SF・青春み多め
2019/12/16 00:41
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コピーマスター - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはいかにもSFファンによるSFだと思う。作者のSF好きがひしひしと伝わってくる。そして青春み多めである。青春といえば、恋愛、冒険、ノスタルジー等が容易に連想されるだろうが、「自分より圧倒的に賢い他者の存在に打ちのめされる体験」という青春的でもありSF的でもある要素がこれらの小説たちに色濃く出ている。圧倒的な賢さを描出するには同じく相当な程度賢くなければならないのであるから、作者の才能は言うまでもない。表題作も面白いが、本書の最後の2編『シンギュラリティ・ソヴィエト』、『ひかりより速く、ゆるやかに』(本書書下ろし)の完成度はずば抜けている。正直言ってこの2編だけでも読む価値ありだ。きわめて技巧的につくられている作品であるものの、こういう小説こそ分析的に読もうと構えてかかっては勿体ない。目の前に展開される物語にひたすら没入するに限る。
まず試し読んでほしい
2019/11/23 13:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りー - この投稿者のレビュー一覧を見る
とりあえず何も言わずにはじめの数頁だけ読んでみてほしい。ここで「お、これは!」とあたりをつけたあなたは既にSFファン層だろうからそのまま買うべきだ。「え、これどういうこと?」と思ったあなたは今、SFファンになるための一歩を踏み出している。そのまま買うべきだ。SFは元来読みにくい作品が多い。僕自身、スターシップトゥルーパーズに遅れをとりSFアレルギーを患った。本書は視覚化しやすい優しい描写によってSFジャンル開拓のハードルを下げ、かつ往年のSFファンも満足させる本格派SFの良書である。
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:めいりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
伴名練『なめらかな世界と、その敵』読了。年刊ベストSFで読む度に「読ませるなあ」と思ってた作家の初短編集。読むほどにエモい。どれも秀逸だけれど「美亜羽へ贈る拳銃」が白眉。SFにはまだまだ新しい趣向、想像力、可能性があるものだと読後のわくわく感が心地よい。
若々しくてアイデアが煌めいたSF傑作選
2019/10/28 22:29
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここ数年のSF誌でちらほら見掛けつつもよく知らなかった伴名練さんの短編集。脳外科ナノマシンを題材にした伊藤計劃のトリビュート作品「美亜羽へ贈る拳銃」、人工知能同士の東西冷戦モノ「シンギュラリティ・ソヴィエト」共に世界観もガジェットもとても良い。
何といっても最後の「ひかりより速く、ゆるやかに」は超絶ストライクなタイムリープSF。修学旅行生が新幹線ごとタイムリープしちゃう、って有りそうなプロットなんだけど、それを修学旅行に行けなかった生徒の側から描き切る筆力がすごい。時間の壁を超えて会いに行くために編み出した方法も面白い。
時間を扱ったボーイミーツガール系傑作といえば、桜坂洋さんの「All You Need Is Kill」だと思ってるんだけどアレを高校生の時に読んで以来の衝撃だった。メインの舞台には新幹線と高校生とマスコミとスマホとバイクしか出てこないのに、個性的で若々しい傑作タイムリープSFに仕上がってる。お見事です。
投稿元:
レビューを見る
表紙がラノベ調であるように、本書のノリは割と軽やかで、普段SFを読まない人にも入りやすそうだ。一方で、本作のリファレンスとなっている数多のSF作品を知る人にとっては、それが出汁のようにじわじわと美味しさを感じさせてまた面白い。どれくらい面白かったかというと、読み終わりたくないので途中でわざと停止したくらいだ。
個人的に気に入ったのは、リアルタイムPSYCHO-PASS状態と東西冷戦をお題にとった「シンギュラリティ・ソヴィエト」。
表題作は、(波動関数という単語は出てこないのですが、)私的ジャンル分けをするなら波動関数SFで、美しい描写とともに百合が美味しい。
「美亜羽へ贈る拳銃」には、伊藤計劃の『ハーモニー』『The Indifference Engine』、梶尾真治の『美亜へ贈る真珠』、イーガンの『しあわせの理由』など が”聖書”として出てきます。実際”聖書”にしているSFファンに対しての若干メタい言及もあり、これら新旧の名作SFが与える本歌取りの奥深さに大満足です。
投稿元:
レビューを見る
全部傑作。年末にふさわしい一冊で、年初のランキングも期待大。みんないいけど、個人的には、美亜羽と、ソビエト、そして最後の書き下ろしがツボ。イーガンとか読み慣れてるとそんなに珍しくないのかもしれないが、それぞれ、日本の新しいSF、を感じさせてくれる。
投稿元:
レビューを見る
「なめらかな世界と、その敵」★★★★★
「ゼロ年代の臨界点」★★★★★
「美亜羽へ贈る拳銃」★★★★★
「ホーリーアイアンメイデン」★★★★
「シンギュラリティ・ソヴィエト」★★★★
「ひかりより速く、ゆるやかに」★★★★★
投稿元:
レビューを見る
ハヤカワの百合アンソロジー『アステリズムに花束を』で知って、期待していた伴名練。角川ホラー文庫も良かったので、本書の刊行も楽しみにしていた。
アンソロジー収録作とホラー文庫を読む限り、キャラクター小説寄りの作風なのかと思っていたが、本書は所謂『キャラが立った』タイプの短編が主体ではなかったように思う。
どうも寡作な作家のようなので、出来ればコンスタントに作品を発表して欲しいのだが、どうなるだろうか……。
投稿元:
レビューを見る
書き下ろし『ひかりより速く、ゆるやかに』は、新海誠監督『君の名は。』『天気の子』へのSFからの返答のように思えた。セカイ系がもはや当たり前になりすぎた世界で、それを作り出す大人は責任を取るのか取らないのか、という問題が引っかかり続けていた僕にはこの短編の態度が正しいと思う。
投稿元:
レビューを見る
作者は最近の日本SF界では元々それなりに名が通った方であるらしく、出版前から話題になっていて気になった。
実際に読んでみるとどの短編もクオリティが高く、何より丁寧に物語を作る人だな、という印象。
全部よかったが、個人的には「美亜羽へ贈る拳銃」「ホーリーアイアンメイデン」「光より速く、ゆるやかに」が特に良かった。
投稿元:
レビューを見る
表題作を含む短編6つからなり、特定のサブジャンルに偏ることなく幅広くSFを楽しめる良作。
展開を支えるギミックに強引さを感じる箇所がないとは言えないが、SFであるために多少それは許されるだろうし、何より各短編の基になっているアイデアとそれを描く文体や小説構造が素晴らしい。特に表題作は文体が凝っていて、世界観が明らかになった後に改めて読み直しても面白い。トラックを走るシーンの美しさは必見。
フィクション/ノンフィクション、SF/偽史の境界について考えさせる「ゼロ年代の臨界点」や、AIと共産主義の相性の良さに触れた「シンギュラリティ・ソヴィエト」など、はっとさせられるテーマもあって、SFライト層でも十分楽しめた。
SF好きには勿論、メタフィクションが好きな人にもおすすめ。
投稿元:
レビューを見る
冒頭の表題作を読んでやめようかと思ったけど、なんとか最後まで読み切ったら、残りの作品は表題作よりはよかった。
ただ、これがSFか?という疑問は拭えない。確かに想像力は素晴らしいと思うが、作者の思い通りに何でもありにしてしまってはついていけない。
あと、設定に合わせるために無理にプロットをこじつけて最後に説明的になりすぎているため興ざめしてしまう部分もある。
「シンギュラリティ・ソヴィエト」が、結末を除いて設定としてはよかった。
投稿元:
レビューを見る
どの短編も正直文句なしの面白さだが、もはや自分が旧世代の老人であることをいやがうえにも自覚せざるをえない。ドラマティックだし、エモいし、メタレベルで0年代の自己批評的深みもある傑作ぞろいだが思うが、それでもやはり「三体」のスケール感とSF大風呂敷のほうがおもしろかった。これはもう、おれの個人的な(年齢の)問題でしかないがw
投稿元:
レビューを見る
SF短編集。普通は短編に星は付けないのだが、良かったので。
表題作は人類が無限にあるそれぞれのパラレルワールドへ自由に行き来出来る世界において、事故でその能力を失ってしまった友人との物語。人間は辛いことから幾らでも逃げられる世界。その中でたった一つの人生しか得られない高校生。うーん自分だったら耐えられるか?
その他にも、インプラントでどんな感情でも自由に制御できる時代における恋愛とは。SFでありミステリであり恋愛小説であるこの作品も良い。主人公の恋心に痛みを感じ、共感もでき、結末はまぁそうなのだが、感情とは何かを考えさせられる作品だった。
米ソの宇宙開発競争で、ソ連が先に月面へ到着していた話。東側のIT技術が自由主義陣営よりも格段に進んでいる世界も面白い。
特に好みであったのは、修学旅行帰りの高校生らを乗せた新幹線のぞみ123号が、突然時間の進行に後れを生じ、通常世界の1/2700に減速してしまう話。車両の内部にはアクセスできず、車内の人間は1/2700のスピードで普通?に過ごしている。目的地名古屋駅到着見込みは2,700年後!外側では車内で生き生きとして且つ殆ど止まっている高校生をコンテンツとして費消し尽くしていくなど騒ぎは拡大していく。そんな中、今度は航空機が同様の事象を起こす。
世界的に高速の移動が恐れられ、極端に移動が減少し経済がシュリンクしていく中、当時修学旅行を欠席した二人の男女が車中のクラスメートを救出すべく奮闘する。
いずれの話も発想が良くて楽しい。長編を読んでみたい。
追記:このSFが読みたい 1位受賞
投稿元:
レビューを見る
寡作ながらも発表される短編SFはどれもこれもが年間ベスト級というとんでもない作家・伴名練の待望の短編集。
収録作品は革新的な技術が発明された未来の世界が舞台であったり、架空のSF文学史であったり、歴史改編ものであったり、書簡体小説であったりとバラエティに富んでいる。しかしただ書き分けられる技術があるというだけでなく、その技術を用いてキャラクターの巨大な感情をぶつけてくるので、たまらなくやられてしまう。
個人的には、なかでも書き下ろしの「ひかりより速く、ゆるやかに」をオススメしたい。未曾有の災害に直面した現代日本が舞台となるのだが、災害に対するマスコミやネットユーザーなどの反応があまりにもリアルに描写されている。この2019年現在の社会を正確に掬いとっているので、ぜひ早いうちに手にとってほしい。
ちなみに本書の刊行に合わせてSFマガジン10月号と早川書房のnoteに掲載された「あとがきにかえて」も必読の内容となっているので是非チェックしてください。読書意欲が刺激されること請け合いです。