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終戦直後の満州からたった二人で生き延び、日本に戻った二人の少女の強い絆に心打たれる。
ラストも、悲しい結末にならずによかった。
戦争の悲惨さを、考えさせられる良書でもある。
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認知症になり施設に入ることが決まった益恵。彼女の夫に頼まれ、益恵を最後の旅に連れ出すことになった友達のアイと富士子。大津〜松山〜佐世保〜國先島と巡る旅は、そのまま益恵の人生を辿る旅だった。行く先々で明らかになっていく益恵の壮絶な過去。そして、旅の終わりに老女たちがつかんだものは‥‥。
益恵の人生を遡っていく旅の過程と、敗戦直後の満州で親兄弟全てを亡くしながら、死と紙一重の苛酷な状況を生き延び日本に降り立つまでの11歳の益恵の体験が交互に描かれる。そしてその2つが交わる場所・國先島で全ての謎が明かされる。この構成が見事。
そして益恵が残した俳句の数々。筆舌に尽くし難い思いをたった17文字に込めた益恵の心情を思うと胸が詰まる。どの句も心に響く作品で、これは出典があるものか、作者が作ったものかと気になった。
戦争を経験した老人たちは見えないけれど重い荷物を背負って生きているんだな〜。そしてそれは、今の私たちには到底想像できないものだったりするんだな〜としみじみ思う。
ラストの展開はあまりに都合よく行き過ぎでちょっと萎えたけど、老女たちが皆一様に強く明るく前向きになっていくのは良かったかな。
宇佐美さんには珍しく読後が爽やかな作品でした。
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「愚者の毒」の作者だったので。
好きな著者だったので、
何も知らずに飛びついてしまい、
満州からの「引き上げ」という悲惨な話に、
最初はついて行けなかった。
しかし次第に、悲惨な状況にも関わらず、
助け合い、明るく必死で生きようとする少女たち、
「敵」にもかかわらず助けてくれる人々に
心を寄せられるようになった。
もう一つのストーリー、現代の老婆たちの話もまた、
身につまされる心に痛い話だったが、
最後の旅に出る三人の仲の良さや相手を思いやる気持ちに、心がほどかれていった。
最後は、
この著者らしいミステリー的な展開でしめくくられ、
ミステリーを期待している派としても満足した。
それにしても「殺人」を容認するだけでなく、
待ちかねてしまう物語とは、すごい。
その秘密の一つは、俳句をはじめ、
地獄のような状況も描き出す美しい言葉なのではないか。
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宇佐美まことさんの作品は3作目ですが、前作とはレベルが全く違うハイレベルな作品だと思いました。
都築益恵(まあさん)86歳、持田アイ(アイちゃん)80歳、須田富士子(富士ちゃん)77歳は俳句教室で知り合った長年の友人同士でこれまでも一緒に旅行をしてきましたが、益恵の50代で再婚した夫の三千男が「まあちゃんが認知症になったようなので、最後に旅に連れていってほしい」と言い出し三人は大津、松山、佐世保市の國先島という順番で益恵のなつかしい友人と「カヨちゃん」を探す旅に出ます。
旅と共に益恵が11歳のときに家族全員が亡くなり一人で生き残って帰ってきた、満州での凄惨な体験が明らかになります。
益恵が満州にいたとき、日本は戦争に負けて、家族全員が殺されたり自決しましたが、益恵だけは孤児となりましたが、同じ孤児の佳代ちゃんと出会い二人で筆舌に尽くしがたい大変な経験をして、生きながらえて、日本に戻り、佳代の実家へと帰ってきたのでした。
満州での幼い二人の経験は壮絶な生と死の戦いでした。
二人の日本人の女の子は少しづつ賢くなって、頭を使って生き抜くための術を考えたのです、日本まで生きて帰るために。
益恵は満人に襲われた佳代を助けて石でうち殺したし、佳代が腸チフスに罹ったときは効くという死人の骨を煎じて飲ませました。
そして國先島で、二人は一緒に働き、二人共そこで所帯を持ちます。
その二人が何故、益恵が島を出てから今まで一度も会おうとしなかったのか…。
「カヨちゃん」にアイが連絡をとっても、佳代は手紙の返事すら寄こしません。
この旅行で果たして「カヨちゃん」に会うことはできるのか…。
最後は前半の満州の空気とはうって変わって日本のミステリー調になり、最後の最後は本当にスカッとしました。
益恵と佳代、アイと富士子も、人生最後までよくやったと思いました。
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すごい。
勇猛果敢な戦士の話だった。
そうしなければならない理由があったから。それだからそういう行動をしたのだと、納得。
伏線の回収がお見事すぎてびっくりした。
こんな結末想像できなかった。
ただの認知症の老人の話ではない。満州事変が大変だったという話でもない。
友情もあり希望もあり、困難を乗り越える大冒険もあり、キラキラした光がさす終わり方だった。面白かった。
「別れる辛さを思うより、この世で出会えたことを喜びましょう」←これがタイトルになってる賛美歌なんだね。素敵。
生きよう。家族はみんないなくなってしまい1人生き残った意味を考えながら日本への船に乗る益江と佳代。
凄まじい逃避行だった。
富士ちゃんもアイちゃんも大変だけど、安らかであってほしい。
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うわ~、やられた!
うますぎ。最後の最後、まさか、ああいう形になるとは・・・
途中の流れは、なんとなく読めていたので、ちょっと斜に構えていたら・・・
良い意味で裏切られた感じ。
自分もアラカンとなり、母がまさに語り手のアイと同年齢。
母の語りを聞くようで、身につまされる。
(私は美絵ではありませんが!w)
宇佐美氏は、同世代なので、おそらく何かおありだったのだろうと・・・
初めて読む作家さんに親近感。
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アイ(80歳)と富士子(77歳)は俳句教室で出会ったもう一人の友人で認知症を患う益恵(86歳)を伴い、゛最後の旅〝に出る。その旅は益恵の夫・三千男の依頼で益恵がかつて暮らしていた大津市、松山市それに長崎県の國先島を巡るものだった。
益恵は戦時下の満州で少女時代を過ごし、父母や兄弟姉妹を戦火の中で失い、孤児として生き抜き奇跡的に日本へ帰還した。
物語は3人が各地を巡り益恵の知り合いの人物と出会う様子と、満州での益恵の過酷な少女時代の場面が交互に描写される。
満州における戦時下の凄惨を極める殺戮、悲惨な逃避行の場面、人間の尊厳が打ち砕かれる様子はまさに地獄絵図。読んでいて苦しくなり、早く3人が旅する場面に切り替わらないかと何度も思った。
著者は満蒙開拓団の実状や引揚者の体験について、数々の参考文献を読み、相当に思いを入れてこの小説の中に書き込んだのだろうと思う。
益恵が満州での苦しい日々を生き抜けたのは、同じ孤児の佳代と出会い、ともに辛酸を舐めあいながら助け合えたからだった。その深い絆で結ばれた二人は帰国後、それぞれ所帯を持ち、同じ頃に身ごもり、女の子を出産する。だが、その後に起きたある悲劇をきっかけに二人は秘密を共有することになり、暴露を免れるため生涯決別することを誓っていた。また、アイと富士子にもそれぞれ苦悩があった。
そんな年老いた女性たちがそれぞれの人生をたくましく、したたかに生き抜く強さを描いた小説ともいえる。
ただ、ラストの展開はあまりにも過激なもので、予想していた穏やかにソフトランディングする結末とは異なるものだった。
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認知症の益恵には親友の富士子、アイ、そして夫も知らない壮絶な過去があった。
敗戦後の満州で同じ孤児の少女、佳代とともに生き逃れてきた。彼女が隠し続けてきた過去が三人の人生最後の旅によって明かされていく。
物語の当初、認知症で不明なことを言っているなあと思っていた益恵の言葉にはそういう過去の体験があってだったのか、とつながる。戦争の悲惨さがとても伝わってきた。これがたった70年程前のことだとは思えない。満州から死なずに日本へ生き帰れた者と、凍てついた満州の大地の下で眠ることになった者との差は紙一重だった。生と死はつねに隣り合わせなんだ、と改めて感じた。
「別れる辛さを思うより、この世で出会えたことをよろこびましょう」
別れは寂しい悲しいけれど、出会えたことにまず感謝していきたい。
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現在と主人公の満州での過去の体験が交互に語られるのだが、その落差が大きく、二つのテイストの小説を読んでいるようだった。どちらも非常に興味深いだけに、最終章に向かっての盛り上がりが盛り上がりきれず、中途半端になり深みが無くなってしまっているようにも思う。
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またも認知症絡みの話である。だが作者は宇佐美まことさん。ただの闘病譚であるはずもない。認知症を患った86歳の益恵の夫に頼まれ、80歳のアイと77歳の富士子は、益恵の過去をたどる旅に出る。終戦直後の満州で益恵が経験した凄絶な体験と、3人の一見穏やかな旅を交互に描きながら、秘められた過去を浮き上がらせていく。3人の婆さんのロードノベルかあ……と最初はあまり気乗りしなかったが、徐々に明らかになっていく真相にドキドキしながら読了した。
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表紙は穏やかな風に見えたのに、中身は壮絶で特に満州の話は厳しすぎて読み進めるのに苦労した。精神的に来る物があったけれど、戦争の事は知っておくべきだし読んで良かったと思う。
最後は嫌な終わり方じゃなくて安心した。富士子さんのさっぱりした言動が心地よかった。特に別れを悲しむより出会えた事を喜ぼうという考え方は素敵だと思った。
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認知症を患った益恵が、夫や友人の計らいで心のつかえを取り除くため過去を巡る旅にでる。益恵の過去は本当に凄惨だ。戦後、満州から子供だけで生き延び、引き揚げてくるという苦難。俳句を嗜んだ彼女の過去の句は、彼女の生き様そのものだ。たった17字に込められた記憶が明かされるたび、何度も息を止めた。旅に寄り添ったアイにも富士子にもそれぞれの人生のドラマがある。現代の苦難も、友の絆の強さも表しながら、しっかりとミステリの伏線を散りばめ、思いがけない展開で旅にしっかりとピリオドを打つ。見事な一冊だった。読めて良かった。
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「メイファーズ(仕方がない)」
物事にとらわれない。諦めも肝心だ。
どんどん引き込まれていく物語、だけれど先に進むのが苦しい。途中何度も前に戻って読み返してしまう。辛い事を想像でしか感じられない自分が情け無い、そんな風に思ってしまい、苦しかった。
しかし、最後に益恵さんが口にする「メイファーズ」と『羊は安らかに草を食み』の演奏が流れてくると、心が安らかになってきた。
ああ、こうやって人生を生きていかなくてはならなかったのだと、戦争体験者と戦後生まれの自分の生き方の違いを痛感した。
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認知症になった益恵を富士子とアイが、益恵の旦那に頼まれ、益恵のゆかりの地を旅する。益恵は満洲引き上げ者で、その過酷な体験は読んでいて辛くなる酷いものだ。益恵は佳代と2人でいたから乗り越えてきた。富士子やアイも全て平穏であった訳では無い。友情は本物ならとても強いのだ。別れる辛さより出会えた事を喜ぶ…そうだよな。
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自衛隊がアメリカだけでなくオーストラリアの艦隊も護衛するということが外務・防衛閣僚会議で確認された、というニュースが昨夜、報道されていました。現実世界のきな臭さにシンクロして「シミュレーションとしての戦争」がどんどん存在感を増しているように思われます。一方、戦争を知る世代の減少によって「記憶としての戦争」は消えつつあることは避けられません。それは「イメージとしての戦争」に翻訳されて次世代へ続いていくとは思いますが戦中派の中に身体化されたリアルな戦争体験ではなくなることで「シミュレーションとしての戦争」に対してブレーキ力は失われていくのであろうな、とボンヤリ考えていました。しかし、そのボンヤリを揺さぶるような衝撃を本書から受け取りました。戦争は今での暮らしの中で続いている、運命を左右している、血の流れの中に存在している…文学はあの戦争と現在をつなぐことが出来るんだ、と感じました。それがエンターティメントとして成立する凄さ。俳句というミニマルな表現を結節点に現在と当時を交互に重ねて、満州から孤児として引き揚げてきた11歳の少女の人生を明らかにすると同時に、最終章で彼女の運命の引継ぎ方、という奇跡的な物語に広がります。自分の親世代の物語なので、自分事として読み進めました。荒いところもあるような気がしますがあまり気にならず松本清張の「ゼロの焦点」と比較したくなるような傑作、と読了後の興奮のままに記しています。「海ゆくとも、山ゆくとも、わが霊(たま)のやすみ、いずこにか得ん。うきことのみ、しげきこの世、なにをかもかたく、たのしむべしや。死ぬるも死の、終わりならず、生けるもいのちの、またきならず。」