投稿元:
レビューを見る
毒林檎…!
これ以上に詳しい伝記はないのだろうけど、他にも色々読みたい。暗号についても。
「一九八四年」も読み直したい。
投稿元:
レビューを見る
異才、アラン・チューリング評伝の下巻である。
コンピュータ科学や人工知能の父とも称され、生物の数学的な分析・解釈にも取り組んだ稀有の天才である。
下巻は1942年から亡くなるまでを追う。
上巻に引き続き、下巻の歩みも軽やかではない。ねっとりとじっくりと、チューリングの行動・心情・性癖、彼を見る人々の目、当時の世界情勢を描いていくこの評伝は、万人に読みやすい本ではない。だが、わからないなりにおもしろい。
コンピュータと生物というある意味、かけ離れたものに、なぜチューリングが魅せられ、何を研究しようとしていたのかが、この重厚な上下巻から朧に浮かび上がるように思えてくるのだ。
彼の目指していたものは、暗号から生物の形態形成まで、実は一本の線上にあったのではないか・・・?
暗号はあるものを別のものに置き換え、それを元に戻す作業である。変換には「鍵」がある。だがこの「鍵」は破られる。破られるはずである。優れた「鍵」とは何か。破ることのできない「鍵」を作ることは可能なのか。
コンピュータや人工知能と会話をする際、不自然さが生じることは想像に難くない。だが記憶装置を大規模にしていき、さまざまな場合での事例を追加していけば不自然さは減っていくはずだ。ある時点で、それは実際に人間と会話するのと区別が出来ない精度に到達するだろう。では記憶容量が大きければよいのか・・・? 自律的な思考を生むものは何だろう。
生物の形態はときに非常に複雑である。花の花弁やアンモナイトの貝殻などに潜むフィボナッチ数列(0、1、1、2、3、5、8、・・・、F(n-2)+F(n-1))は生物の複雑さにどのように関わっているのか。
単純性と複雑性。秩序と混沌。規則性と不規則性。
制御可能であったものが、どの時点かで予測不能になる。それは量の問題なのか、それとも質なのか。
掌に収まるものから一気に拡散していくその瞬間の謎に、彼は挑み続けていたのではないか・・・?
その早すぎた晩年は、同性愛が発覚したことが招いたものだった。
同性愛を「矯正」しなければならないとされていた時代。彼は裁判を受け、収監かホルモン療法かの選択で、ホルモン療法を選ぶ。これ以前に試された男性ホルモン投与は成功せず、女性ホルモン療法は新しい試みだった。これは本当に憶測に過ぎないが、もしかしたらチューリングがホルモン療法を選んだのは、この新たな療法に幾分かの「好奇心」もあったのではないか。自分がどうなるかというある意味、実験である。
その1年後、青酸カリ中毒により、チューリングは世を去る。
自殺か、事故か、あるいは謀略か。本書の記述は含みを残す。
チューリングの「天才」を本当に理解するには、同程度の才が必要なのだろう。
著者のホッジスは、チューリングの性癖も含め、その人となり・思想に深く鋭く寄り添っているように見える。稀有な評伝であるがゆえに、訳出は困難であったことだろう。訳者あとがきもこの評伝の何たるかを理解するうえで興味深い。
おそらくは非常に実際に近い姿がここには描かれているのだと思う。必ずしも人当たりはよくなく、いわゆるオタク=nerdで、「いじめ」にあったとしてもさして意に介さず、もちろん空気など読まず、彼にとっての真実を追究していた天才。
その早すぎた死は、やはり「惜しい」と思う。
*映画にも少し出てきていましたが、チューリングはヘッケルの版画に魅せられていたようですね。(cf:『生物の驚異的な形』ヘッケル)
*チェスのプログラミングにも惹かれていたようですが、チューリング自身はチェスプレイヤーとしては凡庸だったようです(cf:『謎のチェス指し人形「ターク」』)
投稿元:
レビューを見る
私にはちょっと難しい内容だった。
でも、2016年流行るのでは、と報道されていた、私たちの暮らしをアシストしてくれる小さなロボット。
そんなもののもともとを考えてたのかな。
もし、次版があるならば、この本をベースに、日本語のわかりやすさを加えてくれたら、ありがたいかな。
投稿元:
レビューを見る
訳者自ら語る通り、学術表記や文学作品での比喩など、翻訳にも読者にも挑戦を求める内容。翻訳にあたって出てくる書物全て読了したのは大変な作業だったに違いない。
天才的な人物は抽象的な考えをすぐさま理解し、記憶力も併せ持ち、既定の概念に囚われない個性を発揮する共通点があると感じさせる。 プログラミング言語の構想から、コンピュータやネットの普及にAIなど、かなり時代の先を行った考え方をしていたのも印象深い。 覇権が移行されていくイギリスのジレンマを垣間見る歴史的背景も見もの。