紙の本
「苦い」感じは初めて
2021/12/13 22:11
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投稿者:しゅんじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
三つの短編の感想を書けば、「怖い」(トロフィーワイフ)、「哀しい」(ドナドナ不要論)、「苦い」(されど私の可愛い檸檬)かな、ありきたりだけど。「怖い」のは舞城作品によくある感じだけど、これほど爽快感の無い「苦い」感じは初めて感じたような気がする。でも良かった。
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短編3編
それぞれにぐさっと刺さるところ、ぐ〜っといたみを伴うところあれどどことなくほっこりする作品だった。
3本目の「されど私の可愛い檸檬」がなかなか強烈なラスト…!いちばんエグみがあったというか、
うわーーうおーーー
ってなった…笑
「家族」の3編それぞれの印象
【トロフィーワイフ】
姉妹、
きょうだいという関係の中だからこそ見えてる
相手、わたし、人間の輪郭
【ドナドナ不要論】
夫、父、妻、母、こども
役割が絡み合う家族のなかで
バランスを崩した瞬間
【さらど私の可愛い檸檬】
ぼくのじんせいに関わるものごとひと
進んでいく瞬間、いつのまにか進んでいること
その中でのぼく
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林檎が可愛らしく爽やかだったので完全に油断した。怖かったです。
1話目は、淵の王を思い起こさせたけど綺麗にまとまっていて、一つ一つのセリフが心に残る。忘れたくない、と思わせてくれる。
自己認識の問題なんてとっくの昔に手放したはずなのに、手放すんじゃなくて答えを持っておいたほうが安心ですね。
2話目は耐え難い。やめて本気で落ち込むやつ、って一言で油断させるのがずるい。
本気で落ち込むことなんて起こらないんだな、と思わせておいて、本当に深刻な問題に主人公が真摯に向き合うという矛盾。
外的脅威には、不快ではあるものの、負けやしないくせに、内側から崩されると脆い、という対比が見事。
同じ物事でも人によって感じ方が違う、というメッセージを繰り返していてこれもすごい。
私の受け取り方と他の読者のそれと作者の意図と、すべて違うんだろう。
私の感情は私だけのもの。
そして集合住宅怖くなった。
3話目は終わりがすっきりしない。それが主人公のだめさを目立たせる。元のバイト先に戻ればいいのにねえ。
人間には自由意志があるから間違うのかもしれないし、意味のあることかもしれないし、生きる、ということについての知恵が足りないのかもしれない。
単純に舞城の描く完璧すぎるヒーローが好きなので不服なだけかもしれない。
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久しぶりの舞城作品第二弾、本当に胸を貫く。
「ドナドナ不要論」が一番好きだった。椋子の母が、うちの母と、似てる~!!!去年結婚したこともあり、自分が膵臓がんになったら、うーん…そうなるかも。わからん。想像は無意味。舞城を大好きになったきっかけである「煙か土か食い物」の衝撃を思い出すが、苦痛は人を全く別の存在に変えてしまう、それもあれもその人でしかなくて、本当の私、とか繕ったあなた、なんてものは机上の空論でしかない。人間は他者によって認識されたそれぞれのかたちでこの世に発現するだけだ。四苦八苦、人生はほんとうにかなしいものだが、かなしみはかなしみ一色ではない。複雑でリアルな感情を想起させる作品は本当にすごいな…
泥臭く矛盾だらけで悩みながら疾走するそれぞれの登場人物に、苛立ったり愛おしかったりめまぐるしく最後には感極まって通り過ぎてしまった文字をなぞるばかり。この没入感。ほぼ1日で読み終えてしまった。いつまでも調布と西暁が登場する世界に安心する。また色々読み返したくなってきたけど、書店になかった「畏れ入谷の彼女の柘榴」を入手するところから始めなくては。
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大好きな作家。
たまに合わない作品もあるけど、これは大好きだった。
本当に好みだなあとしみじみ思った。
文章のテンポがピカイチ。特に一作目が好き。
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3作品とも好き。
とくに心に突き刺さったのは「ドナドナ不要論」
この世にかなしみはたくさんある。かなしい思いは少しでも減らしたいし、できることならしたくない。でも、かなしいだけじゃなく、そこには美しさもあるかもしれない。
「されど私の可愛い檸檬」は身近にいる人を思い出してしまってなんだかかなしくなった。でも、それも悪くない。
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いろいろな人の人生を覗き見した感じで面白かった。
「幸福とはそれを感じる人間のものであって、他人が観察するものは全て偽物なのだ。」
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トロフィーワイフ
p38
「そういう話のスジ。人は自分の選んだもの、取り替えのきかないものを肯定的に捉えるようになる」
「自分のものだから、じゃなくて、自分のものになった瞬間に、世界観と価値観を変えて、ってことです」」
されど私の可愛い檸檬
p213
四方田さんはただ俺の人生から出て行く。
甘くない酸っぱい檸檬。
相変わらずの舌戦で楽しく読了。
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色々な家族の形を描いている作品。
一番印象的な作品だったトロフィーワイフは、棚ちゃんの狂気的な様子がすっごく怖かった。3話とも絶妙に重い話で普段の幸せな生活も色んな要素が重なり合って成り立ってるけど、一歩踏み間違えたら違う方向に進みかねないってい危うさを孕んでると感じた作品でした。
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「愛」「哀しい・悲しい」という言葉の解釈を解釈にしては長い物語に載せて著している
舞城さんがこれらの言葉の意味をどのように噛み砕いて再構築しているのかがよくわかる作品。興味深かった。
『トロフィーワイフ』
愛情の捉え方の違い
あたかも善いように振る舞っている人の言動が受け手にとっては苦しいことなのかもしれない。しかし、拒絶する理由が明確にないことからその人の善意ありきの行動に染まった生活に沈んでいってしまう。
『ドナドナ不要論』
「悲しい」「哀しい」という言葉は一体どのような状況のことを表すのか。「ドナドナ」というかなしいと感じる曲をあえて聴く(自らかなしい思いをする)のはなぜかということについて、過去のかなしさはどんなことをしても取り返しがつかない。しかし、その出来事は全てが「悪い」でまとめられることではない。「かなしい」とは要らないけど悪いものではない。だからこそ、主体的にかなしみを感じる行為をすることがあるのだ。
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3つの話はどれも面白かった。
特にトロフィーワイフが面白かった。
「人はどんな状況でもある程度は幸せになる」っていうのは確かにそうだなって思った。その人がいないとダメだとか、その人がいるから特別幸せなんだっていうわけではないということがわかった。
読み終わって、自分はその人とって特別じゃないんだって思う反面、相手の人に対しても、この人じゃないとダメだって思わなくてもいいんだっていう安心感?みたいなのがあった。
とりあえず、言語化できないと思ってた気持ちをこの小説で明らかにすることができたし、理解することができた。
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3作品とも舞城作品の中でもかなり上位の完成度。
どの物語の主人公たちも試行錯誤してたまに思い直したりを重ねながら"自分の本質"や"本意"にせまろうとしていく。そして、その果てに高度な言語化や行動化を行う姿はまるでドストエフスキーの登場人物たちみたいだ。そういった"純粋性の探求"は舞城作品ではかなり頻発するテーマ、と言うよりも作家性と言うべきものかもしれないが、本作ではその結末に"この部分は考えたけどよくわからん"というのが見つかる。そして、それを"これ以上は解き明かせないもの"として受け入れることを選択するという意味で、さらに一段上の純粋性に到達していると言え、その誠実さに打ち震える。
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家族に関して描かれた3篇の小説集。
簡単に関係を断ち切れない『家族』がテーマだからか、たくさん考えさせられたし文章が重く響いた。特に『ドナドナ不要論』は、自分の今の年齢や家族構成に近いキャラクターの話だったので身近に感じたし共感しやすかったと思う。
親やきょうだいは選べないし、配偶者選びだって正解は誰にもわからない。家族を愛し自分が置かれた環境でもがくしかない。私はとても好きだったけど、読む人によってはとんでもなく苦しい小説ではないかと思った。