紙の本
あなたと私と本の中
2007/08/20 21:16
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
言葉がまとまらない・・・なにせ短編集。面白いものもあればつまらないものもある。ミステリーを読みなれている者であれば新鮮さは無いかもしれない。「密室症候群」や「禍なるかな、今笑う死者よ」など最初からわりと展開がわかりやすいし、わけもわからず混乱のうちに終わる奇妙なものもある。だから既存のミステリを再構築したり使いまわしたり、という感は、正直ある。しかし私は非難しているのでは決して無い。そうした寄せ集めでありながらも一貫して一つの図太いテーマが貫かれていることに賞賛さえあたえたくなるからだ。
虚構と真実、真実と事実、世界と私、被害者と犯罪者、主人公とその他大勢、そして作者と読者・・・。二元論で語りつくせる世界ではないが、そこに有るか無いか、これは正か偽か?そんな単純な選択からこの世界は成り立っている。そして人間は往々にしてその選択を「これはこうなのだ」と思い込んで当たり前の如く選択する。その選択によって人は被害者や加害者、受態にも能動態にもなるのだから、選択を誤ったとき思わぬほうに事態が転がるのである。
最終章『不在のお茶会』は「私」とは何なのか?合わせ鏡のように続いていく「私」と私を見つめる「私以外の存在」との相互認識の無間地獄。誰もが一度は陥る?永遠の合わせ鏡の恐怖だ。存在するということは主語を伴わないで表される「こと」であり、その対極に守護となりうる既製の事実に存在する「もの」がある。非情に面白い見解だった。しかし物語りはさらに進み、もう一つの大きな命題に突入する。作者と著者と物語の住人との関係だ。
どの章にも一貫して感じるのは著者は常にわたしたち=読者に謎を問いかけ挑戦し、読んでもらうことで読者にこの本を存在せしめているのだということ。なぜなら本は、小説は、わたしたちが読者となった瞬間に初めてこの世に存在するからである。
ソレが本当に有る・無いという認識論を始めると途方もないし、興味がある方は哲学書を読み漁るか仏教の空の思想でも習うがいいだろう。
しかしこれはミステリーズ、ミステリーを純粋に楽しめばよい。
著者はミステリ作家なのだし私たちは読者以外の何者でもないのだから。
紙の本
自身を見つめる
2001/02/12 00:42
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投稿者:ヤスフミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この『ミステリーズ』には、作者が自分自身を見つめなおしているような雰囲気があります(あくまで僕の考えですが)。詳しくは作者があとがきで語っている、この作品集のトータルコンセプトについて読んでもらえばいいのですが、各作品にこめられた「私」という存在についても言及しておく必要があると思います。
『密室症候群』は、密室トリックものばかりを書く小説家には、何か密室を書く原因があるのではないか、と小説家の心理を暴こうとする心理療法家の話ですが、最終的には「存在」で終わります。精神分析を行っているのも面白いです。
『解決ドミノ倒し』は、難しい話ではなくトリックとして、そのコンセプトに沿っています。雪に降り込められた山荘で起きた殺人事件を探偵が解くという、本格ではオーソドックスな舞台設定です。題名の通りで、ドミノのように一番最初が崩れたが最後、ラストまでそれを引きずります。
『私が犯人だ』は、目の前に死体があり、犯人である自分もすぐそばにいるにも関わらず、そこで働いている刑事達が、自分に気付いてくれない、というもの。「私が犯人だ!」と何度も叫んでも相手にしてもらえない孤独の悲しさがあります。
『不在のお茶会』。題名から分かる人もいると思いますが、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のパロディ(?)っぽいものです。作家・精神科医・植物学者という三人の登場人物たちは、そこに本来いるべき“主人公”がいないということに気付きます。しかし、“主人公”とは誰なのか、という疑問にぶち当たり、いつしか彼らは、自分たちは誰かの夢の中の人物なのかもしれない、などと考えるようになります。そしてラストまで続く「私」についてのメタ論理的な会話はかなり理解するのが難しいです。しかし、この作品集で作者が表現したかったことは、ほとんどがここに集約されているといってもいいと思います。
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「このミステリーがすごい」95年度版国内ミステリ一位を獲得した作品。
「DISC-1」 「DISC-2」 の二部に分けられたアルバムに似た作りがなんともいえず洒落ている。
それぞれの作品群はというとこれまた素晴しい音を奏でる物ばかり。
クラシックからロック、パンクに至るまで古今東西の音を楽しめる・・・。
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物語という音の余韻に浸ろう・・・・・・。
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短編集。
さまざまな趣の短編が収められており、そのそれぞれが予想しなかった結末を迎えたり、次々に展開したりして面白い。
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『密室症候群』
密室小説を書く医者。現れた患者の女性の診察。
『禍なるかな、いま笑う者よ』
落ち目のコメディアンがプロディーサーを誘拐し自分の作った機械で復讐しようとするが・・・。
『いいニュース、悪いニュース』
かつて夫婦交換した夫婦間で起きた殺人。本当のパートナーは?
『音のかたち』
『解決ドミノ倒し』
ドミノ荘に集まった人々の推理合戦。それぞれの本当の正体は?
『あなたが目撃者です』
テレビで流れる連続殺人犯の特集。夫婦で見ていたが・・・。
『私が犯人だ』
殺人を犯した男。自分が犯人だと話すがみんなに無視される・・・。
『収集の鬼』
レコードコレクターの男が見つけた幻の名盤。
『《世界劇場》の鼓動』
『不在のお茶会』
2008年12月28日購入
2009年1月21日初読
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【ネタばれあり】
たまたま古本屋で見つけた本でした。CDジャケットを思わせるポップな装丁とCDを思わせる内容構成に惹かれて手にとりました。
読んでいて思ったのは、とても実験的な作品だな~といいうこと。既読の東野圭吾作品の「○笑小説」シリーズや、「名探偵の掟」に似ているなと思います。勿論、この作品の方が古いので、東野さんはこの作品に影響を受けたのかな???
肝心の内容ですが、10篇の短編のうち、分かりやすい作品もあれば、非常に難解な作品もありました。私は「解決ドミノ倒し」や、「蒐集の鬼」が楽しめました。一方、「世界劇場の鼓動」は分かりにくかったです。意欲的な作品ではあるものの、分かりにくくてもう一歩なんだけどな~という「不在のお茶会」は、何度も読み返せばきっとその良さが分かるんだと思えるような作品でした。
巻末のLINER NOTEが親切でしたね。
山口雅也作品:初読
読書期間:2009.2.14~2.27
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面白い。全部がミステリーではない気もしますが。「解決ドミノ倒し」が一番笑えます。「私が目撃者です」はちょっとどきりとしました。
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「あなたが目撃者」は面白い。
夫婦の入れ替えも面白かった。
「解決ドミノ倒し」は途中まで面白いどたばただったのにラストが残念至極。
他の話は若さゆえ、奇を狙いすぎて惨敗(ありがち~)と物語として破綻してたりする……。自分の自己の確立という主題があからさますぎて推理が成立し得ない(論理的でない)など。
……若い作者の初期作の典型という意味では笑える。
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ミステリーズって言うより、実験小説・不思議小説集って感じ。傑作揃いとまでは云いませんが、なんだかんだで面白かったです。
「いいニュース、悪いニュース」「解決ドミノ倒し」「あなたが目撃者です」が快作。
「不在のお茶会」の結末には唸りました。
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設定が全て外国であり、少々読みづらい部分もある。
ただ、ポーやカーといった外国作家が好きな方には苦にならないだろう。
思想や観念、哲学といった要素も含まれており、少々難解。
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推理小説です。期待せずになにげなしに買ったのですが、面白かったです。十分、楽しめる、大穴みたいな本かもしれません。
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トリックを駆使した短編集。奇妙にねじれた仕上がりが個性的。「解決ドミノ倒し」は著者がどんでん返し連続記録(?)に挑戦したと言うだけあった。山口氏の作品はこれが初。
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短編。実験的で不条理なものが多い(批評家受けするのもわかる)。オーソドックスなもののほうが面白く感じてしまう。
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非常に実験的で、ミステリなのかと首を捻りたくなるものも多々。そういうものとして読めば、「不在のお茶会」などおもしろい。だけど、求めるものとは違っていたので、この評価で。
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5
CDを模した構成に強烈な共感を覚える。と言うのも、私も自分の創作物を並べる際に、同様のことをするからだ。
オープニングトラックはコレ、2番目はヘヴィなヤツ、3番目はキャッチーなコイツ、インストゥルメンタルはこの位置、これはバラードだから後ろから2番目、いや3番目かな、終わりにアウトロも付けよう、先行シングル(ダイレクトメール)はコレね、とかなんとか。
さらにかつては家族や知人が呆れるほどのCDやらなんやらのコレクターだった。音楽好きで、オーディオ好きで、蒐集家で、表現者で、ミステリ好き。登場人物に我が身を重ねる。
「蒐集の鬼」のマッケリー氏は私だ。“人知れず埋もれている宝物を掘り出して、安価で手に入れるコレクト道の醍醐味”、わかっている、ただの自己満足なんだ、“だん商”が210円なら買うしかないじゃないか…。
「不在のお茶会」の三月生まれの作家は私だ。“それはお前が、読まれるものをどんどん書かなかったからいけないのだ”、ぐはっ、や、やめてくれぇ…。
本作には色々と身につまされる話が多く、心が痛い。読み終えたばかりの今、軽く落ち込んでいる。良くも悪くもシンパシー全開。