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紙の本
蜂須賀小六と前野小右衛門の長い歳月をかけた働きが夢となって消えてゆく
2009/12/23 19:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読むときは、まず最初に『あとがき』を読むことをお薦めする。
本書の主な資料となっているのは『あとがき』にあるとおり、昭和30年に伊勢湾台風で崩れた土蔵から発見された「武功夜話」に拠っている。
「武功夜話」には曖昧で正確でない部分があると作者は指摘しながらも、「武功夜話」を主な資料としたのは、蜂須賀小六と義兄弟だった前野小右衛門の書き置きなどの生の資料や、同時代の人物たちに取材して得られた情報が豊富にある一級史料であり、何より前野小右衛門の兄の孫・吉田孫四郎が編纂した、前野小右衛門を始めとする前野一門の武功を記した史料だからだろう。
作者が、いわゆる玉石混淆の史料からどのように取捨選択したかは不明だが、『あとがき』に「武功夜話」のいくつかの出来事を挙げて、若干の解説を入れているので、本書を読むときのポイントとなる。
物語は、まだ尾張の織田信秀と美濃の斎藤道三が争っている時代から始まる。
蜂須賀小六は、根無し草の生活からの脱却をめざして主取りを考えるが、人に頭を下げるのは嫌だし、このところ頭一つ抜け出した感のある信長は高慢で傲慢なので仕えたくない。
そこで以前から顔見知りであり気持ちのいい男で、このところ信長へ取り入っている木下籐吉郎を主として押し出して、生きていくことを決める。
本書での蜂須賀小六は、表裏のないまっすぐな人間として描かれ、その対称的な人物として、織田信長がおり、主として担いだ秀吉が描かれている。
登場人物たちは人間くさく描かれているものの、セリフ回しが『物書同心居眠り紋蔵』と同じ印象を受け、どこか全体的にほのぼのとしたものを感じてしまう。
そのため戦闘シーンや残虐なシーンがあるのだが、なぜかおどろおどろしく感じない。
また、時々視点が変わることがあるのだが、一瞬誰の視点だか分からなくなると感じる部分や、ときどき唐突に始まる話によって、少々流れが分かりづらく感じる部分もあった。
一番印象の残ったのは、小六が死の床についてからの場面。
最初は気持ちがいい男だと思って秀吉を担ぎ、長年働いてきた小六が、徐々に現れてきた秀吉の傲慢さや欲深さ、そして身内への過酷な仕打ちに信長と同じものを感じたときの思いは、これまでやってきたことの虚しさを感じさせる。
そして死の床につき、義兄弟として共に秀吉を担いできた前野小右衛門(将右衛門)や息子に「心致されよ」と心配し、旅立っていく小六は切ない。
さらに関白秀次について働いていた小右衛門と小右衛門の息子の最後は、小六が心配する通り悲しいものとなってしまい、本書のラストとなっている。
分厚い本書と向き合って読むことで、小六と小右衛門の長い年月の働きが経験でき、小六と小右衛門の最後を看取ることで、彼らの虚しさを感じることができる。
最後に小右衛門が秀吉の仕打ちに対して感じた『この男こそと押し上げてきた長年の働きが無になってしまった』が、本作品の描きたかったものではないだろうか。
ところで樓岸(ろうのきし)とは石山本願寺が要害を築いていた地名であり、のちに蜂須賀小六の館があった場所である。
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