紙の本
南北戦争を舞台にしたアメリカ文学の最高傑作の一つです!
2020/05/10 11:14
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、19世紀の後半に活躍したアメリカ人作家で、詩人でもあったスティーヴン・クレインの出世作となった一冊です。アメリカ南北戦争を舞台にした物語で、戦地から逃亡する北軍の若い二等兵ヘンリー・フレミングについて描かれています。不名誉を乗り越え、自身の臆病さに対抗し「赤い勲章」である負傷を切望する。彼の連隊が再度敵と相対した時、ヘンリーは旗手を務めるというストーリーです。クラインは、アメリカ自然主義文学の先駆者として、ヘンリー・ジェームズ、ジョゼフ・コンラッドら同時代の作家からの評価は高く、フォークナー、ヘミングウェイら後代の作家にも大きな影響を与えました。ぜひ、この機会にアメリカ文学の最高傑作を読んでみては如何でしょうか。
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憧れ、不安、不満、高揚、恐怖、恥、誇り、熱狂、狂乱……、南北戦争下の一兵士を通して描かれる、戦争下での兵士の心理の軌跡。
戦争と兵士たちを冷徹にそして距離を取って、まるで戦火の映像も、そして目には見えない兵士の心象すらも、ドキュメンタリーカメラで写すかのように、詳細に描き切っているように感じます。
戦場での英雄的活躍に憧れ、軍に入隊したヘンリー。母親から感動的な言葉をかけられるかと思いきや、戦闘になったら自分のことだけを考えるんだよ、と当ての外れた言葉をかけられ、イライラしてしまいます。
そんな彼ですが、家からの去り際に母が身体を震わせ涙を浮かべている姿を見て、自分の求めているものが恥ずかしくなり……
感傷的な文章というわけでもないのですが、詳細に主人公のヘンリーが、戦場に憧れる理由や衝動を描き、一方で母との対話の場面では、具体的な情景描写を効果的に挟み、場面を想像させる。
冒頭近くのこの描写で『勇気の赤い勲章』という文学としての凄みというものが、伝わってきたように思います。
入隊後、戦地へ派遣されるも、なかなか戦闘の機会は訪れず退屈する兵士たち。そしてついに始まった戦闘。しかしそこでヘンリーは本物の戦闘を知り、恐慌に襲われ……
兵士同士の会話や関係性、恐怖、逃げたことへの恥、怪我一つ負っていない自分への羞恥と、怪我をした兵士に抱く羨望と嫉妬。
刻々と移り変わっていく戦場の様子と、ヘンリーの心理。それをありのままに描き切るかのような筆力は、ただただ素晴らしいの一言に尽きます。
一方で戦闘が長引くと共に、ヘンリーたち兵士の中で徐々に上官や上層部への不満が燻ります。現場で戦っているのは一兵士という自負がありながらも、作戦の詳しい内容は知らされず、捨て鉢として自分たちは使われているかもしれない。
南北戦争の話でありながらも、巨大なシステムや社会、思惑にわけの分からないまま踊らされる個人たちの悲哀も、この作品からは感じます。そう読むとこの『勇気の赤い勲章』は単なる戦争文学ではなく、現代の世界に通じるものも感じてしまいます。
そして一方で不満を持ちながらも、上官たちから名指しで賞賛を受けると嬉しくなってしまうヘンリーの姿に、人間の哀しさを感じてしまう自分もいました。
戦場で戦い生き抜いたことを誇るヘンリー。しかし一方で、燻り続ける一度逃げたという罪の意識と、恥の意識。でもそうやって罪や恥の意識を持てるってことは、実は素晴らしいことなんだな、とふと思います。
お笑い芸人で『ずん』というコンビの飯尾さんが、すべった芸人さんに対し「今ドキドキしてるか?」と声をかけ「それはね、生きてる証」と声をかけ笑いに変えたシーンがあったのですが、それを思い出します。罪も恥も生きてる証拠なのよね。
後、冒頭のお母さんの印象も強かったので、ヘンリーが生きて戦場から帰れるかどうか、特に終盤の戦場のシーンはハラハラしながら読みました。先に書いたように、文章は登場人物から距離を取って、冷静に書かれているので「これヘンリー死んで終わる可���性もありそう」と、気が気でなかったです(笑)
そして戦闘も終わりが近づき、ヘンリーの運命は……
読み方が色々脱線した気もしますが、登場人物の距離の取り方が好ましく、情景描写や心理描写も詳細で、色彩豊かで丁寧。単に情緒に寄らず、一兵士の戦争の始まりから終わりまでを見事に描き切った作品でした。
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戦士1人の視点から南北戦争を描いたアメリカの戦争文学の名作。気持ちの上下動が激しくそのたびに細かい描写がなされる。展開が少し間延び感があったけれど、全体的には面白かった。