜び自由化を尊んだ無思慮な人たちは、いま大いに反省するべきだ。
国が行う規制や調整が、どうあるべきか。このことを明確にし、国民一人一人が自覚することが、いま大切になっている。
本書では、過ちの根本である真の理解不足があげられる。
『従来の経済ナショナリズム像の中では、「ネイション(国民)」と「ステイト(国家)」が区別されていない。』
そして、ここで言う本当の「ネイション」とは何かが、社会学者アンソニー・スミスの用いた定義で説明される。
ネイションとは、「歴史的領土、共通の神話や歴史的記憶、大衆、公的文化、共通する経済、構成員に対する共通する法的権利義務を共有する特定の人々」。
われわれが本来、毛嫌いしなければならなかった規制とは、ステイトによる規制であった。本来あるべきネイションによる規制を、取り違え排除してきたことに、この国の過ちがある。
その意味で、正しい「ナショナリズム」は必要である。
『ナショナリズムは、そのような「ネイション」に対する忠誠のイデオロギーあるいは感情のこと。』
良い意味での「同胞意識」は、決して排他的なものではない。そして、ナショナリズムが国を豊かにする。
『真正の経済ナショナリストが強化しようとしていたのは、「ステイトの支配力」ではなく、「ネイションの能力」なのである。』
国が国民を守るのは当たり前であり、国民が国民同士助け合うのも当たり前。この感情を国の運営に重ね合わせれば、正しい有用な経済ナショナリズムとなる。
いま、TPPなどを前にして、一番必要な認識である。
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ややアカデミックな経済思想の本ですが、述べていることは決して難解ではありません。国民の団結が巨大な力を生み出す経済ナショナリズムの重要性について書かれているだけです。
ではなぜ本書は書かれたか?というと、新自由主義やそこから生み出されたグローバリズム・自由貿易至上主義などの国家の枠組を解体する方向のイデオロギーがいまだ一定の支持を得ているからで、特に日本では「グローバル化の時代だから」「今どき国益でもない」という言葉がかっこよく聞こえてしまう土壌がいまだ根強くあります。
要するに本書は「グローバル化の時代だから」という典型的な国家軽視の主張に対する全力の反論であると言えます。
個人的には、国際機関などの国家の枠組を超えて活動する機関が実は国家による信認を背景に成り立っているという指摘などは非常に面白かったです。
東日本大震災を経て国民の団結力が必要とされる現在、グローバリズムに代表されるイデオロギーに騙されないために教養として読んでおいて損はないと思います。
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アメリカの輸出の30%はサービス業。そのほとんどが金融、保険、ソフトなど。
オバマは財政改革に失敗した。次の選挙ではどうなるのだろうか。
日本は大震災で投資も減少した、これからどうなるのだろうか。
Nationという共同体を維持し、あるいは発展させるために、Nationの中で働いている力が、国力の本質である。
国際連合は、子国際的組織であって、決してグローバルなものであはない。
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まったく納得いかないことがあった。
答えは簡単だ。
ステイツとネーションの違いだ。
これを混同すると、国の理解が複雑になるというほどこの二つは違う。
日本、アメリカ、中国、EUそれぞれに、ステイツとネーションがいる。
日本はやれる。
やらなければならない。
それを強く意識することができる本だ。
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頭がよすぎるんですかね、この方。私には難しかった。もっとわかりやすく書いてもらえたらなぁ・・・
ネイションンとステイツの違いは、とか言われても(笑
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ネイションとステイトの違いを定義し、経済ナショナリズムについてわかりやすく解説。なぜ筆者が経済ナショナリズムを擁護しているのかがわかりやすく書かれている。
グローバル化と日本の発展を考えてどこかに矛盾があるのではないかと考えていた私には、こういう見方があったのかと納得されられるところがあった。
日本が長期的なビジョンを持って戦略を描いていけるか、誠に考えさせられる。
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なんのきっかけで購入したか失念。
中野さんは、経済産業省を経て、現在、京都大学の先生。
読み終わって、ちょっと悩む。
国民の利益や国家の必要性を正面から説明し、東日本大震災にももっと国家が前面にでるべきだという主張は、魅力的。
経済自由主義、グローバリズムもそれがこれまで国民の富の増加と幸福の実現に比較的つながってきた、ましな制度だと思うから、自分はいままでも賛成してきた。
中野さんのいう「経済ナショナリズム」は、究極的に国民の利益を考えるべきという主張には同感できるが、その手法でうまく経済運営できるのか、という実践論について、不安が残る。
中野さんは国家の政策として、経済自由主義が軽視してきた、「産業政策」「技術政策」「国土政策」「環境政策」「農業政策」にもっと国が国力をかけて資源を配置すべきという。(p147から)
そのとおりだと思うが、経済自由主義者からみると、「産業政策でも技術政策でも、国が関与したものは何もうまくいっていない、むしろ、民間が国に反旗をひるがえした自動車産業などでうまくいっているじゃないか」と、実態論で批判している。
このあたりの議論をもう少し、自分でも詰めてみたい。中野氏の本ももう少し読んでみたい。
もしかしたら、国家政策として大化けするかも。
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(111107)
国が積極的に動くことも重要であるというお話。「経済ナショナリズム」ってのは、若干社会主義のようなイデオロギーかとも思われるが、そういうわけではないらしく、ネイション(国民)の利益或いはネイションの能力向上を第一に考えたものであるようで。。。かなり抽象的なものな気がする。
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新書サイズでとても読み易い。理想の『国力』とはどのようなものか、分かり易く解説してくれている。
現在EUが陥っている危機や、東日本大震災からの復興に対してこれから日本はどのようにして立ち向かっていくべきなのか等、現実の事情と照らし合わせてくれているので飽きずに読むことが出来た。また、今までいかに言葉のイメージだけで物事を捉えていたかを思い知らされた気がする。当たり前ではあるが、構造改革とかグローバル化とかが必ずしもその国の国民にとって良いことではない。グローバル化した企業と国民の利益は、既に大きく乖離し始めているという構造や、貿易における保護主義の実態(単に既得利益を守るだけでなく、デフレ時や世界不況時には国内産業や国民経済を守る有効な措置になる)、また日本における財政破綻の懸念は杞憂であることなどを知ることができ、大変勉強になった。「世界の流れだから」という安易な気持ちでグローバル化を看過する前に、これからは自分の中で一呼吸おけそうである。
国の経済を成長させるのは孤独な個人の利益追求ではなく、社会に属し共同体にアイデンティティを持つ動物としての人間の活動によるものである。自らも、微力ながらこの国における『国力』の一部として、まずは東日本大震災で損なった様々なものを復興する力の一端になれることをこれからは望みたい。
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モノと情報が、国境を超えて移動を続ける事象であるグローバル化が顕在化している現代において、国家とはもはやただの枠組みにすぎないという議論が活発である。それを示す具体的な例として、多国籍企業は国家の意思とは関係なく、自らの利益最大化のために市場を求める主体であるし、NGOもまた自らの理念によって、国家の思惑に左右されずに活動するのである。従来は国際政治における最高位の主体として考えられてきた国家というアクターは、このような動きが活発になっている現代では、もはやただの枠組みでしかないように考えることはごく自然である。
一方で、グローバル化が様々な問題を引き起こしてきたのは紛れもない事実である。2008年のリーマンショックのように、グローバル化が進み、国家同市の境界線がなくなった現代世界では、ある一カ国における限界突破は、瞬く間にあらゆる国に波及するのである。このような問題点が指摘される中で、私たちは問題の解決方法をこれまで通り、グローバルな分野に求めるべきなのだろうか。この点において、筆者はナショナリズムを主張する。
筆者の主張するナショナリズムは、「ネイション」を理念化したものである。ネイションとは、「歴史、制度、文化、生活様式や行動様式を共有する政治共同体」(p228)であり、ナショナリズムは人々を統合し、ネイション全体の長期的発展のためにそれを動員するのである。ネイションは経済発展によって自らを強化することができ、この過程で生み出される政治力と経済力が「国力」となる。この国力の強化を目指すことが「経済ナショナリズム」であると筆者は定義する。
この経済ナショナリズムを高めるのは、「ネイションの能力」を目的とする。ネイションの能力とはネイション自身が何かを行う能力である。この点、グローバル化の特徴の一つと言えるような、他国市場の搾取とは異なる。筆者によって、後者は「ステイトの支配力」として、ネイションの能力=国力と分けて分類される。
グローバル化の中では、国家は自らが資本主義化し(国家資本主義)、富の獲得競争を行う。これは前述の議論でいう「ステイトの支配力」であり、筆者がいうナショナリズムとは異なる。この点において、筆者が主張する経済ナショナリズムは、従来のナショナリズムとは異なり、他国を侵略する際のイデオロギーではないため、協調の可能性は十分あり得るのである。
筆者はこのように定義した上で、国力を高めるための政策として、日本はまず外に対する防衛線をはることや、ケインズ主義的政策によってデフレから脱却することを主張している。
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今(2011/11)、話題の人の著書。メディアに露出されているのを目にしたとき、この人が何を考えているのか知りたくなり、期待を持って本書を手にした。本書は経済ナショナリズムとはなにか、についての本である。ナショナリズム、愛国心、これらの言葉にアレルギーを示す人は多い。しかしながら、本書で言う経済ナショナリズムとは、決して過度、過激なものでなく、我々の生活から生まれる力、国力であることが示されている。デフレ、TPPなど、経済に関する様々な現代の問題を見るうえで、国力という切り口は非常に強力な視点であると思った。
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良い意味でヤバイ本である。
下手な経済学の教科書より経済のことが把握できる。
自分より10歳年上だが、10年後に自分がこれだけキレのある論理と文章を書けるか・・・かなり自信ない。
中野剛志氏の著書は3冊読了しているが、この本こそが彼の本領であろう。
経済ナショナリズムという立場からの現状分析は新鮮で、クルーグマンらの新自由主義と比較すると一層価値あるものだと感じられる。
前財務相の与謝野さんがクルーグマンとの対談で「日本の政策担当者は皆が先生の本を読んでいます」とかなんとか持ち上げていたが、中野氏の本も読んで頂きたいものだ。
本書ではデータや数学的な分析が割愛されているため、かえって理路整然と見解が述べられ、読み進めやすくなっている。
テクニカルタームもほとんど使用されていないので、経済学を学んでいない人にもオススメできる。
むしろ是非ススメて欲しい一冊である。
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本書を読み終わって、これは経済書でもあるのだろうが、世界経済の現状を鋭く分析し、日本が今後進むべき道を指し示した政治的イデオロギーの書でもあると驚嘆した。すごい本である。
本書はまず「危機に直面する世界」で、グローバル経済と経済危機について考察している。経済がグローバル化した世界では「国家が労働市場の規制を緩和しなければ、国内ではなく海外へと投資するようになってしまう。それを恐れる国家は・・・労働市場の規制を緩和し・・・賃金を引き下げたりできるように・・・構造改革を実施するようになる」と語る。そしてその構造改革は、必然的に労働賃金の低下を招き、デフレへとつながる。本書は、「グローバル経済」と「構造改革」とそれを裏打ちする「新自由主義思想」、その結果の「労働賃金の低下」と必然的に「デフレ」を招く等の諸関係を整合的かつ論理的に主張しており、それは説得力がある。
経済危機の背景である世界経済の「グローバルインバランス」についてもわかりやすく主張している。アメリカが過剰な消費で経常収支の赤字を積み上げ、東アジアの新興国と中東諸国が経常黒字を抱える世界レベルの経常収支不均衡の構造は、持続可能性がない構造だったというのだ。そうであるならば2008年のリーマンショックから現在に至る世界経済の危機は、必然だったというわけか。本書では、その根本的解決策として「リバランス」すなわち世界レベルの経常収支不均衡構造の是正しかないとしているが、現在の世界はそれに失敗しているとしている。どの国も自国での経済危機と失業率の増大を抱えて輸出増を目指しているが、今までのアメリカのように巨大な貿易赤字を積み上げてきた国が新たに出現でもしない限り、実現不可能だ。本書では、詳細な考察のもとに、「現在の世界的な危機は、かつての世界恐慌時より深刻」と結論する。この一見出口がない危機に対して、本書ではその解決策として「経済ナショナリズム」を提唱している。
「経済ナショナリズム」とは、あまり聞いたことがない言葉だと思った。本書は「国家」と「国民」「国力」等について、歴史を含めて精緻な論理を展開するが、その内容は決して退屈ではない。これは、過去の「右」と「左」の概念を超えていると感じた。経済ナショナリズムの内容では「国家(ステイト)」と「国民(ネイション)」を区別することが重要だと主張する。「国家(ステイト)」は法の支配や権威によって人民を統合する。国民は「国民(ネイション)」共同体の一種だという。ここまで根源的に思考しなければ、世界経済の現状と危機は理解できないというのだ。これはイデオロギーだと思ったが、斬新にも感じた。
そして「経済ナショナリストはネイション内における資本家階級と労働者階級の対立を招くような経済政策を採用しない」「経済ナショナリストが選択するのは、同じ国の資本家と労働者が相互に協力し、利益を分かち合うような政策理念なのである」と語る。著者が動画の中で、PTT賛成論者に対し攻撃的に「売国奴!」と罵る姿があったが、このような理論的基礎が背景にあったのかと思わず頷いてしまった。
本書では「我々に残さ���た選択肢は、国民国家をより良いものに改善し、国民国家の力をもって、グローバルな諸課題を解決する」「資本主義をグローバル化するのではなく、その反対にナショナル化していく、つまり国民のものとする」と主張する。じつに説得力のある素晴らしい主張ではないかと思った。
まだまだ多くの議論を経る必要はあるだろうが、堅牢な論理と激しい攻撃性、冷徹な知性と、人間に対する深い愛情やロマンに満ちた本を久しぶりに読んだ。思わず読後にもう一度読み直してしまった。本書を絶賛したい。
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TPP亡国論の著者の本
小さい政府を志向しているものの危機に際した国家の役割はやはり重要であると震災でも実感させられた中で(ふがきなさは目立つが…)新自由主義の方向に突っ走るのはどうなんだ?と考えさせる一冊。
はっきり言えば普段「頼りない!」「関わらんといて!」とオカンに言ってる割には「朝起こして朝飯作って!」と言ってる反抗期の子供みたいな状態が今の日本国民では?
上記の本よりも難解で何度か読まないと完全理解には至りそうもないのは自分のキャパの問題か…
ただ、他の論者より「伝えようとしている」のでわかりやすいのは確か。
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ナショナルとネイションとの違い。国力とは。国とは何か、何をすれば国家の力は上がるのかを考えさせる良書である。