大学経済学部の講義テキストのような1冊です
2022/03/17 11:06
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
国内外の様々な経済政策をふんだんに取り上げ、それぞれ著者が考察する1冊です。
さながら、大学の経済学部で学ぶ講義の指定テキストのような感じがします。
本文は200頁に満たず、一方で巻末に参考文献や付録の記事が、横書きで35頁にまで掲載されています。深く学びたい方は、横書きの部分も漏れなく読まれてください。その方がより勉強になるはずです。
しかし、個人的には少々退屈な文章だったので、この評価にしました。
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主流派によるマクロ経済学は個々の人の最適化行動に着目するが、実際の市民は必ずしも合理的期待に沿って行動しない。公共政策を考える上で重要なのは、マクロ経済学に行動経済学的視点を取り入れること。
銀行取り付け騒ぎ、バブル、貿易摩擦、異次元緩和、コロナなど様々な実例から、そのことを分析する。
「期待に働きかける金融政策」としての異次元緩和、物価安定と無関心の章など、専門的で理解しにくかった箇所が多かったが、なんとなくでもわかった気になった部分を拾い出しておく。
・日本における「定住外国人」(あくまで安上がりな出稼ぎ労働者で他国民)というフレーミングは「現在バイアス」を強めるが、その結果、定住外国人が日本で働きたいという意欲を疎外し、ひいては日本社会に大きな負担をもたらす可能性が高い
・コロナ禍の日本では強い制限ができない中、人との接触を減らすよう行動変容を促すナッジの要素を持つ政策が行われた。
・ヒトは利他性を持っているので「人の命を守る」という利他性を強調して三密回避への誘導を図った。こうした行動が社会規範になれば、それに沿った行動を取らない人が社会規範から外れているとみなされ、利己的な人間でも制裁を懸念し、自重する可能性がある
・異次元緩和はサブスタンス(本質、実体)ではなく、「期待に働きかける」政策
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行動経済学についてなんだけど、後半は日本の金融政策。
メインストリームの経済学は主体は合理的であるという前提に基づき、予定調和的で経済変数は唯一の合理的な均衡に向かって動くとされている。その中でも起きうる予定調和的でない現象として自己実現的予言による複数均衡があり、実例としてトイレットペーパーパニック、銀行取付を挙げている。不安心理だけではなく高揚によって起こることもあり、それがバブル。その実例として17世紀オランダのチューリップバブル、18世紀イギリスの南海泡沫事件が挙げられている。
一方で人間は意外とパニックを起こしにくく、それは正常性バイアスによる。金融市場にも同バイアスは働き、メキシコ通貨危機を説明した経済学者にちなんでドーンブッシュの法則と呼ばれている。
他にも現在バイアス、サンクコストの罠、ファスト&スローの2つの認知システム、フレーミングとナッジ。
フレーミングとナッジについてはマクロ経済の実例もひいており、日米貿易摩擦時に日本を支配したフレーミングである国際協調、移民政策に対して定住外国人と呼ぶフレーミング、COVID-19に対する諸々の対策に利用されたナッジなどの話。
そして最後が著者が本業として携わってきた中央銀行についてで、期待に働きかけようとしてきた黒田日銀の政策等の話。
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終身雇用や年功序列といった日本的労働慣習はどうしたら打破できるかというところから最近、労働経済学に興味があり、タイトルが気になってジャケ買い。マクロ経済学の基礎がなっていないのか、金融政策のところはなかなかついていけなかった。。
そんな自分を肯定するようで恐縮ながら、多くの人はそんなもんなんだと思う。本書に出てくる、金融「緩和」と言われるとなんだかポジティブな気がするし、「マイナス」金利と言われたらなんか嫌だ…というのもそういうことだろう。そこに専門家の難しい理屈で経済政策を打ち出しても、そりゃ国民には刺さらず、空振りし続けているのが、いつまでも達成できないインフレ目標なんではなかろうか。
メインストリームたるマクロ経済学と、行動経済学にはまだまだ解離があるという話と理解。
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20220327読了。著者の翁邦雄氏は長年日銀の金融研究所に所属しており、現在の黒田日銀による大規模な金融政策やインフレ目標政策には批判的な立場。本書は行動経済学の成果をもとに「異次元緩和」を検証している。主流派のマクロ経済学には人々の心や期待に働きかけるという視点が必要だと主張している。「主流派の」と明記しているのは著者の主張が現在の経済学の本流ではないということを意識しているということか。
本論ではないが、あとがきで昨年急逝した池尾和人氏を悼む文章があった。私はその部分が一番心にしみた。一応経済学の徒、としては池尾先生の著作は読んでいたし、講演も聞いたことがあるので、個人的にも大変残念に思っている。
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マクロ経済学をミクロ化=期待への働きかけ。応用ミクロ経済学となったマクロ経済学。
行動経済学の誕生と発展。
この2点がここ50年の大きな変化。
ドーンブッシュの法則=通貨危機の法則。テキーラ危機の時。通貨危機は永遠に来ないように思えるが、実際に来たら急速に進展する。正常化バイアスが続きそれが崩壊するとパニックになる。
現在バイアスの罠
現在バイアスが強いと、現在の満足を優先する度合いが強い。ダイエットが失敗する理由。
国民に現在バイアスが強いと長期的に好ましい政策が選ばれない。
サンクコストの罠=コンコルド効果。サンクコストを避けたいだけでなく、生み出した責任から逃れたいため。責任者の判断にバイアスがかかる。
人間の判断はストーリー性がある=ナラティブエコノミクス。AIにはない。AIは過去にとらわれず、最適手を選ぶ=AIはエコンと同じ。人間は流れを重視するがAIは一番の急所を突いてくる。
人間は社会規範が重要=罰金と補助金が中心ツールになる。保育園の遅刻の際の罰金は逆効果だった。社会規範と市場原理は綱引きをしている。
「ジョンブルは敗北に当たっても気高く振る舞う」プリンスオブウェールズのトーマスフィリップス提督が脱出せずに船とともに沈んだ逸話。実際は日本軍の創作=社会規範を形成した。
プロスペクト理論=価値関数は非対称。損失を重く見る。
表現の選択や選択肢の見せ方をフレーミング、この設計を選択アーキテクチャと表現した。ナッジのダークパターンも存在する。
行動経済学的な人間像
利益の喜びよりも損失の痛みを強く感じ、過去の出費が無駄になることをもったいないと感じ、判断の責任を取ることを避けるために傷口を広げる。現在の快適性を優先しがちで、ちょっとした異常は無視し、行動に当たっては社会規範という他人の目を意識する。選択肢がどう示されるかで判断は変わるため、企業や政府の意図的な誘導に従いやすい。
中国は日米貿易摩擦に学んで、対米貿易戦争で譲歩はしない。要求に従っても対米黒字は減少しなかった。
日本は自然減50万人で移民20万人、差し引き30万人の減少。定住外国人=移民のおかげで人口減少が緩和されている。外国人は日本と同化を望んでいると考えている。移民からの軋轢は少ない。現在バイアスに囚われていないか。特に外国人子女に対する教育が遅れている。
ウイルスの感染拡大とストーリーの拡大には類似性がある=ナラティブエコノミクス
自然利子率とは完全雇用が過不足なく実現できる需要を引き出す実質金利水準。
中央銀行が経済の先行きを決めるのではなく、構成員の期待が先行きを決める=期待への働きかけが必要な理由。インフレ目標の設定。しかし、一般人はそもそも金融政策に関心があるのか、という疑問。
インフレ目標を与えて中央銀行の政策の独立性を保つ、という形に収れんし、インフレが収まった。
インフレ率が目標より低い場合は金融緩和を強化、しかし金融緩和による金利の低下の本質は需要の前倒しに過ぎない。長い目で見れば中立的。補助金と同じ。成長戦略ではない。
政府の現在バイアスがインフレに結び付くことから、中央銀行に独立性を与えた。デフレが恒常化した状態では、政府の現在バイアスはインフレには現れない。中央銀行の独立性への疑問。
グリーンスパンの物価安定の定義
物価の安定は経済主体が経済的な意思決定における一般物価の予想される変化を考慮しなくなったときに得られるもの=2%などの数値ではなく、物価をきにしなくなっている状態を安定という。健康と同じ。健康について意識していないときが健康。
物価の安定について正常化バイアスが働いている国では、この定義は成立している。
物価の測定は、付加価値が計量化困難なものになり、技術革新や新製品の登場により、困難になっている。ヘドニック法、など。
消費者の個人の生計費の変動は、使い方により消費者物価指数とは異なる。若年層より高齢者のほうが上昇を感じやすい。
異次元緩和の出発点は2012年。金利誘導を長期金利まで広げる、マネタリーベースの供給量を増やす。=長期国債を購入することで両方の目的を果たす。
買いオペ=資金供給=金融緩和、売りオペ=資金吸収=金融引き締め
当座預金の付利は、資金余剰を当座預金に吸収するから売りオペと同じ。補完当座預金制度の仕組みでペナルティーが発生するから、マイナス金利で資金を貸すメリットが生まれる。現金に換えて保管することは事実上できない。
マネタリーベースの増加効果は、それ自体では効果はないが、期待に働きかける効果がある、と考えられた。
ブレイクイーブンインフレ率=物価連動国債の価格から市場の予想インフレ率を推測するもの。量的緩和のために低下した。=市場はこれ以上の手段がないことを見切った。家計も異次元緩和には興味がなかった=グリーンスパン的物価の安定状態。
正常化バイアスのために、2%程度の物価上昇では期待インフレ率は上がらない。
フレーミングとして、賃金の上昇と一体である説明が必要。しかし、実際は賃金は下落している。
2016年のマイナス金利導入は、サプライズの試みだった。市場はむしろ拒絶反応をおこした。銀行株の下落、ベア凍結、預金のマイナス金利への不安、など。
昭和の時代は、公定歩合の操作について嘘をついてもいい、という常識。近年では、サプライズは無用な市場の混乱を招く。丁寧な市場との対話がよいとされる。
物価上昇につながるフレーミングとナッジが必要だった。賃上げのアンケートを取る、など。選挙の前に選挙に行くか尋ねると、投票率が上がる。賃上げと物価上昇をセットにするフレーミング。
物価指数は真の物価動向に比べて高めになりやすいバイアスがある。
実効下限金利状態の長期化は不可能ではない。
2%のインフレ目標は、国際標準ではない。
市場が需給ギャップにあまり反応しなくなっている理由として、情報の処理能力には限界があるため、という合理的無関心の可能性がある。グリーンスパン的には物価の安定には望ましい状態。無理にそれを覆すのは本末転倒ではないか。
フェルドスタインの消費税の連続的引上げ(所得税を下げて税収的には中立にする)に���ってデフレを脱却する方法=現金給付と組み合わせればマイルドな物価上昇予測を持たせることができる。しかし消費税をデフレ脱却に使うことはできなかった。むしろデフレは日銀の問題としておいたほうが都合がいい。
金融政策は実効下限金利の壁があるが、財政政策ならインフレ率を挙げられるのではないか。MMTへの関心とともに中央銀行の財政ファイナンスに注目が集まっている。
シムズの物価の財政理論。債務に無関心だからこの手法による物価上昇は起きそうにない。人々の危機感を程よく煽ることはできない。正常化バイアスが崩れれば一気にパニックになる。
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マクロ経済学は合理的な個人を前提としているミクロ経済学の成果を取り入れてきた。一方で人間は必ず合理的に行動するとは限らない。合理的に行動しない人間を分析している行動経済学の知見をマクロ経済学に取り入れようと試みた本。
本書の主な対象は期待に働きかける金融政策。日銀の異次元緩和。
異次元緩和導入時の日本はグリーンスパンの言う物価安定の状態,つまり「人々が物価変動に対して無関心である状態」であった。期待に働きかけて物価を上げようとしたが,正常性バイアス(人間の心は予期せぬ以上や危険にある程度鈍感)を破ることができなかった。2%というインフレ目標が低すぎたこと,物価上昇の果実(賃金上昇)を示すポジティブなフレーミングもなかったことが指摘されていた。
あと,物価の財政理論(政府債務の実質価値とプライマリーバランスの収支の割引現在価値とが一致すべき)も興味深かった。ゼロ金利が続く中で,財政収支の予測と物価上昇率を結びつける物価の財政理論のメカニズムによる物価上昇は起こりそうにないが荒唐無稽ではないらしい。財政が危機的な状況でも政府が財政規律を緩めようとしていると人々が感じたときに正常性バイアスが壊れるらしい。
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感染防止のための働きかけとデフレ脱却のための働きかけは、人間観、経済学が違っている。行動経済学の成果をマクロ経済学に加味した政策を行う必要があるが、国民が思うような行動を取るかはわからない。
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バブルを研究した著者による、マクロがミクロ化する中で行動経済学の知見を活かすべきという問題意識から書かれた本。前半は行動経済学の概説(コンコルド効果を取り上げ所謂「空気の支配」は日本だけではないとか、「国際協調」「定住外国人」というフレーミング等の面白いエピソードはいくつかある)、後半は黒田日銀の金融政策批判となっており、前後半のつなぎが悪いというがGAPが激しい。黒田批判も行動経済学的観点というのはあまり感じられず、一般論で終わってしまっている印象も受ける。それだけマクロに行動経済学の知見を活かすのは難しいということなのかもしれないが、これからの研究分野なのだろう。
たしか、コロナ対策の専門家会議で行動経済学の知見を活かそうと大竹文雄先生がメンバーになっていたかと思うが、こちらの方がどうだったのかも気になるので、どこかの新書から出ることに期待。
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日銀黒田総裁の打ち出したバズーカ砲は、結局空砲だったに過ぎなかったと言う事。
アナウンス効果が無いと分かってからも、大規模緩和を続けその副作用に苦しむことになる。
一体何のための施策だったのか、新総裁に期待したい。
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メインストリームの経済学は、人間をコンピューターのように、現在、将来の利益と損失を正確に計算して行動するという仮定の基で作られているとのことです。
でも、実際はそんなことでは全然なくて、いろいろと人間らしい判断をして、間違った選択もいっぱいしています。
なので、経済政策では、そういう人間らしさを考慮した行動経済学の知見を活かすことが大切だとのことです。
物価の安定という中央銀行の第一の使命ですが、
これは2つの考え方があって、ひとつはインフレ率が2%などと一定の水準でいること、
もうひとつは昔のFRB議長のグリーンスパン氏が云う人々が物価について何も心配せずに暮らしていること、ということです。
私は、グリーンスパン氏の考え方のほうがあっていると思いました。
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この本のここがオススメ
(通貨危機の到来まで)
「時間がかかるのは、市場参加者の正常バイアスの所産であり、それから思っていたよりもはるかに急速に進行しはじめるのは、正常バイアスがついに崩壊したあとにパニックがくるからだ、と考えれば、市場の一見不可解な反応も十分理解できる」