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紙の本
まさに力作!
2010/01/13 08:35
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸の文化や人情を、毎度とても興味深く面白い物語で描いてくれる山本作品でありますが。本作品はその中でも傑作、珠玉の一冊と言って良いと思う。読み始めてまず感じるのは、物語の「濃さ」。これまでの作品と比して、物語の作りこみ方が綿密かつ深いのだ。いやそれは決してこれまでの作品が浅いと言うわけではないのだが、これまでの作品が主に江戸町民の情緒や文化を舞台に色々な視点(職業)から物語が展開していたのに対し、本作品は江戸老中松平定信が企てる陰謀から始まるのだ。山本先生がどれほど心血を注いで書き込まれたか、というのが序盤からひしひしと伝わってくる。
舞台は江戸、世の不景気を吹き飛ばそうと時の老中松平定信が断行したのは「棄捐令」。何と武家の借金を全て帳消しにする、という大変な策であった。一時はそれで景気が良くなったかに見えたものの、そんな愚作が長く効能するわけもなく、あっというまに江戸の町には以前にも増して不景気の風が吹き始める。そんな折りに各藩への内通者から、土佐藩と加賀藩の内室(藩主の妻)が体調不全と情報を受けた定信。正月明けに内室を伴った宴を開催すると、異例の通達をする。万一にもその通達に従わなければ、その藩は徹底的に年貢や公費を巻き上げられてしまうのである。絶対に、内室の体調を万全として宴に参加しなくてはならない。それには加賀藩だけに伝来する特効薬、「密丸」が必須であった。この藩の窮地に立ち上がった男たち、16人。彼らこそ加賀藩が誇る飛脚たち、浅田屋の面々であった。夏場なら江戸~加賀(石川県)の570キロを、何と5日で走りぬくという彼らだったが、時は真冬、雪深い北陸の行路は困難を極める。さらに定信の元にも密丸の存在が知らされ、その江戸到着を阻止しようと手だれの御庭番達が飛脚たちを襲う。まさに、まさに命をかけた飛脚達の活躍に目が潤む。ラストはもう涙なくしては読めない一冊となっていた。
松平定信やら田沼意次やら棄捐令やら札差やら。遠い昔に教科書で習った言葉が並んでいる。ただ教科書と圧倒的に違うのは、その言葉が物語の中で意味を為し踊り活躍する事である。山本作品はただ面白いだけじゃない「ああそうだったのか、あの言葉はそういう意味が合ったのか」と歴史を再認識、いや初めて「ちゃんと認識」させてもくれる。そういう意味でも傑作と呼べるのではないだろうか。
だからぜひ中学生や高校生に読んでもらいたい。彼らがこの作品を手に取った瞬間が、日本史が「勉強」から「趣味」に変わってしまうそんな一瞬に、なるかもしれない。
紙の本
飛脚とお庭番と猟師が冬山で
2010/11/03 13:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
> 冬眠から覚めた熊に、脇差だけで立ち向かう修行も毎年のように繰り返している。
そうやねん。お庭番をなめたらあきまへん。わても見ましたんや。十四歳のときに、山道を走って飛脚になる稽古をしてましたら、猪に出逢うて、奴が正面から走って来ましてん。
> 「なんやおまえ、おれに食われたいんか」
って、どなってやったけど、食われんのはおまえじゃ、みたいな顔して猪、来よる、目の前に牙が迫ってきた時、猪の頭の後ろに小柄を突き刺して助けてくれたお武家がおりましてん、それが、お庭番でした!
お庭番がなんで熊やら猪やら相手に闘うてたかというたら、いざというときに備えてです。たとえば冬の山の中で加賀の三度飛脚を相手に闘うためですわ!
なんで加賀の三度飛脚を相手にせんならなんかというたら、飛脚は、加賀のお殿さんや御内室様のために「密丸」ゆうお薬を加賀から江戸まで運んでるんですわ。そんで、寛政元年の十二月、そろそろ江戸で薬が底をつきそうになってきたときに、御老中の松平定信様が、加賀の御殿様と土佐の御殿様を、御内室同伴でお正月のお食事会に御招待されたんです。加賀も土佐も、そのとき御内室様が御病気で臥せってはりましてん。そやから、お食事会までに「密丸」を飲んで元気になってもらわんとあかん。御内室様の病気は、どこの藩も、秘密にしてますねん。御公儀にもれたらいろいろとまずいことがありまっさかい。松平定信様は、うすうす知っていて、わざと意地悪に御招待しはりましてん。ほんで「密丸」なんか届けさせたるかい、ちゅうことで、お庭番を差し向けて飛脚を邪魔することにしはりましたんや。「密丸」を奪う必要は無い、届けられなくさえしたらええんや、ちゅうことで、飛脚を殺してまえ、と、こうですわ。
加賀の三度飛脚ゆうたら、西暦2000年の日本でゆうたら、プロスポーツの選手かオリンピック選手みたいなもんでっしゃろ。そりゃ鍛えたあるわ、そのうえ、食事、按摩、睡眠、体調管理は万全でっせ。そんじょそこらのお武家が刀振り回したかって、走って逃げたら誰も追いつけまへんわ。
そやけど、お庭番は、そんじょそこらのお武家と違います。飛脚のなかでも一番速い男なんかと競走したらどうかわからんけど、一応、走るのも早い。そのうえ、剣、弓、砲術、格闘術、なんでもできるし、火薬も使う。
ここだけの秘密ですけど、加賀の三度飛脚も、火薬を使いますねん。ほら、土砂崩れかなんかで、大木や大岩が道を塞ぐこともありまっしゃろ。そういうとき、火薬で、どーん!と、吹き飛ばして、走って行くんですわ。
三度飛脚の老舗の浅田屋伊兵衛はんは、江戸から八人の飛脚を同時に出発させて、加賀から来る飛脚と落ち合ったところで待機させて、加賀から来る一番速い男、玄蔵に、「密丸」を取りに戻らせて、それからみんなで江戸まで、お庭番の襲撃を防ぎながら運んで来る、ゆう計画を立てました。
そやけど、あにはからんや、ここにもかしこにも、内通するもんがおって、計画はすべてお庭番に筒抜けですわ。
飛脚が一番早い連絡手段やっさかい、その飛脚が怪我して走れなくなったなんぞと、加賀から江戸まで電話で知らせる、ちゅうわけには行きまへんな。
間の悪いことに、飛脚のなかでも一番速い男、みんなが頼りにしている玄蔵はんが、脚を怪我して走れんようになりましてん。
加賀からは、飛脚のなかでも一番の新米の健吉と、ちょっと先輩の俊助のふたりが、出発しました。道中には、越後の親不知子不知ゆう難所があります。冬の荒波に襲われたとき、親が、こどもが波にさらわれてもそのまま駆け抜けなあかん、子は、年寄りの親が波にさらわれてもそのまま駆け抜けなあかん、そやから親不知子不知ゆうんですわ。波見ばあさん、ゆうのがおって、その人の合図で、さーっと走り抜けるんです。三度飛脚も、誰が波にさらわれようと、見てみぬふりして御用を務めなあきまへん。玄蔵も、俊助も、健吉はだいじょうぶかと心配しきりや。健吉は優しいから、情にかられて助けようとするんちゃうかと。
間の悪いことに、よんどころない用事でこの親不知子不知を通ることになった若い母親と幼い男の子が、健吉と俊助の前で親不知子不知の最大の難所を走る抜けることになりましてん。なんでこうなるねん!
冬の山のなかで一番強いのは、飛脚よりもお庭番よりも、猟師ですわ。鉄砲持っとるし、弓矢も火薬も使う。お庭番と飛脚の闘いに、よんどころのう、猟師もかかわりあうことになるんです。山にも親不知子不知みたいな難所があって、そこでの死闘がクライマックスですわ!
ついでやけど、三度飛脚は、女にもてまんねん。そやけど、猟師の娘ほど、こわいもんはおりまへんわ……