紙の本
歌に生き、恋に生き、そして・・・
2022/01/30 15:05
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本史のなかの代表的美女であり、歌人とされながら、その実態は謎に包まれている小野小町。
数多い伝説を、当時の複雑な政治的背景の中に織り込み、「宮中の花」として生きた小町の生涯を描いた本作、とても情緒的で読後感がいい。
同じく歌人として名を成した和泉式部のように、自身の思いをつづった日記のようなものも残さず、古今集などに選ばれた和歌と伝説しか、その人となりを偲ぶよすがのない彼女を、才能と美貌に恵まれながらも、ただ一つの恋を心に秘めて宮中生活を生き抜く一人の女性として描いている。
冒頭の当代を代表する男性三人とのやりとりから、男に隙を見せず確固とした自己をもつ女人として登場させたシーンがとても印象的だった。後の清少納言や紫式部に通じる宮中女房の系譜の先駆けとして、圧倒的な輝きを放っている様は眩しいくらいだ。
だが、身内に裏切られたり、皇太后からあらぬ疑いをかけられ、決してバラ色の日々という訳ではない。
さらに彼女には、出羽から京に出てきて間もないころに知り合ったさる貴人に夢のような恋心を抱き、その人にもう一度会うことだけを拠り所として宮中に入る。頃は冬のさなか、ところは郊外の小野の里。雪の舞い散る中での舞の場面は儚くも美しく、彼女の心に強く刻まれたとしても不思議はない。
一方、宮中では心無い噂に翻弄されていた彼女を、仁明天皇は小町の気持ちを思いやりながら助けようと申し出てくれる。仁明天皇は終始小町に優しく、藤原氏との関係にも政治的な配慮を忘れず不必要な波風を立てることを慎重に避けている。仁明天皇から藤原氏との密接な関係が始まったのだが、この作品では彼らの操り人形でもなければ、無意志に流されているだけでもないとても理智的で、情けも解する理想的な人物として描かれている。今まで読んだ作品の中では、初めて見る描き方だ。
しかし、その彼をもってしても「承和の変」は防げなかった。そして自身の藤原氏腹の第一皇子である道康親王を決して藤原氏との対立に巻き込まぬよう小町を始め3人に密命を授ける。
政治的なアドバイザーとして帝に信頼される小町というのは初めて読んだだけに、恋と和歌だけに生きていたのではない彼女の新たな側面をクローズアップしてくれたのは今までに見ない解釈で、それが彼女をより魅力的に見せている。
そして、雪と桜の花との対比が非常に効果的に使われていると思う。温かい思い出であるはずの初恋が雪で象徴され、華やかなはずの桜の花が移り行く時代や心の象徴になっている。最後に小町が選ぶのは・・・?
さらに良房の懐中にある毒はどうなるのか? この綴きをぜひ読んでみたいと思わせる巧妙なラストだった。
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歌人や伝説の小野小町ではなく、宮廷に勤める女房としての物語。
面白かったです。
こうした作品はなかなかないので、楽しめました。
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いくら探してもこの本見つからない…と思っていたら「桜木町」って変換ミスしてた(汗)
主人公は小野小町だろうけど、こんなに能動的な仁明天皇って初めて見たかも。少年期の道康親王も(紀静子を見初めるとこなんか、記述されているの初めて見た)。そして絶妙な立ち位置で存在感のある良岑宗貞(僧正遍照)も。逆に、どこの作品ででも作者に可愛がられてておいしい役回りの業平が、何故か本作品では軽くて幼い狂言回し。
仁明天皇の御世。嵯峨上皇が存命で睨みを効かせている間、東宮には叔父と妹の子・恒貞親王をキープ。仁明自身は良房の同母妹・順子に道康を産ませ(少年道康は見張るような伯父が煙たがるが)、紀種子と常康も可愛がる。良房は仁明の異母妹・潔姫を正妻にした手前、女漁りは御法度。この絶妙なパワーバランスが文徳期に入って崩れ始めるまでを、複雑な人物関係をサラッと処理して分かり易く書いてる。この作者の技量、中々では。
欲を言えば、「承和の変」は皇太后と良房の結託や橘逸勢、阿保親王とのやり取りが欲しい(恒貞親王が、仁明を責めたり母・正子に触れるシーンは、なかなか印象的)。あと、良房と潔姫の夫婦なやり取りもこの作者の筆で見たかった。
「雪花の君」が良房なのは中盤でバレバレなのに、かなり後半まで明かすのを引っ張るのが、少し野暮。
基経とか行平とかは、出すとややこしいから省略か…?
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※小町と業平が出て来る2020.8-9月の新刊文庫: 2/3
矜持を持ったベテラン女官の小町、藤原北家当主として時の権力者として尊大な良房、まだ若く青臭く強気な業平。小町との強気なやり取りの応酬は、なかなか読みごたえがありました。
「承和の変」を挟む事で、仁明天皇が宗貞、小町、業平に与えた密命とその行方が分かりやすく描かれているなと感じました。
(小町の目を通して時代を切り取ったとでも言えばいいのかな)
個人的には業平や小町の心情が吐露されていて、歌人ではない部分が見える所が良かった。
あと、仁明天皇が出来なかった小町への返歌を業平の知恵を借りた惟喬親王がした所にクスっとしてしまった。
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平安時代の代表的美女として知られる、小野小町を主人公にして描かれた宮中物語。
仁明天皇の更衣として宮中務めをしている小町。その美貌ゆえに同僚女官から妬まれたりしながらも、淡々と“宮中ライフ”をおくっている様子。
そんな中、皇位継承をめぐる複雑な権力争いから、“承和の変”という、皇太子が廃されてしまう政変が起こり、小町も“東宮を守ってほしい”という、帝の意向から政治的な事柄に関わることになっていきます。
この政争の原因といえる、皇位継承の系統や血縁関係がかなりややこしくて、つい斜め読みしそうになりますが、ここは大事なので頑張って読みました(笑)。
勿論、このようなきな臭い事だけでなく、小町をめぐる恋愛模様もあり、華やかな部分も描かれています。
権力者の藤原良房、イケメンの在原業平、誠実な良岑宗貞・・・。
因みに私だったら、ダントツで良岑宗貞様ですね。深草の“百日通い”のシーンは切なさでグッときました。
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小野小町の和歌しか知らなかったが、このような人であったかもと思わせる内容で、最後の返歌に救われた気持ちになりました。一気に読み終えました。
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仁明天皇の更衣として、その美貌と才能から、多くの男性に言い寄られている、謎多き女官、小野小町。
そんな小町には、初めて上京した折に出会った、忘れられない男性がいた。
嵯峨上皇崩御の後に起こった、承和の変で、恒貞親王を守ってやれなかったと、苦悩している仁明天皇は、
小野小町
歌人として名高い良岑宗貞
若輩ながら、美丈夫の誉高い、在原業平
この三人を呼び、
藤原良房の野望から、「皇太子を守ってほしい」と頼む。
小町は、良房に、最後の一手を使わせない為に、会う決心をする。
小町の忘れえぬ人が、意外な人であったり
有名な、「百夜通い」を取り入れたり、
《花の色はうつりにけりないたづらに
我が身世にふる ながめせしまに》
返歌を作ると言いつつ、果たせないで、崩御した仁明天皇の代わりに、
《花の色ようつらばうつれ我が恋は
うつりはすまじ年は経るとも》
と、小町に、初々しい恋心を抱いている、惟喬親王に読ませたり
と
読みどころ満載。
読後、離れがたい小説。