紙の本
「ナポリの物語」完結編
2021/12/28 14:04
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ナポリの物語」の完結編。英語圏で大ブームとなったというのもわかる、ページターナーな四部作であった。二人の主人公を通してナポリという街の二十世紀史でもある。
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失われた女の子
著作者:エレナ・フェッランテ
早川書房
世界中の読書家を魅了している第4部作品。
タイムライン
https://booklog.jp/edit/1/4152099070
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読み終わってしまった。物語を通してリラ・エレナそれぞれの心にはたどり着けなかったけど、彼女たちの"経験"は私の過去の一部だったし、現在の一部であるし未来の一部になるのだと思う。
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終わってしまった…読み終わったばかりでまだ咀嚼しきれていないけれど、とりあえず読みながら考えていたのは、これほど女性の友情をリアルに率直に描いた作品を読んだのは初めてかもということ。全く違う個性の他人同士がお互いに惹かれ合い、気が合い、友達になる。相手への共感や憧れ、好意、信頼だけでなく、相手には負けなくないという気持ちや嫉妬、反発もある関係。お互いに相手の全てを受け入れられるわけではなく、嫌悪感を持つところもあったりする。長い人生の中で親密な時もあれば離れる時もある。それでもお互いが唯一無二の存在である。とてもとても複雑な、一筋縄ではいかない関係。ある意味、恋愛関係よりも濃くて深いかもしれない。リナが特別に複雑なキャラクターを持った人だから、エレナとの友情は余計にこんがらがって見えるけれど、多くの女性が経験したことがあるはずの女友達に対する様々な感情がとてもリアルに描かれていると思った。
時代や地域性や社会、家族との関係、男性との関係もきっちり描かれていて、骨太な、読み応えのある一作。
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3年がかりで刊行された「ナポリの物語」が、遂に完結した。してしまった。最終巻を読みながら、残り少なくなっていくページが惜しくて惜しくて。ずっと、このなかにいて、リラとエレナを見ていたかった。
最終章を読み終えて、一巻の冒頭へ戻り、また反芻して。。面白い本は、読み始めて数秒でブラックアウトする感覚があり、このシリーズはずっとそんな幸せな感覚のなかで読んだ。ページを開くと、私もナポリの町に居る。貧困と、暴力と、噂話と、男達女達の駆け引きと、金と、クスリと、ありったけの生にまみれたあの「地区」へ、私も運ばれていく。
リラと私、ことエレナの手記として始まるこの長い物語。リラは極端で、野生動物のように獰猛で美しく、身を持て余すほどの知性がある。エレナは幼い頃からそんなリラに対して、憧れ、友情、嫉妬、恐れ、時には憐みと、非常に複雑な感情を常に抱きながら、1950年から現代までを離れたり戻ったりしながら共に生きる。
「本」はこの作品の重要な媒体で、リラの溢れる知性のはけ口も、エレナの生涯の糧も、「若草物語」を二人で読んだことから始まる。
本心をなかなか語らないリラ。苦学に次ぐ苦学の末、作家としての地位を確立したエレナに、自分の物語を託したのだろうか。きれいさっぱり、自分は、跡形もなく(では、なかったのは最終巻でわかる)消えることを望みながら。
この物語には、わかりやすい人間関係はない。混沌は時代の空気と土地の空気を混ぜこぜにしながら進む。悪人と善人には分つことができない人間性。時代によって、環境によって変わる価値観。愛でさえ絶対なんていうことは無い。
エレナが、母の臨終のとき、やっと分かり合える場面の描写にはぐっときた。フェミニズム的要素も多く、いかに女性は女性であるだけでかくも辛い思いをするのか、その時代にあってエレナの自立は胸を熱くする。それでも、わかりやすく原因と結果は書かれない。常に登場人物はみんな迷いの中で混沌として生きている、だからこんなにも深く入り込んでしまうんだろう。
リラとエレナはもちろん、それ以外の登場人物全ての姿形、バックグラウンド、声や話し方が頭の中で出来上がっている。それを読む者に伝える描写力が素晴らしい。全員が本当に、生きて、ある者は死に、狂い、再び返り咲きを繰り返す。
読み終えて思うのは、世の中だれのなかにも物語がある、それが形を成していなくとも。どんな人にも全て、だということ。
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いよいよ最終巻。1〜2巻の華やかな展開に比べ、3巻はフェミニズム、政治を中心に勝ち目のない絶望的な圧で喘ぐ2人にこちらも息ができなかった。4巻は2人の安定な暮らしの危うさとリナの脆さの秘密がちらりと見えてそして。読み終えてしまった。初めて「リラとわたし」を手に取って夢中でページを繰った、2人に出会えたあの日に戻れたらと思う。
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HBOでドラマ化もされたイタリアのベストセラー、ナポリの物語全4巻。とにかくはちゃめちゃに長い本なのだがあらゆる時間を削っても読ませるドライブがある。貧困と暴力にまみれたナポリのある地区。幼馴染みの女の子二人の幼少期から60年以上に渡る愛憎の物語。
このお話は主人公のレヌーとリラの友情物語として紹介されることが多いようだけど、ただの友情物語では終わらず、猟奇的な「地区」に翻弄され縛り付けられる人間たちを群像劇的に描いた物語として読んだ。
主人公はレヌーでありリラであるけれど、同じ地区に暮らす女たちの物語であり、ソラーラ兄弟の物語でもある。
地区での日常が書かれる中に、イタリアならではの家族関係の濃さと愛の深さに時には救われながら、同時に首をまかれるような描写が随所に見られて面白い。
一巻でリラの結婚式と前後して唐突に(そこに至るまでの話はほぼなかったと思う)兄リーノと義妹の結婚エピソードが挟まれるのも、家族関係という鎖がじわじわと、かつあくまでも自然に自由を奪っていくような感覚にさせられる。
三巻に描かれる、努力と優秀さによって地区を抜け出せるかに見えたレヌーがソラーラの食事会に巻き込まれる部分はより象徴的で、うすら寒いような怖さがあった。
正直、レヌーの結婚後のリラがあまり出てこない辺の描写とか、いろんな人が道ならぬ愛に突き進みすぎるところとかついて行けなくなりそうな場面もいくつかあったのだが、4巻に入ってから幼少期や青年期の体験が伏線になっていることが分かったりなど、加速度的に盛り上がり、読み通してよかったと感じられた。
(一巻、ほぼ最初のドン・アキッレの家に行くくだりにすらも!)
一巻ラストの靴をめぐるエピソードは本当にドラマチックで続きが気になりすぎる仕掛けがあるし、上手い書き手の人なのだと思う。いくらなんでも多すぎる、そして名前が似すぎている登場人物たちを分かるように読ませる翻訳も素晴らしい。
私が一番お気に入りの登場人物はアルフォンソです。彼にまつわるエピソードの全てが美しく哀しい。
超貴重な常識人だし…
レヌーとリラの関係性については、二人を一つのものから分かれたもの、アダムとイブの挿話さながらにリラが自分から分離して作り出したものとしてとらえたときの愛憎や葛藤を追っていくと面白いと思うが、これは再読時の課題としたいと思う。
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4部作を一気に読んだ。長く濃密な旅路だった。
世界的ベストセラーになったのは、あらゆる境遇の人の共感を得やすいからだろうか。二人の主人公と言うべきエレナとリラは共にナポリの貧しい地区出身で、中学にすら行く子供が珍しい環境で育つ。しかし、共に素晴らしい頭脳を持ちながら、教育を受ける機会を獲得し都会に出て徐々に知識人・中流階級へ仲間入りしていくエレナとは対照的に、リラは進学を阻まれ10代で商店主と結婚し、以降の人生もナポリの地に根を生やし続ける。しかし2人の友情は、互いへのごく繊細な愛情・羨望・憎悪・嫉妬をない混ぜにしながら、一種の複雑な共依存の様相を呈し、生涯にわたって続くことになる。
一巻の後書きには「女の友情」を特有のものとして触れる文もあったが、私はこうした関係が女性同士に特有なものとは思わない。深い愛情と敵対心と相手の上の立場にありたいという見栄や欲望が両立した複雑な「男の絆」を描く作品は古来より数多いではないか。一般的に女性は男性よりも人間関係への観察力や洞察力が発達する傾向にあるため表層の仕方に性別による差異はあれ、女の友情は醜い、ドロドロしている、という手合いの話は大嫌いである。
高い教育を受け、作家として成功し、有力な政治家一家と婚姻し、インテリ階級の一員になってからも、ナポリ出身地区の「階層」にアイデンティティのかなりの部分を有しているエレナの視点は、土着の故郷を持たない身には新鮮であり、地方出身者と東京出身者の視点の違いについても考えさせられた。
それにしても、エレナの結婚生活の顛末の何とも言えぬリアリティよ。インテリ階級出身で紳士的、高い教養と知性を持ちリベラルな思想に共感を示すが、実は根が保守的なピエトロには、思わずあるあると呻いてしまった。一方で、博識で(一面的には)フェミニストで人間として非常に魅力的だが、配偶者や父親としての責任はほとんど果たすことがないクズ男のニーノ。「正しい選択」とは何なのか、エレナの選択を追いながら自分でも考え込んでしまった。人生は難しい。しかし、結局のところピエトロとニーノのその後を比べると、誠実さと責任感が最も肝要なのだろう。