紙の本
池澤夏樹氏による人類を脅威に陥れる「失策」について語られた興味深い一冊です!
2020/08/18 11:40
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『スティル・ライフ』(中央公論新人賞・芥川賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『すばらしい新世界』(芸術選奨文部科学大臣賞)など数々の傑作を発表してこられた池澤夏樹氏のエッセイ集です。同書で、著者は「何十年もかけてこの迷路の出口を探さなければならない」と主張されているように、世界を危機の陥れる脅威とも言うべき、核兵器と原子力発電、オゾン層破壊、エイズ、沙漠化、人口爆発、南北問題といった、多岐にわたる人類の「失策」について、著者独自の視点から語られたエッセイです。同書では、「序―あるいは」、「この時代の色調」、「核と暮らす日々」、「ゴースト・ダンス」、「恐龍たちの黄昏」、「レトロウイルスとの交際」、「人のいない世界」、「洪水の後の風景」といったテーマで、興味深い話が語られます。
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二十年前に書かれたもの!! しっかりと現在にも言えることばかり。
世界で起こっていること日本で起こっていること、すべてのことが終末へと向かっているのだろうか。人の手と足と頭を使って出来ることを機械にさせるようになって久しい。そこまでさせると人は頭を使わなくなり、手足は無用のものになるような気がしてしょうがない。遺伝子を変えること、人工の生物を作り出すこと、そこまでしたいのかと恐ろしさも感じる。人の知識への欲求は凄まじい。「なんだろう?なぜだろう?こうしたらどうなるの?」を突き詰めていった結果が今の人間社会、いや まだ突き詰まってはいないんだろうな。まだまだ人の知らないことはあってまだまだ進んで行くのだろう…どこへ?どこまで?それは幸せ?
自分が持っていた不安感が文字の形をとって表れたような気がした。
パンドラの箱の片隅に残っていた希望を大事にしたい。たとえ幻でも
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20年前に書かれた終末論。ありきたりと言えばありきたりなのだが、現在に至るまで事態はまったく改善されていないわけで、今読んでも古びた感じはまったくしない。
特に核エネルギーについては、2011年の原発事故を、原因から経過まで予言しているかのよう。
ただ、様々な終末論を論じる中で、共通の原因として挙げられているのは、人類を人類たらしめている”知性”そのものだ。
知性あるがゆえに人類は発展し、知性あるが故に滅びていく。
そんな予言の書なのかもしれない。
たとえば核エネルギーについて。
原子炉の耐用年数は、40年から60年くらいなのだそうだ。
これに対して高レベル放射性廃棄物の最終処分に必要な時間は数万年。
(この曖昧さが物事の重大性を表しているともいう)
たかだか人間の寿命にも及ばない繁栄のために、数万年もの時間を対価として差し出す。これが今の人類の核エネルギーに対する態度なのだ。
一個人としてはあり得ない交換レート。でも、それを容認するのが知性なのだとすれば、やはり人類は知性の故に滅んでいくのだろう。