紙の本
ロボットから知る私。
2009/02/09 15:47
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「私たちはロボットを通して自分自身を知るのである。ロボットは<私>というものを私たちの内面から掘り起こし、顕在化させるという希有な特徴を持っているのだ」
自分は、自分で見ることができない。よって他者を投影させて、他者経由で見えてきた自分を自分だと認識する。さまざまな関係性で、さまざまな自分像というものが浮かび上がってくる。ラカンいうところの鏡像、ぶっちゃけ、ガマの油状態とでもいえばいいのか。
いままでは、人は、人(他者)を対象にすればよかったが、ロボットというものが現れた。そこから、新たな自分、人間像が見えてくる。
有名なアシモフのロボット工学の三原則があるが、「なぜロボットは人間に危害を加えてはならないのか」などは、「ロボット」を「人」に置き換えれば、もろ倫理学の永遠の課題であるわけで。もっとうがった見方をすれば、支配-被支配で、金持ち-奴隷が、ブルジョア-プロレタリアアートになって人間-ロボット、あるいは経営者-非正規社員(外国人含む)、ロボット(産業用ロボット)という図式も見えてくる。
『鉄腕アトム』などにもロボットの反乱が出てくるが、それは永遠に人間に搾取され続ける運命を呪ってのもの。学習能力がバージョンアップすれば、そうなるのだろうか。ヒューリスティクス・アルゴリズムとでもいえばいいのか。さだかじゃないけど。
「人間の脳にはテンプレートを見抜く能力があって、身のまわりの出来事をテンプレートと照らし合わせながら観察している」
「人工知能に予測をさせることは難しい-略-一方でぼくたちは知らず知らずのうちに自動化し、半ばロボットとして生きているわけです」
習慣化、規範化ってことか。ワンパターンでいいとこはワンパターンで。
「ぼくは小説の中で「クオリア」という言葉を使わないようにしているのですが、-略- ぼくは「記憶のタグ」みたいな感じで考えているのです」
「りんごの赤い感じ」のみならず、「齧ると、つぎの行動があって、時間的な経過があって、つながっていく感じがする」
「そこから次にくるストーリーは、ほんとうに体験したことでなくてもかまわない」
「記憶のタグ」とは素敵な言葉だ。属性や履歴ってことでほんとも、うそこも包含されている。ならロボットにとっての「記憶のタグ」って何だろう。それは上書きされるたびに人とのシンクロ度合いを深めるのか。で、「自我」のや主体性の芽生えにつながることなのだろうか。
「たぶん違和感は、動物的な本能で自分の生存を守るというところから発達した心の働きなんでしょう」
「ぼくたちは違和を感じたり、感じなかったり、創造性を発揮したりと、違和の感覚を操ることで社会の中で生きていく能力を備えているのです」
「動物的な本能」や「違和感」は、リテラシーってことなのかな。自分の居場所=存在理由なのかもしれない。金子みすずの詩のフレーズみたいに「みんな違ってみんないい」ってことかも。ただし差異と差別が同じ土壌にあることを忘れないようにしないと。
「今後のロボット学はむしろ本来の哲学にも似て、さまざまな科学/技術分野とコラボレートしつつ自在に領域を跨ぎ、行き来し、融合と発散を繰り返すのではないか」
昔流行った身体論がロボット学じゃ義体論としてリニューアルオープンするようだ。この本で作者は和辻哲郎や市川浩を取り上げているもの。
版元が勁草書房なので、さぞ難しいかと思ったら、さにあらず。講演や対談を起こしたものが、大半なので読みやすく、知的興奮度も高い。理系、文系を学際的領域で扱う「ロボット学」の裾野の広さを改めて知る。
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攻殻機動隊がらみで書かれているところ、特に興味深かったです。
ロボット学が哲学・心理学・生物学・社会学とも深く関わっていくことを知り、面白そうでいいな~と思いました。生きてるうちにロボットがパートナーになる世界、くるだろうか・・・。楽しみ。
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ロボットを取り扱った漫画や小説などを、時系列で独自の視点からまとめています。ロボット好きなら読んでおいて損はないです。
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ロボットや人工知能を取り扱ったフィクションや研究などを、小説家である瀬名さん独自の視点でまとめている。
特に興味深かったのは、現在のロボット研究が陥っている状況と"後期クイーン問題"との類似を論じている箇所。「現在のロボットに実装されている知能は、開発者が想定している箱庭でしか通用しないものである」という指摘は非常に的を射ている。
SF作家・アニメ監督へのインタビュー、人工知能系の研究会へのコミットメントなど、取材を精力的に行っており、いろいろな角度からロボットを捉えようとしている所にも好感を覚えた。こんなにも理性的かつ文化的な観点から"ロボット"を洗い直した著作というのは、なかなか見当たらない。
欲を言えば、ガチなロボット研究者との対談なども加え、工学的な観点も盛り込んでほしかった。
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ロボットに関する研究・文学・哲学それぞれをかいつまんで勉強できる。
推理作家である著者ならではの視点も興味深い。
①ロボットが内包する“物語”と、物語の身体性という切り口
②ロボットに私たちが感じる“違和感”。その「境界知」からわかる知性と創造性、信頼、視点について
③ミステリにおける後期クイーン問題と、ロボットの実験の類似性…。
ロボットは心を持ちうるかという鉄板の議論もあり。
心身二元論については軽く触れるだけ。
現代は、構成論的アプローチで人間性に迫る時代のようです。
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講演集なので分量の割にはすんなり読めた。新書の「インフルエンザ21世紀」の方がボリュームあるくらい。ただ講演集のため内容の重複が多くて、中盤以降は読んでて若干だれることがあるのはある。でも瀬名秀明の洞察と言語化能力は特筆すべき。この人も科学と人文をつなぐ知の巨人と言っても差し支えないと思う。
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Thu, 05 Feb 2009
某学会誌に書評を書くことになって,〆切り間近に勢いで読んだ.
とはいえ,500頁ほどあってしんどかった.
瀬名秀明氏がこの五年ほどでロボット関係の話で行った対談や講演が収録されている.
語り下ろしってやつやなー.
瀬名さんは,國吉先生とか浅田先生とか,いわゆる認知発達ロボティクス関係のコミュとおつきあいが深く,
最近は今年のロボット大賞の審査員など,いろいろやってはる.
内容はSF作家との対談や学会での講演など.
第Ⅱ部「「デカルトの密室」を解き明かせるか」では’05~’06に早稲田大学や東京大学で行われたゼミでの対談や講義が収録されている.
そこでは特に筆者が’05年に発表した小説「デカルトの密室」についての議論が中心に展開される.
デカルトの心身問題が議論される中で,攻殻機動隊やイノセンスといった先端のSFアニメ作品でのストーリーを交えながら議論が進む.
アニメ,ゲーム,SF小説といった,枠に囚われないロボット意識についての議論は面白い.
しかし,筆者の「デカルトの密室」を読んでいなければついて行き難いのは本書の難点であろう.
ミステリ小説における後期クイーン問題とロボット研究の相同性を指摘するあたりは作家独自の視点といえ面白い.
推理小説中の探偵が犯人を見つけられるのは作家が必要なだけの証拠を探偵に渡すためであり,探偵はその制約の中での解しか見つけることが出来ず,もしそれ以外に解があったとしても到達出来ないに為に真実に到達する事が出来ないという,多少メタな問題がある.
これが後期クイーン問題である.
知能研究では設計者が課題を限定し,その中でロボットにタスクを解かせ知能を検証する.その構図が後期クイーン問題と同型的に映るのだと筆者は言うのだ.
語りおろしはやっぱり,書籍のクオリティとしては厳しくなりがちですね.
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アシモフの作品と晩年の彼のようすを取り上げ、彼が作中のロボットに自らを投影していたのではないか、とする部分がおもしろい。
ロボットを擬人化せずにいられない人間の考察は他の研究者の著にも見受けられるものの、人間がロボットに近付いていくようすについてはこの一冊のものが最もしっくりくるように感じた。
「私たち人類は数千年、数万年をかけて、ヒトというキャラクターを黙々とつくり上げ、世界観を構築してきた。それはヒトというキャラクターや人間社会という世界観を実世界から離昇させるための、長い助走に過ぎなかったのではないか。その滑走路にあたるものが、すなわちロボットだったのではないか」