投稿元:
レビューを見る
「知性とは」と言及するわけではないのです。しかし、その仕事への姿勢であったり、捉え方であったり、著者としてもあまり明かしてこなかったその実際の日常ワークに近い部分から「知性とは」と言うものを示されているところが、やはりタイトルの所以なのだろうと感服しました。
投稿元:
レビューを見る
人々が、自分に充分な知識がないことを自覚しないままに判断を下す。そして意見を表明する。そのことについてはよく知らないから、という留保がない。
はじめに より
キュウリに似たものを買ってサラダにしようと思ったら食べられない。友だちに聞いて火を通すのだと知った。それがズッキーニとの出会いだった。ギリシャ語では「コロキザキア」といい、アラビア語では「クーサ」と呼ぶ。
11 語学学習法 より
マクルーハンが「メディアはメッセージである」と言ったときに人々が気にしていたのは「テレビが出てきて映画はなくなるんじゃないか」ということでした。さらに前の時代で言えば、トーキーが盛んになったことで弁士たちが困り、一方では声があまりにひどいので生き残れなかった映画俳優たちもいた。
12 デジタル時代のツールとガジェット より
はじめに、に書かれている文章がすべてな気がします。自分のことを棚上げにして言うと、本を読んでいない人以上に、読めていない人がどこか悪目立ちするように見受けられる気がします。書籍に対して知識の塊、利用できる道具、くらいの感覚で接している。
頭の良い人はまあそうかもしれません。知識を溜め込んで、出世して、金を稼いで。でもそうじゃないと思うし、それだけじゃないと思う。
知性とは知識や学力とは別のものだと思うと同時に、その扱い方を間違うと転んで怪我してどうしようもなくなる。自己批判の欠如。
とは言っても、堅苦しすぎるエッセイではなく、普段のインプットやアウトプットの仕方や本の手放し方など。作家がかしこまってこういうことを書くのは、手の内をばらすようなもので面白かったです。真面目な顔してときどき茶目っ気のあるエピソードもちらほら出てきます。ネット以前の作家とネット以降の作家で大別できなくもないが、著者はその狭間にいるような気もします。全集の編集という偉業を成し遂げる作家の書と知に対する在り方を知ることができました。
投稿元:
レビューを見る
毎日新聞を毎日読むことに決めた。やはり新聞は今を知り切り取る情報として欠かせないとの思いから。ネットニュースとの違いを知ろう。
投稿元:
レビューを見る
【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB22929653
投稿元:
レビューを見る
知的活動に関する実用書。私は小説・エッセイ・翻訳など池澤作品全般が好きであり、文章のリズムや言葉の選び方に魅力を感じている。この前提で読んでいるため、ノウハウ習得は二の次。どう「情報」を収集し、「知識」として落とし込み、「思想」を構築しているのか。新聞や本との付き合い方、本の読み方や手放し方、新刊書店・古書店・図書館の使い方、紙書籍と電子書籍の使い分けなど、作家・池澤夏樹の読書論を楽しめる一冊。
投稿元:
レビューを見る
池澤夏樹(1945年~)氏は、北海道生まれ、埼玉大学理工学部中退の小説家、詩人。ギリシャ、沖縄、フランス(フォンテヌブロー)に在住経験あり。『スティル・ライフ』で芥川賞(1988年)を受賞したほか、多数の文芸賞を受賞。個人編集の「世界文学全集」、「日本文学全集」の刊行は話題を呼んだ。紫綬褒章、フランス芸術文化勲章オフィシエ受章。
本書は、小説のほか、書評・時評の執筆、翻訳、文学全集の個人編集など、文芸分野で幅広く活動する著者が、自らの知的生産術を綴ったものである。
章立ては、1.新聞の活用、2.本の探しかた、3.書店の使いかた、4.本の読みかた、5.モノとしての本の扱いかた、6.本の手放しかた、7.時間管理法、8.取材の現場で、9.非社交的人間のコミュニケーション、10.アイディアの整理と書く技術、11.語学習得法、12.デジタル時代のツールとガジェット、で、知的生産に関わるテーマは一通りカバーされているが、類書には無く、参考になった点は以下である。
◆本の新刊広告の表舞台は、新聞一面下段のサンヤツ(三段八割)。各出版社が出しているPR誌のページ左端には、新聞広告スペースを買えない小さな出版社のここでしか出会えない情報に遭遇することがあり役立つ。
◆ノンフィクションの場合、目次は本の内容全体を表しているので、本文を読みだす前に頭に入れておくと理解度が変わってくる。解説や翻訳本の訳者あとがきも、難解な本を読む場合には先に読んだ方がいい。
◆本は私的な所有物であると同時に公共財であるという意識があるため、いずれ手放すという意識で本を扱う。よって、マーキングは6Bくらいの鉛筆で、消そうと思えば容易に消せるように行う。それは、自分なりの本に対する敬意。
◆読書(本)は「ストックの読書」と「フローの読書」に分けて考える。フローの読書に当たる本については、「キャッチ・アンド・リリース」する、即ち、自らの知的レベル・好奇心に応じて、(蔵書を)随時「更新」していくことが重要。
◆海外を本気で旅する際(取材など)には、「地球の歩き方」、「ミシュランガイド」より「ロンリープラネット」が重宝する。
また、ハウツーの詳細のほかに、「はじめに」に書かれた次の件が印象に残った。
「しばらく前から社会に大きな変化が目立ってきた。人々が、自分に十分な知識がないことを自覚しないままに判断を下す。そして意見を表明する。そのことについてはよく知らないから、という留保がない。もっぱらSNSがそういう流れをつくった、というのは言い過ぎだろうか。ツイッターが流す「情報」をろくに読みもしないで、見出しだけを見て、「いいね」をクリックする。それで何かした気になって、小さな満足感を味わう。・・・ものを知っている人間が、ものを知っているというだけでバカにされる。ある件について過去の事例を引き、思想的背景を述べ、論理的な判断の材料を人々に提供しようとすると、それに対して「偉そうな顔しやがって」という感情的な反発が返ってくる。彼らは教えてなどほしくない。そういうことはすべて面倒、ぐじゃぐじゃ昔のことのお勉強なんかしないで、この場ですぱっと思いつくままにことを決めようよ。いまの憲法、うざいじゃん、ないほうがいいよ。さっくり行こうぜ。こういう人たちの思いに乗ってことは決まってゆく。この本はそういう世の流れに対する反抗である。反・反知性主義の勧めであり、あなたを知識人という少数派の側へ導くものだ。」
知性を否定する(「反知性主義」の本来の定義とは少々異なる)こうした風潮が、今や世界中を覆い、世界を動かしつつあることに、私は著者と同じく強い危機感を持っているが、著者の思いに反して、そうした人々に限って本書を手に取ることはないだろうと思うと、暗澹たる気分になる。
文芸分野でマルチな活躍をする池澤氏が、反・反知性主義を勧めるべく書き下ろした知的生産術である。
(2022年9月了)