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構成がとても美しい巻。久しぶりにページを捲る手が止まらないという感覚を味わってしまった
このような感覚に襲われる時はメリハリが効いた内容でありつつスピード展開に溢れたものであったことが多いのだけど、本作はまた別の方向性
今回の内容は簡単に言ってしまえばモデルが様々な服を着てランウェイを往復、それを見た審査員や観客が反応を示すというだけのもの。それも育人と心が作った服だけしか描かれないからスピード展開なんて無いしメリハリが効いているかといえば怪しい所
それでも発表される服やモデルの表情が審査員や観客を通して、これでもかと読者に訴えかけてくるものがある。それがあまりに予想外でありつつこちらの期待を上回ってくるものばかりだから読み進める手が止まらない。早く次の服や表現を見たくて仕方なくなる
育人、心、千雪の三人にとってはある意味これまでの集大成とも言えるショーは素晴らしいの一言
世界を巡る調和というテーマでスタートした育人のショー。それは審査員の度肝を抜きつつあっという間に彼のショーに夢中にさせるもの
でも、育人にとってどの拍手よりも称賛よりも母の感動が一番の報酬であったと伝わってくる描写は感涙モノ
心と千雪が組んで行ったショー。こちらは意外な形で行われる
そもそも二人は五十嵐をあっと言わせるために組んだわけだけど、それ以外に共通項なんて無いし知り合いだったわけではない。元々モデル方面での因縁もある間柄なのだから共闘なんて出来るわけもない。出来るのはライバルとして互いを削り合いつつ勝ちを目指すチームを組むこと
そして互いを削り合うからこそ見えてくるものがある。それは心も千雪も自分の夢を叶えるには圧倒的不利な立場にいると判っていても不断の努力を止めない者同士であるという点
ステージ上で次から次へと新しい服に着替え、且つそれに相応しい歩き方を披露する千雪
千雪のために既に作っていた服を仕立て直し、更に合計で16着もの服を一人で仕上げてみせた心
二人がステージ上で見せたアイディアと努力と振る舞いは凄まじいと言う他ない
そしてステージで服を魅せることの他に行われていたのは五十嵐への挑戦
心にはデザイナーとしての実力は無くモデルとして生きていくしか無いと言い、千雪はまるで昔の自分を見るがごとく嫌悪する
心と千雪、二人が作り上げたステージは頑なだった五十嵐を認めさせ、更に観衆に心の作った服を称賛させると同時に、心と千雪が同時にステージに立ってもモデルとして千雪の方が素晴らしかったと思わせるほどのものになった
心はモデルとしては敗北したけれど、その敗北はデザイナーとしての勝利を示すものであり、同時に千雪に再び戦う力を与えるものであるという展開が本当に素晴らしい
だというのに最後のページまで読み進めると、この巻で描かれた全てが綾野遠が登場するまでの前座だったのではないかと思わせる描写が。
そうなってくると次巻の内容が恐ろしくもあり楽しみであり。きっと次巻でもこちらの期待を超えるような描写が盛り沢山なんだろうな