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「イノベーションのジレンマ」を超える最重要理論と帯に書いてあって、さらに入山章栄、冨山和彦ダブル解説とも書いてある。
いわゆる経営戦略系の本は、もう食傷気味になっているのだが、こう書かれるとやっぱ読んでしまう。
「イノベーションのジレンマ」はとても面白い本で、大企業がこれまでの事業の改善を超えて、破壊的イノベーションを起こすことに失敗するという問題を明確にしたという意味で、「イノベーティブ」な本で会った。
が、どうやったら「イノベーションのジレンマ」を超えられるかというと、続編の「イノベーションへの解」などを読んでも、なんだかスッキリしない。
要するに、本体からスピンアウトした組織を作るという方向は、なんだか違う感じがしてならなかった。
というなかで、入山さんによると学会ではクリステンセンより評価高いオライリーはどう考えるかというのは、すごく興味のあるテーマだ。
で、読んでみると、かなりなるほどな納得感はあった。きっと、この本の方が、クリステンセンの一連の本よりも、役に立ちそうな感じがしてくる。
一方、当たり前のことを言っているという感覚もあって、これはリソース・ベースト・ビューとか、ダイナミック・ケイパビリティ論、そして組織行動論や組織開発、「学習する組織」の話と一緒じゃないかな?と思った。
つまり、イノベーションが成功するためには、企業の既存の「強み」や「能力」とのリンクが必要ということで、既存の事業をマネジメントしつつ、その強み・資源をイノベーションにしっかり回していく。イノベーションに取り組む人たちは既存の組織から組織的・物理的に離すことは必要なんだが(ここはクリステンセンの議論と共通)、しっかりとトップのコミットとガバナンスが必要。また、一つの会社としての一体感を維持するための共有ビジョンみたいなのが大事。これらを包括的に推進するリーダーが重要、みたいな話。
ある意味、この当たり前とも言える本が注目されるのは、それだけ「イノベーションのジレンマ」のインパクトが強く、それを超えるのに20年かかちゃったということかな?
で、乗り越えてみれば、ある意味、当たり前の答えが見つかりました、みたいな。。。。
成功事例として富士フィルムが取り上げられていて、その辺はとてもわかりやすいのだが、アメリカの事例が多いためか、なんとなく読みにくい感じもする。
重要な本だと思うが、先行する議論を読んでないと、この位置付けは今ひとつわからないかな?
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かなり期待感を抱いて購入。
ただ、何故だろう...。何となく読後感が良くない。
既存事業の組織と新規事業(社内ベンチャー)の組織を共存させ、リーダーシップで適切に導いていく...こんなところだが、「熱意をもって語ることのできる」・「下のせいにせず、強い意思をもって断行できる」リーダーが必要なことはわかっており、今の経営陣にも期待してきた。
ただ、彼らからは感じにくい...こんな場合はどうすればよいか...振り出しに戻ったような、暗澹たる気持ちが燻る。
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exploration(知の探索)とexploitation(知の進化)のambidexterity(両利きの経営)がよくわかる。でも、数年前に入山先生が講義で教えていた内容を超えるインパクトがなかった。
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目先の1つの事業に捉われていると時代の急激の変化や社会構造のパラダイムに順応できず命取りになる。なので、それを見越して複数の新規事業を進めようよ、という話。
そのために幾度と変化する社会環境に対応するために、社内外のリソースや知見を統合、再構成できる知恵が欲しいと思った。
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産業構造の変革に直面している、世界中ほぼすべての会社のための本。どうすれば効率性の向上によって既存の資産と組織能力を「深化・有効活用(exploitation)」しながら、十分に「探索・開拓(exploration)」するための準備ができるか、というテーマを掲げています。クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」を土台にしつつ、違うのはクリステンセンが「探索」組織は「深化」組織と距離を置き、独立で判断スピードを上げていく組織論がイノベーション実現の要諦であると主張しているのに対し、「探索」と「深化」の両立を高い次元でバランスとるマネージメント=「両利きの経営(ambidexterity)」というリーダーシップが必要だとしているところでしょう。冒頭のアマゾンでジェフ・ベソスが繰り返す「探索」と「深化」の繰り返しが圧倒的で、つまりベソスが持っているコンピテンシーを普通の経営者が持てるか?という問いかけに感じてしまいました。まさに「社長はつらいよ!」。IBMとシスコとの違い、コダックと富士フィルムは紙一重にもおもえます。
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企業が所謂「イノベーションのジレンマ」に陥ることなく、持続的に成功するためには、既存事業の「深化」と新規事業の「探索」を両立する必要があり、その実践に向けた経営手法やリーダーシップの要諦を明らかにした一冊。
既存事業が抵抗勢力となって「探索」を阻むのを避けるため、リーダーは「探索」と「深化」の両方を重視する戦略的意図を明確に示すとともに、双方に共通するビジョンや価値観を創造する一方、組織的には両者を分離しつつ必要な資源は融通できるような構造によって、探索活動を保護する必要があり、そのためには、矛盾や対立を受け入れながら対話を通じて事業間のバランスを保つとともに、時には理解を示さない幹部チームを刷新するといった荒療治も厭わない「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する覚悟が求められる。
「両利きの経営」自体はそれほど目新しい概念ではないが、日本の富士フィルムを含め、豊富な事例をもとに構築された理論やフレームワークを通じて、なぜ両利きが必要なのか、その実行が難しいのは何故か、その困難を乗り越えるためにどうすればいいのかが明確に示されており、実践的な経営書として極めて優れた一冊となっている。
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・経営者は深化と探索の両利きを目指すべき、という本。
つまり既存の市場、能力を深化させるだけでなく、新しい市場、能力を探索する。
で、新しい市場、能力への投資は短期的には非合理だから反対に合う。それに対しスピンアウト一択ではなく、強いリーダーシップがあれば既存の能力を活かしながら探索、の両利きが可能。
・新規事業担当者として思ったこと。
新旧の市場に連続性があったり隣接しているなら、深化している既存事業と相互に影響を及ぼしながら立ち上げたほうがいい。
独立性を高く新規事業を進めるのが合理的だけど、定常業務移行後にはシナジーが出たほうがいいので。
それができるかはこれもまたリーダーシップのありなしの問題で、簡単ではない。
・あと全社視点では探索の機能を担っていた新規事業が、定常業務移行後にはすぐ深化の方向を向くのも、体験しておもしろかった。
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クリステンセンのイノベーションのジレンマをさらに進めて深化と探索を別組織にしつつも協働しようという話。
本編は面白いが入山章栄がしゃしゃり出てくるのがちょっとうざい。富山さんはさらっとまとめてて好感持てる。
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知の探索+知の深化
既存/新規の組織能力と既存/新規の市場の組み合わせ
理屈はわかるけど、新規の組織能力ってM&A以外に実現する方法はあるのだろうか。
要としてのリーダーは、
頭の中で二つの対立するアイデアを同時に持つことができ、なおかつ、その力をうまく働かせ続けられることが、第一級の知性の試金石となる。
これは、納得。
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日本では、イノベーションと言えば、クリステンセンが有名だが、世界的には本書の方が有名らしい。
「両利きの経営」とは?
・知の探索:自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為
・知の深化:自身・自社の持つ一定分野の知を継続して深堀りし、磨き込んでいく行為
クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』が1997年に出版されて以来、破壊の重要性やそのインパクトについて膨大な量の研究や論述がなされてきた。…
その一方で、未解決のまま残されているのが、どのように企業がそれを実行できるか、あるいはすべきかという点だ。クリステンセンは著書で「組織は破壊的変化に直面すると、探索と深化は同時にできないので、探索にあたるサブユニットをスピンアウトしなくてはならない」と主張している。
…
それとは対照的に、私たちの研究やコンサルティングの経験からいうと、過去と未来とが断絶されていると、新規部門の足を引っ張って成功を阻み、往々にして身動きのとれない状態に追いやってしまう。…既存組織に活用すべき資産があるならば、探索を担当する組織にもそれが利用できるようにしなければならない。
確かに、過去と未来を切り離すことは戦略的に筋が通る。しかし必要なのは、ターゲットを絞り込んだ場合、新規事業に対する経営上層部の強力なバックアップ、組織全体のアイデンティティなどをはじめとする、より高度な分離なのだ。
成熟した技術や市場と、新しい技術や市場との競争をめぐるリーダーシップ課題について考えてみよう。単純化して、実現可能性(組織能力)や対応する顧客タイプ(市場)で分けると、イノベーションは概念上、三つの方向性(領域)で起こる可能性がある。
一つ目は、「漸進型イノベーション」だ。…
イノベーションの第二の方向性は、大きな変化、もしくは、不連続的な変化によって起こり、組織能力が無効になるような技術進歩を通じて改善が図られる。この種のイノベーションには通常、異なる知識基盤が必要だ。…
第三の方向性は、一見するとマイナーな改善によって起こり、既存の技術や構成要素を組み合わせることで既存の製品やサービスを大幅に向上させる。…これは主にクリステンセンが「破壊的イノベーション」と述べたものと同じものだ。
ベゾスの戦略は短期的な収益性よりも、フリー・キャッシュフローや市場シェアを増進させる長期的見解に立って意思決定することを重視している。「利益率は最適化の対象ではない。私たちが望んでいるのは、一株当たりFCFの絶対額を最大にすることだ。(中略)FCFは投資家が使えるものだが、利益率は使えない」
アマゾンの戦略を説明する際にベゾスが指摘するのは、顧客志向を打ち出す企業は多いが、そのうち大半がそうなっていないことだ。その理由として、「企業はスキルを重視する。新しい分野に事業を広げようと考える際に、最初に考えるのは『なぜこれをやるべきなのか。自分たちにはその分野のスキルがない』点だ。こうなると、企業の寿命は有限になる。というのは、世の中は変わっていくため、かつては��先端スキルだったとしても、すぐに顧客には不要なものとなるからだ。それよりも『自社の顧客には何が必要か』から始まる戦略のほうがはるかに安定している。この問いかけをした後で、自社のスキルとギャップを調べていくのだ。」
このアプローチは、「コアコンピタンス」に集中する、「他は干渉しない」という従来の戦略上の教えを無視している。むしろ、短期の漸進型イノベーションを活用しながら、資源や経営陣の支援を探索に振り向けて、長期的な成功に向けた組織能力を重視するのだ。
ボール社が成功した理由は明白だ。130年にわたって自社を進化させ、技術と市場の変化に合わせて変革を促すリーダーが存在したからにほかならない。彼らがこうした行動をとった背景には、政府が企業買収にストップをかけたときのように必要に迫られてということもあれば、ペットボトルのように市場を先読みし、いち早く新しい市場に移行したケースもある。
進化論の三つの基礎は、「多様化」「選択」「維持」だ。時間とともに環境が変化すると、特徴上の多様化がその有機体にうまく適合したりしなかったりする。
そして適合すれば、生存確率が高まる。組織が存続しようと競争し苦戦するうちに、他の組織よりも何らかの競争力を持つ形で明らかに違いが生じる。組織における適合性とは、生物学における繁殖の成功ではなく、(物理的、財務的、知的な)資源を引きるける能力を指す。適合性の低い有機体は死に絶えていくのだ。
おそらく、これらの事例の中で目を引く最も重要な共通点は、探索ユニットが大組織の資産を活用でき、それが競争優位につながった、ということだ。その資産とは、技術的資産(サイプレス、チバビジョン、HP)や、ブランドや顧客へのアクセス(USAトゥデイ、フレクストロニクス、ダヴィーダ、サイプレス)である。
リーダーに求められる三つの行動
①新しい探索事業が新規の競合に対して競争優位に立てるような、既存組織の資産や組織能力を突き止める。
②深化事業から生じる惰性が新しいスタートアップの勢いをそがないように、経営陣が支援し監督する。たとえば、ベンチャーが必要な資源を確保できるようにする。新規事業のリーダーはマイルストーンの達成について説明責任を負う。非生産的な摩擦を極力抑えて、新旧の事業間が交わる部分を管理する、といった具合だ。
③新しいベンチャーを正式に切り離して、成熟事業からの邪魔や「支援」なしに、成功に向けて必要な人材、構造、文化を調整できるようにする。
IBMの歴史を振り返ると、新規成長プロジェクトのリーダーを選ぶときに、より若く、より経験の少ない人材にプロジェクトを任せる傾向がある。これは、リーダーが若いほど「IBMウェイ」が染みついていないので、新しいアプローチを試しやすいだろうとの考え方に立っていた。
しかし、こうしたリーダーはよく失敗してしまう。若手マネジャーは大企業の中で未熟な事業を育てるために必要なネットワークや信頼関係を持っていないことが多いのだ。こうしたプロジェクトに「最優秀人材を配置していなかった」と、ハレルドは言う。
それが今や、正反対のアプローチをとるようになり、「大きな事業を構築したことがあり、その過程で多くのことを学び、IBMをよく理解し、変えるべきことやテストすべきことをわきまえた経験豊富な人材を投入するようにしている」。ただし、新規事業の運営は成熟事業とは全く勝手が違うので、新しく選んだリーダーには、新しい機会に必要なスキルについて訓練を受けてもらう。
両利きになるための要素
①探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。
②新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護すること。
③ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。これには、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは、組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる。
④探索ユニットや深化ユニットにまたがって共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化。こうしたものがあると、全員を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持つのに役立つ。
…明確な戦略的意図、経営陣の保護や支援、対象を絞って統合された適切な組織アーキテクチャー、共通の組織アイデンティティが揃わなければ、両利きの経営を成功させるのは難しい。この一連の要員が補完し合うことにより、深化に伴って惰性の力が働きやすい背景の中で探索を根づかせることができるのだ。
両利きの経営の成功と失敗にかかわるリーダーシップの原則
①心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む。
②どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。
③幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。
④「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。
⑤探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く。
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現代のイノベーションの指南書。感覚的には、わかっていたが、論理的にまとめられている。つまるところ、探索先がむずかしい。
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一つだけではなく持続的な成功を生み出すには、事業の進化と事業の探索の両方が必要で有り、それがなくてはイノベーションのジレンマを大企業は乗り越えられない。
そのための事例が数多く出ており、トップの両方の戦略への理解取り組み、および一体化することによる矛盾の受容が必要である。また、その理解と事業へのサポートが現場まで降りてきているか、適材適所だけでは不十分である。そしてやらなくてもよいことはやらない。
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成熟した基盤事業深化しつつ、未来のルールを決めるイノベーションを探索する両利きの経営。
技術革新で大きな変化の波に呑まれる現代企業が最も必要としながら、最も難しい探索と深化。
日本企業が今一番学ぶべき経営のヒントがたくさん詰まっています。ただ内容的に経営層や幹部以上でないと実践は難しい。
我々サラリーマンにとっては、大企業だからといって安住の地はないというのが良く学べる一冊です。
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理論ばっかり、事例も事実の羅列が大部分。インサイトが薄く、「で、何したらいいの?」が見えない。カバーだけは、しっかりしてる 笑
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『イノベーションのジレンマ』で、クリステンセンは、経営者が論理的に考え、適切なオペレーションを行い、持続的改善に拘るあまり、最終的に破壊的イノベーションに対抗できず窮地に追い込まれる事例をいくつも挙げた。そして、破壊的なイノベーションを起こすために探索を行う組織(サブユニット)を本社組織とは別に作ることを推奨した。しかしその実態としては、多くの場合は本社から十分なサポートが得られないまま失敗に終わってきた。
この不都合を克服するために著者が主張するのは、この本のタイトルにもなっている「両利きの経営」である。
「成熟事業の成功要因は漸進型(Incremental)の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性だ。その両方ができる組織能力(Capability)を「両利きの経営(Ambidexterity)」と呼んでいる。
解説の入山章栄さんがその著書『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』の中で本書の著者タッシュマンの両利きの経営の研究に言及し、「世界の経営学で最も研究されているイノベーションの理論の基礎は「Ambidexterity」(両利き)という概念にあるといって間違いありません」として、イノベーションの分野においては、クリステンセンの示唆する方向よりもより深く研究が進んでいるとして紹介している。
何より、自社の方でもイノベーションにどのように対応していくのかという大きな経営課題に対する解決策としてこの『両利きの経営』が喧伝され、そういったこともあって手にとって読んでみた。
成熟事業では「深化」を進め、同時に新興事業においては「探索」を続ける。「探索」と「深化」とでは、求められる組織的な調整や組織能力が根本的に異なるため、組織的に意識をして仕組みとして実行することが現代における多くの企業では必要である。そのとき、その成否を左右するのは、テクノロジーでも、はたまた運ですらないという。何といっても最大の要因はリーダーシップにあるというのが本書の重要なメッセージでもある。なぜなら「概念上は簡単そうに見えても、多くの場合、実行するのはきわめて難しい」ため、リーダーシップによるトップダウンの実行が必要になるのである。
(なお、キーワードになっている「深化」と「探索」は、英語にするとExploitionとExplorerationと非常に似た語感の単語になっている。訳者は少しでも漢字を似せようとしたのかもしれない)
「組織の観点でいうと、深化がマネジメントの問題だとすれば、探索は基本的にリーダーシップの問題である」と著者は言う。「上級リーダーたちが優秀なマネージャーになったとき、組織は危険にさらされる」とまで言い切る。なぜなら、「短期的には、現状維持のためという口実は、たいてい説得力を持っている」からである。
「既存のビジネスモデルを活かして、未来の探索に役立つ形で既存の資産を再構成できる場合、リーダーシップがきわめて重要になる。...この能力は養っていく必要があるうえ、しっかりと守らなければ、すぐに失われてしまう」
本書の多くの部分はうまく両利きの経営ができたかそうか、成功・失敗両方の事例企業の紹介とその分析に当てられて��る。ざっと挙げると次の通りだ。
成功企業事例
・Netflix ... 郵便DVDからオンライン配信への転換に成功
・富士フィルム ... Kodakと違い多角化に成功
・Amazon ... 本のオンライン販売から多品種・中古販売、さらにはクラウド(AWS)やエンタメ事業にまで進出。顧客満足をコアバリューとしてトップダウンで徹底
・Ball Corporation ... 保存用ガラス瓶の会社から宇宙産業への進出
・USA Today ... 他の新聞社と違いトップダウンでオンラインへの転身を図り成功
・CIBAVision ... コンタクトレンズから新製品への移行に成功
・Flextronics ... 既存リソースを活用して海外で成功
・Cypress Semiconductor ... 継続的な新規事業の探索に成功
・IBM ... 新規事業探索のプロセスをCEOのリーダーシップの下で仕組化、組織として浸透
・British Telecom ... リーダーシップにより新規事業の立ち上げに成功
・Haier ... リーダーシップの下、戦略的に新規事業に取り組み
失敗企業事例
・Blockbuster ... Netflixとの競争に敗れて廃業。『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(お勧め!)にも詳しい。
・Kodak ... 富士フィルムと違い、写真フィルムビジネスから抜け出せず破綻
・SAP ... 新規プロジェクトが失敗
・Sears ... 全米に広がったが、サクセストラップに嵌り経営破綻
・HP ... ポータブルスキャナ事業の立ち上げに苦労
・Firestone ... 古いタイプのタイヤに拘り身売り
・RCA ... サクセストラップに嵌り、新規事業の立ち上げに失敗
・Cisco Systems ... 新規事業の探索を組織として実行しようとしたが、やり方が徹底できず多くが失敗
・航空会社 ... 格安航空の経営に失敗
例えば、最初の方で取り上げられるAmazonについてはかなり詳しく企業成長の経緯が説明されている。シアーズやIBMも大きく取り上げられているが、CIBAVisionやBall Corporationといった特に日本ではなじみの薄い企業にも焦点が当てられていて、それぞれの企業の物語としても面白く読める。
リーダーシップが重要だと言うが、リーダーがすべてを決定するということを意味するものではないのである。両利きの経営の成否はリーダーシップにかかっているのかもしれないが、それはリーダーがすべてを決めて取り仕切り、物事を進めるということではない。そうではなく、逆に組織として両利きの経営のCapabilityを備えていかないといけないのだ。例えば、Amazonのジェフ・ベゾスは次のように言う。
「私がすべてのアイディアを持っているわけではない。それが私の役割ではない。私の役割は、イノベーションの文化を構築することだ」
もちろん、何が新しい脅威であり、何に取り組むべきかを捉えるのはリーダーの仕事だ。
「企業のリーダーには、確実に新しい脅威を察知し、組織の既存資産を再構成して新しい機会を捉える責任がある。これが、組織のリーダーが果たすべき役割の本質なのだ」
多くの企業においては、現在の地位を築くにあたっての成功体験を有している。そのため、新しい機会や脅威が訪れたとしても既存領域ややり方を組織的に優先し、これまで磨き上げた組織能力を活用した守りに回ってしまう。著者はこれを「サクセストラップ」と呼び、多くの企業が陥る罠であるとする。『イノベーションのジレンマ』以来、何度も指摘されてきたものであるが、実行できている企業は少なく、多くの企業が経営破綻や身売りに追い込まれてきた。
著者の分析では、進化生物学的な観点から、「多様化(variation)」「選択(selection)」「維持(retension)」がその基礎になるという(頭文字を取ってVSRと呼ぶ)。企業も生物と同じように変化する環境に応じて進化していかなければ生き延びることができないというのがその認識だ。うまくこのCSRのプロセスを回すための組織能力を「ダイナミック・ケイパビリティ」と呼んでいる。変化が早まった現代において、こういったプロセスを恒常的に回して反復できることが「両利きの経営」なのである。その上で、組織がうまく両利きになれる状況は、「明確な戦略的意図」「経営陣の保護や支援」「対象を絞って統合された適切な組織アーキテクチャー」「共通の組織アイデンティティ」という四つの要素が揃わないと難しいという。そういった組織にするための方向性を指し示すのは、依然リーダーの役割かもしれない。
誰もが認めるように近年は一定規模の企業にとって、いかにイノベーションを創出していくのかが課題になっている。実際には、巻末解説の冨山さんが言うように「既存産業の大構造転換や大絶滅を起こすような破壊性を持つイノベーションを起こす確率について、自分自身、あるいは自社が起こす確率と、別の誰かが起こしてしまう確率とで、どちらがより高いかは自明である」ため、提携やM&Aも含めた「探索」が必要となってくるのである。したがって、「誰かが起こした(起こしつつある)破壊的なイノベーションに対して、どうすれば後手に回らずに的確に対応できるか?」が実際的な問いになるのである。そこに向けた組織力の醸成が必要となってくる。
言うは易し、行うは難し。
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『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄著)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4862761097
『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』 (入山章栄著)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822279324
『NETFLIXの最強人事戦略』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4334962211
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492503021
『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4105071211
『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4569837336
『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822249816
『ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822249158