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トレッキングを楽しむ程度なので、いわゆる深山幽谷に分け入ったような経験はほとんどないが、山を見ていると、「常人の立ち入らないあの奥はどうなっているのだろうか、何か不思議なこと、畏ろしいことがありそう」といった思いが浮かぶ。
本書は、怪談や幻想系作品のアンソロジストとして名高い東雅夫氏が、「山怪」をテーマとして編集した一冊である。
一番のお気に入り作品は、やはり鏡花の『薬草取』。愛する人のために薬草を取りに向かう青年が、花を摘みに行く娘と道連れになった道中で語る、年少の時の哀しくも夢のような体験。
槐多『鉄の童子』は、未完ということもありよく分からなかった。山を下りて下界の村に降りた主人公はまるでツァラトゥストラを思わせるが、題名にもある童子とどのような関わりが生じるのか、これからというところで終わってしまっている、ただ、山の描写については槐多らしく大変力強い。
火野葦平『千軒岳にて』は、火山の噴火とそれに対する河童の反応を題材に、面白く仕上げている。
本堂平四郎、平山蘆江は名のみ知っていた作家で、初めて作品を読んだが、こうして初めて作家、作品にふれることのできるのも、アンソロジーのありがたさだ。
他にもこれはという作品が選ばれており、とても楽しめる。