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なににつけ一家言のある、いちいち面倒臭い男、王立アルスター警察隊の警部補、ショーン・ダフィのシリーズも、なんと5巻目である。
1巻『コールド・コールド・グラウンド』が発売されたのは、2018年4月のことだった。
読んではみたものの、まだるこしく、わかりにくい。
ただ・・・・・・独特の存在感はある。
読むのに難儀しながらも、なぜか第2巻『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』も出るなり読んでしまった。
同じようにして第3巻『アイル・ビー・ゴーン』で、お、読みやすくなった? という感触を得た。
人に勧めるならここからかとも思い、第4巻『ガン・ストリート・ガール』で、シリーズの紹介を書かずにいられなくなった。
そして、第5巻『レイン・ドッグズ』である。
ページをめくって驚いた。
文が明るい!
リズミカルで、読みやすくなっている!
そのうえ、豪華ゲストまで登場する!
ショーン・ダフィ・シリーズは、ついにエンタメ方向に舵をとったのだろうか。
謎は古城の密室である。古城が密室というべきか。
夜間には出入りのできない城の中で、遺体が発見されたのだ。
事故? 自殺? 事件?
念入りすぎるほど念入りに、人も犬も動員して、捜査は進められる。
現場となったキャリックファーガス城は12世紀に建てられた城で、アイルランドに現存する中世の城でもっとも保存状態のよいものだ。
人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の撮影にも使われ、観光客にも人気の城である。
舞台はいつものようにアイルランドなのだが、今回はフィンランドも関わってくる。
読んでいる一行一行が寒い、雪と氷のフィンランドだ。
臨場感を味わうためにも、この本は冬の最中に読むのがいい。
『ローソンと俺はスーツのジャケットにレインコートという格好で、北極の氷の牢獄からまっすぐに吹き付けてくる風は殺人的だった。』(368頁)
第5巻ともなると、シリーズを読んできた読者へのサービスもある。
あの時のあの事件や、あの時のあの人が出てくるのだ。
親しんできた読者にはうれしいところだ。
シリーズ未読だが、それも踏まえて楽しみたいという方は、3巻『アイル・ビー・ゴーン』から読むのがよいと思う。
もちろん1巻から手をつけるのがよい。
ただし、このシリーズには癖がある。
はまる人ははまるが、しかし・・・・・・という面倒な"癖"だ。
1巻2巻を読んだ時、はたしてこの続きは出るのだろうかと、私は心配した。
これを面白いと思う人がそんなに多いとは、とても思えなかったのだ。
それが、どうやら、けっこういるらしい。
女性運にはほとほと恵まれない。
出世運にも乏しい。
命の危険には幾度もさらされる。
そんなショーン・ダフィの幸福を祈りつつ、これからもシリーズを追っていく。
つづく第6巻は2022年内の発行と聞く。
よかった。ショーンは生きているらしい。
彼の元気な姿を見るのを楽しみにしている。
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「ショーン・ダフィ」シリーズ第5弾。80年代の北アイルランドの暴動や紛争のなか古城で起きた事件を追うダフィたち。ひとつの事件から大きく広がっていく展開や上手く進まない捜査と警察小説の面白さがたっぷりあるけれど個人的にはダフィの魅力的な造形が一番の楽しみでもある。北アイルランドの情勢、車の下に爆弾がないことを確認するような日々。シリーズを通して、ダフィを通して描かれるこれらの日々と警察小説、ミステリーとしての魅力が存分に楽しめる。これまでのシリーズの中でも上位にくる面白さだと思う。
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あい。
今回も文句なし。
阿津川辰海さんの解説に挙げられている(主に警察)小説もマイベスト級に好きなものばかりで、いかにこのシリーズがわたしのどストライクであるかを再確認した次第。
今回ローソンが大活躍。クラビーは控えめ。
次作が本当に楽しみ。
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ノワールの系譜を正当に継ぐのが、このエイドリアン・マッキンティだとぼくは固く信じている。リズミカルに並べられる名詞の山。体言止めで綴られる小気味よい文体。舞台は、ジャック・ヒギンズの作品でもおなじみのテロの嵐吹き荒れる80年代の北アイルランド、ベルファストとその近郊。
主人公は、すっかりお馴染みになったいい味の一匹狼、汚れた街をゆくショーン・ダフィ。頑固で、タフで、それでいて弱くて、心優しい詩人で、デカダンスな酒呑みで、頭が切れる上に、ピアノも上手い、古いレコードのマニアである。シリーズ作品のタイトルはすべて、酔いどれピアノ弾き語りの天才トム・ウェイツの曲名からなっている。
信頼できる常連キャラである相棒クラビーに、新人ローソンを加えた三輪体制となって、本作で迎えるは『アイル・ビー・ゴーン』に続く密室殺人事件。舞台は、お馴染みのキャリックファーガスと、その古城。しかも物語のスタートは、驚くべきゲストをベルファストに迎える。モハメド・アリ! 彼をガードするチャンスを得たショーンは舞い上がる。サービス満点の虚実織り交ぜたプロットをも運ぶマッキンティのペンの冴えは想像力を暴走させては、ますます加速する。
エルロイのようだ。エルロイを師と仰ぐ馳星周のようでもある。リズミカルで、踊るような文体。リズムは緩急を変え、読者を世界の果て、閉ざされた時代へといざなってゆく。ある種の酩酊感を自覚させられる読書感覚。
それでいながら本格推理的トリックにもこだわる。今回は、同じ刑事が、二度も密室殺人に出くわす確率への疑問を、主人公ショーン自身があり得ない確率と意識してやまない。二重三重の罠への疑惑。標的はショーンであるのかもしれない。ショーンの懐疑にはきちんと決着がつく。いつもながらの練りに練られたプロット。
当時の国際事情。南北に分かれたアイルランドのそれぞれに違う法律という罠。フィンランドからの異邦人たち。過去からの使者。ショーンの捜査に引っかかる様々なファクター。さらに少年たちの収容施設の存在と、収容者たちの性被害疑惑が事件に引っかかってくる。史実、事実に絡ませた題材を取り込んでいる。作品の厚み。世界との繋がり。アイルランド史という深海に下ろされた作品という名の錨のようだ。
ショーンにとっては、彼のプライベイト・ストーリーでサンドイッチされた作品であるという点も、注目すべきである。粋な構成。心を打つリズム。やはり最後まで音楽性豊かな作品であるかのような。次作への焦がれるような期待に心が焼かれる。不良青年のような風貌の作者と、不良そのものである刑事ショーン。
本書は、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペーパーバック賞受賞作。本格ミステリの謎解きをノワールの闇で包み込んで仕上げた唯一無二の世界観と言える本シリーズ。つくづく、はまったら抜けられない世界。この個性をいつまでも!
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北アイルランドにある古城の中庭で女性の転落死体が発見された。事件当時の現場は、城門は固く閉ざされ、城壁を乗り越えない限りは中に入ることは出来ない完全な密室状態だった。さらに、事件の捜査に臨むショーン・ダフィの元に警察高官が爆殺されたという連絡が入る。彼はIRAの手によって殺されたというが……。
シリーズ第5作。パズラーだけでなく、警察小説、ハードボイルド、国際謀略ものなど、いろいろな要素がてんこ盛り。次回作も楽しみ。
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1980年代の北アイルランドが舞台で、ちょっと「リーバス警部」を思わせる雰囲気があります。読み始めてから気づいたのですが、これもシリーズものだったんですね。と思ったらもうすでにシリーズ5作目。すっかり「世界」ができあがっている感があり、新参者はあまり入っていけませんでした。1作目から読み直すほどでもないかな。
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『アイル・ビー・ゴーン』から『ガン・ストリート・ガール』を一作飛ばしてのエイドリアン・マッキンティ。
1980年代の北アイルランドを舞台に宗教対立、国内紛争を下地にしつつ、仲間思いで義理深く、それでいて大きな力にも汲みしないショーン・ダフィ警部補を主役に置いたハードボイルド風味の効いた警察もの。
『アイル・ビー・ゴーン』は島田荘司が解説を書くほど、いわゆる新本格めいた密室殺人事件を扱っていたのだが、またしてもと言うべきか、なんと今度はと言うべきか、本作で扱うのは密”城”殺人事件。
おもしろいと思ったのは、唯一的な容疑者がいる状況下での事件だということ。
自殺でないのなら、犯人はあいつしかいない!
でも、そんなはずはない、という設定。
実に惜しい。
ハードボイルドと人情の調和だったり、ひと捻り効いた密室事件といったプラス要素がありながら、余計に風呂敷を広げてしまったと感じる国際的陰謀説やら、アドバンテージを活かしきれていない収束やら。
でも、おもしろさは抜群に上がってきている。
これは次作も読みたいかも。
どうでもいいけど、謎の「あい」は健在でした。
何なのだろう。
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「古城での密室殺人」に惹かれて読み始めたが、期待していたテイストのものではなかった。
本格推理というファンタジーの世界に浸りたかったのに、テロや性的搾取などの現実的な警察ものがメインだったのと、「あい」などの違和感のある口調(訛りを翻訳したのだとは思うが…)が気になって、素直に読み進めることが難しかった。
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ショーン・ダフィシリーズ五作目。
車に乗り込むたびに、爆弾を仕掛けられていないことを確認するために、
車の下を覗き込むダフィ。
とうとう、車に爆弾を仕掛けられた。
カウンセリングを受けるように、休みをとらされる。
しかし、IRAの爆弾と、
友だと思っていた男に裏切られるのと、
どちらが精神的ショックが大きいのだろう。
フィンランドからの電話会社の一行が工場用地の視察が訪れる。
同行していた経済誌の女性記者が観光スポットでもある古城で、
転落死した。
城は密室状態で、ダフィは刑事人生二度目の密室事件を捜査することになる。
その最中、警視正がIRAの爆弾で殺される…。
まさか、被害者の飼っていた猫をロンドンから飛行機で連れて帰り、
ダフィが飼うことになるとは思わなかった。
それに、家を出て行った若い恋人が、
妊娠して戻ってくることも。
部下のローソンが優秀なせいか、
前より読みやすくて面白かった。
フィンランドでの雪の中の対決も、
キャリックファーガスの雨の中の対決も、
緊迫感よりも期待感が勝っていた。
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ミステリ作家・阿津川辰海による詳細なるシリーズ解説がすべて言い尽くしている。(ウィキによると十冊以上ものミステリ作品の解説を書き、読書日記を月二回もWeb連載しているらしい。)
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ショーン・ダフィシリーズ第5巻
4→3→1→2→5というめちゃくちゃな読み方をしたせいで時系列がめちゃくちゃだ
しかも直前のはずの4巻はうっすら忘れけけている
当たり前だこのヤロウ!
もう二度とシリーズものをこんな読み方しないと誓う
このレビューをご覧になった方にはぜひともこの愚かで哀れな男の行いを教訓として活かして頂きたい
さて本編だ
毎回触れているかもしれないがこのシリーズの土台となっているのは1980年代の北アイルランドにおける悲しみと憎しみの連鎖に他ならない
つまり警官であるダフィが出かける前に必ず実行する車の下に爆弾が仕掛けられていなか確認するルーチンに象徴される時代背景ということになる
そして主人公ダフィはなぜそんな時代にありながら「正義」を諦めないのか?
実はダフィは「勝利」したことがないという非常に稀有な主人公だ
あの時代に警察官が「勝利」することはほぼあり得ないと言ってもいいのだろう
しかしダフィは諦めない、なぜならばエイドリアン・マッキンティが「正義」を諦めないでほしいと願っているからではないだろうか
決してダフィの身に「勝利」が訪れないとしても、「正義は勝つ」がおとぎ話の世界にしか存在しない絵空事だとしても
諦めない人たちが増えることできっと未来が変わるはずだとマッキンティは信じているのではないだろうか
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〈ショーン・ダフィ〉シリーズ第5作。本作は、読書やドラマや映画が好きなら、割と見慣れた背景かもしれない。児童売春の闇である。だが、それと密室ものの融合、さらにダフィの私生活の劇的な移り変わり、相変わらずの殺伐としたアイルランド、こう言った要素が組み合わさり、手垢のついたテーマな割に、既視感なく楽しめた。ダフィの語りも魅力的で、平凡な日常さえなぜかのめり込んでしまう。また、ダフィが激しく傷つきながらも前へ進む、その活力に勇気がもらえる。御都合主義とも言える展開もあるが、語りの巧さであまり気にならなかった。
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今回は、IRAがらみではなく謎のフィンランド人が登場。
キャリックファーガス署の面々が、フィンランド出張したりするところが面白い。
フィンランドのオウル沿岸にある島に行くことになった御一行。そこは、冬の間は海が凍っているのだけれど、本土からそのまま凍った海の上を車で走っていくのだそうだ。しかも真っ暗な夜の氷の道を!
ショーン「海に落ちたりしないのか?」
フィンランド警察の人「ええ。春先にはよく人が落ちますね。落ちたら、まず助かりません」
ぎゃふん!