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自伝的な内容とは思わずに読み始めたので、あれ?となったのだけれど、なめらかな語り口にするすると読めてしまった。
法医学とは?という疑問にも答えてくれるし、事実を解明する道筋の面白さもある。そして自然と、死、そこへ至るまでの生についても考えてしまった。
彼がかかわるのは、事件や事故、災害などによってもたらされる不自然な死だから、どの死にも無念がある。そして、「人間の人間に対する残酷さ」も。それを白日のもと明らかにするため、法医学者は調べ尽くそうとする。
9.11の話、東日本大震災のことも思い出されて、胸塞がる気持ちがした。無念の死に触れることは、なんとつらいことか。
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「私はずっと、赤ん坊がいないことで途方に暮れていたが、今は赤ん坊がいるせいで途方に暮れている。」ってすごい良いなー!響いた。
全然子育てには関係ない本だけど、著者の日常が織り込まれ法医学者だって私たちと何も変わらない人間なんだと思わせてくれる。
赤ちゃんの遺体が出て事件性が疑われる場合、死産だと殺人にならないので生きていたと証明することが仕事。赤ちゃんの体の仕組みについて書いてあって読み込んでしまった。辛い。
この本の中でサリークラークという女性の話が出てきた。彼女は2人の子供が立て続けにSIDSで亡くなったことに事件性を疑われ収監。のちにこの有罪判決は取り消しとなるんだけど、その頃にはサリーはアルコール依存症となっておりすぐ亡くなってしまった。これは検察側がSIDSが起こる確率を独立して考え途方もない確率で稀にしか起こらない、とアピールしてしまったことに起因する有罪判決だった。
2人の子供を相次いで亡くした上に犯していない罪を問われるなんてどれほど絶望したんだろう…胸が潰れるような思い。
こんな悲しいエピソードもあるんだけど、本としては最後の締め方が非常に爽やかで著者の人柄が表れてると思った。私の今年一番の本として確定。
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9.11テロ事件、ダイアナ元妃の事故、バリ島テロ・・・その他、実際の犯罪や事故による様々な検死・解剖のほか、
他殺に見える自殺遺体や、老衰と思われた毒殺事件など、
ミステリー小説を超える究極のノンフィクションがついに上陸!
これは売り文句を間違えているのでは?と思った。著名な法医学者の半生を描いた自伝的エッセイです。ミステリ要素はあまりない。仕事柄すごく分かるのだけれど、そんなドラマみたいに何でもかんでも分かるわけないのよね。ひたすら地味で堅実な作業の上に成り立っている仕事であり、フィクションのおかげで勘違いしている患者や遺族はとても多い。心に傷を負ってしまった筆者が気の毒でしたが、少し希望の見える最後でほっとしました。DNA鑑定やAIなどめざましい進歩がある分野ではあると思うけれど、根本で大切なのは故人を大切に思う気持ちであってほしい。
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中盤、事実が何であれ真実は流動的だということがいくつかのエピソードとともに繰り返される。
松潤のドラマ99.9%にも「真実はいくつもあるが事実は一つしかない」というくだりがあるので、ドラマの登場人物と現実のベテランが同じことを示していることに感心してしまった
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ボリューミーで、全く知識も無いけど、おもしろく読めた。
イギリスの法医学者が検死を手がけた症例や、自身の心境、環境のことを淡々と描いたノンフィクション。
専門的というより、職業への葛藤や気持ちが入ってるため小説のように読みやすい。
乳幼児のSIDS、ダイアナ妃の死の再検証など興味深し。
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この時期になると、何故かずっしり来るような本を読みたくなる。
ちなみに去年は『白い鶴よ、翼を貸しておくれ』がそれにあたり、結果ずっしり来たけど感動した。本書においてもそれは同じである。
ただ本書の場合は「感動した」と言うより「心を揺さぶられた」のニュアンスに近いかもしれない。そのうえ自分はいつにも増して心に訴えかけるものを求めていたんだな、と読後にして気づかされた。
著者はイギリスの法病理学者(法医学者)。自然死あるいは不自然死(犯罪絡み等)の遺体を解剖し死因を特定する仕事で、彼の子供達の言葉を借りるなら「人を治さない医者」だ。日本でも、ドラマ『アンナチュラル』で一躍認識された職業ではないかと思う。
本書は彼の生い立ちやキャリア、担当したケースの記録がありありと綴られている。ケースは国内の事件やそれに基づく裁判に留まらず、9.11で犠牲になったイギリス人の検死、果てはダイアナ妃死因の再検証にまで及ぶ。(この辺は自分もよく知っている出来事だけに、現場の悲惨さなど心を大きく揺さぶられた)
原題も“Unnatural Causes“だから、まさに『アンナチュラル』の世界。しかしドラマとは少し違うセンチメンタルさが、ページのあちこちで滲み出ていた。
「人間として、私たちは知る必要がある。特殊な死について。死、全般について」
その言葉通り、本書では人体の機能だったり(「死はプロセスだ」と著者が語るように)死後我々の身体がどのように変化していくのかも如実に語られている。大雑把に言えば「グロ注意」だが、そこは承知の上で目を逸らさず向き合った。
だから年配の警察官が「ようやく受け入れることができた」と著者に感謝を伝えた話では、自分も同じ想いであることに気づくことができた。故人に最大の敬意を払い、どのように旅立ったのかを丁寧に解析するシェパード博士のおかげで、自分も向き合えたのだと。
「世の中のために働くには、人間らしさを一時停止させなくてはならないこともある」
何だかんだで一番驚いたのは、執筆のきっかけかもしれない。子供達が独立し、仕事もひと段落ついた節目に書いたのだと思っていたけど違った。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」。これまで目にしてきた遺体・悲嘆にくれる遺族、職務を理解してくれない人々等、仕事上抑えてきた「痛み」がなだれを打って押し寄せてきた。趣味である飛行機の操縦中に。日常の些細な一コマに。書くことは治療法の一つだったのだ。
「死は、人生の小さな喜びの大切さに気づかせてくれる」
本書を読んで得た教訓があるとすれば、自分は2つある。
与えられた命を絶対に手放さないこと、そして死ぬことを忘れないということ。
時間を大切にしていても、いつだって命を落とせることまで意識していただろうか。法病理学者のような仕事をしていなくたって死は我々の身近にある。
でも死を忘れないことで、生きている間に見逃していた喜びに出会えることも彼は立証してくれた。検死台に乗る日には、存分に生を全うできていると良いな。
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イギリスの法医学者の半生をつづるドキュメンタリー。
本自体もずっしり重いが、内容も重い。
でも読了後はスッキリとした感動が待ってます。
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2025年2月22日、YouTubeで「本を読むこととお金を貯めること」で検索して出たショート動画、「頭のいい人がこっそり読んでる本4選」のコメ欄に書いてある、皆のおすすめ本。
https://youtube.com/shorts/xdxuWn5jcTA?si=HWLgoUfFBAqRCGMB
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イギリス法医学者の半世紀を振り返った自伝
ここでいう不自然とは自然死ではないこと、つまり、殺人や事故で亡くなったことを指す。法医学者はそうした不自然な死の原因を解剖に基づいて探究していく人たちである。
この本の冒頭にはアレクサンダー・ポープの『批判論』の詩が載せられている。著者の父が彼に与えた言葉だ。まず、この詩を読んで、「間違いなく、この本は面白い」と思った。仕事人生のなかでなんどもなんども、この詩が思い出されていく。憧れた職業に就き、その仕事人生を謳歌していたものの、「真実」をめぐり、その仕事に徐々に裏切られていく。それでも、シェパード博士が不自然な死に魅せられているのは変わらない。真実を求めて、好奇心旺盛に、目の前の遺体と向き合っていく。だが、この本はそれだけではない。家族との関係、警察の内部の事情やテロや災害、そのスリリングな様に、読むのを止められなくなる。