紙の本
自らの生を生きられなかった少女たち
2024/05/28 23:30
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
先に読んだ『円周率の日に先生は死んだ』に心を掴まれて、著者のデビュー作である本作にも興味が湧いた。
まず思ったのは、登場人物の描写にかなりのページが割かれていることだった。特に過去に起こった失踪事件をきっかけに家族が崩壊した真相を、事件後もその地の別荘に止まり続け生を閉じたひとりの女性の回想が物語の中心にある以上、関係者らの心理描写に重点が置かれるのは当然としても、何気ない日常の裏には当時誰にも気づかれなかった数々の事情があるため、そこに関わる部分は幾重にもベールに包まれている。
マットレスの下に隠されているけれども、確かに異物がそこにあると体に感じさせる居心地の悪さ、眼に見えないもどかしさは嫌というほど伝わってくるのだ。
毎年過ごす湖畔の別荘地での、和やかだが微妙な違和感は、ゆっくりと語られる日々の情景の中に不思議な陰翳をもたらしている。
そこに、回想録の読み手として期待された大姪のジャスティーンの現在のストーリーがからんできて、書き手のルーシーとジャスティーンの生活がオーバーラップしてくる。
この二人、ジャスティーンが少女の頃たった一回会ったきりなのだが、その心情がどちらも後悔に満ちているようなのが印象的だ。人生の終わりに差し掛かり、どうしても伝えておきたいことがあるルーシーが回想録を残したのは、奔放な母に振り回され、結婚生活は無残な結末を迎え、異常な執着心で縛り付けてくる恋人からやっと逃れてきたジャスティーンだというのが、自分の果たせなかったものを託そうという一縷の希望なのだろう。
前作でも感じたが、とにかく人物や情景の描写が微細で、まるで顕微鏡で布の縫い目を覗いているような集中力を要求されるため、読み進めるのにかなりのエネルギーがいる。途中で休憩を挟みながら読まなければならず、読後感は事件の真相とあいまって
かなり重いものとなった。おそらく著者も同様のエネルギーを注ぎ込んだに違いなく、後書きによれば完成までに何年もの年月を要したようだ。
著者のエネルギーと読者のエネルギーが等質となったとき、初めてその作品は幸福を得られるのだろうと思う。
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原題がgirlsなのはエミリー以外に誰を指しているんだろう?
メラニーとアンジェラもパトリックから見たらロストしてるけど。
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ルーシーの手記で語られる過去と、ジャスティーンの現在というふたつのパートで語られる。過去に何があったのか。その手記の内容、出来事のなかにあるたくさんの感情、後悔や償い。そういうものが物語の根底にあって静かに語られながらも揺らぎが感じられる。さまざまな出来事のあった過去と現在に生きるジャスティーンの生活が徐々に交わっていく。さりげなく、でも確実に過去の出来事と重なり合っていき迎えるラスト。派手ではないからこそひとつひとつの細部まで情感に溢れ不安や悲しみが伝わってくる。
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多分に既視感のある設定で、言ってしまえば目新しいものは何もない。あれに似ている、これに似ているとついつい思ってしまう。またか…と思う鬼畜の仕業も、サイコパスのストーカーも食傷気味。長い時を経た老人たちのプラトニックな愛。湖畔の家で昔起こった事件の真相は…、うう。
ただ、落ち着いた筆致で、盛りだくさんな内容を時代と視点の違う語りを交互に持ってきて、最後まで引っ張っていくところはうまいので、新鮮な目で読めたらとても面白い小説なのでは。とても悲しい静かな物語。
すみません、すれっからしな読者で。
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過去と現在の物語が同時進行し、ラストで重なり合うというストーリー。けれど、途中までとにかく話が進まない。退屈で読み進めるのが大変でした。表現も曖昧で、察して理解という箇所も多々。ラストはほぼ納得の終わり方でした。けれど、これだけ書き込まれたから理解できる結末と言えるのかも、です。
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3世代にわたる、どこかいびつな人生と対峙している女性たちの物語。
はたから見るとそれぞれ自己中心的と思えることばかりしているような彼女達だが、人間は完璧ではないので、それぞれが折り合いをつけて生きていくしかない。そんな息苦しい現実とその中に時折のぞく光をうまくドラマに仕立てた筋の中に過去の少女失踪の謎が挟み込まれながら進んでいく過程がおもしろい。
ありがちではあるが全く予想していなかった背景に、そうきたかと思った。がらりと物語の見え方が変わった瞬間。その瞬間までその線は完全にノーマークだった。
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リリスとルーシーとエミリーの三姉妹のうち、エミリーが湖畔の家で行方不明となる。ルーシーの死後、リリスの孫娘にあたるジャスティーンが二人の娘を連れ、湖畔の家にやってくる。男から逃げるためだ。時代が異なるルーシーとジャスティーンを中心に物語は展開する。エミリーがいなくなった謎は最後に解かれる。謎解きの要素はほぼないが、楽しむべきは、ルーシーやジャスティーンの周辺にいるどこか普通ではない人々が醸し出すサスペンスの要素だろう。前半はそうでもないが、後半は怪しさが増してくる。日常から非日常へとだんだんと連れていかれた。
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あらすじを読んで気になったので購入。
現在と過去を行き来しつつ、『ここで何が起きたのか?』という謎が主軸ではあるが、全体的に人間ドラマ的というか、一般文芸に近いサスペンスだった。あんまりポケミスっぽさは感じられないが、ポケミスがこういう雰囲気が違うものを出すときは大体アタリでもあるなぁ。