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読むことは旅をすること みんなのレビュー

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みんなのレビュー4件

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紙の本

「わたしの時代」「わたしのいる場所」を問いつづけ、自分の軸をずらしながら理想を追い求めた20世紀の偉大なる文学者、思索者たちの足跡を訪ねた旅の記録。

2008/06/29 21:58

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 大著なのである。
「歴史的大著」というのとは少し違う。そうではなく、たとえば古典や名作、図鑑や百科事典のような蔵書的図書を除き、現在流通している本ばかり並べているような書店があったとして、そこにこの本が並べられているとしたら、その恰幅の良さ、風格のあり方がいかにも大物らしいということだ。見てくれの「なり」だけのことではなく、大物と呼ぶにふさわしい中身がぎゅっと詰まっている。
「歴史的」でないのは、戦争と革命の世紀であった20世紀、その後半を「旅する詩人」として生きた著者が、戦争と革命のあとに遺された「書物という風景」「無言の言葉が漂う旅先の風景」などを追った記録を、現代人として意識的に書いているから……ということもある。
 しかし、この本は著者自身にとっては「歴史的」でもあり得よう。過去に出版された『失われた時代』『見よ、旅人よ』『詩人であること』『笑う詩人』『詩と時代1961-1972』『われらの星からの贈物』『読書百遍』といった本に収められたエッセイが選ばれて編まれた集大成であるからだ。

 長田氏は、20世紀の振り子の中心線を「のぞむのはどのような国のあり方か」という意味での「パトリオティズム」だったとしている。その上で、本から旅、旅から本へと往還した自らの営為を、それぞれの人がそれぞれの場所で「時代」を生き切った支えとなるパトリオティズム――その追跡だったとしている。
 そういう営為の対象として、ナチス・ドイツから逃れたフランスで収容所に拘留され、自らの命を絶ったヴァルター・ベンヤミン、フランコ指揮下の反共和国軍に処刑されたガルシア・ロルカ、記者から民兵になってスペイン市民戦争を戦ったジョージ・オーウェル、20世紀に自分の国土で革命も戦争も戦わなかった国アメリカを各々の表現で描いたフラナリー・オコナーやトマス・ウルフ、ナチス・ドイツ侵攻による英仏軍ダンケルク撤退の折に戦死したポール・ニザン、ロシア革命の時代を生きたアンナ・アフマートワやボリス・パステルナークなどの足跡と終焉が辿られている。登場する文学者たちは、この何十倍にものぼる。巻末には人名索引まで設けられているほどだ。
 20世紀のパトリオティズムを追った結果、この世紀に私たちが求めるべきものは、日常を生かす知恵として、それも共生のための知恵としてのパトリオティズムなのだと提言している点もまた、見識高い詩人の英知として注目すべきものがある。

『読むことは旅をすること』という題名には、「読書」と「旅」という2つの行為が含まれているが、両方に共通するのは、好奇心がその源にあるという点、そして、好奇心の度合いに応じて「広がり」や「深み」が追い求められ、成果が得られるという点だ。さらに言うならば、読書も旅も、今ここにある自分の軸というものを少しでもずらしていくことに通ずる。読書体験と旅の体験に誘われながら、素直に自分の軸をずらすことを受け容れるとき、大きなチャンスが訪れることがある。それは遠い「涯(は)て」のような場所に連れ去られるというものだ。
 本書は、連れ去られる体験を好む人のために編まれたものだと言え、その体験実現のために、どういう本をどのように読めばよいかという指南書にもなっている。
 ここに綴られた旅の記録や思索は、一見すると、文学紀行や文学者たちの眠る場所への墓参のようでありながら、それに留まらないのは上記のような「自分の軸をずらす」という試みが、旅ごとになされているからだ。それが読むことの刺激につながっている。
 したがって、期待して読み始める多くの現代作家の文学紀行が、単に取材費を多く使って「作家ゆかりの、こういう特別なものを私たちだけに見せてもらえることができた」「昔から好きだった作家のプライベートな空間に触れて、作品世界を追体験して改めて感激した」といった内容レベルに終わり、私たちの身の回りにいる人が「おいしいものを食べてきた」「珍しいものを買っちゃった」と旅自慢する程度のものになっている。それに付き合わされ、がっかりさせられるというようなことにはならない。

 好奇心に突き動かされ、自分の軸をずらそうと旅をするのは、著者と、それに追随する読者だけではない。それに先行した「わたしの時代」「わたしのいる場所」を問いつづけ、自分の軸をずらしながら理想を追い求めた人びとこそ真の旅人であり、それがここに書かれた詩人や作家たちである。その意味では、ベンヤミンもロルカもオコナーも皆、偉大な、いや偉大すぎる旅人たちであったということだ。
 旅が終わり、遠い涯てに辿り着いたとき、そこに理想の王国が広がっていることをあらゆる人が望む。それは21世紀、20世紀だけでなく、人類が安住の地を求めて旅を始めたときから期待されてきたことだろう。そして、おそらく人類は、わが存命中、わが子孫存命中どころか、人類存命中にも、その理想の王国には辿り着けない。
 しかし、これは悲観ではない。理想の王国での安住がないからこそ、旅して軸をずらすことの喜びがもたらされる。満足がないからこそ、刺激を求める知の欲求が高まり、それに伴う思索や創造が人類の遺産として蓄積される。それらは、人類の負の遺産を補うものではないだろうか。現代の日本という比較的穏やかな環境にいて、読書や思索という旅で、そうした遺産に触れられることは贅沢なのである。その贅沢さ加減を認識させてくれる大著であった。

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2013/03/06 17:23

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2015/11/01 22:21

投稿元:ブクログ

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2022/09/08 07:39

投稿元:ブクログ

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