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人は極限で試される。
どんな酷い状況だろうとどう生きるかは自分次第だ。
失意の中で目標のあった人達は幸いだったのかもしれない。
ほんの数ミリ数秒の違いで。
やはり私達は生きているのでは無く生かされているのだ。
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東日本大震災での被災から日本製紙石巻工場が半年で操業を再開する道程が綴られ、工場の人々や周辺住民の状況・心境が丁寧に拾われたノンフィクション。
奥付まで頁をめくり、使用紙情報の記載に思わず笑む。
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東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場の復興ドラマ。企業のBCPのあり方、製紙過程、そこで働く者たちの熱き想い...。また、被災地の裏側も丹念に紹介。う~ん、この筆致には脱帽。著者の作品は今後も手に取っていきたい。
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石巻にある日本製紙の工場の再生に関わる人達の生きざまを丹念に綴った1冊。
その場にいた人ではないと決してわかりえないし、同じ場所にいても見ていたもの、思っていたことは、ひとりひとり少しずつ違うのだろう。
同じ本の紙と言っても、出版社によって色味が違う。漫画や文庫本、雑誌、新聞とどれもそれぞれに考えられた紙が使われている。
どうしても本は紙媒体のほうがいいと思いながら、どこで作られているなんて考えたことがなかった。まさか被災地で作られていたとは。どんな想いで、半年と期限を決めて工場の再建に尽力してきたのか。
美談だけでは済まされないことが、日々の生活の中で被災した日もそれからの日々にもあり、そんな中を生きてきた。その場にいなかった私は、忘れないように、こうして記録してくれたものを読み続けることしかできないけれど、読み続けていこうと思う。
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泣くだろうなと思って読んだけど、やっぱり泣けた。
紙を作るって、こういうことなんだ。
電子書籍も嫌いではなく、便利だと思う点も多分にあるが、何冊楽しく読み終わってもどうしても残る、何か物足りない感じの、正体の一部が見えた気がする。
震災後の被災地が、報道されたような美談に満ちていたわけではないことも、ちゃんと書いてあって良かった。
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涙なしでは読めない、良作でした。
ノンフィクション、震災を扱うもので日本製紙の方々、震災に見舞われた方に対する敬意を感じる丁寧な内容と感じました。
冒頭からの時系列での出来事は、もう、文字で読むだけでも辛く涙が止まりません。
決死の避難、生き抜く様子にはなんと言えば良いのか。とにかく多くの人に読んでもらいたいと思いました。
こんな事があったと知って欲しい(もしかしたら知られてるのかもしれませんが私はこの本で知りました)、教訓を生かして一人でも多くの人が災害で生き抜いて欲しい、救われて欲しいと強く思いました。
助かった後の困難についても描かれています。
日本製紙という会社内の出来事だけでなく、周りの地域住民から供給物資について誤解されたり、泥掻き出しを任されたり、日本製紙は悪くないのに!と憤慨してしまいそうになるけれど、
災害は誰も悪くなくて、人は非常時に周りのことが考えられなくなり、こんな風になってしまうものなのかな、と物悲しくなりました。
そんな中でも日本製紙社員は腐る事なく、短期間でのマシン復興のために黙々と気の遠くなる作業を続けてきた事、尊敬します。
文章で書けば短いかもしれないけれど、その当時は終わりが来るのか先が見えなくて辛いでしょうし弱音も愚痴も吐きたかったでしょうし、鬱憤を発散したかったと思います。本当にお疲れ様でした。
日本製紙の各役職の方々が、この本で読む限りとても素晴らしい方達ばかりで。
その役職につくからには責務を全うするという気概が感じられて胸が熱くなりました。
「自分」「私的」を押し殺して、日本製紙の社員として、の行動に感動しました、特に当時の石巻工場長の倉田さんには心を動かされっぱなしでした。
工場長として発破をかけねばならず、半年復興、と言い渡し、周りに徐々にやる気が伝播し、実現まで至る。
最初の「半年復興」と言う時の勇気といえばいいのか覚悟といえば良いのか。葛藤があったと思いますがとにかく日本製紙石巻工場のために注力した様に敬意を表したいです。
倉田さんの退職後のお言葉は沁み入るものでした。実際に体験しないと分かり得ない辛さがあるんですね。そうですよね。
倉田さん、
今『鬼滅の刃』はじめ大人気作品で漫画市場が盛り上がってますよ。
私は紙の本が好きです。
8号親分の憲昭さんの紙の説明は知らないことばかりでした。小さい頃から触れてきた週刊漫画やコミックス、本の紙が届けられる読む側を思って作られていた事。
嵩とか、手触りとか、切れないように、なんて気づいてなかったけれど気づかないうちに守られてるきたんだなと考えると涙が出てきます。
紙で読むのが大好きです。
漫画は手がコミックスのどこの辺りを読んでいたか勝手に覚えて、あのシーンを読み返したいと思った時に紙の本だと目星がつきます。
でも電子書籍だと何巻のどの辺りだったのかが中々検討がつきません。
スワイプは便利で一瞬ですが、紙のページを捲る時は五感で本を味わってたんだなとわかりました。
『スマホ脳』でも、スマホ依存に警鐘が鳴らされているので本/漫画を読む時まで電子じゃない方がいいんじゃないかと個人的には思います。
でも、電子書籍の良さも電子書籍が性に合う人もいると思うので選択して自分の好きなものを読めばいいと思いますが多感で様々なことを経験してから自分に合うことを学んで欲しいと思う子供達、若い世代には紙の本にまず触れて欲しいなと思います。
『紙つなげ』というタイトルがどのような意味を持っていたのか、ピンときていませんでしたが本を読むとわかります。
また、エピローグで冒頭の気になっていたエピソードが回収されるので単純に読み物としてもクオリティが高いと感じました。
文庫版の解説で、著者の方が『エンジェルフライト』も書かれていると知りました。
国際霊柩送還士について書かれた本で、2013年5月に存在を知りほしい物リストに入れてましたが読む機会がありませんでした。
でもこれをきっかけに手に取ってみようと思えました。
思えば、この本も、『「本をつくる」という仕事』を読んで存在を知り、そのように繋がって手に取ったもの。
紙がつながれて、本となり、お店に並び、本同士で繋がり、私に届いてくれた気がします。
店頭に並ぶ本の紙について意識を向けたことがあまりなかったけれど、この本を読んだことでこれからは今までより紙の手触りや嵩、色や風合いを意識しそう。あたらしい世界の扉を開いてもらった気持ちです。
また、この本は終盤に使用した紙の種類の記載もあり、取材対象の日本製紙への愛を感じました。
工場の主要機械の復興、稼働、と高い高いハードルの目標のためにがむしゃらに動いたことで震災の悲惨さに心を傾ける隙間もあえてもたせずに邁進してたのかなと思いました。
だから、この話の中で語られる感動の機械再始動の後に燃え尽き症候群のようになってしまう人がいなかったのか、心配です。
震災に遭ったことも辛いですし、その後の非日常の日常を過ごし続けることも大変なストレスだったと思います。
それを知るのが遅くなってごめんなさい、という気持ちがあります。
工場がこれからも紙を生産し続け、本の紙が売れて欲しいので私は正規のルートで、書店で本を購入しますし、海賊版や違法サイトには手を出しませんし、そういったものに対しては批判の声をあげていきます。
送る側がここまで丹精込めてしてくれているのだから、受け取る側も大切に受け止めたいと思います。
当たり前のように本や漫画を享受して、
価値を理解できずに買い叩こうと違法に手を染めても自分だけ楽しめば良いと間違った倫理観を持つ人がいるのが悲しいです。
あなたが見てるその楽しい漫画や本の向こうにどれだけの人が汗水垂らして必死の思いで働いて届けてくれているのか、想像力を働かせてほしいなと願います。
正しくお金が流れ、頑張った人が報われる世の中でありますように。
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震災をうけた製紙工場の話。半年で機械を動かすを目標に進んでいく。
あの大きさの被害を受けながら、半年で現実に機械を動かすなんて、まるで架空の話のようだ。映画やドラマでなく実際に起こったことが信じられない。
多分、この本に書ききれない思いや苦労がたくさんたくさんあったことが想像できる。
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東日本大震災で宮城県石巻市の製紙工場が被災されました。「半年で再稼働させる」という言葉を信念に関係者が一丸となります。読みながら、頭の下がる思いでした。
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涙なくしては読めない。
紙の本が好きなら絶対に読むべき一冊。
本の紙を作ってくれている方々
ありがとう。。
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テレビや新聞では報道されない3・11の様子があり苦しくなりました。
あーそうだ、紙が無くては‼️
ご苦労された方々の努力に頭が下がります。
ありがとうございました。
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とても読みやすく、面白かった。紙の本が好きだと言いながらも、紙のことをまだまだ知らないものだと思った。本書をただの美談ではなく、繰り返し読んでいたいと思った。
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この本を通じて、自然災害の恐ろしさと自分の手元にある本がどのような過程を得てあるのかを知ることができた。
紙がどこからきてるかなんて考えたことなかったけど、多くの人の努力によって作られてるんだな。
最近は本を読むことが習慣になり、出版業界が明るくなってほしいと思う。
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東日本大震災で被災した1企業の様を記した本である。東電関連の著書は多々ありTVや映画で放映もされ、私も多少は知り得ている。
が、今回、日本製紙石巻工場の話は初めて知った。被災者の生の声、世間には届いていない事実等もっともっと伝えていかなければならない。風化させてはいけない。誰もがいつ被災者になるか分からないのだから。
この本を1人でも多くの方が手に取り、紙をめくり、その感触を忘れずに、そして震災の事を思い出して何かを感じてくれます様に…
そしてそして、やはり私は紙の本が好き!
「本はやっぱりめくらなくちゃね…。」
これからは紙質や色味等にも関心を持って本に接していこう…
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【感想】
普段紙の本にお世話になっているが、その紙質を気にしたことはない。ましてや、その紙がどこで作られているかまで考えを巡らせたことは無かった。
私は電子書籍でも紙の本でもどちらでも構わない派だが、紙には紙の良さがあることは間違いない。ページを物理的にめくる感覚、新刊ならではの香り、もうこんなに読んでしまったのかという達成感など、触感と見た目が織りなす相乗効果が作品をより際立たせ、その世界観により一層のめりこませてくれる。
そうした紙の本が、東日本大震災により消滅の危機にあっていた。日本製紙石巻工場が津波により壊滅的な被害を受けたためだ。
本書はその工場の復興プロジェクトを綴ったノンフィクションである。同時に、日本製紙の従業員たちにスポットライトを当てたヒューマンドラマでもある。社長、東京本部、工場長、総務課、電気課、設備課、さらには日本製紙石巻野球部員といった多種多様な人々が、工場長倉田の掲げた「半年復興」を目標に全力で前に進んでいく。
この「半年復興」の中身であるが、端的に言えば壮絶なデスマーチだ。そもそも震災で周辺地域が壊滅している以上、どう考えてもインフラが間に合わない。各マシンや工場内の電気系統、タービンといったピンポイントの故障ならまだしも、石巻の沿岸地域全体が瓦礫に埋もれた今、それを動かすための電気や道路、水道といった基礎インフラの復旧から着手せねばならない。紙を元通り刷ることなんてそのいくつも後だし、期限に無理があるのではと思ってしまう(実際倉田以外はそう感じていた)のだが、なんとこれをやり遂げてしまう。
例えば、海水に浸かった7000台弱のモーター。塩にやられているためそのままでは使えないが、かといって代替品を用意できるほどの猶予はない。これを復活させるために、なんと巨大な釜の中で煮て塩を除去し、絶縁処理をして再利用することを試みる。電気部品を釜茹でするなんて無茶苦茶すぎると思えるのだが、これが功を奏して見事期限内の通電までこぎつける。一度覚悟を決めた人間たちの成せる技か、と感心してしまった。
本書は石巻工場の従業員だけでなく、その周辺で働いていた人、また被災して不自由を余儀なくされている町の人々の様子も描いている。震災は石巻に深刻な打撃を与えたが、暗いことばかりではなかった。住人と従業員誰しもが、日本製紙の復活=石巻の復興の第一歩と信じ、一丸となって前に進み続ける。絶望の中でも希望を忘れない石巻の人の力強さにとても勇気をもらえる、そんな一冊だった。
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【まとめ】
1 出版業界の危機
日本製紙はこの国の出版用紙の約4割を担っている。『多崎つくる』をはじめとした、多くの単行本の本文用紙は、東日本大震災で壊滅的な被害にあいながらも、奇跡的な復興を遂げた石巻工場の8号抄紙機、通称「8マシン」で作られている。
日本製紙抄造一課の係長、佐藤憲昭はこう言った。
「8号が止まる時は、この国の出版が倒れるときです」
3.11で被��した石巻工場は、一階部分がすべて泥水の中に埋まり、その上に周辺地域から流入してきた瓦礫が2メートルは積もっていた。電気が通っていない建屋内は真っ暗で、何が流入しているのか、そしていつになれば復旧できるか、まるで予測がつかなかった。
2 紙の本
紙の本の最たる魅力は、何といってもその手触りにある。針葉樹から作られるNBKP(針葉樹化学パルプ)、広葉樹から作られるLBKP(広葉樹化学パルプ)、そして丸太をすりつぶして作られるGP(グラウンドウッドパルプ、古紙から作られるDIP(古紙パルプ)は、それぞれ繊維の柔らかさが異なっている。その原料の組み合わせにより、用途に合わせた紙が製造されている。雑誌には雑誌の、辞書には辞書の、文芸の書籍には文芸の書籍の印刷用紙が使われ、作品の世界観を作り出していく。
そして、我々はめくることによって、読書を体験していき、本にはその痕跡が残るのである。
石巻工場は間違いなく日本製紙の心臓部であり、出版用紙の供給責任を大きく負っている。しかし紙の市場が、電子化と少子化などの影響で年々縮んでいることは間違いない。特に出版用紙については、この傾向が顕著であり、今後も石巻工場が必要とされるかは保証の限りではない。再生させるのか、それとも閉鎖するのか。その決断が日本製紙の命運を左右する。
3 復興への決断
3月下旬。課長たちが社宅の一室で対策会議を開いていた。
工場長の倉田は、課長たちを前にして、社員のモチベーションを保つために復興に区切りをつけることを提案する。
完全な復興ではなく、たった一台動かす。それに「半年」という期限を設けた。無謀という他ない工期設定だ。
倉田はこう続ける。
「1年半、2年じゃ遅すぎる。工場を復興させるぞというモチベーションはもってせいぜい半年。客も今は同情で待ってくれるだろうが、あちらも商売だ。いつまでも待ってくれるはずがない。たった一台。一台動かせばいい」
これは会社の存亡をかけたデッドラインであり、同時に、明るい話題のない被災地で、彼らがすがりつくことのできる、唯一具体的な希望だった。
「N6マシンさえ無事なら、あの工場には希望が残されている」。社長の芳賀はそう考えていた。
N6抄紙機は、幅が9450ミリメートル、抄造スピードが毎分1800メートル、一日の生産量が1000トンを超える世界最大級の超大型設備であり、日本製紙が約630億円かけて導入した最新鋭マシンである。このマシンの完成によって石巻工場は、世界有数の競争力を持つ基幹工場の地位をゆるぎないものにした。N6一台の生産量は、小さな製紙工場の生産量を凌駕するほどの驚異的なものだった。この最新鋭の機械で造る紙の品質を担保するのは、無名の技術者たちの技である。紙にこだわる出版社に絶大な信頼を寄せられる職人たちのノウハウの集積もまた、目に見えない工場の財産だ。この工場には、日本製紙の基幹工場としてのプライドがあった。
芳賀は現地入りし、工場の被災状況を確認する。N6の建屋の一階は泥に浸かっていたものの、マシン自体は無事だった。
「これから日本製紙が全力をあげて石巻工場を立て直す!」そう芳賀は宣言した。
4 まずは8号
N6��復旧に向け動き出した現場だったが、出版社は8号マシンの紙を待っていた。日本製紙の他工場、更には王子製紙などの他社にも協力を仰ぎ、出版用紙を最優先で作ることを決断する。
文庫本はヒットすればあっと言う間に何百万部になる世界だ。そうなったら、どんなことがあっても紙を切らすことができない。それは製紙会社と出版社との信頼関係の上に成り立っている。そして出版社との約束を守るのは、やっぱり石巻にしかできない。
石巻の従業員には、自分たちが出版を支えているという自負があったのだ。
5 復興のリレー
抄紙機を動かすための最優先事項は、ボイラーとタービンだ。そしてボイラーを立ち上げるためには、電気設備を復旧させる必要がある。
工場の外壁に沿うようにして強り流らされた6万6000ボルトの特別高圧ケーブルは、ラックごとなぎ倒されて、流されてしまっていた。ケーブルは被災地のいたるところで必要とされ、入手困難な状況だった。本社は海外にまで手配を広げケーブルの確保に励む。また、工事のための足場を組むのも、業者に無理を言い突貫工事で行っていった。
問題は、塩水に浸かった7000弱のモーターだった。とても代替品を用意できるほどの猶予はない。これを復活させるために、巨大な釜の中に入れて煮出し塩を除去した。錆などの問題はあったが、応急処置としては効果抜群である。
こうした粘り強い地道な努力によって、震災発生後4ヶ月という驚くような速さで、6号ボイラーに電気が通る。電気の復旧作業と並行して瓦礫の撤去が全力で進められ、半年復興まであと一ヶ月のところで、ようやく6号ボイラーに火が入れられた。
震災から半年後の9月14日。8号マシンの初稼働の日がやってきた。抄紙機には何箇所か、オペレーターの操作によってシートを渡さなければならない箇所がある。グースネック(ガチョウの首)と呼ばれる、エアーの出る細長いアームが現れて、紙をリールに抑え込んで巻きつけていく。それを補助するように、オペレーターたちが、ホースのついた細長いノズルを紙に向けて、エアーを吹き付け、薄く繊細な紙の向きを調整しつつガイドしていくのだ。これにはタイミングと経験が必要とされ、オペレーターたちの力量が大きく左右する。これらの作業を経て、最後のリールに巻きつくまでを「通紙」、あるいは「紙をつなぐ」という。これは熟練のオペレーターであっても、一度ではなかなか通らないものだ。
しかしこの日の8号は違った。今までにないスムーズさで紙が通り、どんなに速くても1時間かかるところを、28分の新記録で成し遂げたのだ。
憲昭は作業着の袖で涙をぬぐうと、やがてありったけの大きな声で叫んだ。「バンザーイ!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」彼の声に合わせて、大きく手が上がる。倉田も、福島も、オペレーターたちもみな、目を赤くしていた。
この日、東日本大震災から半年。倉田の当初の目標通り、石巻工場は息を吹き返したのだった。
その後N6号抄紙機も、震災から一年という節目の時期に、無事操業を開始した。
日本製紙石巻工場は、家族や知人、同僚たちを亡くし、家や思い出を流された従業員たちが、意地で立ち上げた工場だ。だが、読者は誰が紙を���っているかを知らない。紙には生産者のサインはない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。
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今こうして読んでいる書籍の「紙」がどこで作られているのか。本書を読んではじめて意識へのぼるに至った。
そして東日本大震災で、あの時、世界屈指の規模を誇る製紙工場が甚大な被害を受けた事を、震災から6年を経て(読了当時)ようやく認識する事が出来た。
読書を趣味とする者の端くれとして、それらの事に目を向けさせてくれただけでもこの本を読んで良かったな、と深く思う。
震災の記録資料という観点でも非常に胸を抉るものであるが、何と言っても工場で働く方々の思いをこそ軽んじてはならない。
あまりにも身近にあるが為に普段思いを致すことのないモノたちにも、それぞれに様々な形で携わる人、作る人・運ぶ人・売る人…etc.が居るのだという当たり前のことを改めて考えさせられた。
私が言うのもおこがましいが、とくべつ紙や本に興味が無い人にも是非手に取って読み継がれて欲しいノンフィクション。
1刷
2022.2.5