自らの境遇の主人公になるか、奴隷と化すか
2021/01/09 10:41
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投稿者:BenchAndBook - この投稿者のレビュー一覧を見る
激動のロシア革命期、フイクションではあるがロストフ伯爵に似た境遇に追い込まれた貴族は存在したのでは無いかと思われる。
久々のロシア的小説。海外ものはちょくちょく読むが、“翻訳”という過程があるせいか、馴染みの薄い比喩や言い回しがあるので正直、本の流れに乗るまでが時間がかかる。案の定、1/5くらいまで苦戦。
しかしニーナとの絡みやホテルという限られた環境での伯爵のいわゆる伯爵然とした振舞いなどに面白さや痛快さを感じ、面白く読めた。
最終章に至る経緯はニーナを思う気持ちによって自らの選択だったと思う。正に自らの境遇の主人公たらんとしたのだろう。
またロシア革命に対する自らのジャッジだったのではないかと私は思いました。
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投稿者:ニフィ - この投稿者のレビュー一覧を見る
軟禁されても折れない心は主人公生来のものだけではなく、その友人たちのあたたかさによるものだ。
メトロポールへ行きたくなった。
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何となく買ったのだが、面白かった。
ソビエトとなったロシアで、高級ホテルに軟禁されながら暮らす旧貴族が主人公。飄々とした魅力あるキャラクター造形が、ストーリー自体はけっこう重たい展開の中、作風を明るくしていると思う。『育ちの良さ』の表現としてはかなり素晴らしいものではないだろうか。
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書名からロシア文学だと思うかもしれないが作者はアメリカ人。原作は英語で書かれている。原題は<A Gentleman in Moscow>(モスクワの紳士)。邦題は主人公アレクサンドル・イリイチ・ロストフが帝政ロシアの伯爵であることに由来する。小説が扱うのは一九二二年から一九四五年まで。小説が始まる五年前の一九一七年、ロシアでは二月革命と十月革命が起きている。貴族には、亡命、流刑、投獄、銃殺など、悲惨な運命が待っていた。
暗い予感に躊躇するかもしれないが、早まってはいけない。主人公のロストフ伯爵は銃殺刑を免れる。革命前に書いた詩が人民に行動を促した事実が認められたのだ。従来どおり、モスクワの超一流ホテル、メトロポールに住むことを許される。ただし、部屋は最上級のスイートから屋根裏部屋に変わる。ホテル外に一歩でも出たら銃殺刑という処分。貴族のプライドを傷つけ、自由を奪う、見せしめの刑である。
伯爵は意気消沈したか、それとも自分をこんな目にあわせた相手に復讐を誓っただろうか。自暴自棄になっただろうか。とんでもない。名づけ親である大公の「自らの境遇の奴隷となってはならない」というモットーに従い、新しい境遇を受け入れ、第二の人生に足を踏み出してゆく。伯爵は逆境を前向きにとらえ、新生を愉しむ。その姿はむしろ明るく颯爽としている。
この伯爵という人物が実に魅力的だ。小説の魅力の大半はこの人物にかかっている。当意即妙の話術。文学や音楽に関する教養。人を惹きつける態度物腰。人間観察力による客の差配。料理の選択とそれに合わせるワインに関する蘊蓄を含め、貴族として持ち合わせている資質に加え、主人公だけが持つ人間的魅力に溢れている。
貴族とか紳士とかいう人々はこんなふうに生きているのか、とその優雅さにため息が出る。何しろ、父が作らせた時計は一日二度しか鳴らない。紳士たるもの時間に縛られてはならぬのだ。朝起きたら、コーヒーとビスケット、果物を摂り、昼の十二時に時計が鳴るまでは読書。<ピアッツァ>で昼食を楽しんだ後は好きなことに時間を費やす。晩餐はレストラン<ボヤルスキー>でワインを伴に、食後はバー<シャリャーピン>でブランデーを一杯。そして夜十二時の時計の音を聞く前に眠るというもの。
机の脚に隠された金貨の力もあり、欲しいものは取り寄せる。外に出ずとも暮らし向きに不自由はない。午前中は読書で時間がつぶれるが、午後の無聊をどうしたものか。主人公を退屈から救うのが少女ニーナとの出会いだ。仕事に忙しい父親に放っておかれたせいで、ニーナはホテルを遊び場にしていた。伯爵はニーナに案内されホテルのバックヤードに通暁する。秘密の通路や隠し部屋は単なる遊び場所ではなく、後に出てくるスパイ活劇での出番を待つ。伯爵と少女との会話がチャーミング。
貴族にロマンスはつきものだが、外出の自由を奪われた男は女とどう付き合うのか。密室物のミステリ同様、軟禁状態での色恋は不可能に思える。伯爵はコース料理はメインディッシュから逆算してオードブルを選ぶ。同様に作家はストーリを組み立てる時点で、後から起きる事件の原因を先に置く。綿密に練られたプロットがあって、多くの伏線が張られている。二度読みたくなる。ああ、これはこのためだったのか、と膝を叩くこと請合い。
ホームズ張りの観察眼の持ち主である伯爵は、レストランで客をどの席に案内するのが最適か一目でわかる。その特技を生かして給仕長となる。マネージャーのアンドレイ、料理長のエミールと互いの力量を知る者同士の間に友情が芽生える。その一方で、伯爵の前に一人の男が立ちふさがる。給仕のビショップだ。党の実力者にコネがあり、権力の階段を上ってゆく。この男が伯爵の宿敵となる。
敵がいれば味方もできる。グルジア出身の元赤軍大佐オシブがその一人。外交上の必要から伯爵に英仏語会話やジェントルマン・シップを学ぶうち肝胆相照らす仲になる。もう一人がバーの相客リチャード。アメリカ人ながら育ちの良さや学歴、と共通項のある二人はすぐに打ち解ける。リチャードがプレゼントした蓄音機とレコードも大事な伏線のひとつ。
革命時、パリにいた伯爵は身の安全を図るなら帰るべきではなかった。祖母の国外脱出を援けるためなら自分も一緒に逃げればいい。戦いに加わらないのに、なぜ国内にとどまったのか。それには深い理由があった。新しい友との出会いの中で、過去の経緯が語られる。伯爵の衒気が敵を作り、最愛の妹を傷つけたのだ。王女をめぐる軽騎兵と貴族の恋の鞘当て。ツルゲーネフの小説にでも出てきそうな過去の逸話が伯爵の人物像に陰翳を添える。
貴族であることを理由に処分されながら、伯爵は一概に革命後のソヴィエトに対して批判的な立ち位置をとらない。むしろ、時代というものは動いてゆくものだ、と冷静に受け止めている。しかし、スターリン独裁による粛清やシベリアの収容所という現実は、自分の友人知人の運命と直接関わってくる。ニーナに代わり、その娘を育てることになるのもニーナの夫のシベリア送りがからんでいる。
三十代から六十代までの人生を、伯爵はホテルの外に出ることなく、友達に恵まれ、女性を愛し、「娘」を授かり、子育てを経験し、やがて立派に成長した娘を外の世界に送り出す。どんな時代にあっても、どんなところに暮らしていても、人と人とは邂逅する。階級差やイデオロギー、国籍を超えて、人は人と生きてゆく。近頃珍しい人間賛歌が謳いあげられる。
ひとつの街のように、まるで異なる人生を生きてきた人と人が、ひと時のめぐり逢いを生きる、ホテルという場所を生かして、魅力的な登場人物を配し、ここぞというときに動かす。それまで軽い喜劇調で進んでいた話が、最高潮に達すると、ル・カレのスパイ小説のようなシリアス調に変化する。はじめに張っておいた伏線が次々と回収され、見事に収斂する。
格式あるメトロポール・ホテルの調度は勿論のこと、大きなフロアを泳ぐように動き回る給仕たち。様々な食材をさばくレストランの調理場。林檎の花咲きこぼれるニジニ・ノヴゴロド。ライラックの蜜を求めて蜜蜂が群舞するアレクサンドロフスキー庭園、と魅力溢れる風景が眼の前に浮び上る。まるで映画の一シーンを見るようだと思っていたら、映画化も決まっているという。アンドレイのナイフ四本のジャグリング、エミールの包丁さばき、と見どころは多いが、演ずる役者もさぞ大変なことだろう。
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1922年ロシア革命後に軟禁刑になったロストフ伯爵。ロシアの高級ホテルの屋根裏部屋で過ごすことになりホテルから一歩でも外に出れば銃殺刑に。ホテル内の閉ざされたなかでも伯爵は背筋を伸ばし紳士として周りを思いやりながら生活する。ホテルスタッフたちとの交流、友情、少女との出会い。そこからの鮮やかな日々。軟禁という生活のなかでも心持ちでかわる日常の色。ユーモアを忘れず人との時間を大切にし自分にできること、やらなければいけないことを見つけそれをまた人に返していく。狭い世界に閉じ込められても出会った人、見つけたもの、その全てが愛おしく思えるようなとても素敵な物語。
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装丁のブルーグリーンに惹かれて手に取り、見返しを読んで購入。まだまだ始めなのが嬉しい。久しぶりに好きな本見つけた。どんな風に進むのか不安もあるけど、とにかく今は出会えて嬉しい。
読み終えて、、、
初めは、気持ちの穏やかさや品格の良さの持つゆったりとした印象が心地よいと思った。甘かった。最後の方は心配でしばらく読めず。意を決して読み始めたら気になりすぎて落ち着いて読めず。
哲学書のような捉え方もできる。歴史書でもある。そしてもちろん物語でもある。
午後もう一回読もう。
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ビルゲイツがこの夏読むべき5冊の本にあげていたのでふーんと思いながら読んでみた。
確かに境遇に対して楽天的で、主人公の生い立ち、教養、人間力みたいなものが彼を魅力的にしていたと思う。
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長い。しかし面白い。
本文600頁を超えるのに、特漉き用紙を使っているのか、少し部厚いくらいの製本になっている。
歴史ある高級ホテルの室内装飾を思わせるカバーの色使いも、この本にふさわしい上品さを感じさせてくれる。
いまなおNYTのベストセラー・リストに名を連ねているのも納得できるもので、これをしっかりした造本で翻訳出版してくれた早川書房に感謝。
翻訳も読みやすい。
しかし、この小説の著書はてっきりイギリス人と思って読んでいたらアメリカ人で、しかも投資家だったと記されていてびっくりした。
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名作。
ホテルに軟禁された32年間が、ゆっくりと進むところと
あっという間に過ぎ去るバランスが絶妙。
登場人物もとても魅力的。
再読したい。
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32年間のホテルでの軟禁生活。ホテルでの出会いや事件を通して強くなる人々との強い信頼関係。それは揺るぎ無い伯爵の人間性なのだろう。読後感がとても良かった。
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なんと言おう。今年最高の読書体験。ベスト1。
軽くネタバレですが、ロシア版ゴージャス『ショーシャンクの空に』。何度笑い泣きしたことか。金箔を効果的に使った装丁も大好き。
ロシア革命により生涯を豪華ホテルの屋根裏部屋に軟禁されることになった伯爵が、死を考えながら幾度も生きる意味を見つけ、人と絆を結んでいく。
もともとホテルが舞台の話は好物なので、舞台となっているモスクワ・メトロポールという実在する超一流の宿の、細かく書き込まれた舞台裏も、プロに徹するスタッフの仕事ぶりと人柄も、すべてが極上の味として刻まれました。
抜き書きしておきたいセリフ、場面、考察がたかさんあるけど、「自らの境遇の奴隷となってはならない」が今の自分にはいちばん響いたな。歳だから、忙しいから、柄じゃないからとあきらめたり、夢見ることすらしなくなったことが、どれだけ私の人生を貧しくしてきたか。
ってわけで、ランチ時間に皇居の散歩にでかけてみたりね。
そんなふうに行動を変えてくれる本ってそうそう出会えない。
ずっと読んでいたかった。味わっていたかった。
ありがとう!!
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不思議な小説。帝政ロシアからソ連へと変わる時代を舞台とする。主人公のロストフ伯爵は裁判で、メトロポール・ホテルを出たら銃殺という刑に処される。ロストフ伯爵が暗い人生を歩むのかと思いきや、ワインホテルの食事を楽しみながら、それほど不自由ではない生活を送る。転機はソフィアという子供を預かったところから。父親はシベリア送りで、母親は夫を追いかけていくという状況なので、本当の家族が一緒になるのは絶望的である。ソフィアと伯爵の奇妙な生活を長らく送り、大団円へと向かう。
伯爵を客観視すると、軟禁状態ではあるものの、外出できないだけで不自由なく生活しているように見える。でも、事はそんな単純ではない。自由とは何かを考えさせられるし、他人を娘と思う、そして父親だと思われることに対する人間としての思いなども作品を通して伝わってくる。
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ロシアと言うと、本だとトムロブスミスのチャイルド44、絵画だと奇しくも作品内でもあがっていた雷帝が自分の息子を殺しちゃうやつ、映画だとナイトウオッチャーとかからのイメージがメインだった。知らない(想像もしなかった)ロシアがそこにあった。こんなに愛すべき魅力的な人々で溢れた国なの?(失礼)というのが正直な感想でした。
面白かった。
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革命を経て、帝国から共産国へ変わったロシア(ソ連)。貴族だからという理由での銃殺刑を免れ、モスクワの名門ホテルに生涯軟禁されることなった元伯爵の物語。
宝塚に、「神々の土地」という芝居の演目がある。おそらくいま最もヅカファンから支持されている座付き作家上田久美子さんの作品で、30年以上宝塚ファンの私がもしかしたら一番好きかもしれない演目である。帝政崩壊・革命のきっかけともなったラスプーチン暗殺の実行者として知られる、時の皇帝ニコライ二世の従弟 ドミトリー・パヴロヴィチ・ロマノフが主人公のモデルになっている、美しく重厚な作品だ。ストーリーが登場人物を動かすのではなく、登場人物がストーリーを作っている感じがとても好きだ。
それが頭にある状態で読み始めたのだけれど、この小説は全然「神々の土地」とは違った。悲壮感はごく薄く、どちらかというと軽やかでユーモアに溢れた物語だった。
元伯爵も彼と関わりあう登場人物たちもとても魅力的で、温かく、ロシア人に対して私が抱いていたイメージ(というより偏見…)が変わった。
「ここで終わってしまうの?」という幕切れだったけれど、この後の展開を自分なりに想像するのも楽しい。この小説「以後」の伯爵の人生について、きっと人それぞれ想像することが違うんだろうな…
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2019年の緊急事態宣言時に購入
閉ざされて世界で生きることになった男の話を、あえて、むしろ救いを求めて読む。でも「感動するぞ!」と意気込まないとやってられない様な状態に世界が一変した為、感覚のバランス(この本を買った理由と価格に引っ張られ過大評価しないか)が保てなくなり、また非常に仕事が忙しくなったため中断
2020年、再挑戦
1922年、モスクワ。
革命政府に無期限の軟禁刑を下されたロストフ伯爵。
高級ホテルのスイートに住んでいたが、これからはその屋根裏で暮らさねばならない。
ホテルを一歩出れば銃殺刑が待っている。
ホテルでの軟禁生活が始まったばかりの頃に出てくる
「自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」この言葉が、物語全体のテーマ
ホテルのレストランで出会った
少女ニーナ(父親の都合でホテルに篭りきりホテル内のありとあらゆる場所を熟知)
伯爵の旧友ミーシカ(伯爵を訪ねてくるクセのある文学者の親友)
ホテル内のレストラン料理長のエミール(美食を追求する、ちょっと短気)
マネージャーのアンドレイ(魔法の様な仕事ぶり)
裁縫師のマリーナ(伯爵がやたらと迷惑をかける)
ホテルを訪れた女優のニーナ(女優としての再起をかけ奮闘中)
…様々な人と出会い。交流を深めていく、どの人も印象的で伯爵は生活の中に変化と希望を見出す。
章が進むにつれ
過去の出来事や、出会いが意外な形で問題を起こしたり、または思わぬ解決を招いたり。
ロシアで起きた変化に沿って、翻弄される人も出てくる。
全てが一律に良いことに向かうわけではなく、現実と同じく悪いことも起こる。
数週間、数年単位で進む日々が記されているが、一日一日を懸命かつ優雅さを忘れずに生きている。
これは、駆け足で読むのはおすすめしない。
じっくりと読むべき。
(読み直して正解だった)
そして、コロナの問題がよぎる。
私達も家を出ることが出来ない。
出たとしても最低限の買い物や用事を済ませて帰る生活の中で、家の中での楽しみ方を模索する人達をニュースで見かける。
私はそれを「頑張るなぁ」くらいに冷ややかに見ていた。だけど楽しむ工夫を凝らしたり、何でもない日々の中で起きたことをSNSに投稿したり、誰にも公開せず日記をつけたりすることは、それも「日々を見つめ直す行為」なのではないかと、この本を読んで気付かされる。
無理をする必要はないはず、でも「受け入れる」よりも良い答えを探そうと動く方が良い気がしてくる。
久しぶりに「生きてるうちに必ずまた読もう」と思う物語だった。