紙の本
「ああ、おらはたらいてもはたらいても、だめなんやなあ」と言って、ぐったらぐうと三年三月ゴロ寝し続けた男が村の救い主に…。寝太郎が許されない世の中だけれど、ね。「よい絵本」選定。
2001/06/12 12:19
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
民話研究に大きな足跡を残した故・大川悦生氏の手になる再話で、山口県山陽町に伝わる農民伝説を元にしたらしい。
本書のお話は、どちらかと言えば少数派の方。人口に膾炙しているのは、巻末に参考に附されている「もうひとつの民話」の「三ねんねたろう」の方だ。寝てばかりいる男が一計を案じ、隣の裕福な家に神主のかっこうをして忍び込む。神棚から飛び降りて氏神様と見せかけ「娘をとなりのたろうに嫁にやれ」と告げる−−言ってみれば詐欺だから、こちらは子どもの本のシリーズでは避けられているという事情がある。
さて、その子どもの本におけるねたろうだけれど、正義の人に祭りたてられている。
正直もので働きものの男だったが、水不足で村の米は毎年不作。「いま ちっと おこめの ごはんが たべたいのう」と言いながら男のおっかさんもぽっくり死んでしまった。
それまで愚痴ひとつこぼしたことのない男だったが、働くことに絶望してしまってゴロ寝を決め込む。
みんなに相手にされなくなるわ、年貢米の取り立てに来た代官所の役人もあきれて帰っていくわ…。でも、子どもたちは半分おもしろがる気持ちもあり、ことに役人を撃退してからは、感心するような気持ちにもなり、食べ物を持ってきては置いていく。
三年三月たったところで、むっくり起きた男は、遠くまでどんどん歩いて大きな川までやってくる。そこから水を引くのだと言うが大人は相手にしない。おもしろ半分の子どもたちが手伝って用水路を完成させてしまう。
実に大らかなお話なのである。
大らかなお話にふさわしい渡辺三郎画伯の大胆にしてかわいらしい絵が実にいい味を出している。
絵本としては分量が多い本文だけれども、余分なものをそぎとって必要なものだけしっかり描き込む、白地を多くして塗りこめない絵にしたことで、流れるようにスムースに読み聞かせができる絵本に仕上がっている。
もちろん、分量が多いとはいえ、大川悦生氏の読みやすい名調子も魅力のひとつだ。
<もへいと いうたか、よへいと いうたか、もとは ちゃんとした なまえが あった>
さりげないことなのだけれど、ねたろうにきちんとした名前を与えてしまうよりも、この方が子どもたちの心にアピールする楽しさがある。「けこっ」という一番どりの鳴き声も、「あほう かあ」というカラスのそれも、ささやかな工夫だけれど気が利いている。
いつかでかいことをしそうな人間の居る場所を確保できなくなった組織社会だけれど、せめて教育機関という組織には、その場所が残されることを願いつつ、この本が多くの子たちに楽しんでもらえることを期待したい。
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S太朗4歳9カ月出会った本。幼稚園の年中組みになって、毎月1冊絵本を持って帰るようになりました。その月、先生が読んでくれたものを月末に持ち帰り、またお母さんと読んでね、ということらしい。昔話って、本当に読んでいない…そういう意味でも貴重なのかもしれない。
ねたろうは天狗になりすまして、隣のお金持ちをだまし、その娘とまんまと結婚する。ずっと寝てすごしてたぐうたらな男が、そこから一生懸命働くようになった…不思議だ~~!
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超共感する(というかうらやましい)3年寝太郎
あらためて読んだら「あれ・・?こんな話なの?」ってかんじでした。
働いても働いても暮らし向き楽にならず、
おなかいっぱい米が食べたかったといってお母さんが死んじゃって
3年寝た寝太郎は
隣の村の川から水をひっぱってくるため溝を掘りだして
とうとう完成させてしまった!ねたろうえらい!
寝てたこととはあんまり関係ないのかな
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【経緯】
どんなんだっけと思って
【書き出し】
とんとむかしであったそうな。
あるところに、年がら年中寝てばかりおる、お百姓の若者がおった。
【感想】
「寝ることでしか逃れられない農民の苦しみ」が主題だったのね!
呑気な絵とタイトルからは想像がつかなかったけど、ハッとさせられました。
これ、サラリーマンに置き換えて現代風に読むこともできるわー。
【引用】
「ああ、おら 働いても働いてもだめなんやなあ」といった。
それからふらんふらんとして帰ってきよると、まるで魂が抜けたみたいになって寝た。
【不可解】
川から水ひこうって思い立ったのが急すぎて。神のお告げ的なものだったのん?
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子どもの頃、学校が休みの日には寝坊ばかりしていて、「さんねんねたろうだ」なんて祖母か母に言われた記憶がある。
そのわりに、私はおはなしの内容を知らなかったと思う。
図書館で見かけたので、気になって借りた。
若者は病気の母親のために懸命に働けど、母親は死んでしまい、生活は苦しいまま。母親が死んでしまった夏から若者は眠りつづけ、三年三月たって目を覚ますと……。
「ああ、おら はたらいても はたらいても、だめなんやなあ。」
このセリフがささる。
普通の小説だったら、無力感と絶望に泣いてしまうかも。
文を担当した大川さんの「三ねんねたろうのこと」によれば、「民話は現実の生活にねざしながら、それをのりこえようとするところでうみだされている」(吉沢和夫氏『民話の発見』)とのこと。
人の心をくんでいてユーモアもあるなんて、民話はすごい。
人は強さで民話をうみ、民話は人をより強くするのかもしれない。
ポプラ社のこの「むかしむかし絵本シリーズ」の違うおはなしも借りてみよう。
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働き者の若者が、母親が無くなった後、
「おら はたらいても はたらいても、だめなんやなぁ」と言って、
寝てしまいます。
子ども達がからかっても、お役人が取り立てに来ても、全然起きない。
日照りが続き、村が苦しんでいたある日、
むっくり起き上ったねたろうは、
遠くの川から水を引けばいいと言い、ひとり作業に没頭します。
はじめは相手にしなかった村人たちも、いつしか一緒に作業し、
灌漑が完成し、作物が豊かに実る村になったお話。
子ども達が、ねたろうをからかう歌も、テンポがあって面白い。
私独自の解釈ですが、
きっと、母親が生きている間は、
「母を楽にしてあげたい」という若者の気持ち(目標)があったんだと思います。
それが、母親が亡くなってしまうことで、急に目標を見失ってしまい、
「だめなんやなぁ」という虚脱感に襲われたのでしょう。
この後の、急に灌漑を始めるきっかけはわかりませんが、
きっと、寝てばかりに見えた若者の深層心理に、
行動につながる確信があったのでしょう。
目標を持った人間は、とても強い。
目標と確信があれば、周りが何と言おうと、やり遂げる力を削ぐことはできないんですね。
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「うちのむらには、ねたろがござる」とこどもらがうたった。しかし、そのねたろうが村のためにはたらくというお話。
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貧しい土地で働く青年が、母の死を堺に眠り続ける。なまけものになったのかと思いきや、ねむりながら想いをめぐらして考えていたのかな。起き上がると、村のために川から水をひきはじめる。その姿に村人も感化され、みんなが無理だとおもっていたことをなしとげるのがすばらしい。働き続けてもうまくいかないときがある。思いきって休んでしまうと、ねてるあいだに体も充電されて、新しい考えや活力がわいてくるのかもしれない。