足下を見つめる経済論
2012/04/09 22:01
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投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東日本大震災以後、関連書籍の刊行や復刊が相次いだ。その中で気になったのは、「こんなに日本はすごいのだ」式論調の本・雑誌である。なぜ、この時にこの素材でこの論調?と、首をかしげるようなものが見受けられた。「失われた20年」を枕詞にした「こんなにも日本人・日本社会はうちひしがれているのだ」という、一見真逆かのような論調と、共通するものを感じた。いずれの論調にも、当事者に迫りきれていないまま、気軽に結論を提示してしまっている、といえようか。
本書のタイトルにも、「似たような」匂いを感じてしまう。しかし、扱っているのは、データにもとづいたシンプルな主張である。一言でまとめると、「日本の多くの企業は、グローバル化することで成長することができる」となろう。この種の本は、様々な事例をあれこれ並べるものが多いのに対し、本書はマクロなデータにもとづいて論の展開を試みる。もちろん著者自身も、相関関係と因果関係とのとりちがえについては、再三注意を喚起しているが、興味深いデータが丁寧に拾われている。
さて、この「グローバル化」というものがくせもので、たいていの人にとって、トヨタのような「大企業の問題」と考えがちである。著者がターゲットとするのは、むしろ中小企業である。中小企業は、海外と取引するのは人的にも手間的にも面倒と考えがちで、それゆえに、グローバル化による成長の可能性を秘めているというわけである。副題にもあるように、そうした企業を「臥龍企業」と著者はよぶ。やや芝居がかった表現ではあるが、方向性を示す役割を強く意識しているからだろう。評論家の論調にかかわらず、黙々と働く人や企業は少なくない。その中から原石を見出すきっかけとなるのであれば、こうした表現もアリだろう。本書の役割も、飛躍しがちな経済議論に対して、足下をきちんと見よ、というメッセージを発するところにあると感じた。
もちろん、すべての企業がグローバル化で利益を出せるわけではない。そのキーが「つながり」である。思わぬ出会いが、新たな可能性を生むというのである。その交流の基盤として、産業集積さらには特区の重要性が取り上げられていく。一方で、公共投資が生産性の低い企業の存続を許した面を指摘するなど、バランスも忘れない。ただし、産業集積の重要性そのものは、繰り返し指摘されてきたところでもあり、今までの諸実践をどう総括するか、という視点があってもよいかったのではないだろうか。
あえて不満をいえば、やはり具体事例の少なさであろうか。一部の成功事例の背景には多くの失敗例、さらには生々しい現実があろう。「その中で何をができるのか」を模索している人・企業は数多いはすだ。そうした人々への指南を目指すには、もう一歩何かが必要なのだろう。
日本経済成長の鍵は今なお不変
2017/09/06 17:35
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投稿者:セーヌ右岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書では、日本経済のさらなるグローバル化と日本各地における高度な産業集積の創出のための制度的な大転換が日本経済の成長の唯一の方法であるとして、その必要性を説いている。まず、グローバル化に関しては、輸出や海外直接投資で企業の生産性成長率が上がること、海外の最先端の技術や情報に触れ技術進歩を図れること、国内雇用が増加すること等のメリットがある一方、海外市場の需要、手続、リスク等の情報不足により海外進出に踏み切れない企業を後押しする政策を求めている。また、TPP等のEPA/FTAによる貿易拡大効果、経済成長効果は大きく、農業を破壊することはなく、デフレも解消されると具体的に説明している。産業集積については、その発展や衰退の事例・実態、要因を提示し、企業の新陳代謝を自然に任せることによる成長力を説いている。本書は、「週刊ダイヤモンド」2011年の「ベスト経済書」第4位に評価されたものであるが、日本経済成長の鍵は今なお本書に説かれた内容と変わらないものがある。
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【出会い】
修論副査の先生の近著。
【概要】
震災後の日本でいかに経済復興を果たすかというテーマに対し、「グローバル化」と「産業集積」という観点からその方途を明快かつ平易に解説。
【感想】
「三人寄れば文殊の知恵」効果を高め、「臥龍企業」を躍進させるというメッセージはシンプル(立場としては賛成)。
論証として既往の研究、数値データ、事例を豊富に引いていて、あまり経済学になじみがない人でも分かりやすい内容になっているように思う。
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実証分析の結果に基づいた意見が述べられています。
その中で、実力はあるがまだ飛躍出来ていない企業を「臥龍企業」と呼んで説明しています。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についても書かれています。
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大災害があっても経済はそれ以前のトレンド以上に成長するという例があり、それをして日本経済にもこれを機に成長する余地があるという。しかしこれまでの戦争や地震などのshockはtemporaryなshockだったが、今回の震災は原発の事故も絡んでいてpermanent shockと言えるはずである。また、本の中で指摘されているように、もともと衰退傾向にある産業はshockの影響がやや残ることがわかっており、それらを勘案すると、東北の未来は決して明るいものではないのではないか。
TPPの章でも、日本の農業に比較優位がないとすれば、農業から製造業に労働人口や資本が移動するはずであるが、それに関してもっと突っ込んだ議論が欲しかった。貿易自由化は国全体の利益になることはわかりきったことであるが、一方で農業従事者の既得権益がある程度失われるのは必至で、それをいかに説得するかが問題なのではないか。
しかし、学術誌からの引用も大変多く、貿易や産業集積の実証分析の論文のサーベイとしても読みごたえがある。
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TPPによる開国と日本各地に作る経済特区。
グローバル化を促進するためには政策介入が必要である。
開国しても日本の良さは失われない。フランスがEUに加盟してもフランスの良さは失われなかった。
牛肉を明治時代に日本人が食べるようになって、牛丼を発明し、それが世界に進出している例はわかりやすい。
それ以外は、ありきたりなことしか論じてないから面白くない。肩すかしな本。
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日本経済は、東日本大震災を機に制度的大転換をすることによってのみ復興を超えて成長することができる。そのためには、グローバル化と産業の集積が必要。
このような、国内外でのつながりを増やす制度を採用し、「三人よれば文殊の知恵」効果を十分に活用して行かなければならない。
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震災からの復興、東北の再興等挙げられているが、どうもTPP擁護というのが透けて見える。タイトルだけでつられて読んでしまった事を後悔。日本の底力という事で歴史的な事実を踏まえた論証もTPPという一時のトピックを大きく扱うことでげんなりしてしまった。
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戸堂康之著「日本経済の底力」中公新書(2011)
本書の特徴としては、経済学を中心とした学術的な実証研究の結果をもとにしていることだ。それによって、東北の地震による復興、そしてその復興を超えた成長のために乗り越えなければならない2つのことで議論を展開していることだ。1つがTPP(環太平洋戦略的連携協定)の締結により、日本経済をさらにグローバル化して、外国との貿易、投資、知的交流を活性化させること。つまり筆者はTPPについては、積極的な論者となっている。もう1つが東方をはじめとして日本の各地に特区をつくることで高度な技術を核とする産業集積を創出することである。産業集積が経済成長を促進する上でどの程度の効果があり、どのような方策や政策をおこなえばよいかについて詳細に述べている。
*一般的に、革新的な技術が生まれても、普及するには時間がかかる。例えば、日本にはじめて自動車が輸入されたのは、1989年であり、1904年には国産自動車第一号も作成されたが普及にはなかなか結びつかなかった。しかし、初上陸から25年後の1923年に関東大地震が東京を襲い、復興のための輸送手段として自動車やトラックの有用性が認められたためにようやく普及が進んだ。大災害の作用はシュンペーターのいう「創造的破壊」にも通じる。大災害たもたらす容赦ない破壊から、新しい成長の芽が育つということなのだ。
*輸出から生産性への因果関係を示すデータがある。日本のデータをつかった研究では、輸出をすることで企業の生産性成長率は平均で2%ほど上昇することが見いだされている。海外直接投資をすることでもやはり生産性成長率が平均で2%あがるとの実証結果がある。もしすべての企業の生産性成長率が2%あがれば日本全体のGDP成長率もおおむね2%上昇する。
*しかし、生産効率が向上することよりももっと重要なのは、輸出や直接投資といったグローバルな活動を行うことで、企業が世界とつながり、海外の最先端の技術やアイデア、情報にふれ、技術や経営の確信を行うための知識や手がかりを得ることができることである。
*日本の輸出額の対GDP比は15.6%であり、主要先進国、新興国の中では最低レベルである。つまり、日本は輸出大国でもなければ、外需に依存した国でもない。日本では、日本企業はアジアに投資しているように思われているが、実は対外直接投資の対GDP比で言えば、他の先進国と比べると低い。
* TPPの特徴は何と言ってもその規模である。交渉中の9カ国のGDP総額は、正解の28%である。むろん、これは世界のGDPの24%を占めるアメリカが含まれていることが大きい。さらにもし、日本がこれに参加すれば世界のGDPの三分の一をしめる巨大な自由貿易圏となる。貿易を拡大するにしても、つながりによる技術や情報のやりとりの効果にしても規模が大きい方がメリットもおおい。
*TPPに日本が参加した場合には、日米のGDPで全体の96%を占めることになる。このことからTPPは実質的には日米のEPAであるとの議論がある。また日米間の工業品に対する関税はすでに低いこともあって、TPPは必要ないとの議論もある。しかしTPPに参加する可能性の高い��メリカとマレーシアについて、日本からの輸出をみてみると必ずしもこの議論は正しいとは言えないことがわかる。
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復興するだけじゃダメ。日本人全員が相当な危機感を持ち、復興を超えた飛躍的成長のために、これから各人の役割を担っていく必要がある。
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明解なロジックで日本の底力を示してくれる。日本は明治維新や第二次世界大戦後に成し遂げたように、復興を超えた飛躍的成長を遂げる必要があると説く。そのためには、制度的転換によって、企業のグローバル化と、地方の産業集積の創出を、図る必要があるとする。ポイントとなるのは人と人とのつながりであり、若者に期待を寄せている。
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グラフを用いた説明等もあり、理論展開が分かりやすい。多用される「文殊の知恵」論には少し疑問に思うところもあったが、経済特区に関する内容には目新しさこそないものの納得させられる。
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グローバル化に賛成の内容でありそれもデータに基づいた論述で過去に読んだグローバル化反対のものと比較出来て面白かった。
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東日本大震災によって甚大な被害を受けた日本であるが、筆者は「復興」だけではダメであり、復興を越えた「飛躍的成長」が必要であるとする。
なぜなら震災前の日本経済は停滞しており、復興しても長期的には凋落していくだけだからである。
そこで震災後の今こそ、日本経済の飛躍的成長のために手を打つべきであると述べている。
その方法として、①TPPへの参入により企業のグローバル化を図ること、②東北など地方に特区を設け、産業集積による発展を図ること、の二つを主張している。
日本には力を持った臥龍企業が多くあり、TPPによって海外とつながり、特区により企業同士や大学などとのネットワークを拡充して、産業集積による技術向上を図ることで、生産性が大きく向上するとしている。
このような主張には賛成である。そしてそのタイミングは今しかないと思う。
筆者も述べているように、明治維新や戦後など、日本は混乱期に制度を大きく変え成長してきた。
今がまさにその混乱期であり、21世紀の日本の発展のために大転換を図るべき時であると思う。
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東日本大震災後の日本を立て直すにはどうすればよいのかについて、経済学を中心とした学術的な理論や実証研究の結果に基づいて、2つの提言を行っている。1つ目は、TPPをはじめとするEPAの締結や、起業に対する情報支援によって、日本人、日本経済をさらにグローバル化して、外国との貿易、投資、知的交流を活発化させることである。2つ目は、東北をはじめとして日本の各地に特区をつくることで、高度な技術を核とする産業集積を創出することである。2つの提言とも、「つながり(3人寄れば文殊の知恵効果)」が経済成長のために重要であるという考え方がベースとなっている。
図表も交えながら、わかりやすく、論理的に議論が展開されており、一定の納得性があった。ただ、具体的提言であるTPP参加と特区が、どのように「つながり」をもたらすかということについては十分に理解できたとはいえなかった。