紙の本
新しい目撃者像
2009/07/05 12:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカ・マサチューセッツ州コーバンが舞台。
廃墟となった屋敷での殺人事件の目撃者は、
相貌失認という障碍を負った少年コーディでした。
この屋敷の持ち主であったリリブリッジ家もまた、
70年前に鉄道事故と殺人事件に遭遇し、
双子の兄弟の確執などもあり、没落しています。
また、1960年代にヒッピーがこの屋敷に入り込み、
ドラッグで命を落とすという事件も挿入されます。
さらに17世紀から土地に伝わる魔女裁判の忌まわしい記憶。
その伝説的な説話と、現代の殺人事件やコーディとの繋がりが
よくわからない。小説では、コーディの相貌失認によって
その謎が解けた、としますが、それがどれだけ重要なことでしょうか。
どちらかというと、魔女裁判の謎が解けることがきっかけとなって
現代の謎を解くカギとなるほうがわかりやすいでしょう。
これらの4つの事件が(魔女裁判は弱いにしても)、
有機的に結びつきあい、最後の謎ときは見事。
ややくどいところが気になりますが、
筆致は常に冷静で、複雑な人物関係、
専門的な障碍や認知に関する知識もすんなりと頭に入ります。
とても手だれた筆運びです。
しかも目で見た情報と、記憶とを一致させることができず、
人の顔は(その障碍者によって違いがあるものの)認知することが
できないという相貌失認が新鮮な題材となっています。
目撃者が人の顔を見分けられないのは、新鮮です。
また探偵役の日本人留学研究生トーマによって
認知には、その出身国などの文化、アイデンティティが
深く根差されていると気づかされます。
このミステリーが、英語圏で書かれなければならない理由が
きちんと存在しています。
紙の本
ケレンと熱気
2010/03/27 17:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
福山ミステリー文学新人賞第1回受賞作。ということで地方文学賞が講談社から?と一瞬疑問に思ったのだが島田荘司が選考委員ということなのだった。そしてまあいかにも島田氏がみそうなケレン味の強い作品で一読納得読了後流石の傑作だった。
舞台はアメリカ・マサチューセッツ州の片田舎、ガラス製造で財を成した富豪があまり幸福でなかったとされる晩年に閉じこもったという鏡とガラス窓のない屋敷に忍び込んだ少年が、謎の人物が死体を燃やしている場面に遭遇する。命からがら逃げ出した少年は、おそらくは殺人犯であるその姿を見たのだが、しかし彼は人間の顔が認識できない脳の障害を負っていたのだった……という物語。正直、ある程度ミステリーを読み慣れた読者であれば犯人の見当はすぐについてしまうのだが、この作品の場合、そもそも顔を認識できない少年が如何にして犯人の顔を同定するか?が焦点になっており、この変則的なフーダニットに、街の忌まわしい記憶である魔女狩り事件の真相、屋敷を会ってた富豪の双子の弟との確執と殺人事件の真相、ヒッピーの時代に起こった麻薬パーティによる死亡事件の真相、という三つの時代に分岐した「真相」が「人物の同定」というテーマをめぐって絡み合うという極めて複雑な構成と相俟って、独特のめくるめくような読書体験を味あわせてくれる。少年の障害をめぐって脳学者と心理学者がさまざまな専門的知見を述べるシーンが続き、そこに過去の事件への多くは机上の想像による推理が結びついていく展開はミステリと言うよりもほとんどSFの領域に近く(一種の歴史-改変-ミステリでもある)、なかなか無理があってさすがに無茶だろとかやり過ぎだよとか思わないでもないのだが、とにかく力技で突っ切る感じがいかにも処女作らしく熱気があってなかなか感動的でさえある。もっとも、登場人物がいまひとつ魅力的でないのと、少年はいったいこれからどうなってしまうんでしょうかという暗澹たる読後感を残すあたりは、もうちょっと何とかならなかったのだろうかという気がしないでもないので、今後の課題はむしろ読者を安心させる類いの安定したストーリーテリングだろう。「いい話」ではないが「強烈なミステリー」を読みたい人にはオススメの逸品。
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なるほど、確かによくできた話です。大いに感心させられはするものの、「たいへんよくできました」というよりも、苦笑気味に「ごくろうさまでした」と言いたくなるような読後感です。途中で危うくストーリーを見失うところでした(笑
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面白かった。作者はきっと島田荘司が好きなんだろうと思う。理系ネタと本格ミステリの融合──まさに島田氏の提唱する21世紀本格ミステリの理論に合致する。選評の“福ミスのような地方の小賞に投じられてきたことに感謝した”という辺りに島田氏との相性の良さがうかがえる。ということは、私とも相性が良い。そういう雰囲気は序盤から感じていた。
「相貌失認」という聞きなれないテーマに臆することはない。症状や解釈についての描写も多く出てくるが、私のように何となくわかった程度でも何ら支障はない。もちろん、この扱いにくいネタがなければストーリーは成立しないし、トリックにも直結している。よく形にできたなあと感服すると共に、そのチャレンジャー精神を頼もしく思う。
新人なので確かに荒削りな部分は多い。中盤で停滞したり、キャラや重要証言の描写が淡白すぎる。三つの時代に渡っていろんな人物が事件に関わっているので、もう少し人物をしっかり描けたら、微妙なややこしさは半減できただろう。
このオチは前例があるのだろうが、こういうパターンで読んだことはなかったのですごく新鮮に感じた。助走と着地点がキレイに繋がっている。プロットも常に謎解き主体なので吸引力はあり、気がつけば多くのページを消化していた。新人作家の中では久々の収穫作。今後の活躍に期待をこめて星よっつ。
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福山ミステリー大賞受章作品ということで
地元に縁のある本だけに期待して読みました。
登場人物が私の苦手な外国人名だったので、読むのに苦労しました(汗)
オチも複雑。
読者にも高度な読書テクが必要だと思いました。
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アメリカ・マサチューセッツ州の小都市にかつてガラス製造業で財を成した富豪が、謎の死を遂げた廃屋敷があった。
11歳の少年コーディは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。
だが、少年は交通事故にあって以来ある障害を抱えていたため、目撃者としてその証言をそのままつかうことはできなかった。
州警察から依頼を受けた日本人留学生で心理学者のトーマ・セラは、記憶の変容や不完全な認識の奥から真相を探り出すために調査を開始する。
真相に肉迫するにつれ明らかになる、怪死した富豪一族とこの難事件との忌まわしき因縁。。。
広島県福山市の芸術文化の活性化をはかるため、同市出身である島田荘司氏を選者として2007年に創設された「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」第一回受賞作品です。
即戦力のミステリ作家を発掘し、受賞作品は必ず出版。その後も書き続けることを約束させられている賞です。
この賞が創設された記事を見て、はじめて島田さんが福山出身であることを知りました。
(ちなみに受賞者の松本さんは札幌市在住。)
ちょっと親近感がアップ。
島田さんが選者ということで、かつて氏のプッシュでデビューした綾辻さんら、新本格っぽいものを予想しながら読みましたが、とても端正で精巧な物語でした。
これが島田さん好みの現代の本格なのでしょうか。
少年の障害についての説明や検査など、とても専門的でありながら、わかりやすく書かれていたので興味を持ってよむことができました。
簡単にいうなら脳の不思議さ。記憶のあいまいさ。それらを系統立てて筋道つけようとするトーマら研究者が苦心の末真相にたどり着く様子は楽しめました。
ラストのラインナップも緊張感たっぷり。
が、そのために逆に真相がショボい印象に。
これだけ最先端の医療を示しておいて、いまさらのこのトリックは寂しい感じがしました。
なじみのない英語名の羅列のため、謎解きもやや置いてきぼり感がありましたし。
ただ、少年の障害とメイントリックをダブらせた点はとても巧かったです。
公募の賞でこのレベルというのは先々期待がもてそうです。
さすが島田さんの名のおかげでしょうか。
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ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
可もなく不可もなく、って感じ。
専門的な説明もわかりやすかったから、文章自体は読みやすい。
ストーリーは犯人はすぐわかるけど、ネタバラシまでが大変というパターン。
双子だらけ。
そして、イマイチ、入れ替えの意図が弱いと思う。
デビュー作だから、次作に注目したい作家さんかな。
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■かなり難しい作品。っていうのも、舞台が外国なのでなかなか登場人物の名前がすっと頭に入ってこなくて前半がだいぶ苦戦した。
■そして謎解きも。二重、三重のカラクリから構成されていて、トリックが解かれている最中ですら、何がどうなっているのか解りづらくて何度も読み返してみたり。(笑
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■顔が認識できないって病気があることも初めて知った。
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顔が認識できない……扱ったモチーフはすごく面白かった。
それだけに、冗長な構成と無駄が多過ぎる人物配置、展開がもったいなかった。
正直、犯人はすぐに分かります。おそらく作者も想定済み。
けれど後で延々延々その犯人の一家について言葉で説明されても。
せっかく素材が面白いのに、人間ドラマとしてもミステリーとしても半端な印象。
結局、犯人一家の悲哀、それに深い陰影を与えるはずの少年の脳の障害、すべてがしっくりと馴染まず、通り一遍な感じしか受けない。もったいないな~。
過去描写はあんなにいらない。不要とまでは言わないが、わざわざ出すほど面白かったわけでもない。
とはいえ、次作が非常に楽しみ。今度は何を書いてくれるのか。
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相貌失認ものです。
おー、今時、本格だ!当たりだ!! ^^/
と思ったらそれもそのはず、島田荘司選考の
「福山ミステリー文学新人賞第1回受賞作」だそうで。
シマソーって福山出身だったんだ~。へー。
岡山県西端の高校へ通っていた頃、
この街の古本屋でクリスティーやクイーンを集めました。
福山城は駅に隣接状態で、桜の季節にはホームにも花びらが舞っていたなあ~今でもかなあ~