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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
お目見え以上の旗本になるため、徒目付から勘定方への出世を狙う若い御家人が主人公。表の御用だけでなく、上司から持ち込まれる仕事が、本書に収録される事件となっている。その仕事は、犯罪が何故行われたのかを求めに応じて解決する事。物証を集めたりする時代ではないので、人に当たって解決していくしかない。その仕事を通じて主人公・片岡直人が成長していくのもよくて、感動した。
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人生の黄昏時になってから、身近な誰かに刀を振るうなどした者たちの心のひだを描き出す物語。罪を犯しながらも、覚悟を決め、すっと背筋を伸ばした老武士の姿が浮かびます。
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このミス2017年版4位。時代ものの連作短編集。とても質の高い小説。残念ながら自分が時代小説にあんまり馴染みがないので、聞きなれない単語でいちいちひっかかってなかなかスムーズに読み進めれず、研ぎ澄まされた表現の美しさやリズム感を感じられなかったような気がする。風景描写などもやや退屈に感じた。それでも、読み手に優しい本で、編ごとに何回も"半席"や"徒目付"などの主人公の立場や社会の仕組みなどの背景を説明してくれて良く理解できた。謎解きも鮮やか。
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半席の身を脱し勘定役へと転身し旗本格を得たいと考えていた主人公が、徒目付での上司である内藤の「たのまれ御用」を努めるうちに、武家社会の摂理を自ら感じ取っていく目付の仕事に魅了されていくお話。
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『おすすめ文庫王国』の国内ミステリ部門で1位だったので購入。
最初は「時代小説なのに?ミステリ1位?」と思ったけれど、これは紛れもなくミステリだ!「何故」を追求するホワイダニットを時代小説で描いた、斬新なミステリ。
旗本を目指す徒目付の片岡直人が、徒目付組頭の内藤雅之に頼まれ、既に片が付いている事件の「何故」を追求していく連作短編集。何故そんな死に方をしたのか?何故慕っていた人を殺してしまったのか?追求されずとも良いこと。されど知ってスッキリしたいこと。それを探るのが直人の役目。
人情味溢れる時代小説でもあり、普通とはちょっと違うグッとくるミステリでもある。これは面白い!
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10代の頃、大人になるということは、思い悩むことが減っていくことだと信じていて、いわゆる「中年」と呼ばれる年齢に差し掛かってきたここ数年、よくそのことを思い出し、考えてしまうことがあります。
いくつになっても、あるいはどれほどキャリアや大きな功を成しているとされるような第一線の人たちであっても、こんなにも一度刻まれた心の傷や呪縛から逃れることは困難で、人と人とはこんなにも容易く修復できない関係になり得てしまうものなのか、などとぐるぐると思考してしまうこともしばしばです。
そして、そんなふうに途方に暮れる気持ちになる時にふと、いつも脳裏に浮かぶ小説があって、それがこの『半席(はんせき)』です(ちなみに、今年になってその続編『泳ぐ者』も刊行されていることを、最近遅ればせながら知りました……)。
御家人の片岡直人は、役職のない小普請(こぶしん)から、幕府の監察役である徒目付(かちめつけ)に就いて二年が経ち、一刻も早く御目見(おめみえ)以上の御役目に就かなければならないと考えていた。直人の父親はかつて旗本に昇進したものの、代替わりの前に小普請に戻されたため、当人のみならず子にも身分を相続させられる永々御目見(えいえいおめみえ)以上になるには、旗本職の二つ以上の御役目を、親子二代のうちに歴任する必要がある。いまはまだ片岡の家は、一代御目見(いちだいおめみえ)――すなわち、「半席」の家格に留まっているのだ。しかし、直人のそんな気持ちを知ってか知らずか、上役である徒目付組頭の内藤雅之は、直人に声をかけては頼まれ御用――不可解な人死や刃傷沙汰の、その裏側にひそむ「真の動機」を探ってほしいという、外から持ち込まれる調査依頼を振ってくるのだった。
――「年寄りってのは、青くて、硬くて、不器用な若ぇのが大好きなんだよ。おめえのことさ」
評定所や御番所、つまり裁判や奉行が行われる吟味の場では、罪を認める自白だけが求められ、「なぜ」という動機は問われないこの時代。その「なぜ」を探り当てる頼まれ御用を請けるということは、いきおい事件に関わった者たちの内面に分け入り洞察する、言わば“人臭さ”を伴う事案。であるがゆえに、目付の他の仕事よりも心惹かれるやりがいを感じるも、「半席、半席」と呟き唱えては、自身の目的を思い出して揺れ動く。そんな直人の成長物語を縦糸として、6つの奇妙な事件の「なぜ」を解き明かしていく、いわゆる「ホワイダニット」を中心に据えた連作時代ミステリにもなっています。
持ち込まれる事件の中心にいるのは、いずれも長年御用を務めてきた熟年、あるいは老年の武士たち。ある者は釣りの最中に突然、筏から堀に飛び込み水死してしまい、またある者は酒肴を共にしていた長年の友人にいきなり、刀を振ろ下ろした……。
罪は認めても「なぜ」には口を閉ざす科人(とがにん)の心に迫るため、その「なぜ」を射止める足がかりを、直人はつぶさに探り、仮説に結びつけていきます。そうして浮かび上がるのは、身分や組織のしがらみや凝りに縛られてきた老侍たちの、あまりに深い執念と葛藤、あるいは焦燥――そのやりきれない因果と真相が明らかになるごとに、これは全く今を生きるわれわれと他人事ではないという思いと、いつの時代も変わらない生きることの困難への強い共感を抱くとともに、少しずつ自らのあり方をも見つめ直していく直人の歩みと決断に、胸を打たれること間違いなしの、深く響き染みわたる一冊です。
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一代限りの御徒目付の直人が、先輩に頼まれた事件の「なぜ」を解き明かしていく物語。世襲が当たり前の時代に、なんとか役職を得たものの、一代限りの「半席」から、次の世代には御目見得のできる旗本になろうと頑張る直人。だが、役に立たない先輩雅人の依頼を断ることも出来ず、その仕事に面白さを感じる。
直人に感情移入できなくて、私にはイマイチだった。
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本書のタイトル「半席」って何ぞや?と思って調べてみたところ、当時は世襲で役職を継ぐ身分になるためには1人が2回御役目につくか、父子二代で2回御役目につく必要があり、その規定に達していない場合は一代限り「半席」の身の上である、ということだそうです。
主人公の徒目付(幕臣の監察をする役職)である片岡直人はまさにこの「半席」の立場であり、やがて生まれてくるであろう自身の子供たちには苦労させたくないとの思いから、何とか出世して「半席」の身の上から脱したいと考えています。そんな直人の元に上司である内藤雅之が時々非公式な「頼まれ御用」を持ってきて、事件の真相を探っていく、というのが各編の基本的なフォーマットになっています。
いつもの青山文平作品と違わず、渋いです。江戸時代末期という、ある種成熟した武家社会を舞台に、人間の奥深い部分に光を当てようとしています。個人的には1、2、6編目が特に面白く読めました。今の仕事は出世のための踏み台程度にしか考えていなかった直人が徐々にその魅力に引き込まれていく様も良かったです。
一定以上のレベルの作品ではあるのですが、各編で直人の身の上について似たような説明が繰り返し書かれているのはちょっといただけないですね。恐らくバラバラな時期に発表されたのだと推察しますが、初出時は仕方ないにせよ、単行本化の際には削るべきだったと思いました。また事件そのものも割とあっさり決着している印象で、もう一ひねりあればなあという欲張りな思いも抱いてしまいました。
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ミステリといっていいかどうかは正直、首をかしげるところ。「なぜ」をテーマにしているから、そうだといえばそうだろうが、時代性もあってなんとも言えない。しかし、通常の小説として読めば、その時代性が生きてくる。武士独特の矜持などが事件の背景にあり、その心情を読み解いていく過程と、事件を通じて成長していく主人公の姿が楽しい。
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良い本だった。
各編の最初の組織、役職の説明はなかなか頭に入らない所もあったが、ストーリーは見事なものだった。
とりわけ「六台目中村庄蔵」には、グッとくるのがものがあり感動させられた。
本書で青山文平は見事な作家だと再認識した。
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「半席」青山文平。新潮文庫。2016年。
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2019年5月に読了、細部は忘却。
直木賞を受賞された人らしいです。
なんとなく衝動買いした本。
読んでみたら、老人の話でした。
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老いた後、というのもなんとなく視野に入ってきた自分からすると、
「当たり前のことだけど、老人だから人間が円くなっているとか、人格が立派になるとか、そんなことは無いんだよなあ」
と改めて。
若い頃はなんとなく、老人になればココロは平穏なのではないか、とイメージしていたけれど(笑)。
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江戸時代。主人公・片岡直人は武士、徳川幕府の御家人。この主人公は老人ではなく、20代くらいの設定(だった気がする)。
御家人というからには「旗本」よりも格下で、将軍にお目見えできない。
ところが父親が頑張って色々お役目をこなして、主人公である息子の直人まで、父のおかげで「お目見えできる一代限りの立場」まで出世。
直人が、上司の覚えめでたく出世できれば「旗本」に上がれる。
出世できなければ、息子の代からは「御家人」に戻ってしまう。
この状態の人を「半席」と呼ぶそうです。
で、直人は「徒目付(かちめつけ)」という役目。これはつ、旗本御家人の不祥事を探索する、「人事部の下っ端」みたいなポジション(だったと思う)。
この役目の中で、魅力的な、大石内蔵助的な人格の上司がおり、その人に依頼されて、不祥事の中でもミステリアスな部類の事件の真相究明を頼まれる。
それらは言ってみれば「記録に残らないドブさらい的な仕事」なので、出世を考えれば無駄。気が進まないところもあるけれど、人のサガというか、業というか、闇の部分を覗き見ることがどこか興味深くて、ついつい受けてしまう・・・。
という、一応は事件帳の連作短編。
ここまでの仕掛けで、上手い設定をしたなあ、と感心します。オモシロイ。
肝心の各話各話は、全て老人と言って良い年代の男性武士たちが起こした謎めいた事件の真相究明。
「人生の黄昏」をどう迎えるか、みたいな哀愁多き視点です。
もっと破天荒なエンターテイメントにもできたと思うのですが、どこかしら「藤沢周平的な哀愁」をやりたかったのでしょう。
それは悪くはありません。嫌いぢゃなかった。でも、半分くらいは勧善懲悪でも良かったけど…。
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父は、御目見以上の役に就いて旗本になったが、その後役を解かれて御家人に戻った。一代御目見以上だった。片岡直人は、今の半席の状態からもう一度御目見以上になり、子も生まれた時から旗本である永々御目見以上になるのをを目指している。今の徒目付は、そのための腰掛のつもりであったのだが、次第に徒目付の表の仕事はもとより、徒目付組頭の内藤正之から押し付けられる幾つもの裏の仕事に魅力を感じていく。この裏の仕事とは、決着がついて刑が決まったしまった科人が、なぜそんな罪を犯したか明らかにするというものだ。謎を解くための着想を得る過程が、なかなかに面白い。その中で、片岡は成長していくのだ。片岡の心の動きを読んでいくのは、魅力的であった。終わり方も、さわやかでいい。
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【半席…半席…】
理とは言えないが、だからこそ〈人間くささ〉がにじみでる動機。
物語の舞台は武士の時代だが、その人間くささが、現代でも通じて、更にはほんとうに起きそうな「思い」を感じる。
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仮説を立てて検証をする。対象が違えど、心持ちは似たところがあるなと思いつつ、職場や上司との関わりを自身と比較しながら読んだ。我が身の行く末も考える「役替え」の読後感、面白かった。
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主人公の青年、徒目付の片岡直人、上役の内藤雅之をはじめとする登場人物設定、描写が素晴らしい。
科人すら「真の動機」が明らかにあると、「仕方なかったのか? 気の毒な、、」と思わせる。ある意味、潔さまで伝わるかと感じました。
一話完結の謎解きと思い、途中で読み止めてはいけません(^^) 6話で一冊、徒目付の片岡直人デビューの一冊になっているのかもしれません。続編出たら読みたいです。
テレビドラマにしたら、主人公青年より人気が出そうな渋い上役の内藤雅之で江戸のグルメ紹介を差し込み、街で家系図売りをしていた沢田源内のニヒル役が気になるでしょう。科人役もあじのある俳優が喜んで引き受けそう。青山文平さん、アッパレ!であります。
星が4つに留まったのは、他の方々が難しいと感想しているように、各話で繰り返し説明してくれている御家人の階級、組織、周辺の江戸言葉、欲張って投げ込み過ぎたかな? 私も歴史好きながら、何度か行を遡って確認する事があったので、辛い点にしました。