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天平9年(737)、平城京を襲った天然痘。奈良時代のパンデミック。
静の描写力が問われるディストピアものと対照的に、動の描写力を問うのがパンデミックもの、が持論だけど、このダイナミックさには引き込まれた。圧巻。
それに、病院勤めの若造が医療の意義に目覚める、所謂「ビルドゥングスロマン」が綾になってて(個人的には興味ないが)、物語として間口を広げてる。まあ、逼塞する痘痕顔の天平8年遣新羅使副使・大友三中との交流は印象的だったかな。
平城京には何千人も外国人がいて、外国僧もお寺に居たとは知らなんだ。
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天平の時代の天然痘。
嵌められた者、医師として使命を全うする者、責任を感じる者、子供を守る者、混乱に乗じる悪者、そして、病に戦うすべものない民、その時代のあらゆる面を描写していた。人間の業、本質の物語であった。物語では、怖い病による人間の業、行動が書かれていたが、現代において未知なること、為すすべもないことことが起きれば、同じようなことが起きるのではないか。
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時は天平、ところは寧楽(なら)。
藤原四兄弟が権勢を誇った聖武天皇の御代。
施薬院に務める名代(なしろ)は辞めるきっかけを探していた。
貧しい病人の治療をするといえば聞こえはよいが、孤児の救済のために建てられた悲田院とともに、藤原氏が慈悲深いことを世に示すためだけに作られた施設だ。
なるほど資金は藤原氏から出るが、ここで務めていたとて出世の道は望めない。
上司の綱手は金にも名誉にも興味がない。兄貴分の広道は無暗と口うるさい。孤児院の悪ガキどものいたずらにも手を焼いていた。
何にせよ来る日も来る日も貧しい病人の世話をするのにほとほと嫌気が差していたのだ。
そんなあるとき、都に不吉な気配が流れる。
何十年も前に荒れ狂った裳瘡(もがさ:天然痘)が都に入り込んだらしい。
どうやら新羅の国から帰った者たちが疫神に取り憑かれていたようだ。
じわり、じわりと、野火のように感染は広がっていく。
確たる治療法も薬もないまま、人々は見えない疫病に翻弄され、狂奔する。
業火に焼かれるように伝染病になぎ倒されていく人々。
歯を食いしばってこれに立ち向かう綱手。
普段は施薬院に薬を納めているが、疫病の気配を察して、いち早く身を潜めた比羅夫。
宮中の医師でありながら、無実の罪を着せられ獄に落とされた猪名部諸男(いなぶもろお)。
混乱に乗じて怪しげな神をでっちあげ、人々を扇動することに異様な喜びを示す宇須(うず)。
悲田院の孤児たちを我が子のようにかわいがる僧、隆英。
内心、自分たちが病を持ち込んだことに苛まれている遣新羅使たち。
地獄のような都で、それぞれの人生が交錯する。
病は善人も悪人も区別はしない。
それぞれの悲しみを苦しみを呪詛を抱え、人は斃れる。
猛り狂う疫病の中、名代が物語の最後に見るものは何か。
昔から、人は何度も何度も感染症に襲われてきた。
病と闘う術が非常に限られていた時代、その怖ろしさはいかほどのものだったろう。
著者の重厚な筆は、文献の裏付けを杖に、読者をぐいぐいと天平へと引っ張っていく。
「火定(かじょう)」とは、仏教の修行僧が自ら火中に身を投じて入滅することを指す。
人は病に斃れ、けれどもまた立ち上がる。先に続く者の礎となるのであれば、業火に焼かれた者の死も、決して無駄ではない。
凄惨な描写も多く、気楽に読める1冊とは言えない。
けれども終幕に降る雨が、しみじみと胸にしみいる余韻を残す。
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読み応えのある一冊!
人生で一度は読むべき本に挙げたい。
外から入ってきた強烈な伝染病が猛威をふるい、死者が続出し、どうにか一命を取り留めても、酷い痘痕に覆われてしまう。
そんな世の中にあってただ患者のために死に物狂いで働く医師、医療関係者たち。
でも決して綺麗事ではなく、そんな所から逃げたい、自分だけは助かりたい、何かに縋りたい、哀しみ、恨みを何かに(なんでもよい)ぶつけたい、という人の弱さも赤裸々に描かれていて、病気の酷さと相まって読むのが辛い事も。
でも弱さを認め、弱いからこそ力を合わせて立ち向かう事が出来た時、一筋の光が射す。
過ちを犯した人に非情な程辛辣な現代だけれど、程度によるかもしれないけど、やり直しがきく世の中であってほしいと思いました。
どこかに救いの手があってほしい。
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天平の平城京を襲う天然痘の猛威、治療法も知られていない中で庶民から高位の者まで高熱に苦しみ疱瘡にのたうち、死が広がっていく。
燃え盛る焰に自ら身を投じていく火定入滅を行っているかのような世間の動きの中で、それでも生の意味を全うし、医師の役割に気づいていく主人公たち。
目を覆い、鼻をつまみたくなるような死の描写。不安・騒乱を煽る者と鵜呑みにする群衆、病を恐れ逃れようとする者、エゴを満足させるために仲間を陥れる者と復讐の想いに駆られる者、病を持ち込み蔓延させた罪悪感の中で生き延びている者、意味のある生を生き・それに気づいていく者、様々な人間の本能と人生の意味を考えさせられる物語だった。
18-76
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奈良時代に猛威をふるった疫病とたたかう医師ら。
重すぎて読みにくいかと思ったけれど、力強い筆致に引き込まれ、感動しました。
聖武天皇の御世。
都の施薬院に勤める名代(なしろ)は、病人の世話に飽き、出世の可能性がないことを嘆いていました。
上司の綱手は治療に打ち込む良心的な医師ですが、思わぬ疫病がはやり始め、打つ手に困るほどに。
一方、侍医だった諸男は罪を着せられて、この時期に獄にいました。運命に翻弄されることになります。
皇后の兄である藤原家の四兄弟が権勢をふるっていたのが、天然痘に襲われたら無力で、つぎつぎに命を落としてしまう。
かと思えば、この機に乗じて怪しげな札を売り出す宇須という男も。
新羅から帰国した遣唐使らは、自分たちが疫病を持ち込んだことに苦しみます。
治療法がろくにない時代、それでも奮闘する人々。
その精神の強さと激しさ、次第に迷っている暇もなくなっていく。
それぞれの人生が極限状況でどうなったか。
すさまじいばかりですが…
生きる意味を問い直す、胸を打つ言葉も。
名代の成長物語として読み終えました。
かすかな光明と救いを心に残して。
2017年発表、第158回直木賞候補作。
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時は天平。
藤原四兄弟をはじめ、寧楽の人々を死に至らしめた天然痘。疫病の蔓延を食い止めようとする医師たちと、偽りの神を祀り上げて混乱に乗じる者たち―。
疫病の流行、政治・医療不信、偽神による詐欺・・・
絶望的な状況で露わになる人間の「業」を圧倒的筆力で描き切った歴史長編!
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時は寧楽(奈良)時代、猛烈熾烈な疫病 天然痘に見舞われて都が壊滅の危機を迎える中、施薬院に勤める群像の それぞれの葛藤と挫折と成長がドラマチックに展開する。読み始めた折りには馴染まない時代でもあり理不尽な輩も蠢いてどうなることやら?と読み進めるうちにページを捲る手が止まらなくなった!なんて面白い本だろう。
時代が時代だけに人物名は馴染み難いけど、会話を敢えて今風仕立てにしてあり取っ付き易い。
いやぁ 面白かったです♪
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はー、天然痘怖すぎる。描写がすごいので思わず画像検索してしまったじゃないか。根絶できた事に、素直に医療の進歩に感謝。
話自体はすいすい読めるし、展開も分かりやすい。印象に残るのは孤児達の可哀相な最後であり、これは物語の中で本当に必要だったのか・・と疑問も。時代小説はあまり読まないが、これは苦労なく読めた。分かりやすい都の描写のお陰で、ほんの少しだけ奈良時代の空気を吸った気分にもなれた。
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疫病が猛威をふるう古の都寧楽(なら)で、罹患した貧者らに治療を施す施薬院(せやくいん)。そこで疫病に立ち向かう医者・役人らと、一方で冤罪により自らの人生を奪われたもとエリート医師の壮絶な人生がからみあう。
死とは、生とは、いかなることなのか。病により混乱の極みにおかれた状況の中での、登場人物たちのふるまいを通して、何かを示唆してくれた気がする。それは、はっきりと述べられるようなものではない。真実、というものに近いものか。小説というフィクションであるからこそ伝えられる真実がある。そんなことを、この話を通じて感じた。
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奈良時代、天然痘の流行により死者が続出するなか、何とか食い止めようとする医師、逆に騒ぎに乗じて悪巧みを図る人たちなどの姿を描いた長編。
時代小説というと、江戸や戦国、平安などが一般的で、天平の世のパンデミックという設定は珍しいと思いながら読み始めた。
新羅から運び込まれた疫病が、徐々に蔓延していく様は恐ろしい。さらには、獄中の暮らしや、怪しげな宗教に頼るしかない貧しい民衆など、救いのない状況ばかりが続く。病気や死体の描写もリアルで情け容赦がなく、気が滅入ってくる。
壮絶な周辺の状況が詳細に描かれていた反面、主だった人物の心の動きや行動などはやや唐突で、丁寧さに欠ける。そのためか、あえての天平の時代というのが取って付けたように思えてしまった。直木賞候補作ということで手に取った作品だったため、少し辛口の感想に。
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ちょっと前に話題になった本。奈良時代の疫病の蔓延と医師たちとの闘いを描いている。詳細→http://takeshi3017.chu.jp/file7/naiyou26501.html
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生徒お勧めの1冊。
歴史小説かと思いきや、
人間小説で医療小説だった。
この中に出てくる人間の行為には
本当に許されないものが多いけれども、
「そんなひどいことをできる人は、人間ではない」と
言い切れる人間は、きっといない。
そう思うと、ぞっとする小説だった。
そして、もう一つのテーマ「医療人とは?」
ここ数年、医学部人気に翳りがみられるというが、
ウチの生徒にはまだまだ医学部志望が多い。
そんな彼らに、ぜひ読んでもらいたいものだ。
医師も人だ。
人として、病を抱える人を救うとはどういうことなのか。
どのような覚悟が必要なのか。
想像力を働かせてほしいものだ。
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【混沌とした世界で必死にもがく人達の戦い】
日本が遣唐使を派遣していた時代の話。なので、700年代くらいが舞台かなと思います。
直木賞ノミネート作ということで手にとってみました。最初は、時代が古すぎでついていけるかなあと思いながら読んでいたのですが、心配いりませんでした。
面白かったです。
今よりも医療が発達していない時代に、天然痘が流行し、多くの人が病に倒れ亡くなっていきます。
原因不明の病に恐れる人々は、家から出ることを控え賑やかだった都は静かになり、政も機能しない。そんな中、市井の人々を守ろうと戦う人たちがいる。
助ける側も人間で、死にたくないと思う人がいる。
自分を貶めた人達がいる都なんて、滅んでしまえばいいと思う人もいる。
この機に、病に効くという札をつくりお金儲けする人もいる。
病を運んできてしまい、絶望のふちで生きている人たちもいる。
さまざまな立場と感情があふれていて、綺麗事ばかりではない。でもこれが人だなとも思いました。
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天平時代、都で猛威を振るった天然痘の話。
無実の罪で陥れられた医師、診療所で嫌々働く者、全力で病に立ち向かう診療所の医師、死が蔓延していく町の中で様々な人の生きざまが描かれる。
人は死んでしまったら終わりなのか、病との戦いの中で、必死に生きる人たち、死んでいく人たち、その世界に圧倒された。