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紙の本
焼け跡に住んでいた頃
2019/11/29 21:15
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
終戦後の焼け野原のあと、バラックが立ち並ぶ地域がどこまでも続いた。駅周辺の繁華街は飲み屋と売春宿の並ぶ地帯。高度成長期の夢や活力からは遠く離れたような、そこで働き、そこで暮らす人々にも物語はある。
母と二人暮らしで一緒の飲み屋で働いている女が、母の連れ込んだ男にちょっかいを出されるようになって家を出る。新しい勤め先の客でサンドイッチマンをしている男に希望を抱くが、やがて男は無謀な道に走ろうとする。
組織への締め付けが厳しくなって神戸から大阪に触手を伸ばしてきた時、そのお嬢と京都の大学生が知り合う。行き場のない恋愛に、刹那的な生き方が立ち塞がるが、作者はそれを悲劇としては描いていない。
妾をしていた母が死んで兄と暮らしてきて、たった一人のかけがいのない肉親のはずだったが、その兄は愚連隊で、どうしようもなく粗暴な狂犬のような男だった。妹を大事にしていると言いつつ、結局は自分の面子のことだけしか頭になく、この兄がいる限り妹は幸福になるどころか、どんどん身を沈めていくしかない。
売春防止法が制定されて、身の振り方を考えなくてはならなくなった女たち。別の道を目指す者もいれば、他の道はあきらめる者もいて、だがどういうわけか、みんな戻ってきてしまう。表面的には明るくあっけらかんとしているようだが、もしかすると自分でも気づかないうちに深い悲しみを抱えている。
会社勤めをドロップアウトして流れてきた男。この地で安らぎを得ることができそうだったが、また野心を持って生きたいという欲求も湧いてくる。わー、やめろよーって思う。もう少しだけ落ち着けと。
みな昔からそこに住んでいたにせよ、よそから流れてきたにせよ、少しでも上の生活を目指そうという意欲はあるが、どうにもままならず、他の場所ではもはや生きていけないことをさとる。そもそもにして、男は博打と酒と暴力、そして女にしか興味がない。それを女は軽蔑しつつも、男に尽くすことだけを生きがいと感じてしまう。
それもまた幸せとか言えるレベルではないようにも思えるが、それも土地の問題であると同時に、高度成長期戦後社会と戦前社会の対比でもあるだろう。それに経済的豊かさは変わったとしても、一人一人の内面はたぶんそんなに変わっているわけではない。まったく僕らの隣人として、どの物語でも苦しい思いが押し迫ってくる。
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