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文庫で再読しました。
読んでいると、周りの音まで小さくなっていくようなひっそりとした世界でした。
琥珀の左目は琥珀のようになっているのだろうか…
図鑑を読むママに琥珀がかける言葉が好きです。
「何て言うか、親しい気持ちになれると思うんだ」。読書はやっぱり一人の時間だなって思います。
彼らの生活に綻びが見え始めてから崩れるまであっという間で、最後は呆気なくて、少しぽかんとしてしまいます。
これからはいつも、ママはCoccoさんのイメージです。
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絶望をこんなに美しく描ける作家を私は知らない。美しい絶望の世界を写し取っていく琥珀が愛しいと思う。
オパールの絶望も、瑪瑙の外界への興味に理解してなお変わらずに生きていこうとする琥珀はどんなに孤独だったことだろうか。
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自分の末娘を舐め殺した犬を蹴り殺し、他の子どもたちを長年監禁するという、あらすじだけ書くとありがちなヤバイ話。
子の死を受け入れられない母は心を壊し、子どもを別荘に閉じ込めてしまうのだが、幼い子どもたちはその無知により別荘に順化することができた。
でも、長女は小学校高学年ということもあり、母の異常性には気が付いている。また、数年が経過するうちに心はともかく体がどんどん大きくなる子どもたちに対し、時間の止まった塀の中の世界が破綻するのもまた時間の問題だった・・・。という話が、著者独特の世界観で美しく描かれる。
この人の小説は好きで何作か読んでいる。解説にあるように「声の大きいひとの言うことが広く「真実」にされてしまいがちなこの現実において『琥珀のまたたき』のような物語に耳を澄ませる時間が、どれほど貴重で、愛おしいか。」とあるように、世間の少数派・傍流にある人に対し主流の側の論理を当て嵌めずに光を当てる、という視点が作者の根底にあるような気がしている。
この小説はとりわけそれが顕著、というより極端で、母により構築された世界は現実との共存など到底できず、それが綻び崩壊していくまでの道筋を辿ることになる。
この極端な世界は、同著者の小説が好きな人でもかなり人を選ぶのではないかなと思う。確かに、子どもたちは母の世界に幸せを見出し、向かい方は子ども毎に違えど、幸福を保とうとしている。しかし、それは子どもが他の世界を知らないからであって、現代の価値観に照らせばただの虐待である。彼女たちの世界を断罪する権利は誰にもない、という考え方は、絶対に、絶対に間違っている。
映画『おおかみこどもの雨と雪』で、狼との間でできた子供を学校に行かせず、母のもとに児童相談所?の人が来ちゃうエピソードがあった。芸術作品でありそこに虐待だなんだという「正義」を持ち出したところで意味は無いし、母の愛を描いた映画である(と私は解釈している)以上、母の葛藤・苦悩を表す良いエピソードだったなと思っているのだが、この小説では単に子どもの人生が母の慰めに浪費されている、介護離職にも似た哀しさばかりが目に付いてしまった。
とはいっても、世間のこの小説の評からすれば、こうした感想が独善的で偏ったものの見方であることは自覚している。
誰もが情報発信のできる時代、マジョリティの大きな声とマイノリティの大きな声の大合唱で辟易している中で、確かに小さな声に耳を傾けることのは貴いことなのだろう。それは、普段は気付くことのない世界の見え方を提供してくれるから。
それだけに、監禁された子の中で最年長で、自ら別荘を出て行ったオパールからはこの物語がどう見えたのか、とても興味がある。
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通勤時間の行き帰りに電車でちょこちょこ読むのではなく、休日に一日掛けてしっかりと向かい合いどっぷりとその世界に浸りたい、そんな風に思える作品。
美しい文章に御伽噺的な世界、文章一つ一つが想像力を引き立て紗のかかった美しい映像となって頭の中に広がっていく。おかげでページ数の割には読むのに凄く時間がかかる…
ラストは直接的な表現を行わず行間とイメージから出来事を感じるという何か斬新なスタイル。映画「2001年宇宙の旅」のラストシーンを小説に持ち込んだかのような感じ。こういうのが文学なんだなぁと改めて実感。
解説も良かった!
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魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺した別荘で暮らし始めたオパール、琥珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑やお話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に過ぎていく。ところが、ママの禁止事項がこっそり破られるたび、家族だけの隔絶された暮らしは綻びをみせはじめる。(e-honより)
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隔離された世界で家族が作り上げた現実は、他者には邪魔ができないほど強固なものであると同時にすぐに壊れてしまう脆い幻想。非現実の中で生きる家族の脆さ、閉ざされた世界で生きる子どもたちが純粋な心で生み出したいくつもの遊びと作業、疑う気持ちに蓋をしながらもその中で確かに存在する瞬間的な幸福の描かれ方がとても美しかった。
他者から見ればママは悪だけど、子どもたちにとってはそうではなかった。
本を読むのに耳を澄ます必要はないのに、いつのまにか耳を澄ましている自分がいて、琥珀、瑪瑙、オパールの声が聞こえてくるようだった。
3人がとても愛おしい。
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"気が触れた""おかしくなった"とひと言で言ってしまうのは簡単なこと。それでも小川洋子は母親の傍目から見れば異常な行動を断罪することなく、彼らの恐ろしく穏やかな監禁生活をひそやかに丁寧に描いている。深い絶望に襲われた母親と、それに寄り添った子供たちの物語。
壁の外に最後まで遺されたアンバー氏に壁の外で寄り添ってくれる相手がいること、それでもアンバー氏の心が壁の内側に取り残されていることが救いであると同時に母親の罪の重さを感じさせた。
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母親のいびつな愛情のもと監禁された子どもたち。この残酷な物語をこんなにもひそやかに切なく美しく描くことができるのは小川さんを置いて他にはいない。オパールは「ママが殺して庭に埋めた」と琥珀は言った。美しい物語の中の毒が打ち捨てられた図鑑を触った時のようなザラつきを持ってジワジワと効いてきている。
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小さな声しか持たぬ者。世界の片隅の、更にまた片隅で生きる者へのまなざしを絶やさないのが小川洋子作品の魅力だ。
”実母による監禁”と言ってしまえばそうなのだが、この事件の当事者である三人姉弟の、その中でも最後まで壁の内側の世界に残った一人が主人公となり、彼の視点から見た閉じられた世界での生活を、衝撃的でも悲劇的でもない筆致で描いていく。
一般的な社会に暮らす者からすれば、親としてあり得ないとか、許せないとか、憐れだとか断言してしまえそうなものを「それだけではないかもしれない」と、乱暴な手つきでそれが変質してしまわないよう注意深く丁寧に扱う小説だ。
母親は子供達の父親と婚姻関係を結べないうえ死別、更に一番下の娘も病気で失う。秘めなければいけない関係に生き、大きな2つの喪失を味わい彼女は病んでしまう。そして残った3人の子供達を失わないよう、世界から子供たちを隔離してしまうのだ。
彼女は子供たちがいつまでも子供のままでいることを望んでいる。自分の手の届く世界の中に閉じ込めて守っていたい。けれど子供たちはどんどん成長していく。その成長の先には当然の帰結として、閉じられた世界の破綻が待ち構えている。
踊る才能を持つ姉・オパールと、歌う才能を持つ下の弟・瑪瑙が外の世界を志向し始めるのに対し、真ん中の琥珀は左目の(おそらく)病変と引き換えに、亡くした末の妹や他の様々な事物を目の中の地層に呼び出して世界を構築していく。この方向性の違いが、後の3人の人生を方向づけているようにも思える。
宝石の名を持つ他の2人とは異なり、琥珀は様々なものを身の内に潜ませて、皆が去った後も化石にして抱えていく。
その軌跡は一面的な悲劇などではなく、ただそう在ることが彼にとっての必然であり根であるのだと壁の中の生活を細部まで描くことで示してくれる。大声で叫ぶことなく、さりげなく。
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小川洋子さんの作品は、まるで絵画を観たかのように、全体の印象が強烈に焼き付き、そのタッチを思い出すように細部が蘇る。そして、いつも「妊娠カレンダー」にその原点があったことを確認する。
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外界から隔絶された内側で生きることの幸福を思う。ささやかな幸せを噛みしめるように、お互いを慈しみながら生きる。それが世間から見れば異常なありようであったとしても。そうやって母親が作り上げた城の、そのいびつさが隠しようもないほどにふくらみ、崩れていくさまさえもどこか美しいのだった。
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母が作った王国の中で暮らす兄弟の物語。外から見ると母親による監禁というファンタジーとはかけ離れた状況だが、隔離され内側へ内側へ深まっていく世界における琥珀や瑪瑙、オパールによる空想は、非現実が現実と重複したように思えるくらいに美しい。その描写にどっぷり浸かるとともに、愛ってなんだ、と考えさせられる。
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話が頭に入ってくるまでに時間がかかった。子供の想像力は、限られた狭い環境に監禁されたとしても自由に拡がり続ける
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初 小川洋子作品
4人兄弟の末娘が高熱で死んでしまう。公園で犬に舐められてからの死。
シングルマザーの母は犬に殺されたと騒ぎ、子どもを別荘に隔離する。
もうだれ一人減らないように。
名前を変え、魔犬に見つからないようにひそりと暮らす姉弟たち。
壁の中での生活は
ママの禁止事項を守りながらも こどもの想像力と強い絆で結ばれた姉弟愛で
静かな時間を紡いでいく。
しかし 成長と共にそのいびつな生活への綻びが
外の世界への扉を少しずつ開け、その生活は崩れていく。
読み始め あまりにも静かな独特の世界で自分が入り込めずにいた。
綺麗な情景 奇妙な格好で生活する姉弟。
かたくなに「魔犬」から子どもたちを守ろうとする母
でも その世界に少しずつ慣れてくると
静かで美しい情景が心地よく、その世界をゆがめていく異物たちに
心をざわつかせてしまう。
とっても不思議な作品なので
絵画を観るように 湖水の水面をみつめるように静かに溶け込んでいける作品
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社会から浮いていそうな人に、小川さんはいつも名前を与えて意味をつける。彼らの目線からみる狭い世界がとても広く、魅力的に見えてしまう。
否定も肯定もせず。その狭い世界のことと、広い世界のことを、同じ質感で物語るお話。