フランスの政教分離
2021/01/20 22:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
厳格に政教分離を行なっているフランスがどういう経緯でそうなったのかについて知れた。革命当初は国家が(ローマ教皇ではなく)教会役割を果たすという政教分離とはある意味逆だったのが政教分離にいたる様が面白かった
政教分離が近代国家の要件かどうかを考えるために。
2007/03/14 21:35
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
政教分離が近代国家の要件であるがごとき言説に出会うことがある。しかしこれは誤りだ。先進国の中で政教分離が徹底しているのは、日本を別にすればフランスだけである。米国では大統領が選挙で選ばれると聖書に手をおいて宣誓を行うし、英国では国教会の聖職者が上院に一定の議席を持っているし、ドイツでは公立学校にも宗教の時間が設けられている。つまり、欧米先進国の中で政教分離が厳密に実施されているのはフランスだけなのだ。
本書は、そのフランスで政教分離がどのように実現していったのかをフランス文学者が論じたものである。文学研究家らしくユゴーなどの小説からの引用がふんだんになされており、その分素人にも読みやすい本になっている。フィクションであるはずの小説から現実を推しはかっていいのかという危惧を抱く方もおられようが、実はフランスの社会小説はかなり現実を忠実かつ綿密になぞっているので、その点の心配は無用であるし、むしろ政治家や法学者などの専門家ばかりではなく、一般のフランス市民がこの問題をどのように見ていたかが分かるので、説得力が増していると言っていい。
話はユゴーの有名な長篇小説『レ・ミゼラブル』から始まる。出獄したばかりのジャン・ヴァルジャンに一夜の宿を提供したミリエル司教の話は、全訳を通読したことのない人でも知っているだろう。ところで、フランス大革命とナポレオンの登場を経た時代を舞台とするこの小説で、ミリエルを司教に任命したのは誰だろうか? 普通に考えればローマの教皇か、でなければフランス国内の高位聖職者であるはずだ。ところがこの小説ではナポレオンその人が彼を司教にしたという設定になっている。政治家が聖職者を任命していいのだろか? 実は革命後のフランスでは、聖職者の任命権はローマ教会から政治家の手に移っているのである。そして聖職者の給料も国が払っている。つまり、革命は宗教を否定しておらず、むしろその有用性を評価し、聖職者の任命権をローマから奪ってフランス市民社会の中に取り込もうとしたと言える。
その後、様々な事情や政策がからんで「近代的」な政教分離が完成して行くのだが、それが実現したのは意外に遅く、19世紀も末になってからである。その過程については本書を読んでいただくこととして、もう一つ内容的に面白いところを紹介しよう。社会生活における男女の別である。フランスで女性に選挙権が与えられたのは1944年で日本とほとんど変わらない。1918年のドイツ、1920年の米国、1928年の英国と比較して露骨に遅いわけだが、宗教への関わり方が男女で異なっていたことがその背景になっているというのだ。すなわちカトリックの修道会は子供の教育や老人・病人の看護などで大きな役割を担っていたが、そこで活動しているのは大部分が女性であり、また信仰活動に関与するのも主として女性であった。このことは、政治などの公的な活動へ関与するのが主として男性である現実と相まって男女の役割分担を鮮明にした。そのため、選挙という公的な活動に与るのは男性だけという観念ができあがったのだという。なお、本書の著者は女性だが、浅薄な社会学者に見られるような糾弾的な記述はしていない。努めて客観的に、当時の人間の観念を忠実に叙述しようとしていて、この点でも好感が持てる。
さて、これでフランスにおける政教分離の成立過程と理念と現実は分かった。日本がそれを模倣するかどうかは、あくまで日本人が自分で考えればよいことである。
投稿元:
レビューを見る
フランスに旅行したとき、意外にも黒人が多かったことに驚いた。フランスの移民の歴史については大学のとき学んだけど、まさかこれほど多いとは、と思った。民族問題と関わってくるのが宗教、とりわけフランスでは政教分離というスタイルだ。黒人移民は主にイスラーム圏からなのだが、それを象徴する事件として、少し古いが15年ほど前にあった、学校にスカーフをして登校したイスラームの女の子が、宗教を教育の場に持ち込んだとして学校に入れないという事件があった。さらにはスカーフ禁止法という法律まで成立させる徹底ぶり。なぜフランスはこれほどまでに政教分離に固執するのか。そのためにフランスの政教分離の歴史をみていくというもの。日本とはちがう国の政教分離の過程が知ることができる意義深い本だと思う。しかし、著者はイスラームの移民が厳格に宗教を守る姿をアピールするのには宗教上のみならぬ別の理由があると述べて本書を締めくくっている。その理由とは現在のフランスが抱える問題への彼ら、彼女らのシュプレヒコールでもあるのだ。
投稿元:
レビューを見る
一読の価値アリ!!
政教分離の問題、西欧(特にフランス)における宗教の扱いの近代史がわかりやすく解説されています。
例のスカーフ事件も、フランスの歴史的な観点から解説されているのでなかなか興味深い。
宗教問題というのは日本人には縁遠い感じなのでとっつき難い部分もあるかもしれませんが。
投稿元:
レビューを見る
フランス第一共和政から第五共和政までの宗教と政治との関わり合いについて。同時代を扱った他の作品などを理解するための副読本として、理解しておくと良いのかな、という感じ。
それにしても、鳩山首相のおかげで、友愛が耳慣れた言葉に変わってしまったなぁ
投稿元:
レビューを見る
レ・ミゼラブル、フローベール、ゾラなどを読み解きながら当時の歴史事実とリンクさせて、フランスでの政教分離"laïcité"がどのようなものか?というのを歴史的に分析した本。ガチガチの学術書ではないから、それほどしっかりした分析が行われているわけではない。だから、入門書という位置づけが正当かな。フランス史を全く知らず、文学をあまり読んでいないから、雰囲気を知ることはできたくらいだ。残念。。
投稿元:
レビューを見る
フランスの女性参政権 -2007.04.18記
1789年の人権宣言をもって革命の先駆をなしたあのフランスにおいて、女性の参政権が認められたのは、第二次世界大戦の終結を目前にした1944年であったという、工藤庸子の「宗教vs.国家」書中の指摘には驚きを禁じ得ないと同時に、おのれの蒙昧を嘆かずにはいられない。
日本における女性参政権の施行が終戦直後の1945年なのだから、欧米の近代化に大きく立ち遅れた後進のわが国と同じ頃という、フランスにおけるこのアンバランスな立ち遅れはいったいなにに由来するのか。
女性参政権において、世界の先陣を切ったのはニュージーランドで1893年。1902年にはオーストラリア。06年のフィンランド、15年のデンマークやアイスランドが続き、17年のロシア革命におけるソビエトとなる。
18年にはカナダとドイツ、アメリカ合衆国は20年で、イギリスはさらに遅れて28年だが、
1789年の革命において国民主権を謳い、1848年の二月革命によって男子の普通選挙を実現するという世界の先駆けをなしたフランスが、女子においては諸国の後塵を拝するというこのギャップの背景には、一言でいえばどうやら圧倒的なカトリック教会の支配があったようである。フランス国内にくまなく根を張ったカトリック修道院の女子教育などに果たした歴史的かつ文化的役割は、われわれの想像の埒外にあるらしい。
1866年の調査によれば、フランスの総人口約3800万人のうち、3710万人がカトリックであると答えているという。
プロテスタントは85万人、ユダヤ教徒は9万人にすぎない、というこの圧倒的なカトリック支配と、数次にわたる革命による共和制の進展が、どのような蜜月と闘争を描いてきたのか、その風景ははるかに複雑なもののようである。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
権力をめぐって対峙するカトリック教会と“共和派”の狭間で、一般市民は、聖職者は、女性たちは何を考え、どう行動したか。
『レ・ミゼラブル』などの小説や歴史学文献を読み解きながら、市民社会の成熟してゆくさまを目に見える風景として描き出す。
[ 目次 ]
第1章 ヴィクトル・ユゴーを読みながら(文化遺産としての『レ・ミゼラブル』;ユゴーは神を信じていたか ほか)
第2章 制度と信仰(「市民」どあることの崇高な意味;ナポレオンの「コンコルダート」 ほか)
第3章 「共和政」を体現した男(第三共和政の成立;ジュール・フェリーと環境としての宗教 ほか)
第4章 カトリック教会は共和国の敵か(噴出する反教権主義;コングレガシオンへの「宣戦布告」 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
現在は当たり前となっている「政教分離」の原則がフランスにおいてどのように成立したのかを論じた本。内容は第三共和制(1871-1940)の時代のことが中心になっている。
フランスでは、ナポレオン3世の第二帝政期から政府とカトリック教会の対立が激化していた。第三共和制が成立すると、教会も市民社会の法律に従うべしという「反教権主義」が生まれ、フェリーなどの政治家は修道士を教育現場から排除するといった政策を採る。
「国家の宗教からの自由」と言うと聞こえがいいが、教会は学校・病院での慈善活動や地域住民の福祉に大きく関わっていた。第三共和制の時代には国家と宗教の関係を巡って多くの血が流れた。
フランスは国民の8割がカトリックを信仰する国だが、今はイスラーム系の移民が多く、宗教的理由からベールを纏って登校した女子生徒と学校の対立など、摩擦も絶えない。政教分離の原則とイスラーム教は相容れないと言っていい関係で、難しい問題であると思い知らされた。
それを考えると、トルコはすごいな。フランスと直接関係ないけど。
投稿元:
レビューを見る
フランス史はおろか世界史の基礎知識不足の読者(私)にもわかりやすい。それは著者の専門領域であるフランス文学を引用しながら、史実とその背景を読み解こうとする試みにあると思う。
フェミニストらしく、「その時女性の立場は」という視点を必ずいれているのも好感。
政教分離と市民社会について、新書の範囲でよくまとまっていると思う。それ以上は巻末の参考文献をあたればよい。