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ちょうど4年前,京大の山中教授がヒトの皮膚からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出したというニュースが駆け巡った。本書はそれを受けて3年半前に書かれた本に,最新事情を増補したもの。iPS細胞研究について一通りの基礎知識が学べる。
以前は再生医療のためにES細胞が注目されていたが,倫理的・生物学的理由から,制約があった。iPS細胞によれば,これらの制約は克服できる。
ES細胞(胚性多能性幹細胞)は,受精卵が桑実胚を経て栄養外胚葉と内部細胞塊に分かれる胚盤胞の段階で,内部細胞塊を取り出して培養することで作られる。その過程で生命の萌芽である胚を破壊することになるので,倫理的な問題を抱えている。それと,移植される人にとってES細胞は他人なので,拒絶反応の問題も。
自分と異なる形態・機能の細胞を作り出せる細胞を幹細胞といって,自分のコピーと幹細胞でない細胞に不等分裂する。どの程度多様に分化可能かは,幹細胞によって違っていて,万能(受精卵),多能(ES細胞・iPS細胞等),多分化能(神経幹細胞・造血幹細胞等),単能(皮膚等の幹細胞)のように分けられるそうだ。多能性幹細胞は,胎盤や羊膜などの母体と胎児を繋ぐ組織以外のあらゆる組織に分化する能力をもっている。原理的にはどんな臓器でも,「山中ファクター」で自分の細胞から作ったiPS細胞を分化させることで,新たに得ることができる。
癌化しやすいなど,実用化はまだ遠いようだが,iPS細胞の研究は競争が熾烈で,特許も重要という。終章「”知”がヒトを変えていく」はプチ科学論といった趣き。遺伝子操作というと,「生命をもてあそんでいる」と嫌悪感をもつ人がいるが,研究者たちは慎重に配慮しつつ研究を行なっているようだ。
増補分にちょっとしょうもない誤植が…。「ファミリー遺伝子(幸三・昨日の類似する遺伝子)」(p.249)って,何かと思ったよ…。
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再生医療をめぐる各研究者の戦いが面白かった。今後、日本がリードしている状況をキープする上でも、国民の深い理解が必要となるだろう。
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ブルーバックスの『iPS細胞とは何か』に比べたら詳しいし、その分難しい。
でも具体例やたとえが豊富で、ゆっくり読めば分かる内容で、文系の自分には大変勉強になった。また読みたい本。
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iPS細胞とは何かという解説と、その将来性や課題などを研究者の立場から、分り易く説明している。最先端医療技術についての理解を深めることができる。
内容の紹介、感想など:
iPS細胞についての基本的なことが理解できるように書かれている。iPS細胞とはなにか、再生医療ではどんな研究が行われているのかなどが、一般の人によくわかるように説明されており、生命科学の面白さを知ってもらいたいという著者の思いが伝わってくる。各章のはじめに、この章では何を解説するのかが書かれ、終わりにはまとめがあるので、内容を整理して理解する手助けになる。
増補版である本書は2008年に出版された初版の内容に、その後の研究成果などを書き加えて2011年に発行されたものである。増補版では、初版発行後に進歩したiPS細胞研究の技術の紹介に加え、iPS細胞が政治・経済の分野に与える影響なども述べられている。iPS細胞について総括的に学びたい人に適した入門書である。
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新書にしてこのクオリティは素晴らしいです。これを書くのって相当大変だったかと思います。短時間で知識を整理できました。ありがとうございました。
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今日本が世界の最先端を走っている科学技術は数少ないと思うが「ips細胞」はそのトップだろうと思う。マスコミにおいてもしばしば報道されているが、その詳細な内容はあまりにも専門的すぎるせいもあると思うが、よくわからないと思っていた。
本書は、その「ips細胞」についてのわかりやすい解説書であるはずなのだが、読んでもよく理解できない。読者が悪いのか、著者が悪いのか。そもそも「医学」「生命科学」「国家や医学のシステム」等々、それぞれが専門的であり、あまり馴染みのないものばかりである。これを門外漢にもわかりやすく解説すること自体が、なかなか難しいことではあるが、本書はそれに成功しているとは思えない。
それぞれの項目は、それなりに具体的にかつやさしく解説はしてくれているのだが、全体のイメージが見えてこないように思える。本書は、読者を選ぶ残念な本であると思う。
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自分が割と知っていることについてだと、本の一冊も読まずに的外れなことをいう人間についてイライラする。
それはきっとみんなそうなのだろうと思うので、その実践としての読者である。
一番の驚きは、増補版あとがきの最後の一文を読むまで、筆者が男性であることに気がつかなかった所にある。
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iPS細胞にまつわる事について、経緯や倫理的なことなど周辺の話まで書いてある。少し専門的過ぎるが、ある程度知っている人が対象者なのだろうか。
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改訂された高校生物の教科書を見て驚いた…
従来の本にくらべ、全体的にかなりの増ページになっており、
新しい知見も盛りだくさんなのだ。
それだけ、めまぐるしく変わりつつある世界なのだろう。
そんな中、山中伸弥教授のノーベル賞受賞を知った…
「iPS細胞の作製」によって授与されたのだそうだ…ん?
「iPS細胞」って、なんのことやらさっぱりわからず、
その概要が知りたくて手にしたのが本書だった。
本書は、門外漢のボクにも、わかりやすくまとめてあるように感じた。
こうした知見は、無理をしてでも追いかけておいた方が良いだろう。
生命倫理の問題は、どこまでも万人につきまとうことであるはずだから…
本書では、こんなふうに語られている…
―ヒト胚から得られるES細胞の代替物としてiPS細胞を許容した
我々の倫理観において、すでにGlis1遺伝子の様なものを見出し、
そしてマウスではあっても、皮膚の細胞から個体を、
しかも生殖細胞の再現すら可能にしてきた私たちの世界において、
本当にその行為が「禁じられるに値する」ものなのかどうかを
問い直す時期が、もうそこまで来ているのではないだろうか。
ただ、この議論は、常につきつめてゆくことが肝要だろう。
やみくもに反対するのでなく、無批判に受け入れるのでもなく…
それにしても、日本の報道陣のなんと脆弱な知識であることか!
個人の虚偽を暴く前に、きちんと知った上で報道して欲しい!
これこそ倫理の問題に他ならない!
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山中教授のノーベル賞受賞のニュースを聞き、曖昧な知識を再確認しようと思って、本屋で数種類並べてあるiPS細胞解説本の中から選んで買った。読みながら何か不思議な感覚を覚えていたが、半分ほど読んで気づいた。本書は増補版である。そう、初版を読んでいたんだ。多分10年くらい前だろう。自分の趣向の変わらなさにあきれた。
素人向けでありながらES細胞との関連性はもちろん、課題や問題点、世界中でおこなわれている研究の現状を素人が何とかついていけるギリギリの容易さで解説してある。類書の中で値段は安く内容は充実しているという意味でコストパフォーマンスは高いだろうという、10年前も今も変わらない本選びの際の期待は裏切られなかった。
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現代医療はまだ、老いた病気の体を薬で整えるか、悪いところを切り取ってしまうか、幸運な一部で他人の臓器移植を受けるがそれも激しい拒絶反応覚悟となる。iPS細胞技術は自分の細胞からいろんな臓器を作れるので拒絶反応もなく画期的技術だ。本書はES細胞や再生などの話から順番になされたいへん読みやすいが詳細にも述べられている。
ノーベル賞の山中先生らは4つの遺伝子の組み込みで細胞初期化に成功した。現代はネット上で実験や遺伝子などの知識情報が膨大に公開されておりこれらを駆使し数十年かかるとおもわれた初期化遺伝子を短期間に発見できたという。遺伝子組み込み自体の危険性はまだ未解決とのこと。
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数あるiPS細胞の解説本の中でも秀逸の作です。
著者の八代さんが現役の幹細胞研究者で,現職は慶応義塾大学の特任助教ということもありますが,「文化としての生命科学」の確立を試みている方だからこその,視野の広さと研究の本質への迫り方には,説得力があります。
特に,4年前の初版で「核」と人類との関わりについても,幹細胞研究に潜む本質的な問題との関連で触れていたことが,東日本大震災においてまさに不幸な邂逅を遂げてしまっていますが,この部分が増補版で追加されたのではなく,初版で既に論じられていたことに驚きと感心とが入り交じりました。
ノーベル賞受賞に湧くほぼ1年前に書かれた本だからこその落ち着きと,科学の域を超えた社会に広く発信するべき情報の詰まった必読の書として推薦します。
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2008年の増補版で特筆すべきは増補の内容。
iPS細胞研究の現在やオールジャパン体制へ向けてということで国として、産業としてどこまで進んでいるかがわかる。
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iPS細胞に関する情報を網羅的に知ることが出来た。まだ新しい知見であることが人々に対して生命に関して考えることを要求しているとも考えられる。これからの研究動向を見守りたい。
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iPS細胞を知るためには、ES細胞、幹細胞、について知り、遺伝子がどのようにして細胞を複製するのか、細胞はどのようにして体の各パーツを作るのかについて知らなければならない。
目次を読むだけでもその要点を掴むことが出来る良書。
さらに、本書では、「ここまではわかった」「此処から先はまだわからない」と明確に書かれている箇所がいくつもある。
2008年の本だから、最先端の研究はまだその先に行っているのだろう。
全体を大づかみするのに良い。