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紙の本
過大評価のわけ
2019/11/04 19:07
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
確かにチェスタトンの作品の特徴がある種の逆説の論理にあるのは確かだが、ブラウン神父を始めとした各作品の叙情性、ロマンの要素を抜いて、論理だけを強調するような作品は、誰かにそそのかされて書いてみたのか、他に何か思惑があったのか。
「黙示録の三人の騎者」をボルヘスらが評価するのは、それが読まれた時代にはナチスへの憎悪が強く残っていて、プロシアの軍国主義を冷笑するような展開が小気味よかったためではないだろうか。実のところ当時のヴァレリーなどが表明していた軍国主義への漠然とした懸念、つまりヨーロッパ文明が築き上げてきた価値観への挑戦に対する怯えが、チェスタトンにも共有されていたのだろう。時代に蔓延していたこの不安感を、独自の論理を用いて形にしたのがこの作品と言える。形式的には、ポーランドにある人の住まない湿地帯の中の一本道という、いわば密室状態において、その限られた可能性の中で起きえたことを提示することによって、政治的な決着をつけようとしたところは見事と言える。
「ポンドのパンタルーン」でも、当時の国際情勢からくるスパイ工作に、最新の注意で戦う、その結果と過程に優れた論理があったとしても、それは職業意識の勝利のように思える。
「高すぎる話」もスパイがどこにいたのかを探すとして、少なくともそのお膳立てがサスペンスを盛り上げる効果で成り立っている。
「博士の意見が一致する時」では、宗教上あるいは哲学上の論争がテーマにあるが、その結果で殺人事件が起きるとはどういうことか。それは各国の政府はいつも平和の実現を成果として誇っているのに、悲惨な戦争が繰り返されているのはなぜかという問題に辿り着いてしまう。
議論には、スコットランド、アイルランドなどの文化の違いや、教会各派の主張が絡み合い、みながみな善意と誠実さを装っているが、同時に誰もが少しずつ嘘をついているようにみえる。言っていることに嘘はなくても、言っていない本当のことに、そのほころびは現れる。目に見えないが確かに存在するものを指摘するのは難しいことで、逆説の論理と呼んでもてはやしてはいるが、それなしで大きな嘘を見抜くことはできない。
「名前を出せぬ男」はポンド氏がパリ滞在中の出来事だが、それが謎として成立するにはフランスの歴史に対する大きな無知が必要だ。
結局、世界についての無知や、人間についての不理解が、謎と呼ばれるもののほとんどであることをチェスタトンは示唆しているように思える。論理が謎を解く方法であると考えているかぎりは、人々は大きな嘘に騙され続けることだろう。
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