紙の本
初の長編小説だが、成功作だと思う
2024/01/18 23:06
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
西村賢太初の長編である。成功していると思う。久々に西村賢太を読んだが、新鮮だった。文体のリズムがいい。それもあってすぐに読み終えた。北町貫多ものだが、まだ二十歳前で、藤澤清三に出会う前である。こういう小説に出会うと、西村賢太が亡くなったのが惜しまれる。
紙の本
西村さん
2022/07/03 09:24
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投稿者:吉村ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
西村さんの著作ということで、本の小冊子の広告欄から
目にとまり、購入しました。
テレビ等の作者のイメージとは、違った作風に思いいりました。
次回の作品が読めないのは悲しいです。
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まあいつものお話だが、「苦役列車」の直後だけあって、まだまだ若い。19歳。ゆえに女に岡惚れする。
《根は眠れるスケコマシ気質》にできてるだけに、《ウルフのポーズで孤狼アクション》をとれば《中卒タフ・ガイ》としての面目躍如。
眼前の女の(呆れ)顔を見て、《(うむ。濡れたな……)との確信》を抱く。
で、まあ結句周囲の面々にさんざほき捨てて逐電、てなわけだ。
しかし今回は田中英光との出会いが描かれ、ここがいい。
《何んだってこの私小説家は、己れの無様な姿を客観的に、こうも面白く、そしてこうも節度を保ちながらの奔放な文章で語れるのか。だが、それが貫多にとっては泣きたいほどうれしく、そして実際に落涙するまでに、ひどくありがたくってならぬ。》
西村読者の多くが思っていたことでもある。
ところで新潮社、何年も文庫化しなかった(関係を断っていた?)上に「苦役列車」の件で愛憎のある山下敦弘監督に書かせるって……そしてこの解説がまた、決して悪くない追悼文になっているって、いい仕返しができたということか。
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どうしても生きにくい人間っている。
私もかなり生きにくい人間だけど
北町貫多(というか西村賢太さん)は、私とはまた違う、かなりの生きにくさ、厄介さを抱えて生まれ育ち、不器用にしか生きられず、その業ゆえに早死にしたと感じた。
男尊女卑的価値観が強くて悪口も多くて今出したら時代錯誤と非難されるに違いなく、汚いと感じるシーンも多いし、誰にでも愛されてヒットする作風でもないから、正直このような小説を一生書き続けるのはかなり大変だったはず。現代ではデビューもできるかどうか。
しかし、生きにくい人間にしかわからない、書きえない苦しみややるせなさ、つらい体験、そこからふと芽生える生きがいやかすかな希望など、わかるなぁと共感する部分もある。
具体的には私小説作家に出会って全ての苦悩がとけるかのようにのめり込むシーンとか。
西村賢太さんおつかれさまでした。
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いいよ、貫多。最高のローンウルフだよ。
あの北町貫多がこんなにも愛おしいとはね。
「苦役列車」と「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の間のエピソードを読みたいと思った矢先、たまたま手に取ったのが、ちょうど「苦役列車」の後続の話だったとは!!
「落ちぶれて……」の作中作と同じタイトルだったから何かしら繋がりがとは思ったけど良かったわ。
ああ、最高だったなぁ。。。
高邁な理想と裏腹に、滑稽さと見苦しさが滲み出てしまう様子は筆舌に尽くしがたいですね。
極端さはさておき、誰しも体験する普遍性を持つ様で、それに苦悩する貫多が実に愛らしい。
そして田中光英との出会い。
思わず夜中に家を飛び出し歩き回りたくなる衝動の何と素晴らしいことか。
この衝動から私小説家としての道のりはまだ20年あるのかと思うと、この思いがどのように醸成していたったのか気になりますね。
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中卒タフ・ガイ、自意識過剰な北町貫多は人生蒔き直しを試みて横浜へ。造園会社へ勤務しますが暴走して自爆。心の支えは田中英光の私小説。読んでいると憂さを忘れるという感覚には恥を逆手に取るというある種の技の示唆を得る効能が含まれているといいます。
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昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。
長編は初めて読みました。
主人公は、ご存知、北町貫太。
中卒で、日雇い仕事をしています。
十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。
長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。
日雇い仕事も辞め、造園会社に就職します。
そこへ、事務のアルバイトとして、貫太と同い年の女の子がやってきて物語が展開します。
彼女に恋焦がれる貫太。
一方通行の恋は、痛々しくも滑稽で、貫太には申し訳ないですが、何度も吹き出しました。
ただ、既視感もあるのです。
私もモテないという点においては、貫太に引けを取らなかったわけですから。
彼女の一挙手一投足に一喜一憂する貫太。
私にも確かにあった、青春の甘酸っぱい日々を思い出しました。
終盤に、社員らとの仕事納めの忘年会があります。
もちろん、件の事務の女の子も出席しています。
白眉は、忘年会がお開きとなった後に貫太が告白する場面。
果たして、貫太の恋は成就するのでしょうか。
そこはネタバレとなるので敢えて書きませんが、妙に胸が高鳴り、ページを繰る手が止まらなくなりました。
それにしても、貫太とは何と愛おしい男なのでしょう。
西村賢太が昨年2月に急死し、貫太の物語がもう生まれ得ないのが何とも惜しい。
でも、ぼくには未読の貫太作品がまだあります。
既読の作品も含め、一生かけて熟読玩味したいと思います。
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惨め
初読み賢太がこの作で好かったなと思へたのは、心底貫多の惨めな境遇に共感したからである。さすがにここまでの人間の屑、下等な片恋や妄想で目茶苦茶に人をこき下ろした事はないが、その心情は過去幾度となく味はった事がある。作中の田中英光の作のやうにどこか突き放した書きぶりで、滑稽さともども自身を丸裸にしてしまふ覚悟。私は正直な人が好きである。本来あるべき貫多に対する不快感もここまで客観的に書かれると面白く、小説の終盤では明かに貫多が原因の騒動でありながら、一緒に仕返ししてやりたい同情心がわいてくる。私もまた屑なのである。
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「告白(町田康)」の熊太郎、トリプルファイアーの吉田靖直、そして北町貫多。どうしようもない人たちにしか出せない魅力がある。
小心者なのにも関わらずプライドだけは人一倍高く、世間とモノの見方が若干ズレている。普段鬱憤を溜め込んでいる故に、お酒が入ると悉く失態を晒してしまう。
なんでこんなにもダメな人(自分はどうなのかは棚に上げて)に惹かれるんだろう……
一つの理由は、やはり怖いもの見たさだと思う。
上で挙げていた人たちの動向を追っていると、ほぼほぼ「あぁダメだよ〜」と思う方向に行ってしまう。普段私はそんな状況は全力で避けているので、逆にそっちの方向にレールが行ってしまったらどうなるんだろうとエキサイトしながら読んでしまう。
もう一つは心の中に彼らと共通する部分を見出しているからなのかなと思う。
彼らが物語の中で対峙している(または迎合している)欲や無精さは、みんながそれぞれ持っていてるけど、理性であったり社会通念で無意識に蓋をしているモノなのかなと思う。彼らはそれらが原因で間違いを起こし、葛藤する。私はその葛藤の中にふと、グッと共感する瞬間を見つけることがあった。普段、私が無意識に抑えている感情を明け透けにしている彼らだからこそ、私は心の根っこに近い部分で共通したものを感じるんだと思う。
もっといろんな貫多を見てみたいなと思った。これから貫太シリーズを読み進めてみたいと思う。
めちゃくちゃ良かった!
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本は好きだけど金も無く、同僚を見下し職場も上手くいかず、一方的な恋愛(風俗は好む)を押し付けるなど、プライドと閉塞感の塊のような貫太は中卒だった事もある自分には舞台が桜木町という事もあり他人とは思えぬ感情が湧き立つ。この卑小さをどう見るかで作品の捉え方が変わる、つまり読者の人生も問われていると言ったら大袈裟か。
作者の実体験なのかは分からないけど魂を切り売りしている様な文書には妖しい魅力が放たれていると思う。
解説も故人との悪い思い出が記されており、現代には珍しい破滅型の作家であるような気がしてならない。
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安定の北町貫多シリーズ。相変わらず職と寝床を転々としていたが、本作では心機一転横浜桜木町へと住まいを移し、新たなスタートを切るが、いつもの癇癪で破綻のカタルシスを読者は味わうこととなる。
ただ一つ重要な点は、藤澤清造同様、師と仰ぐ田中英光の私小説との出会いがあり、人生の支えを得る点。
貫多は作中「これはどこまでも、その後に続く流れに、ただ身を委ねているより他はないのだ。(中略)陳腐な例えだが、流れているうちにはいつか掴まる枝もあろうし、浮かぶ瀬だってあるだろう、と云うやつだ。で、その時になって、実こそ自身の立て直し、新規蒔き直しのきっかけが何によっていたのかが、初めて判るものなのであろう。」と語っているが、田中英光とのこの時の出会いこそ正にそれであったのでしょう。
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故・西村賢太の長編。
西村自身をモチーフにした北町貫多が19歳の頃。西村自身が生きたのと同じ時代という設定なので、もはや40年近くも前。
携帯電話などほとんど普及しておらず、少子化も今ほど深刻ではなく、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という夫婦に二人以上の子どもというのが「家族」のイメージとして成立していた時代。そうした時代に、多くの人たちとは異なるところで生きることを余儀なくされた貫多。もはや、これは時代小説と言えるだろうか。
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横浜に移り住んだ貫多のあまりに痛すぎるストーリー。滅茶苦茶面白い、けれどページを捲るのが居た堪れるほどにイタイ、貫多の行状にどこか感情移入する自分がいるのが不思議である。