紙の本
新時代のクライムノベルの金字塔。
2022/03/28 23:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
こう生きたいと願っていたにも関わらず、気が付けば最も忌避すべき道を歩んでしまっている。
本作は、なりたい自分となりたくない自分との狭間で苦しみ抗う物語だ。
主人公のボーレガードは、愛する家族のため金を工面する必要に迫られる。
そのため。かつて足を洗ったはずの裏家業に一度だけ戻ることを決意。
しかしその仕事が思いもよらぬ結果となり事態は悪化の一途を辿る、というのが本作の大まかなストーリーだ。
そう、ストーリー自体にこれといった目新しさはまるでない。
しかしそれでも読ませる。
卓越した人物描写がリーダビリティとして機能しており、常にアクセル全開の物語に振り落とされないよう私たち読者はしがみつく他ない。
どこかで見たような設定だと既視感を抱かせるのも束の間、読み進めるにつれ、この物語がどこに行き着くか見届けたいと渇望せずにはいられなくなるのだ。
卓越した人物描写の代表として挙げられるのが、ボーレガード。
彼は、良い父親でいることと裏家業に手を出す自らの二面性に苦悩する。
自身の父親の幻影に囚われている彼は、裏家業に手を出すことは家族のため暴力に引き寄せられてしまうのは血のせいだと、自分に言い聞かせる。
自分には選択肢などない。
裏家業で稼ぐことでしか家族を救えないのだ、と。
確かに、過酷な環境や劣悪な幼少時代が鎖となって彼にまとわりついているのは事実。
しかしそれでも最も大きな鎖を身に着けることを選択したのは彼自身なのだ。
そうやって選択肢は一つしかなかったのだと自分に言い聞かせ続けた結果、過去の呪縛に同化してしまい、取り返しのつかない事態へと物語は進んでいく。
家族にとって良い父親であることと、家族を危険に晒す裏家業で稼ぐこと。
相反する2つの立場を両立できると信じて疑わないボーレガードの姿を通して、暴力の虚しさが全編に渡って漂っている点も特筆に値するだろう。
手に汗握る映画顔負けのカーアクションや鬼気迫るリアリティ溢れるバイオレンスシーンは、本作のハイライトではあるが爽快感を味わうために描かれているのではない。
本作では暴力や略奪を決して美化しないのだ。
暴力と貧困、そして略奪が絡み合った負のループへの諦観と憐れみが常に付き纏っている。
過去のクライムノベルの換骨奪胎に見事成功した本作。
文学性とエンタメ性の両立をも難なく達成している。
数々の受賞歴からも、本作が如何に優れた作品であるかは分かっていただけるだろう。
クライムノベルの新たな旗手の誕生だ。
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ホンモノのノワールがやって来た。古いフレンチ・ノワールの世界が、現代に帰ってきた。そういう小説の時間をもたらしてくれる作品である。
70年代のアメリカン・ニューシネマのフィルムの傷を想定しながら読む。暗闇に潜んで見上げていた傷だらけのスクリーン。暗くくすんだカラー。映画館内に漂う煙草のにおい。小便臭いコンクリート打ちっぱなしの廊下の匂い。しかしスクリーンの向こうには、野望を持つ男と女のしゅっとした切れの良さがある。銃口と硝煙。カーブの向こうを見据えるドライバーの冷徹な眼差し。
それらは大抵。美しい犯罪ストーリーだった。生と死、疑わしい愛、安全さに欠ける大金、それらがやり取りされていた。魅せられるが、脆過ぎる。ぎりぎりの展開。破滅か生存かを賭けて、犯罪、裏切り、脱出や生存の可否を、いつも秤にかけていた。
本書は、南部の田舎町のトレーラーハウスに生活する黒人の一家の物語である。ビターの効いたホームドラマと言って言えないこともない。主人公ボーレガードは自動車修理工場を営むが、競争相手の出現で破産を目の前にしている。目の前には、過去からやって来た犯罪という餌がぶら下がり、彼は家族のため、敢えて餌に喰らいつく。危険だが、それしかもう道はない。追いつめられた状況劇。
うまい話には裏がある。裏切りに満ちた犯罪者たちの個性ある顔ぶれ。ボーレガードの運転技術が凄まじい。自動車を知り尽くしているゆえ、犯罪に用いる車に関しては整備も運転も100%引き受ける。路上のアクションを主体にした小説作品はそう多くないだろう。ギャビン・ライアル以来、あまりお目にかかっていないかもしれない。
一人一人の書き分けも素晴らしい。癖のある男と女。ボーレガードの家族と彼らの長年の仕事仲間。こちら側の人間たち。愛と友情。一方では悪玉が列をなす。こわもての狂犬たち。裏切り者たち。ひとつの犯罪仕事をきかっけに、次々と組織間の衝突が巻き起こり連鎖する。一人一人、順番にこの世とおさらばをしてゆく。いとも簡単に。静と動を絡み合わせたクライム小説。銃と、暴力と、カーチェイス。
こう書いてみると単純に見えるかもしれないが、前半部は少し長めの導火線であり、静である。だが爆発物に近づいているのはわかる仕掛けだ。とりわけボーレガードと家族たちは追い込まれてゆく。かつて失踪し、この世から消滅してしまった父の物語。いなくなった父から引き継いだ愛車ダスターへのこだわりが、夫婦間の平和を切り裂く。子供たちを切り裂く。実はこの前半によって後半の物語にも厚みが出る。
家族。消えた父。育ちゆく息子たち。彼らに迫る危険な奴ら。家族を生き延びさせるために、ボーレガードが何をしなくていけないのか。
大一番の賭けに出る男たちの、知略の勝負を描いて圧倒するクライムの傑作が登場した。この作家の今後が楽しみだ。そのくらい活きのいい一冊である。
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家族のために最後の仕事,犯罪へと向かうボーレガード。家族のため、守るためだったはずのことがどんどん追い込まれていく。犯罪計画と信用できない仲間たち。夫として父親としての想いと妻の気持ちとのずれ。その間で揺れながらそれでも計画に飛び込んでいくこと。乾いた空気がある犯罪小説であり、良くも悪くも家族を強く想っている家族小説でもあってとても読み応えのある作品。
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CL 2022.9.10-2022.9.12
アメリカンノワール。
犯罪から足を洗ってまっとうに暮らしていると言っても、暴力的なところは微塵も変わってないようだから、いくら家族を愛していても結局こうなる運命だったんじゃないかな。
遺伝による暴力的傾向か。
犯罪者の連鎖。アンソニーからボーレガードへ。ボーレガードからジャヴォンへ。
犯罪小説をカッコいい、面白いと思えなくなったのは年取ったからかな。
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わかりやすい登場人物の描写。カーアクションの描き方は圧巻である。実際に事が進む中盤以降、物語はテンポ良く進んでいく。あれだけ巨額の強奪事件で人も多数死んだのに警察がほとんど絡んでこないって、あり?
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http://blog.livedoor.jp/bunkoya/archives/52600844.html
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映画のシナリオを読んだ気分。読んでる間は映像を見ている気分だった。映画化されればヒットするんじゃないかな。その分、本を読んでいる感じは薄かった。
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悪事に身を浸した父は母と息子を残して去って行った。
父に憧憬を持ち続ける黒人の主人公。差別の残るアメリカ南部で車の修理工場を経営するが、会社の金、施設にいる母のための金、子供たちのための金のために足を洗った裏稼業に手を出す。誘われた相手が最悪でドンドン泥沼の中に沈んでいく。
ストーリーの展開は俊逸なクライム小説。
キャラクターが想像を超えないので星一つ減。
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設定はありきたりな感じだが、読み始めると初っ端から疾走感と緊迫感にグイグイ引っ張られる。ハードボイルドチックな気の利いた会話や時には詩的な感じさえする比喩表現も愉しい。
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裏家業の運び屋から足を洗って、真面目に自動車整備工場を営んでいる主人公ボーレカード(バグ)。しかし、同じ町に大きな同業者の工場ができ、経営難に陥り、裏家業にもう一度足を突っ込まざるを得なくなる。
貧困と犯罪、家族のしがらみ。抜け出せない過去、黒人と白人それぞれの格差社会と交錯する差別…。前世紀から続くアメリカのやるせない社会問題を背景に、ぶっとびカーチェイスシーンを織り交ぜて描くアクションノアール小説。
スピード感といぶし銀的渋さの両立。古い器に新しい酒を入れる手法の模範例ともいえる傑作。
日本もここまで貧困化し、都市圏と圏外の生活や文化がかけなはれている現状、よそ事と笑えない小説だと思う。貧しさは心の余裕をなくし、犯罪や差別や社会不安を育み、結果的に社会だけでなく個人をむしばむんだと思う。
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米国南部の町で自動車修理工場を営むボーレガード。裏社会で語り継がれる伝説のドライバーだった彼は、足を洗い家族とまっとうに暮らしていた。
だが工場の経営が傾きだしたことで運命の歯車は再び狂い始める。
金策に奔走するボーレガードに昔の仲間が持ちかけてきたのは宝石店強盗の運転役。それは家族を守るための最後の仕事になるはずだった。ギャングの抗争に巻き込まれるまでは――。
ありがちなシチュエーションだが、カーチェイスの描写で読ませます。
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家族を守るために出来ることは何ですか? 米国南部の街で生き抜くクライムミステリー #黒き荒野の果て
■人生のつらい現実
環境が人生を決める。こういうつらい現実を実感するのは私が20代後半に差し掛かった頃だったでしょうか。
若い時代は夢と希望があれば、どんなに貧乏でも幸せなものでした。
しかし気が付くといつの間にか大人のしがらみの中で生活をしなければならず、毎月の支払いのために自分のやりたかったことがができてないと気がつく。守るものができた時、生き抜くためにどんな厳しい運命が待っているのか。
■家族を守るために
本書は自動車整備工場を営む主人公が、アメリカ南部の決して裕福ではない街で生き抜く物語。
彼はなんとか生活をやり繰りするも、愛すべき家族と友人に囲まれて暮らしていた。彼の強みは自動車の運転技術と腕っぷし、そして頭の良さ。賭けレースで日銭を稼ぎ、力と頭脳で冷酷な環境を日々を乗り越えていく。
しかしある日、自宅に招かれざる客が訪ねてくる。
かつての後ろ暗い仕事仲間で、ろくな結果が期待できない儲け話を持ってきたのだ。主人公は大切な人を守るために、嫌々ながらも仕事を受けなければならなかった。
ストーリーとしてはかなりシンプルで超骨太。主人公はお金のために様々なものを犠牲にしながら、図らずも裏社会で暗躍していく、いわゆるノワール、クライムミステリーです。
家族、友人、自分の工場は、何より大切で守らなければならない。暴力と比較して描写される彼の純真な想いがあまりに痛烈で、読者の胸が抉られていきます。
そして彼のことを大好きな登場人物たち。妻、可愛い子供たち、友人、おじさん。主人公の良いところも悪いところも、悩みも考えも全部知っている。
彼の対する深い愛情が描写され、それでも悪事に手を染めなければならない主人公への同情と葛藤シーンが読んでいてあまりに辛い。
そして罪深いのは愛車ダスター。いってしまえば単なる一台の自動車です。
主人公とダスターは、愛情としがらみにまみれながら作中いつも一緒に行動する。しかし主人公が最後にどういうことを悟り、結論をだしていくのか。本書一番の読みどころでした。
■幸せとは何か
東京大学に合格する親の世帯年収は、6割以上が年収950万円以上だそうです。
親の年収が低いと子供は不幸なんでしょうか。データとしてはその確率は高いといえるのでしょう。環境によってある程度、幸せの度合いを決められてしまうのは事実です。
しかし本書の主人公は、最低の環境でも妻や子供たちを精一杯しあわせにするために行動している。生きるためにお金を稼いだり、教育や経済の正当性、黒人としての生き方を教えたり、そしてなによりいつも一緒にいてあげる。
データも環境もお金も確かに大切ではあるのですが、ここまで自身を犠牲にして家族に愛情を注げるのは、どれだけ素敵なことでしょうか。
生きていく中で一番大切なことは何かを教えてもらえた、素晴らしい一冊でした。
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まるで映画ワイルドスピードを観ているような犯罪カーチェイスエンターテイメント。
古き良きアメリカ1970年代マッスルカーが出てきて、やはりこの時代の車はかっこいい。
ダスター、シェベル乗りたい。
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昔、アングラな走り屋だった男が自動車修理工場に務めるが、ギャングとの抗争に巻き込まれる話
多分やけど、ブレイキング・バッドにかなり影響受けてそう。実際名前も出てくるし。
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初のSAコスビー。
二月に2作目が発売されるため、まずは去年出た今作を。
ヤバい仕事から手を洗った男が、止むに止まれず再び手を染める。そこから転がり落ちていき、大切な家族にまで危機が。
アメリカンノワールのお手本のような作品。シンプルなストーリーだけどここまで読ませるのは、主人公のバグや敵のキャラがものすごく立っているからだと思う。かっこいい台詞回しも多い。
カーチェイスのシーンが本当に良くて、映像が目に浮かぶ。正直昔のアメ車は全部同じに見えるけど、ダスターのかっこよさはわかった笑
2作目も楽しみ。