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紙の本

結婚は人生の大喜利か

2011/08/02 00:29

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る

ガルガンチュアとパンタグリュエルのシリーズも好評に付き第三弾ということなのだが、すでに序文で「第七八の書」云々などと調子こいたことを言っていて、これは半分は笑いとしても、前二冊の好調から気が大きくなっていたのであろうドヤ顔が目に浮かぶようだ。今回の主役はパンタグリュエルの腹心にして親友、そしてもう一つの自我でもあるパニュルジュであり、気宇壮大でありながら小心者というキャラ立ち具合は愛すべきものだ。
パンタグリュエルが父ガルガンチュアを救い出した戦争での功績により小領主の地位に収まったパニュルジュは、いっぱしの王気取りで散財するが、それを咎められると経済活性化のための財政出動であるうそぶく。なるほど現代でも通用しそうな理屈であり、詭弁と呼ぶには当時の倫理観をもってするしかない巧妙さだ。
かつてはヨーロッパ各地を放浪し、何カ国語も操り、各地の事情にも文献にも精通しているパニュルジュだが、理屈ではどうにもならないことがあって、それは結婚だ。たぶんそれは人間が理性を失った瞬間のことだから。彼は結婚すべきかどうかについての悩みをパンタグリュエルに打ち明けるが、聡明な王パンタグリュエルとて納得できるような答ができるはずもなく、かくしてそうそうたる学者を揃えての論争、さらにパニュルジュは予言者を求めて各地をさすらうことになる。そして彼らの言葉の解釈を巡って、喧々諤々の大論争を繰り広げるのだ。
いずれも論争と言うにも稚拙な屁理屈、ごたくの類いに過ぎないのだが、それぞれにとっときの持論を持ち出して主張せずにいられない彼らの思い入れに微笑が湧く。結婚した者、しない者、失敗した者、問題を抱えている者、それぞれの苦悩やら助言したいことやら、誰しも一家言あるらしく、いやあるに違いなく、しかし普段の彼らとは大違いの論理性をまったく欠いた言い草の情けなさに笑いがこみ上げてくる。そこがすべての男にとってのウィークポイントだったわけだ。
とうとう決着はつかず、パニュルジュやパンタグリュエル達は打ち揃って神託を求める旅に出ることになって、続編に乞うご期待と相い成る。あはは、馬鹿だねえ。なんて大袈裟な。そもそも想う相手がいるわけでもないうちからこの騒動。おまけにパンタグリュエル自身の結婚問題だって残っていた。
戦争や大暴れもなくやや地味な展開だが、論争の背景にある、思想や占いや予言などへの鋭い批評眼と、人々の内面のギャップが楽しい。いかにも高尚そうな口吻と対象的に下品な内容が、身も蓋も無く痛快だ。

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2023/12/25 22:54

投稿元:ブクログ

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