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これはびっくりするような掘り出し物で、とても優れた哲学書だと思った。
貨幣だの会社だのといった社会的な事象が、いかにして成立しうるのか。これを哲学として存分に思考しきったようなものは、確かに、ありそうでなかったかもしれない。そしてこれは著者サールが言うとおり、極めて重要な問題だ。
サールは志向性、集合的承認といった概念を駆使して非常に明快に解いてゆく。
とりわけ、言語哲学に類する論の部分は白眉であり、言語使用が社会の構成を可能にする核心であるという指摘には首肯させられる。
本書でサールがつむいでゆく論理は恐ろしく明快であって、それゆえに反論の可能性も生じてくるだろう。特に最後の方で扱われる「権力」「義務」「人権」といった問題系に関しては、サールはむしろ明快過ぎて、ちょっと深みが足りないような気がしてしまう。実際、さまざまな批判が可能だろう。
だがそのように批判的に読むにしても、本書は現代哲学にとって重要極まりない問題をしっかりと筋の通った仮説として呈示しているので、自ら考えるための貴重な道標のひとつとなりうるだろう。
ジョン・R・サールといえば、以前ちくま学芸文庫の『MiND』がなかなかの良書だったので、私はこの本を探し出して読んだのだが、こういう優れた書物が世でさほど評判にならないままにまだまだたくさん埋もれていると思うとわくわくする。もっとも、このような貴重な本に出会うためには、そこまでに多くのつまらない本を経由しなければならないのかもしれないが。