紙の本
星月の井
2022/03/20 20:35
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
家系図と人物紹介があるので人間関係の相関図がわかりやすくて良かったです。2代将軍頼家とその乳母の子ども達との幼いやり取りを読むと、後の運命を考えてやりきれなくなりました。鎌倉の御霊神社に今もあるという星月の井や、比企一族を弔った妙本寺など改めて訪れてみたくなりました。
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現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に登場する比企一族(比企尼を草笛光子さん、比企能員を佐藤二朗さんが演じている)を取り上げているということで、予習を兼ねて読んでみた。
鎌倉時代は(も)詳しくないので、比企一族についても大河ドラマで初めて知った私には非常に興味深い作品だった。
比企一族はなんと悲劇的な一族なのだろう。
元々比企尼が源頼朝の乳母だった縁で、その娘や孫娘たちは頼朝の近親者や近しい家臣たちへ嫁いでいるのだが、その殆どが不幸に見舞われているのだ。
長女・丹後内侍の娘・長子は頼朝の弟・範頼に嫁いだが、範頼は謀叛の疑いを掛けられ殺され、長子は赦されたが男児二人は出家させられている。ちなみに夫は頼朝の近臣・安達盛長。
次女・河越尼の娘・郷はやはり頼朝の弟・義経に嫁いだが同じく義経は頼朝に殺され、郷とその娘も巻き込まれて亡くなっている。更に巻き添えになった形で河越尼の夫と息子まで謀叛の疑いで殺されている。
三女もまた流転の人生。彼女の死後ではあるが息子はやはり謀叛の疑いで殺されている。
そして主人公である、能員の娘・若狭局は頼朝の嫡男・頼家に嫁ぎ男児・一幡と娘・毬子をもうけるが、彼女もまた…。
大河ドラマは今のところ時にコミカルに描かれているが、この作品を読むとこれからの展開の暗澹さにうんざりする。
頼朝は晩年、怨霊に怯えていたらしいがそれもそうだろう。しかも血で血を洗う権力闘争は彼の死後に本格化し、最終的には北条家が権力を掌握する。
読み終えての印象は、頼朝すら北条家に利用され、多数の血を流しながらついに北条家がトップに上り詰めたという感じだ。比企一族も残念ながらそこに巻き込まれてしまった。しかし比企尼からの縁や所領を考えればこうなるのは必然だったのだろうと思える。
もし運命を変えられるとすれは、若狭局が頼家ではなく北条時房に嫁いでいたら…だが、これもまた違う争いが生まれていたのだろう。
タイトルの『鬼子母神』は若狭局が自分の子どもを鎌倉殿にするためなら他の母子が比企一族と同様に悲劇に見舞われても目を瞑るという覚悟を描いたことからだが、『鬼子母神』はむしろ北条政子にぴったりな表現のように思える。彼女にとっての子どもは『北条家』であり頼朝との間にもうけた頼家すら北条家に叛いた途端に牙を剥く。彼女にとって一番重要なのは源氏ではなく北条家だった。
後に阿野全成に嫁ぐ阿波局が大河ドラマのあのキャラクターそのままなのが面白かった。出版は去年の10月だが意識して書かれたのだろうか。
唯一の希望は若狭局の娘・毬子が謎の巫女の予言通りになったことだろうか。
それにしてもこれ程血を流しながら、北条家は怨霊に怯えなかったのだろうか。政子は大丈夫そうだが。大河ドラマではあの義時のキャラクターで今後のハードな展開をどう乗り切るのか、興味が湧いてきた。
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鎌倉殿関連小説、北条政子の次は若狭局。源氏の骨肉の争い、幕府内の権力闘争が、比企一族の女性たちの視点で描かれる点が新鮮で面白い。どのような世でも変わらない母子愛がテーマ。「愚管抄」に拠りつつ作者の解釈を加えた若狭局親子の最期が哀れ。比企氏滅亡は悲惨だが、終章、竹御所のエピソードでほんの少しだけ救われる。同じ作者の「義経と郷姫」を先に読んでいたので、より楽しめた。やはり比企一族を取り上げた「武蔵野燃ゆ」も読んでみたい。