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藩の筆頭家老を務める黛家の三兄弟は栄之丞、壮十郎、新三郎。主人公となる三男の新三郎は、兄たちとは付かず離れず、道場仲間の圭蔵と穏やかな青春の日々を過ごしている。冒頭の『空を覆うように咲ききそった桜が、堤の左右に沿ってどこまでも伸びている。その果てには、溶けのこった雪をかぶる峰々が、切り立つ稜線をつらねていた。息を吸うと、甘やかな匂いが胸にすべりこむ。黛新三郎は土手の下へまなざしを落とした。杉川の水面が春の光をはじき、まばゆい照り返しが並木のあいだを擦りぬけてくる』の書き出しと同様に、所々に挟まれている自然や花の描写が無駄なく滑り込ませてあるのが良かった。それぞれの個性が際立つ3兄弟の前に黛家の未来を揺るがす大事件が起こる。漆原の策略に嵌められ、壮十郎は切腹となり、理不尽な顛末に翻弄されていく。十三年後の第二部では新三郎は「漆原の走狗」とも世間に言われ、読者も騙されそうになるが、実は兄弟の固い絆はしっかり結ばれていた。3兄弟の個性が光る中、清濁併せ呑む主人公・新三郎の造形に味わいがあった。大目付の黒沢の義父が婿として(順番通りに次男ではなく)3男の新三郎を選んだ理由が分かるのというもの。友人・圭蔵の裏切りなどや敵味方の白黒の断定を付けずに、来るがままに受け容れる新三郎の度量の大きさは天性のものなのだろうか。綺麗ごとで済まさない展開を描きながらカタルシスも感じられた。
時代物で圧倒的な人気を誇る藤沢周平さんは苦手だが、砂原さんには素直に肯けた本作、この「神山藩」シリーズは今後も続き、次作は来年発売予定だそう。
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こういう長編の時代小説は初めてです。
最初は登場人物の立場などがごちゃごちゃしてしまい、わかるまで苦労しました
一族の繁栄、野心があり、裏切りなどもありますが兄弟の絆が感じられます。
小兄上の最期は描かれていないものの、そこに至るまでの経緯が重く、辛く、主人公の心の葛藤に心が痛む程でした
だれかの夢を見るのは、そのひとがどこかで思ってくれているから
幾度かこの言葉が出てきますが、それなら寂しさもいくらか紛れる気もします
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終わりは想像通りでしたが、楽しい読書でした。砂原さんの小説には魅力的な女性が多いですね。第35回山本周五郎賞受賞作
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武士の世界は、これほどまでに肩ひじ張った世界だったのか。
話はややこしくて、つまらなかったが武士社会を勉強するつもりで最後まで読んだ。
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あー面白かった、そう素直に言いたいです。途中、繰り返される情景の描写(時間の流れを示しつつ、主人公の心情を表すものなのだろうけど)がやや多用過ぎる感はありますが、大きなストーリーは前作とは違う楽しさがあり、あっという間に読了。
時代小説の良さを存分に堪能いたしました。
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「高瀬庄左衛門御留書」で衝撃を受けて以来の砂原浩太朗氏の時代小説。この方の書かれる文章は本当に読んでいて心地が良い。肩肘張ったところがないのに、なんとも格調高く、且つ当たりがとても柔らかいから、どんどん物語に没入していける。早くもまた次回作が待ち遠しい。
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前作「高瀬庄左衛門御留書」に続き最高に面白かった。(これと比べてしまい、直前に読んだ「ギフテッド」の星を1個減らした)
主人公の黛新三郎少年期とその13年後の二章で構成される。少年期らしい熱血さが面白い一章が盛り上がりまくって急に13年後の二章になったので、その先の話が盛り上がるのかを少し心配したが杞憂だった。二章も抜群に良い。
次男の壮十郎を切腹に追いやった敵である筆頭家老漆原の懐刀となり10年余、長兄の栄之丞(えいのすけ)とも不仲になり、三十歳をこえた新三郎(織部正:おりべのしょう)は復讐を忘れてしまったのか?先の読めない展開が続く間も、気になるエピソードがどんどん展開されていく。
先の読めない緊迫感がずっと続き、なんどもどんでん返しがあった上で気持ちの良い解決を迎え、最後に用意された妻りくとの微笑ましいエピソードの読後感も最高に良い。
「高瀬庄左衛門御留書」と同じ神山藩での話だけど、重要人物のリンクはそれほどないので、こちらを先に読み始めても全く問題ない。
文中に花鳥風月が美しく描写されているので、綺麗な文章を読んで良い気分になる効能もあります。
親友の由利圭蔵、黒沢家の先代の織部正、りく、侍女のすぎ、最後に出てくるすぎの亭主、壮十郎が惚れた柳町の飯屋のおときと息子の壮太、折々で巡り合う元黛家の女中、最後は胡弓の名手のみやの女性としてのたくましさ、などなど、前作と同様に、登場するキャラクターに魅力があり、それぞれが思いもよらぬ役回りを演じたりするのがとても面白い。
素人意見ながら、作者の2冊を読んで、話の展開やキャラの活かし方がすごく上手いと思う。他の著書も読んでみようと思います。
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本作も面白かった。次兄の覚悟には、涙。
登場人物たちは多弁ではないが、話す言葉に重みがあるように描写されていて、印象的な言葉が多く、この作家さんの作品は、各シーンが映像となって脳内に立ち上る。
図らずも最後に大きな権力を得てしまった主人公は、見方によっては、悪人にも見えるんだろうなあと、善人と悪人は単純に測れない、端から見るとわからないと描かれている様に思う。
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神山班で代々筆頭家老の池波正太郎柄である黛家の3兄弟、その三男の圭蔵が主人公。対立する次席家老の漆原内記、父と懇意にしている大目付の黒沢織部正とで、物語は進行する。
時代小説ではあるが、小説として、すんなりと入り込める一冊。兄弟間の強い絆が、うまく描かれている。心に染み渡る。
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”本の雑誌”で気になってはいて、年末ランキングでの言及、どんでん系特集での取り上げなどを見て、いよいよ読んでみたくなったもの。北上次郎さんイチオシってこともあるし。結論としては、前作よりも好き。今回は、何なら前半クライマックスの盛り上がりの方がラストより良い、ってくらいに圧巻で、そこがポイント高し。切なさの演出が素敵ですね。
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江戸時代の架空藩、筆頭家老『黛家』の息子三兄弟を描いた時代小説
藩の内紛に揉まれ、兄弟三人の運命と想いが引き千切ぎられ、筆頭家老の地位から転落する前半
いつか返り咲く日が来るのではないか、という読者の期待を背負った後半の二部構成です
巧みな心理描写に惹き込まれ、展開に息を呑みながら万感こもるラストまで、彼らの想いが目付となって生きる三男の目線で切々と心に迫ってきます
軽い話ではなく、読後軽く疲労が有りました
しっかりした読み応えの時代小説をお探しの方にお勧めです
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ストーリーはとても面白いと思うのだが、自分にはちょっとハードルの高い作品だった。
随所に出てくる目慣れない単語や、話言葉が頭にスッと入ってこず、辞書片手に読まないと理解できない自分が、残念だった。。。
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人生とは?家族とは?
という重厚なテーマを1人の若者の成長と出会った人々との絡みを通して語ってくれる。
この作者の本ではこれが断トツで好き。
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神山藩シリーズ第二弾は、代々筆頭家老を勤める黛家の"三兄弟"が成長して行く姿を、三男・新三郎の目線から描いている。
穏やかな少年時代を過ごしていた新三郎は、大目付・黒沢織部正の元へ婿入りしたことにより、目付として次兄・壮十郎の犯した"罪"を裁く立場となってしまう。その結果、父・黛清左衛門は病没し、次席家老・漆原内記が藩政の実権を握ることとなる…。
新三郎と黛家のおよそ13年の変遷が綴られた本書、とても重厚な物語で、様々な困難を排して成長してゆく人々の姿が感動的だった。
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前作とは異なり、極めて動的で政治的な世界の話だ。
もしかすると、ミステリであったりするかもしれない。
ただ、本作も強く胸に迫りくるものがある。黛家の人達の抑制の利いた生き方に。